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2021年12月、Wantedlyのデザインチームにとって大きな出来事があった。それまでチームを支えてきたシニアデザイナーたちの脱退が、立て続けに起きたのだ。「後を頼む」とプロダクトデザインチームの次期リーダーに指名されたのは、新卒入社4年目(当時入社3年目)の西谷歩だった。
前任のシニアデザイナーに比べれば、スキルも経験も圧倒的に足りていない。引き継ぎも十分とは言えない。相当なプレッシャーがかかったのではないだろうか?しかし、そんな周囲の心配は杞憂に終わった。リーダーを依頼されたときの心境について、西谷は明るい表情でこう語る。
「不謹慎かもしれないですけど、心の中では小さくガッツポーズをしてたんです。チャンスがめぐってきたぞ!って」
いかなる逆境も成長の糧にして、真っ直ぐに突き進む西谷。その明るさとモチベーションは、どこから来ているのか?若きリーダーの素顔に迫った。
<編集・写真:後藤あゆみ / 執筆:藤田マリ子>
デザインとの出会いは「認知科学」の授業から
ーー西谷さんは北海道のご出身なんですね。
西谷:そうなんです。大学を卒業するまで、ずっと北海道の函館にいました。
ーー最初にデザインに興味を持ったきっかけは何だったんでしょうか?
西谷:高校時代に同じ公立校というつながりで、はこだて未来大学の先生が来て、授業をしてくれたことがあったんです。テーマは「認知科学」。深澤直人さんのデザインなども題材にしながら、「人がモノをどういうふうに認知して使っているか」という話をしてくれたんですが、認知という科学的なところからデザインを捉えていくプロセスがすごく面白いと思ったんです。
絵を描いたり、ものをつくったりするのは昔から好きだったので、美大にも少し興味があったんですが、はこだて未来大学に情報デザインコースというのがあるのを知って、そこに行こうと決めました。高校1年生のときですね。
ーーはこだて未来大学では、どんな勉強を?
西谷:座学で学んだ認知心理学や情報科学の理論を、実践して身につけていくことを大事にしている大学だったので、ひたすらいろんなものをチームでつくっていました。たとえば、 「もっと地域の観光を盛り上げていきたい」という声を受けて、町民が自らおすすめの観光スポットを紹介し、観光客がそのスポットをめぐれるようなアプリを考えて、みんなで開発してみたり。とにかく現場を見たり声を聞いて、どういうものを作るか考え、実際につくることを繰り返していたと思います。
ーー学生時代の経験で、いまの仕事に活きていると感じることはありますか?
西谷:授業課題ではあったものの、とりあえず何かつくればいいというわけではなくて。新しくアプリやサービスのアイデアを考えるときは、「なぜ我々がやるのか?」「TwitterやInstagramで投稿するのと何が違うのか?」と、“意味”を何度も問われました。その過程で身についた「なぜやるべきなのか?」などの本質的な目的を考える姿勢は、いまに役立っていると思います。
それから、情報系の大学だったため、授業の内外でエンジニアとチームを組んでものをつくる機会が多くあり、プロジェクトの中でのデザイナーとしての強みや弱みが見えてくる機会がありました。
デザイナーって、「誰のために何をつくるか」を考えてアイデアを出すことに強みを持っている一方で、それが「どうつくられるか」につながっていない、実現できなさそうなアイデアを出してしまうことも多くて。さまざまな強み弱みを持った人をその都度巻き込みながらプロジェクトをどう具体的に進めていくか、そこからすごく意識するようになりました。
ーー当時から、チームではリーダー的な存在だったんですか?
西谷:いま思い返してみると、そういった機会は多かったですね。当時からリーダーやマネージャーっぽい気質はあったようで、メンバーのモチベーションを上げて、チームにどう巻き込んでいくかを考えるのも好きでした。プロジェクトが成功して、メンバーが達成感を感じている姿を見るのがとにかく楽しくて。
ーー具体的にどうやって、メンバーのモチベーションを上げ、チームに巻き込んでいたんでしょうか
西谷:モチベーションが上がらないメンバーに対しては、その人のテンションが上がるポイントを探って、そのポイントに関わるタスクをお願いするようにしていました。たとえば、プログラムを書くのは好きだけど、戦略や要件を考えるのはあまり得意じゃないメンバーには、「得意な領域だと思うから、ここの設計は頼らせてほしい、こっちは一緒に考えよう」みたいなコミュニケーションをとって、やってもらう部分と協働する部分をつくっていく。
みんなが同じ方向を向いている必要はあるけれど、同じことをやらなきゃいけないわけではない。それぞれの得意なことを活かして、楽しくプロジェクトを達成できればいいな、と考えていました。
失敗を楽しみ、逆境を楽しむ
ーー就職活動のときには、どんな軸で会社を選んでいましたか?
西谷:軸としては「何をやっていて、それに共感できるか」「楽しそうか」「自分が働いている姿をイメージできるかどうか」の3つですね。函館に居たこともあり、近くにデザイナーとして働いている人があまりいなかったので、「何をやっているかがわかるか」はけっこう重要視していました。
Wantedlyを選んだ理由は、インターンで実務をベースとした課題を与えてもらえたため、どんな体制で、何を目指してデザイナーが関わっているのかがわかりやすかったのと、自分が楽しく働いている姿がイメージでき、就活の軸を満たす唯一の会社だったからです。
ーーWantedlyのインターンでは、どんなことをやられていたんでしょうか?
西谷:インターンの初日に「UX系のことが得意です」と伝えたら、「プロダクトのこの数字に効く体験ベースの施策を考えてほしい」と言われ、「Wantedly People」の「名刺スキャンした後、相手に『また会いたい』と伝えるリアクションを送る」みたいな機能を提案しました。
結果、その提案をすごく評価してもらえて。開発チームに向けてプレゼンすることもできましたし、小さいながらもバリューが出せたと実感したことで、「ここでなら働けそう」と感じ、いまここにいるという感じですね。
▲2018年頃、西谷がインターンとして働いていた時期に提案した機能とUIデザイン
ーーちなみに制作会社への就職は、考えなかったんでしょうか?
西谷:あまり考えなかったですね。アルバイトで、受託のUIデザインに関わっていたことがあったんですが、自分がデザインしたものが最終的にどんな形になったのか、ユーザーに届いたのか、どういう変化があったのかが見えないのがすごく嫌で。
つくったものの「業」を背負って、仮説検証しながら改善を重ねて、実際に良くなっていることがユーザーの声からわかったときに自分は一番やりがいを感じるので、「就職するなら絶対に事業会社」と思っていました。
ーープロダクトに向き合い、ひたすらに改善を重ねる。事業会社ならではの「しんどさ」もあるような気がするのですが、西谷さんは明るくてポジティブな雰囲気がとても印象的ですね。
西谷:もちろん、うまくいかなかったり、結果が出ないこともたくさんあるんですけど、「なんで失敗したのか?」「同じ失敗を繰り返さないためには?」って考えるのが、けっこう楽しいんです。
ポジティブ思考に関しては、実は高校時代に脱毛症になってしまったことがあって。そのときは本当にショックで、数日間学校にも行けなかったんですが、お母さんが「同じような症状で悩んでる人が、ウィッグでみんなができないおしゃれを楽しんでる」と写真を見せて励ましてくれたことがきっかけで、逆にウィッグでちょっとしたお洒落をして学校に行くようになったんです。「ネガティブに思えることも、考え方次第でモチベーションに変えられるんだな」と思うようになったのは、それからですね。
ーーなるほど。それで前任リーダーの脱退も、逆に「チャンスだ!」と捉えられたんですね。
西谷:そうですね。「私が成長できるチャンスじゃん!」「大きな変化のタイミングだからこそ、よりよいチームがつくれるかもしれない」と。
あまり先のことを考えて、悩んでもしょうがないかなって。「いまの自分に何ができるか」にフォーカスし、目の前の状況を最大限活かすようにしています。
ーーWantedlyに入社してからは、どんなお仕事を手がけられてきたのでしょうか?
西谷:一番長く関わっているのはプロフィール画面の改善です。読み手に共感を促すようなプロフィールの記入ができるよう、コンセプト検証をおこなったり、細かなUIの改善を重ねてきました。
また、2020年11月の全面リニューアルの際は「想いと行動であなたを綴ろう」というコンセプトを提案しました。当時の課題は、「成果やプロジェクト」という項目の記入率が低かったこと。たしかに、いきなり「あなたの成果は何ですか?」と聞かれても、答えづらいですよね。成果物を見せやすいエンジニアやデザイナー職はまだしも、ビジネス・コーポレート職のユーザーになると、記入率が特に低くなることがわかっていました。
そのため、「成果」ではなく「想いと行動」を書く場というコンセプトを立て、文言や見せ方を工夫することで、目標に対してやってきたことが自然に積み上がりポートフォリオになるような体験の構築を目指しました。
ーー目に見える部分ではなく、目に見えない本質的な部分にアプローチする姿勢は、原点である「認知科学」や学生時代の学びとつながっているような気がしますね。
西谷:そうですね。ユーザーの体験を深く想像したり、調査・観察をして生まれたアイデアを発散させながら、仮説を立てて検証するプロセスが好きです。回数を重ねるうちに、「得意だ」と言える自信もついてきたなと感じています。
「想いと行動であなたを綴る」というコンセプト策定に際しては、物理的なプロトタイプを用意せず、対話式のプロトタイピングで検証をおこなってみたのですが、小さい単位でも抽象的な状態から「ユーザーに伝わる意味や見え方≒コンセプト」を発見し、デザインすることのインパクトを改めて実感しました。こうした“意味のイノベーション”については、私のデザインのテーマとして、今後も継続的に取り組んでいきたいですね。
https://www.wantedly.com/companies/wantedly/post_articles/317582
▲「意味のイノベーション」を可能にする対話式プロトタイピングについて
若手の私だったからできた、“さらけだす”チームマネジメント
ーーシニアデザイナーの脱退に伴い、2021年の12月からは、プロダクトデザインチームのリーダーを任されたとのことですが、リーダーとして最初に取り組んだことは何ですか?
西谷:最初の1週間くらいで、今後チームとして何を目指していくのかを言語化し、メンバーに共有しました。精緻なプランができていたわけではないんですが、まずは自分の考えを示して、不安を広げないことが重要だと思ったので。
最初はチーム内で共有し、次に開発チームに共有したんですが、エンジニアやCTOの川崎にも「安心した」「これがあって本当によかった」と言ってもらえて。結果的には、全社に向けて正式に発表することになりました。
▲当時の発表資料。チームとして達成すべきミッションや大切にしたい価値観を再定義した。
ーー4年目と思えないリーダーシップですね……!チームをまとめる上で、大切にしていることは何ですか?
西谷:いま特に意識しているのは「すべてオープンにする」こと。特に、自分にできないことは素直に伝えるようにしています。前任のチームリーダーと同じレベルを求められても、まだまだひよっ子で、できないこともあるので。
あと、私のやっていることが見えないと、「プロダクトの品質をどう担保していくんだろう?」とか「今後のデザインチームはどうなっていくんだろう?」などと、メンバーを不安にさせてしまうんじゃないかなと思っていて。「来年までには、チームとしてこれをこのぐらい出来るようになっていたいので、チームの仕組みづくりの方にリソースをこのぐらい割いているよ」「プロダクトデザインチームの方向性やあり方について、こういうふうに決めていこうと思っている。みんなはどう思う?」などと、自分のやっていることや考えていることの意図を積極的に共有し、メンバーにも意見を求めるようにしています。
自分自身、言語化することで、「本当にそれで良いか?」「みんながプロダクトデザイナーとして価値を発揮できるか?納得できるか?」と、反芻して考えられますしね。特に倉光さんに入っていただくようになってからは、チームとしてやるべきことの優先順位がつけやすくなりましたし、自分に求められている期待値がかなりクリアになってきたと思っています。
ーー自分の弱みもさらけだすことで、新たな変革へとつなげているところは、西谷さんらしいですね。
西谷:そうですね。リーダーとして「こっちに行こう!」と方向性を示しつつ、マネジャーとしてメンバーの仕事などをサポートしつつ、「でも、私もまだ初心者なので、モヤモヤすることがあったら遠慮なく言ってね、みんなで決めていこう」みたいなスタンスでやっています。
この年次でリーダーになれたことは、結果的にすごくラッキーだったと思っています。若いからこそ、完璧さを求められすぎずに、チームとしてチャレンジする場をつくっていけるので。
“ココロオドル”デザインチームを、自分たちの手で
ーー今後はどんなことに取り組んでいく予定ですか?
西谷:まずは地盤を固める必要があるだろうということで、デザインクオリティの基準を設定したり、評価制度を整えるなど、組織の制度づくりに、引き続き取り組んでいきます。
その取り組みの一環として、来期から、開発チームやコミュニケーションデザインチームとも連携しながら、組織についてみんなでディスカッションするためのワークショップを開いていこうと計画をしています。
現在の課題感として、組織の文化をつくった人々は既に抜けているのに、いまだに過去の慣習や制度に囚われすぎているような感覚があって。別に悪いことではないですけど、体制も新しくなったことだし、これからのチームや文化は自分たちの手でもっと自発的にプロダクトをつくれるようになっていきたい。そのための場を、私の方でファシリテートしていきたいと考えています。
ーーこれから、どんなチームをつくっていきたいですか?
西谷:メンバー1人1人が自律して自走できるチームにはしていきたいですね。究極的には、私がいなくても回る組織や文化ができればと。そのための環境づくりや仕組みづくりを現在進行系で進めているところです。
あとは、「シゴトでココロオドルひとをふやす」がWantedlyのビジョンなので、そのビジョンを自分たちのチーム内で体現できたら最高ですね。
ーー個人として、今後のキャリアの中でやりたいと思っていることはありますか?
西谷:個人的にやりたいことで言うと、いつか北海道でデザインしたいと思っています。いまはだいたい仕事のことを考えていて、仕事を中心とした生活をしているんですけど、仕事以外の余白の時間でぼーっと自分について振り返ったり、「私は今後どうしたいんだっけ?」「今死んでも後悔しない?」と考えを巡らせる時間って、すごく大切だなと思っていて。そういう時間を生みだすようなデザインを、北海道という余白しかない土地でつくれたら、すごくおもしろいんじゃないかなと思っています。具体的にどんなことをやったら楽しそうかは、余白の時間でいろいろ考えているところです。
ーー素敵な目標ですね!最後に「こんな人と一緒に働きたい!」という人物像があれば、教えてください。
西谷:私たちのチームのやり方や想いに共感してくれる人に来ていただけたら嬉しい。あとは、いま私が持っている権限を委譲していくことで、もっとチームで遠くまで行けるようになりたいと思っているところなんですが、その権限を自分から奪いに来てくれるぐらいやる気のある人と一緒に課題解決ができたら心強いですね。Wantedlyのいいところは、自分から手を上げることで、やるべきことややりたいことを実現できるところなので、自分のビジョンを明確に持っている人やチームの中で主体的に動ける人は、たぶん活躍できると思います。
体制が変わったこともあって、いまは割とカオスな状況ではあるんですけど、その混沌を楽しめる人にとっては、すごくいい環境だと思います。