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10年モノWebフロントエンドの改善に立ち向かう

Photo by Clay Banks on Unsplash

こんにちは。Wantedly で Frontend Chapter Lead をしている原 剛士(@chloe463)です。この記事では、Wantedly のフロントエンドが抱える課題とそれを解決するための戦略や方針について紹介します。先日開催された JSConf JP 2022 のスポンサーLTでざっくりと同じような話をしたのですが、5分という短い発表時間では伝えきれなかった詳細まで踏み込んで説明しようと思います。

目次

  • Wantedly のフロントエンドの歴史と現状
  • 我々が目指す理想郷
  • 理想郷へ至る道
    • Web アプリとシステムをつなぐ GraphQL gateway の整備
    • Ruby on Rails に乗っている主要機能の段階的な React 化
    • 分離した Web アプリでの生産性向上のための基盤整備

Wantedly のフロントエンドの歴史と現状

Wantedly は10年以上運営しているサービスです。サービス開始当初は Ruby on Rails で作られたWebサービスでした。haml を使って HTML を記述し、jQuery を使って少し動きをつける、といったものでした。 振り返ってみると「Web ページ」と呼べるものだったと思います。

その後、時代の流れとともにWeb のフロントエンド部分を開発する技術スタックも進化してきました。JavaScript を使ったビューライブラリやフレームワークを使ったフロントエンド開発が世間的にも主流になってきたことを受け Wantedly でも 2015 年頃から React を使ったフロントエンド開発がスタートしています。React を使うようになったことで、Web ページから進化してもう少し複雑なことができるようになってきました。しかしながら Ruby on Rails とは強く結びついたままで、独立してテストしたりデプロイしたりということはできない状態でした。

大別すると下記のようになります。

  • (a) Ruby on Rails の view を使った箇所
  • (b) Ruby on Rails の view 部分に一部 React を使った箇所

それぞれの中は実はもっと細かい分類があるのですが、今回の本質ではないのでざっくり大きく2つに分けられのだ、という理解をしていただければと思います。

お察しの通り、このような状況においては様々な課題が存在します。次の節からは現在抱えている課題とそれを解決するための戦略などについて紹介します。

我々が目指す理想郷

結論を先に提示すると、Wantedly のフロントエンドが目指すべき理想郷は現時点では下記のように定義できます。

  • A) Web アプリが独立して開発・テスト・デプロイできるように Ruby on Rails のシステムから分離されている状態
  • B) システムとの通信に GraphQL API を採用することで、UI レベルの変更などがWeb アプリで完結する状態



前章で紹介したように Wantedly のフロントエンドは Ruby on Rails との結びつきが強い状態です。このような状態は、ユーザーに継続的に価値を提供していくソフトウェアデリバリーのパフォーマンスが低い状態です。Ruby on Rails と強く癒着していることにより具体的には下記のような問題があります。

  • Ruby on Rails 側から React へのデータの受け渡しに関する問題
    • スキーマや型が定義されておらず、バグが起きやすいこと
    • 機能・実装箇所によってデータの受け渡し方法がまちまちで混乱を招いてしまっていること
    • Web API 経由でデータを渡すパターン、HTML の data attribute を使ってデータの受け渡しをするパターン、window にグローバル変数を持って渡すパターンなど
  • フロントエンドの関心事が Ruby on Rails 側に存在する箇所があり、フロントエンドの改修の際もバックエンドの知識が必要とされること
  • ローカルでの開発時に、Ruby on Rails のサーバーの起動の必要があり生産性が低いこと

そこでこのような状況を解決するため、3年ほど前から Ruby on Rails から分離した基盤での Web アプリ開発を始めています。初期は Create React App ベースでしたが昨年 Next.js に移行されました。また GraphQL が導入され、バックエンドシステムとの通信は GraphQL サーバーを経由するようになりました。

これにより、上記であげた Ruby on Rails と癒着していたことによる課題が解決されました。

  • バックエンドシステムとの通信は GraphQL の API を使うようになり、データの受け渡し問題は解決
  • GraphQL スキーマ (と TypeScript) を使うことによる型に守られ堅牢な開発が可能に
  • Ruby on Rails から分離されたことにより、フロントエンド・バックエンドの責務の明確に分離

新たに Ruby on Rails から分離された Web アプリが誕生したことにより、Wantedly のフロントエンドの技術は前節で紹介した2つと合わせて下記の3つに分類されることになります。

  • (a) Ruby on Rails の view を使った箇所
  • (b) Ruby on Rails の view 部分に一部 React を使った箇所
  • (c) Next.js で作られた箇所


このように大きく3つに分かれる構成のうち、基本的には最新スタックの (c) Next.js 環境で開発していくことが今の Wantedly においてはベストの環境であると考えています。

現時点の React を Ruby on Rails の view の一部として使っている状態でも、技術的には React は使えているので「部分的な画面書き換えが頻繁に起こるような複雑な機能を作れる」ようにはなってはいますが「サービス価値の継続的な向上に繋がるような、高いパフォーマンスのソフトウェア・デリバリーの獲得」 は上記の理由であまり達成できていない、というのが問題という認識です。

継続的に高いパフォーマンスでのソフトウェアデリバリーを実現していくためには、やはり現状の Ruby on Rails と癒着した状況を脱し、独立した Web アプリを開発していく必要があると考えています。

よって、この章のはじめに書いたものの再掲ですが、Wantedly のフロントエンドが目指すべき理想郷は次のようになります。

  • A) Web アプリが独立して開発・テスト・デプロイできるように Ruby on Rails のシステムから分離されている状態
  • B) システムとの通信に GraphQL API を採用することで、UI レベルの変更などがWeb アプリで完結する状態


次の章からはこの状況を解決するための戦略について紹介します。

コラム:これまでの改善の歴史

上記までに、Wantedly のフロントエンドには色々な課題があることが紹介できたかと思います。もちろん、これまでにさまざまな箇所で小さく改善は行われてきました。それをいくつか紹介します。具体的には直近3年間で下記のような改善が行われました。

  • css modules から styled-components に移行完了
  • JavaScript から TypeScript 化完了
  • CoffeScript をやめ、JavaScript に移行完了
  • Create React App から Next.js に移行完了

2020年〜2021年にかけて行われたフロントエンド刷新プロジェクトの一貫でスタイリングが css modules から styled-components に移行完了しました。React を使っている箇所において初期は css modules を使ってきましたが、直近は styled-components を採用しています。この移行によって、React 使用箇所においてはすべて styled-components が使われるようになりました。

その後も Developer eXperience Squad の取り組みにより、もともと JavaScript で書かれていた箇所が TypeScript 化されたり、haml 箇所で使用されていた CoffeeScript が JavaScript 化されたりしました。また、最新の Web アプリに関しても Create React App ベースだったコードベースを Next.js に移行しています。

このようにすべての地層において、漸進的に改善を重ねています。詳細は下記のブログをご参照ください。

フロントエンドリノベーション―負債から資産へ | Wantedly Engineer Blog
こんにちは。Wantedly でフロントエンドエンジニアをしている 原 剛士(@chloe463)です。UIの刷新に関連した取り組みについてのストーリーの続編として、本記事ではUI刷新の際の技術的な課題解決の取り組みについて紹介したいと思います。 UIの刷新についてはすでにエンジニア・デザイナーそれぞれから記事が公開されていますので、そちらも合わせて読んでいただけると幸いです。 今回のプロジェクトは社内では「リニューアル」ではなく「リノベ」と呼んでいました。これまで社内で「リニューアル」と呼んだ場合、フロ
https://www.wantedly.com/companies/wantedly/post_articles/309086
2つのWebpack buildを1つに統合した話 | Wantedly Engineer Blog
こんにちは、Wantedly のDX Squadでエンジニアをしている原です。 (DXはDeveloper Experienceの略で、開発者が心地よくプロダクトを作れる環境を作ることを目標に頑張る部門です) 本稿は、WANTEDLY TECH BOOK 10 から「Webpackがモジュールを2回読み込まないためにした3つのこと」という章を抜粋し加筆修正を加えたものです。ウォンテッドリーでは
https://www.wantedly.com/companies/wantedly/post_articles/299554
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こんにちは!Arch Squad でインターンをしている 市古(@igsr5)です。先日、 wantedly.com の最新Webフロントエンドリポジトリ※1を Next.js に移行しました。...
https://www.wantedly.com/companies/wantedly/post_articles/359076

理想郷へ至る道

前節までに、現状と理想郷の紹介をしました。では、理想郷にどう至るのかについて説明します。

理想郷と現在地のギャップを課題と捉えると、1つめの大きな課題は「Wantedly の多くの主要機能の多くが、未だ Ruby on Rails に残されていること」です。また Web アプリ化されたら完了というわけではありません。その上で生産性高く開発を行うために「デザインシステムやテスト基盤の整備すること」が必要となります。まとめると下記になります。

  • Ruby on Rails からの分離
    • Web アプリとシステムをつなぐ GraphQL gateway の整備
    • Ruby on Rails に乗っている主要機能の段階的な React 化
  • 分離した Web アプリ上での生産性向上のための基盤の改善
    • デザインシステムの React 実装改善
    • 品質の向上のためのテスト基盤改善

Web アプリとシステムをつなぐ GraphQL gateway の整備

Ruby on Rails から分離した Web アプリでは、バックエンドシステムとの通信を GraphQL サーバーを介する必要があります。しかしながら現状 GraphQL のスキーマ定義はいまのところ部分的で、移行に必要なための機能がすべて整備されている状態ではありません。まずはここを整備していきます。

またこの整備により、Web アプリ開発だけではなく、Mobile アプリの開発へも大きな影響を与えると考えています。Wantedly Engineering Handbook にも記載がある全体のアーキテクチャ図にもある通り、Wantedly のアプリ (Web, iOS, Android) はバックエンドシステムとの通信に GraphQL を使うことを大きな方針としています。Web アプリへの移行のために GraphQL gateway が整備されることにより、副次的に Mobile アプリの GraphQL を使った開発が促進されることになり開発組織全体としてのメリットとなります。

https://docs.wantedly.dev/introduction/technical-overview

※ GraphQL Gateway についての詳細なドキュメントはこちら: GraphQL Gateway - アプリ向けにAPIを公開する

Ruby on Rails に乗っている主要機能の段階的な React 化

GraphQL gateway を整備しつつ、Ruby on Rails に載っている機能を段階的に Web アプリへと移行していきます。プロフィール機能をはじめ、すでにいくつかの機能は Web アプリへと移行しており、現在も機能移行のプロジェクトが進行中です。移行するべき機能はまだまだ残っているので一つずつ確実に移行していきます。

分離した Web アプリでの生産性向上のための基盤の改善

ここからは、独立した Web アプリに移行したあとでも生産性高い状態で開発を進めるための基盤改善ついて紹介します。前述のとおりいくつかの機能が Web アプリ化が完了しており、その移行に際していくつか基盤整備をしているため、まったくゼロというわけではありません。ただしそれでもいくか課題はあるため、改善のための取り組みを進める予定です。

デザインシステムの React 実装改善

ご存知の方もいるかもしれませんが、Wantedly ではデザインシステムの整備に力を入れています。デザインシステムとは単なる UI コンポーネントセットではなく、プロダクトの UI を構築する際の基本的な考え方です。デザインシステムについてはこちらの記事に詳しく解説があります。

ノンデザイナーズ・Wantedly デザインシステム完全理解ペーパー | Wantedly Engineer Blog
Wantedly では新卒含む新入社員向けに研修を毎年実施しています。これは「新入社員向け」といいつつ既存の社員も自由に参加できるものです。今年はこの研修のフォーマットを借りて、Wantedly のプロダクト開発を支える重要な概念のひとつである「Wantedly の UI デザインシステム」についての研修を、ソフトウェアエンジニアの @izumin5210 (筆者) とプロダクトデザイナーの @NishaMe で実施しました。 デザインの構造を正しく捉えることは、UI の実装を専門にしているかどうかを問わ
https://www.wantedly.com/companies/wantedly/post_articles/395772

Web (React) の実装整備ももちろん進めていますが、こちらも課題がないわけではありません。

過去数年に渡って、Wantedly デザインシステムの React 実装が試みられてきました。その過程でデザインシステムの React実装もいくつか世代が生まれてしまっています。

  • 見た目だけは出来ていたがデザイナーの思想が反映できていなかった第1世代
  • 思想も反映させたものの新規コンポーネントを作ろうとすると使い勝手が悪かった第2世代
  • それらの課題を解決するべく生まれた最新の第3世代

このようにデザインシステムの React 実装についても地層ができてしまっている状態です。また最新世代においても、いくつか足りていない (いまのところユースケースがないので用意していない) 状態です。フルパッケージとして整備し、旧世代からの移行がさらに促進されるようにしたいと考えています。

品質の向上のためのテスト基盤整備

Developer eXperience squad の取り組みにより基盤が整備されて来ているものの、テストケースはいまだ少なくカバレッジも低いままです。堅牢な Web アプリにするためにできるところからコツコツやっていきたいと思います。

もともと Storybook と Storyshots を使ったテストはありましたが、あまりヒューマンフレンドリーではないこともあり、UI 崩れになかなか気づきづらい状況がありました。そこで Chromatic を使った Visual regression test (VRT) を導入しています。しかしこれも Storybook をしっかり整備しておかないと無用の長物になってしまいます。守っていきたい部分をしっかり Storybook として用意していつの間にか崩れている、ということがないようにしていきたいです。

もちろん VRT 以外にもコンポーネントのユニットテストや、E2E テストといったものも整えていきたいです。

まとめ

以上をまとめると下記のようになるかと思います。

  • Wantedly は10年以上の開発の歴史がある Web アプリで、フロントエンドにおいては地層がある
  • これまでも漸進的に改善を行ってきており、これからも改善を継続、生産性高くサービス価値を提供できるようにしていきたい
  • そのために以下を実行していく
    • GraphQL gateway を整備する
    • Ruby on Rails から分離した Webアプリの方に段階的に移行する
    • デザインシステムの実装整備する
    • 内部品質向上のためテスト整備を進める

先述の通り、分離した Web アプリ上でもさらなる改善は行っていく予定です。しかしながら、再度まったく新しい基盤を作り、また地層が重なるという選択はしない方針です。マイナーバージョンが上がるような変更は戦略的に行っていく予定ですが、メジャーバージョンが上がるような破壊的な変更をアーキテクチャレベルで行うということはしません。

さいごに、Wantedly では上記課題を一緒に解決してくれるフロントエンドエンジニアを探しています。まずはカジュアル面談に来てください!Wantedly では転職意欲がなくてもカジュアル面談を実施しています。気軽な情報交換をしたいといったモチベーションでも構いません。是非お話しをしましょう!

そのほかレガシーフロントエンドの改善について知見共有したい、勉強会開催したいといった方いらっしゃいましたらお声がけください。

これからもシゴトでココロオドル人をふやすために改善を進めていきます!

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