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こんにちは。ウォンテッドリー株式会社の橋屋 優理です。ウォンテッドリーの中で、Engagement Suite(Perk、Pulse、Story)の事業責任者を務めています。
マーケティング・セールス・CSなどビジネス側の推進はもちろん、直近では中期・事業計画の一環でプロダクト戦略案を作成し、開発チームと我々が提供すべきプロダクト像について、整理を進めています。
Wantedly Advent Calendar 2024は弊社の開発チームによる、Tips共有の発信をリレーしていく取り組みです。この企画内で元々はどっぷりビジネス職の私が、事業責任者としてどうプロダクトに向き合っているのか、綴ってみるのも面白い試みかなと思い、枠をいただくことにしました。(枠が埋まってたのでシーズン2の枠で投稿に。弊社の発信、盛り上がってます!)
新規事業フェーズで、売上確保の緊急度が高い状況においても、自社の掲げるミッションやビジョンをサービスに反映することをいかに両立するのか、それを通じてどう最大・社会インパクトを実現させるのか。
そんなことに七転八倒した日々の中で、具体的にどのような策を講じたのかを共有します。本記事が事業・プロダクトづくりに携わる皆様のなにかの刺激につながれば光栄です。
目次
事業責任者の役割をどう考えるか
第二の事業は、自然にはミッションを体現できない
プロセス① 人事施策における福利厚生の立ち位置の定義
プロセス② 福利厚生の企業担当者へのインタビュー
プロセス③ プロダクトVisionへの落とし込み
プロセス④ 発信
終わりに なぜミッションとの繋ぎ込みが大切か
事業責任者の役割をどう考えるか
「事業責任者ってなにするの?」とは、時々聞かれる質問です。偉そうな回答になってしまいそうで、あまりまっすぐ答えてこなかったのですが、これを機会に自分の考えを表明したいと思います。
ちなみにAIに質問すると、以下・スクショのように回答してくれました。
確かに記載内容に関連する業務はまんべんなく生じています。ただ、上記が事業責任者の役割かと言われると、私としてはややしっくりこない感覚です。
私は、(特に新規フェーズの)事業責任者の役割とは、「成果を上げ、事業を存続させる」ことが第一にくるべきだと考えています。きれいごとは抜きに、成果が立たない事業はなくなるからです。
作りたいサイクルは、下記のループです。
- 事業を継続させるために目先の成果を確保
- その対価として与えられた時間で、中長期的な見通し(≒再現性)もつけていく
- 更に開発やサポート体制の構築など価値を広げながら生存確率を高める
- それによりまた成果をあげる
この過程は、残念ながら全方位的に泥臭いですし、メンバーにも負担を強いる場面の連続です。
それでも、強い既存サービスを抱える企業で新規事業を任されるというのは、記載の宿命を背負うこととイコールですし、成果で応えることができて初めて、また次のチャレンジ権を得る、という構造なのかなと思います。
我々の事業部は、ウォンテッドリーの第二の柱になる事業を作るという志で進んでいます。そのために実績を上げ、次のチャレンジ権を得ること、それが私の最大の役割だと思っています。チャレンジさえ続けられれば、精鋭ばかりが集まっているので、目標の実現に近づくことができる。そう信じて、2022年に入社して以来、成果にこだわってこの事業を進めてきました。
そんなこんなでこの3年間、非連続的成長が続き、悪くない成長角度でここまで成果を上げてこられました。携わっていただいた、またプロダクトを愛していただいたすべての皆様に感謝いたします。
一方で、あくまで数字は数字。出発点に過ぎません。算盤を優先すると、どうしても浪漫がおざなりにされがちですが、どちらも妥協せず、ウォンテッドリーだから届けられるプロダクトに育てていきたいと考えています。
チャレンジ権を得たプロダクトに、どうやって自社らしさを吹き込んでいくのか。以下では、後発の事業だからこそ感じた難しさなどについて、書いていきます。
第二の事業は、自然にはミッションを体現できない
既に強い事業を持つ会社が、領域の異なる新規事業をつくる際、会社のミッションとの整合性を取るのが難しくなります。ミッションの策定が、既存事業の特性を踏まえられる事が多いためです。また前述の通り、売上確保の緊急度が高いため、いわゆる浪漫と算盤のバランスが保ちにくいこともあるかと思います。考えなしに事業を進めていると、ミッションからどんどん逸れた事業になってしまいます。
私も事業を進める上でこの点において苦労をしたので、この課題にどう向き合ったかシェアしていきます。尚、管掌範囲が3プロダクトに及ぶため、この記事では事業部のメインサービスである福利厚生Perk(パーク)にフォーカスします。
Perkは成果貢献が高い一方で、他のプロダクトと比べても“究極の適材適所により、シゴトでココロオドルひとをふやす”という弊社のミッションやそれに紐づく思想との関連付けが難しい商材でもあるとも捉えています。
もちろんPerkをはじめ、ウォンテッドリーがEngagement Suiteを取り扱う理由は明確です。Wantedly Visitを通じての採用領域のご支援に加え、“定着・活躍”の領域に価値を拡げることで、人事施策を一気通貫でご支援するためです。そうすることでミッションの実現をより立体的に叶えられると考えています。
しかしPerkは、他サービスに比べると価値提供のアプローチが異なる側面があります。例えばWantedly Visitは企業・ユーザーそれぞれの、シゴトへの“想い”を軸にマッチングを創出するプラットフォームです。それに対し、Perkを含めた福利厚生サービスは、従業員に対しての“特典”を提供することを軸に価値提供を及ぼすビジネスモデルである、といった具合です。
“想い”と“特典”。性質の違う要素をガソリンとする両サービスの距離感について、社外の顧客以上に、自社のミッションに共感して働いている社内のメンバーが腹落ちできなかったため、意思疎通が図りにくい状況に陥った事がありました。
実際には、ミッションとズレる価値提供をしているわけではないものの、採用サービスとの位置関係とその距離をどう近づけていくのかを明示する必要に迫られ、この整理と発信に取り組んできました。
まだ試行錯誤の最中ですが、取り組みが奏功し、現在は「ウォンテッドリーが目指すべき福利厚生サービス」の姿を、チームとしてイメージが共有でき始めているんじゃないかなと思います。
以下では、既存事業(Wantedly Visit)と、新規事業(Perk)の距離感を近づけ、事業成長とミッションを両立させていくために、事業責任者として進めた整理のプロセスを紹介したいと思います。
プロセス① 人事施策における福利厚生の立ち位置の定義
最初に取り組んだのは、人事施策における福利厚生の役割、立ち位置の定義です。既存の採用サービスを起点にミッションが設定されていることから、まずはそもそもの採用と福利厚生の位置関係について整理を進めました。
書籍からのインプットはもちろん、理解を一層深めるために、著名な大学の先生にもアポを取りました。30年以上も福利厚生の領域で研究されている先生方のお話は、本質まで最短でたどり着けるような内容ばかりで目から鱗でした。快く受けていただいた運の良さもありながら、調べたいことがあれば、素直に知っている人にアプローチしてみるという方法で案外、簡単に扉が開くのだというのは学びになりました。
多くの学術や知見に触れ、いくつかしっくり来る切り口を見つけることが出来ました。例えば、ハーズバーグが提唱した二要因理論や、セミナーでご一緒したGPTWさんの働きがいの因数分解などがそれにあたります。これらに則り、福利厚生ひいてはPerkが担うべき人事的な役割について、明記しました。
※衛生要因は、「ないと不満を生むもの」。直接的な効果は測りにくいが人事施策の土台を担います。福利厚生はこちらに分類されます。 この分類だと、「共感採用」を提唱するWantedly Visitは、動機付け要因を助ける側面が強く、 丁寧に関係性を定義しないと、プロダクト同士の思想が離れやすいことがわかります。
※働きがいから逆算したときの福利厚生の立ち位置についての図示。Wantedly Visitの提供価値にPerkを重ねていく道筋を整理したことで、上記で言う「信頼」など、ウォンテッドリーらしい福利厚生に必要な要素のイメージ作りに役立ちました。
このプロセスを通じて、自分たちの事業の役割や既存事業との位置関係を明瞭にして、我々の目指すサービス像を再定義する起点を設定できました。次は、この整理が実態と離れていないか生の声を確認するプロセスです。
プロセス② 福利厚生の企業担当者へのインタビュー
次に、福利厚生の導入・管理を担う担当者の方へのインタビューを多数実施しました。プロセス①は文字通り机上での整理なので、実際にその価値が求められているかは不透明です。インタビューを通じ、顧客の課題と目指すサービス像の需給について見通しを検証しました。
このインタビューのプロセスにおいて、Tipsとしておすすめしたいのが「手近な存在で済ませずに、初めて会う方に報酬の身銭を切ってインタビューをする」ことです。
既存顧客も増えているので、無償でインタビューを完結させることも可能です。しかし、あえてまだお会いしたことのない企業の方に、謝礼を含んでご依頼することで、インタビュイーの皆さんも時間内で良い情報を提供しようとコミットいただけるのを感じました。
また、その場で関係構築が始まるのでとてもフラットなご意見を賜ることができ、結果としてまだリーチできていない情報にたくさん触れることができました。ヒアリングを依頼できるプラットフォームも増えていますので、ぜひ事業と相性の良いサービスを検索されてみて下さい。
具体的にインタビューの中では、各社の担当者が福利厚生選びにおいても「自社らしさ」や「従業員への発信」を大切にしていることを知ることができました。こういったキーワードは、むしろ当社の既存事業である、Wantedly Visit の得意領域だったりしますので、距離感があると捉えていたPerkとWantedly Visit の距離感がぐっと近づく感触を得ました。
ここまでのプロセスで情報がバランスよく収集できたので、次のフェーズで事業計画と紐づけていきます。
プロセス③ プロダクトVisionへの落とし込み
いよいよ、ここまでで得た情報をパズルのように組み立てながら新たにプロダクトのVisionに落とし込みます。ここでいうプロダクトのVisionは、対外的に打ち出していくコピーではなく、あくまでチーム内で共通認識を持つためのアウトプットになります。基本的にはここまでのプロセスでの整理をなるべく上段から順を追ってつなぎ込んでいきます。
①で整理した、
- 組織運営における、福利厚生サービスが担う役割
- 福利厚生以外の自社サービスが担う役割
- それぞれのサービスの関係性
②で整理した、
- 顧客の抱える課題・ニーズ
- 顧客属性のタイプ分け
- 上記を踏まえて想定される必要な機能
上記に加えて、
- 市場分析
- 顧客開発の整理内容
- 現状のPerkで叶えられること・できないこと
- どういう順番で機能開発していくと、どう顧客層が広がっていくか ≒ 開発ロードマップ
- 上記すべてを踏まえた、弊社の強みやミッションの親和性
これらでアウトプットのスライドを構成していました。戦略上、お見せできないものも多いのですが、例えば、下記などは既存事業の思想との親和性について言語化がされているページです。
議論を経て、実際にPerkでは以下のように企業から従業員へメッセージが送れる接点を増やしています。
整理を進める中で意識したのは、顧客(取引の有無それぞれ)の声・市場・学術・自社、と、なるべく均衡を保つことでした。未来を描く上で不透明なことも少なくない中でしたが、各所で生の声を多く取れていたことに助けられました。
ここまでの整理で、Perkがどうパワーアップすると、よりウォンテッドリーの強みを纏うことができ、それがどう顧客の組織運営に貢献できるのかの骨子が完成しました。後は各方面のステークホルダーに当てながら、精度を高めて意思疎通をとっていく段階を残すのみとなります。
プロセス④ 発信
最後のプロセスとして社内外への発信に取り組みました。まず最初のアウトプット先は経営陣でした。中長期での事業計画を策定する過程で、何度もプレゼンし、色んな目線でフィードバックをもらいながら大量の宿題をこなし(笑)、事業計画との整合性を高めていきました。
そうして事業計画として仕上がったものを今度は、チームに伝えていきます。まずは各セクションのリーダーに頭出しをしながら、現場目線とのズレを微調整していきました。
経営陣へのアウトプットは未来からの逆算をベースに話しましたが、チームにはこれまで積み上げてきた成果の延長線に、目指すべきプロダクトの姿があるという文脈で伝えることを意識しました。恩着せがましいですが、皆で掴み取ったチャレンジ権なので、その進捗感を少しでも感じてもらいたいなと思いながら、話をしました。
全社には、期初のキックオフで時間をもらい共有を進めました。まずは抽象度高く伝えていますが、今後、発信の頻度を増やす工夫が必要かもしれません。あくまで既存事業にプレゼンスが寄るので、定期的に自分たちの事業のプレゼンスを維持・向上させるのも自分の役割と思っています。
最後に、狙っていなかったのですが、外部発信の機会を多く持ったことも良い効果をもたらしました。現在、戦略の一環でほぼ毎週ウェビナーでの登壇機会を設けています。その中で、福利厚生の概論、我々が考えるあるべき論について話すことがあります。この時に、参加者の皆さんの感想や、共催先の有識者の方とのセッションを経て、私たちの届けたいサービス像への反応を早期に知れるサイクルが生じました。商談とはまた違った声が届き、参考になっています。
総じてこのプロセスでお伝えしたいのは、自分ひとりで考えたものでは絶対的に視点が足りないので、恥を恐れず、様々なステークホルダーの視点を巻き込みながら事業計画とプロダクトVisionの結びつきを強化することが大切であるということです。
以上、4つのプロセスを経て、少しずつですが自分も含めた事業部のメンバーがPerkの目指すべき方向性や、自社で取り組む意義について解像度が高まってきていると感じます。
終わりに なぜミッションとの繋ぎ込みが大切か
最初に書けよという感じなのですが、そもそもなぜ企業のミッションや思想にプロダクトを関連付けることに執着しているのかを綴って、この記事を締めたいと思います。
目的のひとつはチームのベクトルの矢印を統一し、推進力を高めていくことです。これに関して、特に効果を感じるのは開発チームとビジネスチームの連動性です。エンジニアやデザイナーが前のめりで商談録画を見てくれたり、両者で同じ施策を同時に取り組む場面も多くなりました。ビジネスサイドの声をすぐ開発に活かし、顧客の満足度が上がる事例などもでています。
また希望的観測も混じりますが、メンバーがより事業への愛を深めてくれているようにも感じます。今後、新メンバーが増える予定もあるのですが、矢印の明示に引き続き注力したい気持ちです。
そしてもう一つの目的として「競争優位性、差別化」の確立があげられます。
直近では、福利厚生業界にも新規プレーヤーが増えてきており、自社ならではの価値を作る難易度も上がってきています。プロダクトの品質をアップデートしていくことはもちろん進めていきますが、この時代に誰も真似できない技術を詰め込んだプロダクトを作るというのも現実的ではありません。
文化>人材>機能の順に真似されにくいというのはよく言われますが、ウォンテッドリーがこれまで培ったものを活かした事業に育てることが、真っ当な生存戦略であると信じて、こういった取り組みを重視しています。
私たちの取り組みもまだ道半ばではありますが、引き続き、ウォンテッドリーだから届けられる福利厚生事業を作り上げ、価値提供の幅を更に広げていきたいと思います。単純に導入に興味をもたれた方も是非ご相談下さい。
長文となりましたが、最後まで読んでいただき、ありがとうございます。事業責任者、PdM、エンジニア、デザイナー、ビジネス、様々な方が読んでいただいていると思いますが、自社のパーパスと噛み合った事業づくりに向けて、少しでも参考になれば嬉しいです。