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組織作りに価値と行動の「軸」を通す

Photo by Helena Lopes on Unsplash

ウォンテッドリー株式会社 執行役員 VPoE の要 (@nory_kaname )です。プロダクト開発に責任を持つ組織 Dev Branch のマネジメント責任者を務めています。

FY23(=2023年9月期)の前半に、経営メンバーを中心とした「組織制度改定プロジェクト」を進めました。私は開発組織の責任者として参加し、エンジニア・デザイナー・PdMの視点を組織制度に反映する役割を担っていました。

そのプロジェクトの一部である「コンピテンシーの策定」に関連する話を紹介します。

ミッションと価値観

ウォンテッドリーは、「究極の適材適所により、シゴトでココロオドルひとをふやす」というミッションを掲げています。自律・共感・挑戦のある適材適所を、一時的でも局所的でもなく、構造的に生み出し続けることによって、あらゆる人がシゴトに没頭し成果を上げ、その結果として成長を実感できるような「はたらくすべての人のインフラ」を構築していきます。共感とは、その仕事に意味があると思っている状態。挑戦とは、簡単過ぎず、難し過ぎない最適な挑戦。自律とは、仕事を自己判断で前に進めていきやすくする行動規範や判断基準、方針の整備によって実現します。

ミッションを達成するために必要な価値観

ミッションを達成するために、6つのバリューを設定しています。ただ単に自分たちが作りたいものを作るだけでは、ユーザの真の課題解決には結びつきません。私たちは、何をするにも「これがユーザの課題を解決するものか」という視点を最も重視しています。その中心に位置するバリューが「User Obsession」です。このバリューを筆頭に、他の5つのバリューも私たちの日々の行動や判断の基準として活かされています。

詳しくは企業HPの「採用情報- 価値観」を参照ください。


価値観だけではなく、行動指針も必要

私たちは以前から独自の価値観を持ち、それを「Wantedly Culture Book」としてまとめたり、社内の文化浸透を目的とした様々な施策を展開してきました。しかしそれらの価値観はしっかりと浸透しているものの、「具体的にどのように行動すると、成果に繋がるのか?」という部分が明確にされていない点が課題でした。

この状況下では、各個人が自ら考え、自分の考える最適な行動を取り、成果を上げるというスタンスが取られることとなりました。しかし、これでは結果的に「個」に頼ることが多くなり、組織全体としてその「個」の成果を支援し、後押しすることが難しい状態でした。

そのため、誰もがスピーディーに成果を上げるための具体的な行動指針が求められていました。この問題の解決策として、私たちはコンピテンシーの策定を決定しました。


コンピテンシーの策定

コンピテンシーとは

コンピテンシーは、具体的な行動、スキル、態度を明文化することで、これを基準にして業務を進めることを推奨する手法です。価値観だけではなく、このコンピテンシーを取り入れることで、具体的な行動基準が明確になり、それに沿った行動からどのような成果が期待できるのかが明らかとなります。

このコンピテンシーの導入により、メンバーは期待される行動や必要なスキル、知識が具体的に分かるようになります。それを背景に、自らの行動や業務のアプローチを見直し、効率的かつ効果的な方法を選択できるようになるでしょう。そして、組織全体としては、コンピテンシーを土台にした評価やフィードバックを通じて、メンバーのパフォーマンスを客観的に把握し、それに基づいてモチベーションや成果の向上をサポートすることが可能となります。

結論として、コンピテンシーの策定は単なる価値観の設定を超えて、具体的な行動や態度を元にした組織文化の醸成を後押しする重要なステップです。組織の成長や継続的な発展には、コンピテンシーの全体的な理解と浸透が不可欠です。

コンピテンシーをどうやって策定したのか

コンピテンシーの策定にあたっては、経営メンバー4名が主要な役割を果たしました。しかしながら、社内だけの視点での議論にならないように、人事制度策定の専門家を外部ファシリテーターとして招待し、より幅広い視点での議論が行われました。

策定の具体的なプロセスは以下の通りです。

  • 一般的に認知されているコンピテンシーの中から、10カテゴリー・100要素を網羅するシートを用意
  • 各部署のリーダーはこの中から、自部署で成果を出すために必須と考える要素を十数個選択
  • 経営メンバー4名で共通の要素を抽出する議論を行う
  • 抽出された要素に対して、合成・分解の作業を繰り返し、最終的に組織の文化や価値にマッチする5つのキーワードに絞り込む

4つ目のプロセスは特に重要で、我々の組織の特性を反映した言葉を選ぶこと、それがどの部署やレイヤーにおいても効果的に機能するのかという観点から、行動基準としての完全性を検討しました。

5つのコンピテンシーと、それらのバリューとの関連性

経営メンバーの議論を通じて抽出されたコンピテンシーは次の5つです。

  • 意味づけ力
    • 今いる状況において、自分がなにをすべきか考えられる
  • チーム志向力
    • 個人よりもチームの利益を優先
    • バリューとの関連性 : One Team
  • 相互理解力
    • 相手のいってることを理解し、その上で自分の意見も主張し相手から理解してもらえる
    • バリューとの関連性 : One Team
  • 問題解決力
    • 仮説をたて、論理的に物事を解決できる
    • バリューとの関連性 : User Obsession, Less is More, Code Wins Arguments
  • やり切り力
    • 障害や困難な状況にあっても乗り越え、最後まで課題をやり遂げる
    • バリューとの関連性 : Move Fast, Get Things Done

バリューとコンピテンシーは密接に関連しています。具体的には、バリューが我々の組織の価値基準を示すものであるのに対し、コンピテンシーはその価値に基づく具体的な行動や態度を示すものです。ウォンテッドリーでは、このようなバリューを基盤にした行動(コンピテンシー)を取ることが、成果につながると位置づけています。

組織戦略・人事戦略との紐付け

ビジョン・ミッション、バリュー、そしてコンピテンシーは、単なる独立したフレームワークや考え方として捉えるべきものではありません。これらは、組織のアイデンティティを定義する際の基盤として使用されるものであり、具体的な戦略の策定や実施にも深く関わってきます。そして、これらの戦略には主に2つの側面が存在します。「組織・人事戦略」と「経営・事業戦略」。今回は、前者、すなわち組織・人事戦略に焦点を当てて解説します。

組織・人事戦略は、ヒトを中心に据えた制度設計が骨子となります。この制度設計とは、人事制度や評価制度、キャリアパスの設計など、メンバーの働き方や成長をサポートするための仕組みを指します。そして、「組織制度改定プロジェクト」の中で、私たちはこれらの制度を根本から見直し、より適切なものに再設計する取り組みを行いました。

等級設計を作る

「ウォンテッドリーのミッション」で説明した通り、私たちの目指すのは簡単過ぎず、難し過ぎない最適な挑戦です。この最適な挑戦の領域にいることで、成果を出しやすく、成長を実感しやすくなります。このような最適な挑戦のレベルを一般的に「等級」や「グレード」と呼ばれることがありますが、ウォンテッドリーでは「段位」と呼んでいます。それぞれの段位で求められるコンピテンシーを明確にしています。これにより、自身の現在の能力や求められる成果を明確に把握でき、次の段位への目標もはっきりとします。初心者の段位では、基本的な業務の遂行能力やチームとしてのコミュニケーション能力が求められますが、段位が上がるにつれ、リーダーシップ、戦略的思考、高度な専門スキルなどの高いコンピテンシーが必要とされます。



コンピテンシーは全職種の段位ごとに詳細に言語化されています。例えば、エンジニアの場合、専門技術や設計、トレードオフの調整に関する能力が専門コンピテンシーとして定義されており、デザイナーには具現化やブランド形成のスキルが求められます。職種や役割ごとのスキルや知識の違いを理解し、それぞれの職能の特性に合致した評価基準を設けることで、各領域での効果的な成果の実現のための明確な指針となります。このようなアプローチにより、自分の役割や責任に基づく具体的なガイダンスを得ることができ、成長の方向性をはっきりと確認しやすくなります。

段位ごとのコンピテンシーは、パフォーマンス評価や目標設定、フィードバック、1on1をスムーズに進めるためのHRツール上で公開されており、誰でもアクセスできます。半期ごとの人事評価では、この段位のコンピテンシーを基に、各メンバーの行動が適切であるかを評価します。また、1on1の際にも、「現在の行動はどの段位に該当するか?」といった問いを中心に、所期の行動と実際の行動を比較しながらリーダーとの対話が行われます。 このシステムの導入により、評価のプロセスが透明になり、メンバーとリーダーのコミュニケーションが一層スムーズに進展することを期待しています。コンピテンシーが段位ごとに明確化されているため、メンバーは自分の成果や活動を明確な基準と比較することがしやすくなりました。これを通じて、メンバーは自らのキャリアパスや成長を明確に視野に入れ、必要なスキルや知識を効果的に習得する方針を明確にすることができるようになりました。

リーダーはこのコンピテンシーを基に、メンバーのパフォーマンスを客観的に評価するだけでなく、具体的なフィードバックやガイダンスの提供も容易になります。1on1の際の対話がより具体的かつ建設的に進行し、双方が共通の認識を持つことで、効果的なアクションプランの策定が可能となります。

この明確な評価フレームワークの存在は、組織内での信頼関係を深化させ、共通の理解と目標に向かっての協力を後押しします。ウォンテッドリーの目標は、メンバーが自らのポテンシャルを最大限発揮するための最適な環境の構築です。この段位を基盤とした評価システムは、その実現への鍵として位置づけられています。

採用設計に用いる

評価制度にコンピテンシーのチェック項目を組み込みましたが、これは新しいメンバーの採用時にも同様に活用されています。「組織制度改定プロジェクト」では、採用の仕組みや選考フローの再設計も実施しました。具体的には、選考の各段階でどのようにコンピテンシーを評価するか、どのような議論や質問を通じてそのレベルを確認するのかが詳細に策定されています。ただのチェックリストではなく、理想のメンバープロフィールの定義にも役立てられています。このように、採用プロセスもコンピテンシーをキーとして設計されています。

従来の評価が主にスキルや経験に焦点を当てていたのに対し、現在は組織とのマッチングを重視する評価へと移行しています。コンピテンシーは、個人のスキルや能力だけではなく、その人の価値観や考え方、そして我々の組織文化との相性も考慮することができます。このアプローチにより、新しく参加するメンバーが組織のビジョンやミッションに適合しているかをより精確に判定することができるようになりました。

新しい採用設計は、単に特定のスキルセットを持つ人材を探すだけではなく、長期的に組織の成長にコミットできるメンバーを見つけることを目的としています。このコンピテンシーの導入は、新しく入社するメンバーのオンボーディングや研修のプロセスにも影響を及ぼしています。新入社員には、自らのコンピテンシーを理解することで、自分の役割やキャリアの進路を明確に捉える機会が与えられます。

採用プロセスにコンピテンシーを取り入れることで、組織文化にフィットする人材の確保と、その人材が組織内で十分に活躍する土台を築くことができるようになりました。

制度は継続運用することが大事

制度や組織設計は、一度設けたら完了するものではありません。組織やビジネスの状況は絶えず変化するため、それに応じて組織が求めるスキルや能力も変わるのが常です。市場の変動、技術の進化、組織の規模の拡大や縮小など、様々な外部要因が組織のコンピテンシーに影響を及ぼす可能性があります。また、組織内での人材の移動や成長も、コンピテンシーの見直しを必要とします。新たな役職の設定、チームの再編成、新しいビジネスモデルの採用など、組織内の変化も考慮に入れる必要があります。

制度を継続的に適用・更新することは、組織が持続的に進化し、変化の波に乗るための鍵です。組織のリーダーシップ、人事部門、そして各部門のマネージャーが中心となり、全員の協力を得ることで、組織全体の持続的な成長をサポートすることができます。

おわりに

私たちは組織の成長を実現するためにミッションとバリューを見直し、コンピテンシーという行動基準を設けて組織制度を全面的に見直しました。このプロジェクトは半期で完了し、一般的な組織の変革よりも迅速に実施されました。この成功は、経営メンバーだけでなく、全社員の積極的な協力があったからこそです。

この取り組みから学び取った最も重要なことは、制度やルールを設けるだけでは十分でなく、それを日々の業務に取り入れ、実践することが、組織の真の進化に直結するということです。組織の文化や価値観は、トップダウンのメッセージだけでなく、現場の声や提案、そして実際の行動によって育まれるものです。

この経験が、持続的な成長や変革を志す他の組織にとって参考となればと思います。私たちの取り組みはここで終わりではなく、むしろ新たなスタートです。私たちは、変わりゆく市場や環境に応じて適応し、更なる成長を追求していきます。このプロジェクトを支援してくれた全社員に、心からの感謝を申し上げます。

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