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昨年は新型コロナウイルスのまん延で一気にリモートワークが広がりました。その後、コロナ禍も2年目に入り、ワクチンが浸透しつつある今、再びオフィスワークに戻る人、リモートワークを続ける人、両者をブレンドする人など、個人の働き方は多様化しています。
こうした中、組織やチームを運営していくうえで、マネジメント側は個人が働く場所について、どう決めていけばいいのでしょうか。また、個人はどのように選び取るべきでしょうか。
デジタルエージェンシーTAMの爲廣慎二社長、デザインテクノロジーチームのリーダー、角谷仁さん、ECチームリーダーの大内千佳さんが、出社とリモートワークのメリット・デメリットを見直しながら考察します。
働き方はまだら模様
―身のまわりのワクチン接種状況は今、どのような感じですか?
爲廣:僕は1回目はもう済んでいて2回目は来週ですね(7月15日に取材実施)。東京の一部の区とかは早いらしく、27歳のメンバーがもう2回目が終わったと言ってました。住んでいる地域によって全然違うみたいです。
角谷:ワクチンの案内が来て、7月末ぐらいから予約できるそうです。チームメンバーの中には1回目の接種が終わったという人が1人いるぐらいかな。
大内:私は大阪市内に住んでいますが、7月中旬の現段階ではなかなか予約が取れない状況です。デリケートな問題なので、チーム内では極力聞かないようにしていて、チームメンバーの状況は分からないです。
―現時点で働く場所や働き方は?
爲廣:僕は10名ぐらいのバックオフィスチームなんですが、リアルでないとできない作業がいっぱいあるんですよ。郵送されてくる請求書の処理とか、大手企業との契約書の書き込みとか、デジタル化されていないものが結構あって、そのために3分の2ぐらいのメンバーはほぼ毎日出社しています。まわりの大企業も出社されているところが多いですね。
角谷:うちのチームは状況に合わせて変えていますが、今は金曜を出社日にしています。毎日来る人は毎日来るし、全然来ない人は来なかったりとか。仙台、福岡、沖縄にいるメンバーはリモートなので、人によってバラバラという感じですね。
ここ1年、お客さまのところは2〜3回しか行っていないです。「合わせますので、どちらでも大丈夫です」と言うと、「オンラインで」と言われますね。
大内:私はオンラインミーティングがかなり入っているんですが、それがない日は出社するようにしています。クライアントは出社されている方が多いですが、私たちとの打ち合わせはほとんどリモートです。
出社とリモートのメリット・デメリット
―リモートとオフィス、どちらがいいんでしょうか?
爲廣:僕はリモートばかりの仕事は苦手で、寝てしまうか、お菓子ばかり食べて激太りしてしまうか、そんなことばっかりしていて、すごい効率悪いんですよ。
大内:私も家で集中できないです。家にいると洗濯物とか洗い物ばっかりしちゃって、すぐ席を立ってしまいますね(笑)。
角谷:僕は書斎をめちゃめちゃ整えて、それとゲームとか楽しいものに囲まれていますがリモートでも大丈夫ですね。チーム内にはオフィスだとうるさくて集中できない人もいたりします。隣で電話とかされると、手が思うように進まないときがあるみたいです。クリエイターの人にそういうタイプが多いですね。
爲廣:「モノづくり系」の人は集中できる環境が大事な気がしますね。僕はややこしい打ち合わせも多くて、自宅の部屋から1人で「申し訳ありません」とか言ってると切なくなってくるから、オフィスに来ないと仕事ができないのかも(苦笑)。
―対面とリモート、どちらが適しているかは仕事の内容によっても変わってきますね。
爲廣:「スキルの側面」から考えると、営業とかマーケティングみたいに「How」とか「Why」が問われる職種は対面のほうが仕事がしやすいし、専門的なスキルで「What」が明確な場合は、リモートのほうが圧倒的に効率はいい。
「経験面」でいうと、新入社員などキャリアの浅い人は対面のほうがしやすいし、ベテランになってくるとリモートのほうがやりやすいですが、「超ベテラン」にまでなると出社のほうがありがたかったりするのかな。
「対人面」では、いろんな人と出会うには対面のほうがいいし、だけどコミュニケーションを頻繁にするのはリモートのほうがやりやすかったりします。
それから「DNAの側面」からいうと、人間の心は対面を求めているだろうと思いますが、身体はリモートのほうが楽だったりしますね。
大内:「対人面」で言うと、私は社内での知り合いを増やして、「大内」という名前をたくさん呼んでもらって信頼を獲得するという戦略でやってきました。
なので、基本的に東京と大阪オフィスの全員の顔と名前を必ず覚えるようにしているのと、毎日全員と挨拶するというのを心掛けていたんです。途中から諦めましたが、それでもチーム内の20人全員とは毎日言葉を交わすようにしていました。
リモートだとなにかタッチポイントがないとできないことですが、会っていたら気軽に「おはよう」だけでもそれなりに頻度はあるので、そこはやはり「会うメリット」かなあと思っています。
爲廣:それは絶対あるよな。とにかく人とリアルで会う回数を増やすと、比例して仕事が増えるしな。
大内:なので、リモートになってからもコミュニケーションについては工夫しましたね。
社内ではオンラインの全体ミーティングがあるので、まず顔を覚えてもらうためにカメラを必ずONにしました。次に名前を覚えてもらうために、チャットにもめっちゃ投稿しています(笑)。
こういうやり方があるよ、というのはメンバーにも伝えるようにしています。社外は社内より難しいんですが、SNSで「いいね」や「コメント」を毎日するようにして、コミュニケーションの頻度を上げるようにしています。
というのも、仕事でもプライベートでも声をかけてもらえるかは、想起してもらえるかがいちばん。なので、たくさんの人と人間関係を築いておくというのは、自分がやりたいこと・面白いことをするチャンスを増やすためにも大事だと思っています。
―出社のメリットが目立っていますが、リモートは通勤時間が省けるというメリットがよく挙げられますよね。
大内:通勤時間が「もったいない」と思ってしまいますね。みんなそれに気づいてしまったな、と思います。でも、移動時間がないと「なにもできない無駄な時間」がなくなってしまって、24時間ぎっしりになってしまいますよね。
爲廣:僕もリモートで「余白の時間」は激減しましたね。1時間の「Zoomミーティング」が5~6本連続した日にはヘロヘロになってしまって、目の前がグルグルして「カニ歩き」みたいな斜め歩きになってしまいますから(苦笑)。
通勤はめっちゃ大事ですよ。僕は最近、通勤するときにオペラをずっと聴いています(笑)。それは自分をすごくマインドフルにするというか、強制的に無駄を作らないとやっていけないんです。
大内:私も以前は通勤で家に帰る途中、星空を見上げていたらいい考えが思いついたりしていましたね。今は会社への往復がなくなって、代わりに私は「週末山に登る女」になりました(笑)。
爲廣:僕のヨットと一緒やな(笑)。
経営者の「決め」とすり合わせのプロセス
―いろんな立場で出社とリモートのメリット・デメリットも変わりますが、そういう状況でも組織としてメンバーの「働く場所」を決める必要はありますか?
爲廣:僕は会社としての「決め」が大事かと思っています。働く場所やワクチンを打つか打たないか、などはどこまでいっても不毛な議論になるので。「週3出社」とか「完全オンラインでご自由に」というように、会社が決めなければ仕方がない。
やっぱり組織ですからね。ミッション、ビジョン、バリューに基づいて、自分たちがどうあるべきかというのに照らし合わせて、経営チームで決めるべきものだと考えています。
角谷:僕はそこに対してちょっと意見があって。
会社が「決める」のは大事ですが、みんなが集まれる場所を作ってあげて、そこに行くかは自分で考えよう、というのが前提にあるべきじゃないかな、と思っているんです。「強制」というのはちょっと時代に合わないような気がしています。
「月、水、金に来たらみんながいるよ」と設定しておけば、来る人は来るじゃないですか。個人が成長したい意欲があるかどうかは、リモートかどうかはあまり関係なく、その人のモチベーションの話なので。
爲廣:それは深い戦術だと思います。月、水、金出社で、来るかどうかは選択して構いませんよ、というのは。僕も、チームでコントロールしてください、というような柔軟性を持たせた「決め」でいいと思います。それも「決め」だと思っているので。
角谷:「選択してもいいよ。だけど出社のメリットやチームメンバーとしての責任も考えてね」みたいな言い方ですかね。選べる余地は残しつつ、会社の考えも伝える…… 難しいですけど。
大内:私は2つの軸で考えていて、1つは心理的な話。私は学校嫌いだし、職場嫌いだし、決まった時間に決まった場所で決まった椅子に座って、「こうしなければならない」という概念が嫌いなんです。でも「みんなに会いたい」と思っていて。
メンバーに聞いても、「みんなに会いたいからたまに出社する」という意見が多かったので、「出社する」というよりは、「~しに行く」みたいなインサイトを大事にしたいと思っています。
もう1つがリスクヘッジ。リモートだけにしたら、5年後10年後にどうなるか分からないというのがあるので、両方を並走させて「ブレンデッド」にしたいな、という考えがあります。
―選択制にすると、だんだんみんなばらばらになっていく恐れがありますが……。組織と個人のすり合わせはどうやっていくのがいいのでしょうか?
角谷:自由でありすぎるとそうなっちゃうかもしれませんよね。以前、僕のチームでも「おはようミーティング」というのがあって、なし崩し的になくなっていったんですけど、そうすると組織への不信感が出たりもするので、それはマネジャーがしっかりまわしていかなければならないことかな、と思います。
組織である意味は「みんなで共有する価値観」。それが束ねられなかったらまとまって力を発揮できないと思うので。
大内:会社の文化とかビジョンとかがあるし、最後に経営者が線を引くのは仕方がないと思います。それでも、そのプロセスは時代の流れだったりとか、入ってくるメンバーの雰囲気から感じ取って決めていくことだと思います。
爲廣:企業規模によってもだいぶ違うんじゃないですか。アップルやグーグルのような大きな会社は、みんなに耳を傾けて共通認識を形成しようと思っても物理的にできないのかもしれません。
報道されているような反発も折り込んだうえで、上層部で決めて「こうだ!」とやらんと仕方がないんでしょうね。でもTAMみたいに150人ぐらいだったら、現場でゆるくすり合わせしながら試行錯誤していくことが可能な規模なんだと思います。
大事なのは「チーム運営に参加する」意識
―「働く場所」は、最後は個人が決めるべきということでしょうか?
爲廣: TAMでは働く場所を選択できる余地を残しておく必要があると思っています。それでも、リモートだけだったら「計画的偶然」みたいなことも起こらないし、セレンディピティもないし、楽しくないというのもあるし。
例えば、旅行に行った人はだいたい「よかったです!」と言いますが、それは人に会ったり、未知のものに出会ったりすることで、それこそ「計画的偶然」が起こるからでしょう。
その機会がリモートの場合は圧倒的に減る、というのは間違いない。だから人に会うことの重要性を説いていかんとアカンとは思うんですけどね。それをどんなふうに分かってもらうか、どこまで浸透させるか、ということに尽きると思います。
角谷:一回失敗しないと、本人はなかなか気づかないですね。人に会わなくてダメだったな、と思わないと。
爲廣:若い人は当然、社会経験が少ないわけで今回は初めてのことだらけ。だから、自分の経験に照らし合わせて意思決定できない。かといって、僕みたいに理屈で若い人を説得しようとしてもなかなか伝わらないんでしょうね。「理屈 vs. 理屈」になるのでダメなんだと思います。
そうなると、相手の中に面白い体験が増やせるような、地道なリアルの活動が要るんだと思います。でも、失敗を積み重ねるにはどうしても大きな時間かかるから、やっぱりそこはマネジャーが導いてあげないと。
やってみたらどこかで不都合があったり、全然来ない人が出てきたりとか、問題が出てくる可能性があると思うんですが、そうすると「週3はまず出社にしよう」とかいうことになってくる。そうやって試行錯誤していくことが経営でしょうね。
角谷:そうですね。伝えていくこと、導いてあげることはマネジャーの大事な仕事なので意識してやっていきたいです。
爲廣:それに、今はオフィスのあり方自体も変わらないとアカンと思っていて。1人1台の机ではなくて、オフィスの半分ぐらいをカフェスペースとか飲食スペースとかに変えていきたいと思っているところです。
大内:二人の話を聞いて、私が思うすごく大事なことは、個人がチーム運営に参加しているというような、そういう意識変革。自分が出社することがチームを良くしていくという。それを意識できるのが20人ぐらいのチームの良さだと思います。
一緒にチームを作っていこうよ、と各メンバーを巻き込んで、TAMへの貢献を「自分ゴト化」してもらうことが大事なんじゃないかなと思いました。
角谷:たしかに、成長という観点からもチームのみんなを巻き込んで、もっとチームを好きになってもらうことが大事ですね。それが好きであれば出社もするし。そのためには対話したり、お互いの絆を作っていくことが大事なのかなあ、と。
これからTAMでは各チームのブランドを作っていこうという計画もあるので、それは僕はすごくいい機会だと思っています。一人ひとりが役割と責任感を持ってチームが1つになっていけると、もはや出社とかリモートとかあまり関係なく、いいチームができるのかなと思います。
[取材・編集] 岡徳之 [構成] 山本直子 [撮影] 藤山誠、石田バレット (Barrett Ishida)