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「自分の “好き” を仕事にしよう」「やりたいことを見つけよう」――最近の働き方のトレンドから、特に若い人たちはこうした言葉を投げかけられる場面が増えています。しかし、実際は自分の「好きなこと」を答えられず、生きづらさを感じる人もいるのでは?
TAMでコミュニケーションプランナーとして働き、自らのライフワークと呼べる「日本のモノづくり」をテーマにしたWebメディア『しゃかいか!』を立ち上げて日本中を飛びまわる加藤洋さんは、「自分の好きなことは自問して見つかるものではない」と言います。
果たして、その言葉の真意とは――。どうすれば「好きなこと」が見つかるか、どうすればそれを仕事に変えられるか、加藤さんが自らのたどった軌跡を振り返りながら語ります。
大きな病気を克服し、SNSマーケティングの第一人者に
2010年にTAMに就職して今年で9年目を迎えます。そのまえは東京のWeb制作会社で「テレビCMの続きはWebで」みたいな大型の広告キャンペーンサイトなどを作っていました。週に2日徹夜する働き方を3年ぐらい。相当きつい仕事でした。
そのままずっと東京で働こうと思っていたんですが、ある時、義父の体調が悪くなって、関西に戻ることに。妻が戻って安心したのか、義父は一瞬で回復して(笑)。下の子が生まれたこともあり、関西では当初、在宅で前の会社の仕事をやっていたんです。
そろそろ関西の会社に就職しなければ・・・と思って探していたところ、TAMと出会いました。当時インスタグラムもないような時代に、『素TAM』という動画サイトで社内の雰囲気を伝えていたりして、おもしろい会社だと思ったのが応募したきっかけです。
当時のTAMは主要顧客の売上比率が大きすぎたので、新規顧客を獲得するのが僕のミッションになりました。
新たにSNSマーケティング専門チームを立ち上げ、『Socialmedia360.jp』というソーシャルメディアの情報を発信するサイトを作り、その責任者になりました。自分でロゴをデザインして、ワードプレスをカスタマイズして、記事を書いて、Facebookにシェアして・・・すべて自分でやってましたね。
それが2011年ごろの話です。ちょうどFacebook CEOのマーク・ザッカーバーグを題材にした映画『ソーシャル・ネットワーク』が公開されたりして、日本でもSNSを活用したマーケティングが一気に広がりました。
いち早く海外事例を発信していた僕らは、アスキーのWebプロフェッショナルにFacebookの活用法を連載させてもらったり、それが本になっていろんなセミナーに登壇したり・・・と、時代の波に乗ることができた。結果的に新規顧客も増えました。
と、こう書くと順風満帆といった感じですが、SNSマーケティングの仕事に取り組む前に大きな病気にかかったんです。幸い完治して命を拾ったこともあったので、「ここは頑張り時」と思って、大いに仕事に励みました。
今振り返ると、よくあんなに働けたなって思うんですけど(苦笑)、でも、自分がやっている仕事のインパクトは大きかったし、それに、誰かに指示されてやっていたわけでもなくて。「好きなことをやれている」という実感があったので、辛くはなかったですね。
好きなこと = “Fun(楽しい)” ではなく “Interesting”
SNSマーケティングのチームはFacebook関連の案件で大忙しになり、当初のミッションである新規顧客の獲得にも貢献できたのですが、「これは一過性のものだな」とも思っていました。それで、流行りすたりがなく一生続けることができる…と思って始めたのが、『しゃかいか!』です。
インターネットの普及によって世の中の情報が一気に増えると、企業からの一方的な広告・宣伝は効かなくなってくる。その時にいちばん大事になるのは「共感」だろうと思って、企業のモノづくりや本質的な部分を『しゃかいか!』で発信することにしました。
『しゃかいか!』での活動は徐々に仕事にもつながってきていて、資生堂さんと「日本の美しいものづくり」というプロジェクトを立ち上げて、資生堂のスペシャリストの方々と伝統工芸などモノづくりの現場を取材してコンテンツにしたり、ワコールさんの工場見学の様子を伝えるコンテンツをつくって、ファンイベントを開催したりしています。
これは仕事選びにも通じるところがあるかもしれませんが、『しゃかいか!』での企画、取材対象では、ユニークなモノづくりをしている企業、地方に飛び込んで未来に何かをつなげようとしている若者など「Interesting(興味が湧く)」であることを重視しています
「Interesting」というのは、「Fun(楽しい)」や「Like(好き)」とは違って、未来の方向に向かっているエネルギーを含んでいると思うんです。そのポジティブなエネルギーに触れていると、自分も仕事を好きにがんばれるようになる気がします。
「好きなこと」は自分ではなく、まわりから浮き彫りになる
・・・と口では言っていますが、今の特に若い人は「好きなことを見つけなさい」と言われて、きついなあと思うんですよ。そんなことを言われても40近いおっさんでも分からない…(笑)。
人っておもしろくって、心理学的に「好き」と「嫌い」の判断スピードに差があると思うんです。たしかに、「これは嫌い」はすぐ分かるのに、「これが好き」は分かるまでに時間がかかってしまう感覚がある。
例えば、マズイ食べ物とかヤバイやつなんかは「嫌い」ってすぐ分かるし、避けるように行動する。それは、関わると自分の生存がおびやかされるから。でも、逆に「好き」なことを絞りすぎると(好きなものしか食べないと)生存できなくなる。
だから、人って「これが好き」を本能的に決めきらないんだと思うんです。だから、好きなことが見つからなくても全然構わないんですよね。
でも、好きなことを見つけやすくするのに、僕が関わっている情報発信やマーケティングのスキルは確実に助けになります。
僕たちがやっているのは、何かを伝えたり表現したりする仕事なので、自然とアウトプットするわけですが、発信してまわりに働きかけると、そのリアクションで「ああ、自分はこれが好きなのかも」と浮き上がってくる。まわりがいいね、得意だねって言ってくれて、「ああ、自分はこれが好きなのか」って気づく。発信しないと、好きなことって分からないんですよ。
取材であちこち日本中に行っているので、「加藤さんは好きなことを仕事にできていいですね」と言われますが、今でも本当に好きなことを見つけられているのか、自分ではよく分かりません(苦笑)。人から言われて、「好きなこと」が浮かび上がってきて、人の役に立っているうちに仕事になっている感じです。「好きなこと」を見つけるには、まずは発信しないといけないのかもしれませんね。
今は「ロングテール」の時代と言われるように、たとえ好きなことが少し変わったことであっても、これまではただの変な人でしたが、今ではいろんな人に見つけてもらえる世の中になりました。「これは仕事にはつながらないかも・・・」などと思わずに、「Interesting」を追求して、情報発信したらいいと思います。それを続けてはじめて「自分の “好き” を仕事にできる」のかもしれません。
株式会社TAM 取締役 / しゃかいか!編集長 / コミュニケーションプランナー / アートディレクター 加藤洋
1975年京都生まれ、滋賀在住。DTPデザイン、ECサイトの立ち上げなどを経て株式会社TAM入社。数多くのWebプロジェクトに携わる。ASCIIウェブプロフェッショナルにて、「今日からできるFacebookファンページ制作&運用ガイド」を連載し出版。Webメディア「しゃかいか!」を通じてものづくり企業と消費者の新しい関係づくりに挑む。
[取材・文] 池田礼、岡徳之、山本直子 [撮影] 藤山誠