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私たちはなぜ、コミュニケーションデザインに力を入れるのか|SmartHRコムデのいま(前編)

この記事は、SmartHRのコミュニケーションデザイングループの「いま」を伝える対談記事の前編です。後編のURLは記事の末尾ございます。

デザイナー第一号が見た「SmartHRのコミュニケーションデザインの面白さ」

関口裕(以下、sekig):渡邉さん(以下、bebeさん)は、SmartHRのインハウスデザイナー第一号なんですよね。2015年のサービス開始の翌年に入社して、ほぼ創業メンバーに近い形で、あらゆるコミュニケーションデザインに関わってきました。

渡邉惇史(以下、bebe):はい。今は代表取締役を務めている芹澤(雅人)さんとは、前職で一緒に働いていた縁がありまして。「遊びに来てください」と言われて、本当に遊びに行くつもりでTシャツ短パンで訪ねていったら、実はデザイナーの面接だった、という経緯です(笑)。

入社した時には、デザイナーとしてこれをやってほしいと明確に提示されたわけでもなく、どういうニーズがあるのか、正直言って手探り状態でした。
サービスをリリースして1年が経ち、展示会にも出展し始めていましたが、たとえば展示パネルといった資料もその時対応できる最善のメンバーが自然と担当するなど、デザイン領域の業務もできる人間がやる状態だったんです。

sekig:マルチにできるメンバーが多いから、肩書きはあまり関係なく、できる人間がやる態勢で事業を進めていく……初期のスタートアップではよくありますよね。

bebe:そんな中で私が最初にやった仕事は、リリース1周年のインフォグラフィックLPです。イラストも自分で描いて、何もかも自分でつくりました。これを出した時に、当時のCTOに「あ、デザインできるんだね」と言われて(笑)。

sekig:デザイナーとして入社したのに(笑)。

sekig:これは補足すると、デザインには、いわゆる表層を整えたり統一されたスタイルをつくったりする以上に、コンセプトや要件の定義から考えて全体をつくりあげていくことで、よりよいコミュニケーションを生み出す役割があると思っていて。bebeさんの仕事を実際に見て、明確にそこを感じられたんでしょうね。

bebe:そうですね、そこはアウトカムを感じてもらえたんじゃないかなと。

sekig:今でこそ「コミュニケーションデザイン」という言葉が僕たちの活動のベースにありますけど、当時は明確な言葉になっていなくても、メンバーみんなが自然に体現している状態だったんですね。

bebe:その点に関しては、創業者の宮田(昇始)さんはすごく上手なんですよ。私が入社した時点ですでに、何をどう見せていくべきなのか、根本のコンセプトも熱量もあるのが伝わってきて。
私がデザイナーとして、何を見せていくのかゼロから考えるというよりは、見せたいものはすでにあって、私はその受け取ったものをどう出すかということを考えていました。

プロダクトも自信を持って届けられるものだし、それをより良く見せるための資料づくりの工夫も追求する。対外的なコミュニケーションだけでなく、社内コミュニケーションも同様です。当社の福利厚生のひとつである「カシュ(*)」は、楽しく働こうという社のスタイルをカタチにしたもので、今でも続いています。

私の感覚としては「会社としてコミュニケーションデザインを重視していた、投資していた」という言葉にしてしまうと、ちょっと違うんですよね。そんな風に改めて言葉にしなくても、宮田さん、そして当時のメンバーが当たり前のようにやっていたことです。

sekig:なるほど。SmartHRとして「こうしたい」「こうありたい」というものがすでにあって、bebeさんがそれを捉えて「こうするともっと良くなるよ」とさらに見せ方に磨きをかけていったんですね。

bebe:前職でアプリの事業会社にいた頃は、デザイン領域の業務を少ない人数でこなしていました。プロダクトデザインの範囲はカバーできても、ロゴなどのCIやその他のコミュニケーション領域については片手間にならざるを得ず、議論できる状態ではなかったんです。

SmartHRに入社してみて、すでに良いプロダクトがあり、良いコミュニケーションがある。それをデザインでもっと良くしていくという価値観が根づいていました。それを後押しすることが自分にはできる、という手応えを感じたんです。それが、私がコミュニケーションデザインに携わるようになった流れなんですね。

「結果、良い状態か」に妥協したくない

sekig:創業当時からコミュニケーションデザインを自然に大事にする社風で、そのカルチャー、価値観は今でも引き継がれています。

SmartHRのデザイン部署は大きくプロダクトデザイン、プログレッシブデザイン、そしてコミュニケーションデザインのグループに分かれます(社内では後者を「コムデ」と呼んでいるので、ここでもそう呼びます)。コムデのメンバーは今、社員19名、派遣・業務委託のメンバーも含めると30名を超えるグループになりました。外部の方から見ると、けっこうな大所帯ですねと言われることもしばしばですよね。

bebe:そうなんですよね。「なんでそんなに人数が必要なんですか?」と言われることもありますが、私たちからすると、いやいや、これだけいないと成り立たないですよ、むしろもっと必要なんです、と思っています。

sekig:そこにギャップがあるような気がするので、なぜSmartHRはコミュニケーションデザインを大切にしていてそれだけのリソースを割いているのか、その必要性をお話ししたいですね。

bebe:これは私自身が個人的に大事にしていることでもあるんですが、SmartHRの事業活動すべてにおいて、「結果、良い状態をつくれているか」に対して妥協したくないんです。

sekig:「結果、良い状態」とは……?

bebe:コムデでは「SmartHRのすべてのタッチポイントにコミュニケーションデザインを。」というスローガンを掲げています。
SmartHRというプロダクト、あるいは企業には、いろいろな人との関わりがあります。見込み顧客、カスタマー、直接関係はしていない一般の“生活者”。社員や外部パートナーの方々も含まれます。すべての人とのタッチポイントで生じるコミュニケーション体験を設計し、どこを取っても「SmartHRらしくポジティブ」と感じられる状態をつくりたいんです。
社内外のすべての人にポジティブな体験を提供できれば、それはすなわち事業の価値が向上することにつながります。それが「結果、良い状態をつくれている」ということですね。


bebe:「すべてのタッチポイント」というからには、コムデが関わる領域は企業活動すべてです。プロダクト、サポート、広報・PR、マーケティング、セールス、カスタマーサクセスといった顧客向けの部門も、総務や経理、採用・人事といった社内部門も、ほとんどすべてのグループと協働しながら、コミュニケーションの設計を通して、結果「良い体験」となる状態を目指しています。

sekig:デザインというとグラフィックやエディトリアルデザイン、空間デザインなどが想起されやすいですが、SmartHRのコミュニケーションデザイングループは、そういった枠にはまりきるものではないですよね。

いってみれば、SmartHRで起きているあらゆることに対して、積極的にコムデが関わっていって「より良い体験」の創出を目指している。だからこれだけの人数の多様なメンバーが必要になる。
bebeさんは社内で「こんなことに困ってるんだけど……」という声をすごくよく拾っていて、いろんな人と関わりに行っている印象なんですけど……これはあくまで例えですが、給湯室の配水管が壊れても、bebeさんは見に行って直してきそうだなと思ったりします(笑)。

bebe:デザイナーがやるのはこの範囲、という意識は全然なくて。それぞれのタッチポイントが、結果として良い体験になるにはどうしたらいいかという視点で考えるので、議論したうえで「デザインをしない」こともあります。

たとえば顧客向けのセールスシートは、もっと理解が進むようにと丁寧にデザインすることは大切です。一方で、大手クライアントの商談が決まるかもしれない、明日までに資料が必要というシーンでは、細部のデザインにこだわるよりも、強い言葉をひとつ入れることに注力したほうがいい場合もあります。
他の例では、SmartHRのトップページにいくつか並んでいる機能を間違えて選択してしまうというご意見が、ユーザーから多く寄せられたことがありました。どう対応しようかと、当時のプロダクトマネージャーと相当議論を重ねた末、最終的に変更したのは、機能の名称とボタンとの間に1本罫線を入れただけでした。でもたったこれだけで、問い合わせの数は激減したんです。

手を加えるだけが正解ではありません。求める結果に対して、その時々で必要なことを的確に判断して実行することが、コミュニケーションデザインだと考えています。

sekig:bebeさんがずっと下地をつくってきたおかげで、本当にコムデにはいろんな相談が来るんです。
オフィスの感染対策を考える時には、総務のメンバーが僕たちのところに来てくれて。デスクに座る人数制限をしなければならないがパーテーションで区切りすぎてもオフィスの快適性が損なわれるし、どうしたらいいと思いますかと、堅苦しくなく相談に寄ってくれたんです。それで一緒に考えて、ふと、椅子の数を間引きすれば自然と座る人数が減って距離もとれますよね、というアイデアが出ました。これもまた、「結果が良くなった」事例なんですね。

こうして社内のメンバーも私たちコムデに期待をしてくれていて、いい温度感で相談に来てくれる。私たちも部署や業務範囲にこだわらず、どこでも自然にチームの一員として関わることができる態勢になっていますね。

「プロセスにこだわらないこと」にこだわる

sekig:僕自身は2020年にSmartHRに入社して、コムデに所属しながら全社を俯瞰してハブのような役割を果たすのがミッションのひとつでした。だからコムデを統括しているbebeさんが、何を一番大切にしているのか共有したくて。なにかと「bebeさん、話しましょう!」と誘って、対話を重ねてきました。
bebeさんは「コムデはこうあるべき、デザイナーはこうあるべき」という、枠にはめるような言いかたは決してしない人なので……。それで何十時間も話した末、結局のところは「こだわらないことにこだわっている」という結論に達したんですよね。「結果が良くなれば良い」、という。

bebe:やりかたにこだわったことはないんですよ。ただ結果はめっちゃ気になるんですよ。

bebe:デザイナーなのにこんなことを言うと怒られるかもしれませんが、デザインの世界で、いわゆる「正しいプロセス」とされているものに従っているかどうかよりも、「結果が良くなっていること」のほうが大事だと思うんです。
極論、デザインするのはデザイナーじゃなくても構わないと思っています。たとえば笑いをとって宴会を盛り上げる人は、常に同じ「お笑い担当」の人じゃなくたっていいわけですよね。それがお笑いの大会だったらお笑いのプロが技を競う必要がありますが、そうではないなら、場が盛り上がれば誰が笑わせたっていい。

sekig:別に我々はデザインの大会で腕を競っているわけではないですからね。

bebe:デザイナーとして気をつけなければいけないポイントがあるのは確かですが、それはデザイナーがプロとして、必要な局面できっちり押さえておけばいいというだけの話だと思っているんですよね。
もちろんデザインプロセスにこだわったほうが良いケースもあります。デザイン会社として、そのスキルが価値になっているのであれば必要なことだと思います。

sekig:専門性そのものに意味がないと言いたいわけでなく、全体の文脈の中でどこにこだわるかに重きを置いているということですよね。それを一言でいうと「結果を良くする」ことであると。
bebeさんと話していると、最後にはいつも「結果を良くする」という言葉に行き着きますね。何がそこまでbebeさんを駆り立てるんですか?もともと性分として、どんなことでも結果を追求したいのか、それともSmartHRに入ってからそう思うようになったんのですか。

bebe:後者だと思いますね。どのような場面、環境であっても「良くしたい!」というほどの熱量はないです(笑)。

なんでしょうね……SmartHRでは「役に立てそうな感じ」を持てるからかもしれないですね。
自分の体験に限らずソフトウェア開発においては、機能は優れているのに、ビジネスモデルの制約があって本質的なサービス改善に手をつけることができないジレンマが往々にしてあります。デザイナーとして必要なことをやっているのに、がんばりが報われないのは虚しいものです。栄養のない土地にいくらタネをまいて水を与えても、作物は大きく育たないというか……。

それが、SmartHRでは打てば響くような実感があるんですね。すでに良いものがあって、さらに良くすることができるアイデアを実践できる。しかもそれが自分のがんばりによってはちゃんと結果が出て、社内の人の役にも立ち、さらには社会の役にも立つ。それを身をもって知っている。

sekig:だから、とにかく「結果を良くしたい」(笑)。

bebe:そう(笑)。やはり私は「結果を良くする」ことにこだわり続けたいんですね。
実際のところどんな手段でも構わないんですが、すでにある良いものをもっと良くできるんだ、コミュニケーションデザインでそれができるんだという自分の中にある納得感が、こだわらないことをこだわる理由なのかもしれません。

後編は、こちらからご覧ください。
後編では「私たちは、コミュニケーションデザインで何を成し遂げていきたいのか」についてお話ししています。

文:伊藤宏子
撮影:猪飼ひより(amana)

*カシュ:SmartHRの福利厚生の一環で、18:30以降になるとオープンスペースでフリーアルコールを楽しむことができる。ちなみにカシュの由来は、缶を開ける時に「カシュッ」という音が聞こえるところから。

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