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この記事は、SmartHRのコミュニケーションデザイングループの「いま」を伝える対談記事の後編です。「私たちはなぜ、コミュニケーションデザインに力を入れるのか」についてお話ししている前編は、こちらからご覧ください。
ワクワクする体験を生み出すことで、ミッションに貢献する
関口裕(以下、sekig):SmartHRは急激にその規模を拡大してきた企業です。社員数も、渡邉さん(以下、bebeさん)が入社した2016年には10~20名だったのが、6年経った2022年には700名を超える規模にまで拡大しています。
事業フェーズも大きく変化する中、bebeさんの中で大切にしていることに変化はありましたか。
渡邉惇史(以下、bebe):……あまり変わらないかもしれないですね。会社としての、「結果を良くしたい」。
sekig:「会社としての結果が良くなる」というのは、bebeさんとしてはどうなることですか。
bebe:SmartHRは2022年、コーポレートミッションを刷新しました。「well-working 労働にまつわる社会課題をなくし、誰もがその人らしく働ける社会をつくる。」というものです。これに対して何ができるか?という視点での「結果」ですね。
sekig:以前のコーポレートミッションは「社会の非合理をハックする。」という言葉でした。新しいミッション「well-working」では、「働く」という人の営みそのものをテーマにしています。いずれにしても、視点は社会に向いているんですね。
「社会」「働く」といった大きなテーマを掲げてしまうと、途端に広すぎて漠然とした目標になってしまいがちです。その中で「結果を良くする」という視点を取り入れると、企業活動として自分たちのやっていることが、もっと地に足のついた、等身大のものに感じられるのかなと思います。SmartHRで「結果を良く」して、利益を出すことが、社会にとっても良いことにつながるという地続きの感覚ですね。
bebe:そうですね。コーポレートミッションには「労働にまつわる社会課題を~」と、「労働」という言葉を採用しています。
実はこれには議論があって、「労働」という言葉には、「使役されている」「ハードに働かされる」というようなネガティブイメージがあるのではないか、「働く」としたほうがSmartHRらしいのでは、という意見もあったんです。でも、そもそも「労働」という言葉には「働くこと」以上の意味はないはずで。だったら、「労働」という言葉についたネガティブイメージそのものすら、私たちSmartHRが変えていけるという自負を持っているんです。
sekig:それは何も「社会を変えてやる」というビッグワード的な考え方ではなく、社会の構成員のひとつとして、確実にプラスを積み重ねていくという行為ですよね。
bebe:一例をお話しすると、私たちのチームで、年末調整用の封筒を制作したんです。年末調整では、生命保険などの書類を会社が保管する義務があるため、従業員から書類を回収します。リモートワークの会社が増えているので、郵送で回収できるように昨年から専用封筒をつくっています。
従業員からすれば手続きに何が必要かわかりやすく書いてあり、会社の人事労務担当者からすれば、目立つ工夫で見逃さないというデザインにしました。これは、社内の人事労務担当者が別の会社にいた時に、わざわざ封筒を自作していたという話を聞いて思いついたアイデアなんです。
この封筒は、SmartHRのユーザーに案内したり、「SmartHR Store」というグッズストアで販売したりしましたが、とても好評でした。
sekig:この封筒をつくって販売することについて、これを事業化しよう、すごい収益をあげようという意識でやってはいないんですよね。「SmartHR」というプロダクトを軸にした事業を総合的に良くしていくために、やったほうがいいからやるという感覚。
bebe:そうなんです。この施策は別に、働くことにおけるものすごいパラダイムシフトというわけではありません。でも、確実に「良い体験」が生まれているんですよね。
コミュニケーションデザインでやっていきたいことのひとつは、こういうワクワクする体験を生み出すことで「well-working」に貢献していくことなんです。
デザイナーを型にはめず、我々はどうあるべきかを問い続ける
sekig:大きく変化する事業フェーズの中でも、bebeさんの視点は「結果を良くする」というところからブレていないというのがコムデの強さだと思っています。一方で、組織のあり方に目を向けてみると、事業が成長し、社員も増えていく中で、変わらず価値を発揮していくためには課題も生まれていますね。
bebe:今までは、「良い体験」を生むために必要なことは全部やればいいと思っていたんですよね。言葉も書くしイラストも描く、モノもつくる。最近ではオフィスの設計に関わるメンバーも出てきています。
すべてのタッチポイントでコミュニケーションデザインすることがSmartHRの持ち味でもあるので、これからもその姿勢は変わりません。ただ、事業が拡大し、複雑化するにつれて、自分をはじめデザイナーが個々で手を動かしていくだけでは対応しきれないことも当然出てきます。
bebe:事業フェーズの変化に合わせて、専門性を高めた小さいチームに分けたり、規模の大きいプロジェクトに対応できるようディレクションユニットを新設したりと、体制の対応は行ってきました。今後、さらに事業が拡大していくことを考えると、「デザイナーのやることはこれです」と領域を決めてしまったほうがメンバーも楽になるし、管理もしやすくなるでしょう。でも、それは会社の今後にとってあまり良くない気がしているんですね。
sekig:これはbebeさんが「こだわらないことにこだわる」という考えを持っているところに起因するところが大きいと思いますが、コムデでは「デザイナーって、普通はこう」という前提がないんですよね。外部から見たら体系だっていないように見えるかもしれないですが、決まった型をどこかから持ち込むということがない。
SmartHRの現在そして将来像の中で、「我々はどうあるべきか」という問いを常に投げかけながら、現在進行形で更新しているというのが、コムデの姿なのかなと思っています。だからあまり役割を決め込まないほうがいいのでしょうね。
bebe:その通りです。ただ一方で、大きくなっていく会社の中で非定型のあり方を維持しながら、「結果を良くする」という価値観を共有してそれぞれがパフォーマンスを発揮していくには、メンバーとのすり合わせは不可欠です。
創業初期であれば、一緒に仕事に取り組んで同じ体験をして、共感したりわかり合ったりできたことは多いと思います。社員が急激に増えている今、あうんの呼吸では通じないことも増えてきます。人によってどこに価値をおいて、何を大事にしているのか、しっかり対話をしていくことは、私自身の課題として持っているところです。
sekig:これからは、チームづくりをしていくうえで、もっと人材の層を厚くしていかないといけないねという話もよくしていますよね。会社のカルチャーとしてはフラットさを大切にしていて、それは変わらないのですが、人も増えて業務も複雑化する中、よい形でマネジメントしていくことで、もっとチームの力を上げていくことが求められています。
bebe:今は小チームが集まって大きなチームになっています。その小チームごとにもっと機能しないといけないと思いますし、そのためにはチームのパフォーマンスを高める役割を果たしてくれる人がもっと必要だと考えています。
700名を超える企業の中でも、より自分たちが面白がるために
bebe:チームとして層を厚くしていきたいというお話をしましたが、その先には、コミュニケーションデザインによって「体験」を良くする、それが「会社」を良くする、さらに「社会」を良くする、という役割に対して、よりコミットできるようになっていきたいという思いがあります。
sekig:よりコミットする、とは。
bebe:コミュニケーションデザインは、ある程度事業の方向性が決まっていてモノをつくりたいという時点で関わり始めることも多いです。それが妥当なタイミングであれば良いのですが、もっと早い段階から関われたら良かったのに、と思うこともあります。
「(なんでも)企画の初手からデザイナーが関わるべきだ」という考え方にはあまりぴんときていないのですが、プロジェクトや施策の結果がどんな価値を生み出すか、から逆算して、デザインが必要なところから関わりたいという思いはあります。やはり「結果を良くする」ことが私にとっては大事なんですね。
また、SmartHRでは「自律駆動」という考え方を大切にしています。スタートアップとして、すべてを社長が決めるのではスピードが鈍ってしまいますから、「100問の課題を100人で1問ずつ解くこと」を経営方針にしているんです。そのため、全員が経営者と同じ判断ができるように情報もすべてオープンにしています。今でもこの考え方は変わらないのですが、一方で少人数の頃と今では、やり方を変える必要も出てきます。
子どもの草サッカーで、みんながボールのあるところに集まって、自分がシュートを決めることばかり考えてしまう……という話がありますよね。そこからサッカーチームとして成長するには、コミュニケーションをとってお互いを理解して戦略を立てることが必要になってきます。
誰がフォワードを務めて誰がディフェンスをするのか——そういう役割も決めながら動かないといずれ、計画したアウトプットも狙い通りに出せなくなってしまう。そういう意味でも、チームに厚みが必要だと考えています。
sekig:以前、bebeさんが別の機会にプレゼンテーションで「かっこいい大企業になりたいんや!!」と言っていたのが印象に残ってるんですよね。これからも事業がどんどんスケールしていく中で、どんな思いでそう言ったのでしょうか。
bebe:新しく掲げたコーポレートミッションでは、“well-working”をキャッチフレーズに「労働にまつわる社会課題をなくす」という大きなテーマを掲げています。掲げているものが大きいので、少人数ではどうやっても無理なんですよね。みんなでやっていくしかない。
「早く行きたければ一人で行け、遠くまで行きたければみんなで行け」ということわざがありますが、私はみんなで行く派で。大企業というと、組織が硬直化して、今までのSmartHRらしさ、スタートアップマインドが失われてしまうようなイメージがあるかもしれません。でもそれは、「労働=いやなもの」というのと同じで、単なる固定観念です。本来は大企業といっても、規模感の話でしかないですよね。
人が集まれば認識も価値観も異なりますし、今までとまったく同じように楽しいだけではいられなくなるかもしれません。それでも自分たちがより面白がれる、やりがいを感じられる企業にしていきたいと考えています。
sekig:コムデとしても、今や700名を超えた組織の中で、コミュニケーションデザインの考え方が社内で一律に理解浸透していかない可能性も課題としてはあります。
bebe:わかりやすさという面では、デザイナーが何をする存在なのか、ある程度決め込むことも大切というのは認識しています。ただ、ひとたび決めてしまうと、みんながどんどん細かく決めていきたくなってしまいそうな懸念もあって。
そうなるとデザイナーが垣根なくあらゆるタッチポイントに関わることができなくなり、反対に本質的にデザイナーが不要なところでもデザイナーが手を動かさなければならない場面が出てくる……そういう空気が醸成されるのは本意ではないんですね。
sekig:bebeさんが持ち続けてきた「結果が良くなる」という物差しでジャッジできる状態を、いかに維持できるかどうかが鍵になってきますね。肩書きや制度が足枷になっては、コムデの良さが失われてしまう。
その点でも、今後力強いメンバーに入ってもらいたいですよね。既存のフレームワークに当てはめて考えるのではなく、僕たちにとって本当に必要な制度、基準をゼロから一緒にビルドアップしていってくれる人。「普通はアートディレクターってこういうものだから」ではなくて、僕たちにとって必要なアートディレクターとはどういう存在か、というところから決めるくらいの感覚で一緒にやってくれる人がいいんじゃないのかなと。
bebe:そうですね。SmartHRがさらに成長しても、きちんと「結果を良くする」ことにこだわっていけるように、全社を巻き込んでコミュニケーションデザインに一緒に取り組んでくれる仲間を切に求めています!
文:伊藤宏子
撮影:猪飼ひより(amana)