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過去の評価引きずらない 成長する会社を見分ける条件

みんな横並びで評価されることと、やった人をちゃんと高く評価すること。どちらが社会人として働きやすい仕組みでしょう。そしてどちらの方が、出世しやすく成長しやすい基準でしょうか。会社の現場を統計的に見ていくと、意外な事実が見えてきます。

90%が標準評価だった成果主義人事前の日本企業

前回記事「9割B評価、基準あいまいでもOK 人事評価の不思議」で書いたように、社会人の評価は努力だけで決まるものではありません。そしてその時、その年度だけに影響するものでもありません。意外なほどにずっと後を引きずるものです。

人事の仕組みでいえば、かつて3年程度は必ず影響がありました。出世させるための判断基準として、3年前までの評価結果が活用されていたからです。その影響として典型だったのは、出産で会社を休んだ女性の出世が遅れることでした。

また、馬の合わない上司の下についた影響も大きかったのです。

「俺のことを尊敬しないような部下は、出世しないように最低の評価をつけてやる」

そんな考えの上司にあたってしまったら、仮に異動で逃げることができたとしても、数年は出世できなくなってしまったものです。

また、そうして異動したあとでも、評判がついてまわります。

「あいつは前の支社で使えないと評判だったらしい」

20代の頃のミスをそれから10年以上たってから蒸し返されたりすることもありました。ずるい考えをする人の中には、課長になるための出世競争、そしてその後の次長や部長になるための競争に勝ち抜くために、同僚の悪い評判をあえて流す人もいました。また、そんな噂話の方を好んで聞く幹部も多かったのです。

それでも実際の人事評価では、驚くほど差がついていませんでした。休職した際や、上司にとことん嫌われた際にマイナスの評価がつきましたが、それ以外にはほぼ標準となるB評価ばかりでした。その比率はおよそ90%以上です。

たとえばこれはとある上場大企業の1995年当時の実際の評価分布です。

標準となるBとその上のB+評価にほぼ90%前後の人たちが集中しています。

また、この評価分布で興味深いのは、職能等級が高くなるほど、すなわち偉くなるほど高い評価の人の割合が増えている点です。

過去に評価が高かった人が出世し、そのまま高い評価を得続けているのは当時の常識でもありました。けれども実感としては少しおかしいな、と思われる点もあったのですが。

世界でも稀有な仕組みがうまく機能した理由

ほぼ中心に評価が偏っているということは、言い換えるなら「やってもやらなくても評価は変わらない」ということです。よほど優秀だと認められるようなとびぬけた人が高い評価を得て、とんでもないミスをした人や上司にとことん嫌われている人だけが低い評価を得るだけで、そのほかは無難な評価に落ち着いていました。

けれどもそうすることが組織をうまく機能させていたのです。

そこには、新卒採用から定年退職まで流れる川のようなキャリアの中で、ほとんどの人が大過なくすごすための循環の構造がありました。

多少のミスをしたとしても強い叱責は受けない。ただし少しだけしんどい仕事にまわされるかもしれません。けれどもそこでみそぎを終えたらまた普通のキャリアに戻ります。

成功も同様です。称賛されはしますが、評価に大きなプラスにはなりません。そうすることで、同僚や上司からの妬みや嫉妬をさけるような構造がありました。

飛びぬけた一部の人だけが高い評価を得ていきますが「あいつは俺たちとは違うよ」という憧れにも似た気持ちがマイナスの感情をおさえていたのです。

誰もがそこそこ成功してゆく人事の仕組みは、誰も中途でやめないし、中途で採用される人もいない不思議なキャリアの流れがあったからこそ機能していました。

新卒一括採用、終身雇用、定年退職。

それらが90%のB評価をうまく機能させていた理由でした。

できる人を高く評価することがもたらした組織不和

2020年になる今年においても、新卒一括採用、終身雇用、定年退職、という条件がそろった会社はたくさんあります。

だから、もしあなたの会社がそれらの条件を満たしているのなら、できる人を高く評価し、そうでない人をそれなりの評価にする人事の仕組みは、社内に大きな波風をたててしまうでしょう。結果として差が目立つようになる評価は、これまでの常識をゆるがし、組織風土の破壊をもたらすかもしれません。

なぜなら、一度ついた高い評価や低い評価は、周囲の人の心に大きな影響を与えてしまうからです。良くも悪くも循環し続ける組織の中で、10%を超えて高すぎたり低すぎたりする評価がつくと、組織の中で「普通」であることが薄れてゆきます。

仮に5%が良い評価、5%が悪い評価だとすると、20人の集団に、良い評価と悪い評価が1人ずついる状態が形成されています。それ以外の18人は普通の評価同士なので、良い評価の1人と悪い評価の1人については異端として認めることができます。

けれども仮に20%が良い評価、20%が悪い評価、普通の評価が残る60%だとしましょう。すると同じ20人の集団のうち、4人が良い評価、4人が悪い評価になります。そして12人が普通の評価なのですが、単純化すると、1人が良い評価、1人が悪い評価、3人が普通の評価になってしまいます。このような状態だと、良い評価の人も悪い評価の人も異端とは言えません。むしろ1人の良い評価に対して3人が劣り、誰しもが悪い評価になることを恐れる組織になってしまいます。

実際に多くの伝統的日本企業で成果主義人事が導入されたものの、導入した当初は組織不和を引き起こした理由がそこにあります。そこであえて90%B評価に戻した企業もたくさんありました。

けれども、別の視点で組織を変革し、成長を実現した企業はそれよりもたくさんあったのです。

横並びでない評価が機能する組織の条件

そもそも横並びの評価ばかりだと、組織に属する一定割合の人たちがほぼ確実にフリーライダーになってしまいます。やってもやらなくても同じなら、やらない方を選んでしまう人たちは必ず生まれます。

組織全員が緊張感をもって活躍するためには、優れた行動や結果を高く評価することは有効です。しかしそれだとチームワークが阻害される場合がある。組織不和が生じてしまう可能性が高まるわけです。

このような課題を超えて成長を実現した企業の特徴は、組織に早い新陳代謝が存在していたことでした。

いえ、より正確に言えば、新陳代謝を選ばざるを得なかった企業で、優れた行動や結果を高く評価する仕組みが機能したのです。

組織の新陳代謝とは、定年を待たずに人がやめ、新卒でない形で人が採用される状態のことを指します。つまり、人が辞めてしまう組織において、横並びでない評価が機能したということですが、その理由はなんでしょう。

それは、悪い評価を受けた人が、ごくあたりまえに転職を選ぶようになったことです。そして、空いたポストに外部から人を入れるようになりました。

このことは、辞める人にとっても、途中から入ってくる人にとっても、良い影響を及ぼすようになりました。

前回記したように、社会人にとっての評価は決して努力だけで決まるものではありません。たまたま低い評価を得てしまう可能性は誰にでもあるのです。どんな優秀な人でも、たまたま低い評価になる可能性があります。

しかし、定年まで終身雇用されることが当たり前の会社で低い評価を得てしまうと、そこで貼られるレッテルを払しょくすることはとても難しくなります。このレッテルをはがすためには、どうしても新しい組織に行くしかありません。そのためのわかりやすいきっかけが転職であり、転職後の再出発です。

それはあたかも、中学校や高校を卒業して、次の学校でデビューすることに似ているかもしれません。

一度ついたレッテルをはがすきっかけを作ること。いつまでも過去の評価をひきずらない社風を作ること。それができた会社は、横並びから脱却して、強い組織として再出発するようになりました。

卒業とデビューがある組織は、健全な成長を肯定します。

転職という形でなくとも、たとえば異動により卒業に近い形式をとることはできます。

仮に失敗したとしても、評判を含めてやり直しができる状態を作り出すことで、組織は活性化します。

あなたの会社では、失敗した人がやり直す仕掛けがあるでしょうか? もしそうなら、優れた行動をとったり結果を出したりした人に対して高い評価を与える仕組みがうまく機能する可能性が高まります。

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