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【対談】リスクマネジメントがスタートアップ企業の成長を加速 三井住友海上火災保険×for Startupsの挑戦
保険を通じて、企業の成長を後押しすることを目指す三井住友海上火災保険株式会社(以下、三井住友海上)。スタートアップ企業との接点を求めて試行錯誤するなかでフォースタートアップスと出会い、連携が始まった。今やその取り組みは、保険の開発に留まらず、ファイナンスや顧客紹介へと拡大。大企業らしくないスピーディーな動きを見せる三井住友海上に、取り組みの全容を聞いた。
三井住友海上火災保険株式会社
東京本部 次長(首都戦略担当)
藤田健司 氏
東京本部 主任(首都戦略担当)
柴田悠未 氏
フォースタートアップス株式会社
アクセラレーション本部 オープンイノベーション戦略グループ GM
中村 優太
保険が顧客獲得の手段に!「攻めの保険」をスタートアップ企業に広める
両社の提携の概要について、目的や内容などを教えてください。
中村:私たちは、スタートアップ企業の重要な課題である人材の支援からスタートした会社です。ただし、スタートアップ企業の課題は様々。採用、広報、ブランディング、顧客獲得、資金調達など取り組むべき課題は山のようにあります。そのニーズにお応えするために、今年の7月に弊社はアクセラレーション本部という組織を立ち上げました。私はその中でも、大企業とのマッチングを通してスタートアップ企業の成長を加速させる役割を担っています。その支援に取り組む中で、三井住友海上のお二人に出会いました。話をして驚いたのが、保険やリスクマネジメントを顧客獲得の手段として使うということ。その発想はまったくなかったので、これはもっと世の中に広めるべきだと思いました。
藤田:我々のチームのミッションは、保険を通じて成長産業を支援すること。シード期の企業であっても最低限のリスクカバーは必要です。そして、グロース期には、さらなる成長のために保険を活用するというフェーズに入ります。そこでスタートアップ企業と我々が一緒にオーダーメイドの保険を作っていきます。
保険を顧客獲得の手段に使うとは、どのようなことでしょうか。
藤田:新たなプロジェクトやサービスを初めて見た際に、消費者がリスクや不安を感じることで購入へのハードルが上がってしまうことが多々あります。その際、保険をあらかじめ付帯して提供することで購入のハードルを下げ、マーケット拡大の速度を加速させるというものです。例えば、当社の代表的な例でドローンの拡販に保険を活用した例があります。
中村:保険は、「会社を守るため」というイメージが強いですが、三井住友海上が提案してくれる保険は「攻めの保険」として使えるところが、スタートアップ企業と相性がいいと思いました。何しろスタートアップ企業は存在自体がリスクの塊。私たちも、大企業と話すときは、「そもそもフォースタートアップスとは何者なの?」というところから始まります。スタートアップ企業なら、どこも同じような状況でしょう。でも、保険を付けることで「知らない会社だけど、サービスは、保険が付いているから安心して使える」と、信頼を補填できる。お墨付きを与えることになるのです。話を聞いて「これはいい」と思いました。
柴田:ドローン以外でも様々な領域で展開したいと考えていたのですが、我々もスタートアップ企業との強固なネットワークを有していた訳ではありません。スタートアップ企業との接点を求めて試行錯誤している時に、『STARTUP DB』※のニュースリリースでフォースタートアップス社を知り、コンタクトを取らせていただいたのですが、お話ししてみるとフォースタートアップス社は数々のスタートアップ企業にキーマンを紹介しておられて、ベンチャーキャピタル(VC)を含む多くの識者からの情報も集約されている。これは、絶対に組まなくてはいけないと思いました。
中村:はい。私たちも、話を聞いてビビッと来るものがありました。御社にはぜひ、有望なスタートアップ企業とご一緒してほしい。その出会いを創出するのが、弊社の役割だと思いました。私たちは、スタートアップ企業に向いてくれる人を、きちんと成功に導く必要があります。現在は第四次ベンチャーブームとも言われていますが、その市場を支え始めているのはCVCをはじめとした大企業の支援です。一方で、第四次というだけあって、過去三度そのブームは過ぎ去っているのも事実であり、今回の第四次のブームをカルチャーとして定着させていくためにも、その中心となり始めている大企業にはしっかりと成果を残していただかないとなりません。
※フォースタートアップスが展開する成長産業領域に特化した情報プラットフォーム
リスクの塊のようなプロダクトに保険を組成。保険から始まり出資にも発展
実際に、どのような提携事例がありますか。
中村:提携して1年半余りですが、どれくらい、保険を作っていただきましたか。
柴田:完成したものだと12社です。
中村:その中でも次世代型モビリティの開発に取り組むスタートアップ企業の事例は素敵です。今の世の中にはない乗り物なので、保険を開発するにしてもリスクが計算できない。そのため、リスク計算をすることから始めて保険開発をしていく必要があります。普通であれば、成長するかが定かでないスタートアップ企業もしくはプロダクトに対して新たに保険を開発するコストはかけられません。そこを一歩踏み込んでいただいて、三井住友海上には開発いただいています。
藤田:実証実験からご一緒させていただいて将来量産体制に入ったときに、専用の保険が作れるのではないかと考えています。これは早い段階からご一緒しているからできることで、紹介していただいてよかったと思いますし、これがご縁で当社CVCからも出資させていただくこととなりました。
中村:結果的には出資先のソーシングにもなっていますね。
元々、保険以外の展開も想定していたのですか。
藤田:我々の活動の8割は保険を通じたスタートアップ企業支援で、残り2割は本業の支援と資金調達のサポートなのでニーズがあればご紹介する準備は整っているんです。具体的には本業の支援は当社とのオープンイノベーションと当社の既存契約者とのマッチング。資金調達サポートの主たるものはCVCとの連携になります。
中村:これも実は大変素晴らしいことです。大企業が「ウチにはリソースがあるから何でもできますよ」と言いながら、実体としては、部署の枠を超えて本気で動ける担当者はそう多くはないため、顧客紹介や資金支援、事業連携といったところまで届かないことはよくあります。誤解を覚悟で言うとすれば、我々にとって大事なことは、大企業に向き合いながらもスタートアップ企業と組める方々なのかという大企業を見極めることなのです。スタートアップ企業と連携したいと言っている大企業が増えてきていることはありがたい一方で、スタートアップ企業としてはどの企業と関係を深めるべきかの複雑性は増しています。大きな戦略レベルでの絵は当然必要ですが、なかなか見えづらい担当者レベルでの本気度は把握しづらい性質もあるので、フォースタートアップスが担保したいと思っています。
柴田:実際、ご紹介していただいたスタートアップ企業のサービスを当社で検討する例も進んでいます。GovTechのサービス内容を知り、ちょうど当社でも行政関係手続の効率化を検討していたことから、現在、導入を視野に実証実験を進めているところです。
中村:これは本当にすごい話です。保険の話から始まって、それも進めつつ、スタートアップ企業側には、非常にインパクトのある大口顧客となる可能性も出てきたのですから。
月50社のスタートアップ企業と会話。「リスクマネジメントなら三井住友海上」を目指す
中村:今の話も、CVCの出資の話も、御社は非常に柔軟で、いいと思ったものはすぐに取り入れる。なかなかそこに苦戦している大企業も多い中で、なぜ御社はそれができるのでしょう。
柴田:「まず、やってみよう」という雰囲気があってトライアンドエラーにも寛容ですね。
柴田:有望なスタートアップ企業を紹介してくださるのでフォースタートアップス社のクオリティーが認知されてきており「フォースタートアップス社の紹介ね。まずやってみようか」という反応になりつつあります。
中村:私たちの紹介やほかのルートも含めて、毎月どれくらいのスタートアップ企業と会話をしていますか。
柴田:平均すると月に50社くらいでしょうか。
中村:それは素晴らしいですね!このような方々だからスタートアップ企業側も信頼してお話できるし、私たちも自信を持って紹介できます。スタートアップ企業側に立つと、保険を入口に、さらにその奥まで発展していく可能性を考えたとき、一緒に走っていくべきはどの会社、いや、「誰」なのかは非常に重要です。御社と引き合わせることは、本当にいい出会いの創出になっていると思います。あと、御社は自然とやられていてすごいなと思うのは、基本打ち合わせはスタートアップ企業側のオフィスに行きますよね。
藤田:基本、行きますね。どんなオフィスなのか、どのような空気感なのかを感じたいからです。
中村:他の大企業では、当然のように「来てください」という会社も多いです。もちろん、関係部署が多く調整人数が増えたりすると、現実的には大企業側のオフィスで調整した方が効率良く設定できる可能性も高いです。一方で、オフィスやメンバーの雰囲気、スピード感などは、やはりスタートアップ企業側のオフィスで感じないとわかりません。
これはどっちのオフィスで打ち合わせをすると言うような小さな話ではなく、実はスタートアップ企業連携における姿勢の問題なんですね。多くの大企業側が採用するオープンイノベーションの取り組みは、ベンチャー企業に「応募してください」と呼びかけるもの。応募待っていればいいので楽ですよね。結果100社応募ありましたっとなると頑張った感もでる。しかし、待ちの姿勢では、なかなか新しい取り組みは生まれないことは多くの人が気付き始めています。そのあたりを、御社はすでに感覚としてわかっている。
逆にこれは私たちの課題で、待ちのスタンスを、いかに自分から探しに行くスタンスに変えられるか。これが、私たちのやるべきことだと思います。スタートアップ企業といっても、1万社もあるわけです。本当にいいスタートアップ企業と何かを成し遂げるには、待ちの姿勢ではなく、自ら出ていく必要があると、働きかけていかないといけませんね。
柴田:私たちは保険のことはプロフェッショナルですが、それ以外の部分はスタートアップ企業の皆さんに教えていただくというスタンスです。教えてもらいながらパートナーとして一緒にいいものを作りたいと考えています。その上で、スタートアップ企業の皆さんに「リスクマネジメントなら三井住友海上だよね」と言ってもらえるような地位を早く確立したいと思っています。スタートアップ企業の横のつながりのなかで最初に名前が出る存在を目指しています。
実際に取り組みをスタートして、どのような感触を持っていますか。
藤田:一言でスタートアップ企業と言っても、手がけるビジネスは様々で、成長のフェーズによってもリスクのあり方は変わります。ただ、フェーズごとに同じようなリスクを抱えていることもわかってきましたのでビジネスの種類やフェーズに合わせて今後保険メニューを展開できればいいなと思っています。
中村:リスクマネジメントや保険の話をしてスタートアップ企業の反応はどうですか。
藤田:殆どの皆さまから「そんな保険があったんですね!すごい」と喜んでもらえることは嬉しいのですが、一方で告知不足、認知不足をいつも反省しています。
保険の力でスタートアップ企業の裾野を広げ日本経済を発展させる
――取り組みを通じて、社会に対してどのような役割を果たしたいとお考えですか。
藤田:国内スタートアップ企業への投資額は増えていますが、アメリカや中国と比べると規模がまったく違います。適確なリスクマネジメントによりスタートアップ企業が健全な成長を遂げ、多くのスタートアップ企業が次のフェーズに進むことができるようサポートしていきたいですね。
保険にこのような力があるとは意外でした。フォースタートアップスの展望はいかがですか。
中村:我々はスタートアップ企業が成長するためにどうあるべきかを日々考えています。その中で一つ重要な論点は、スタートアップ企業だけで成長する世界はないのではないかということ。昨今のニュースでも、大手同士の提携によってスタートアップ企業の競争環境が厳しくなることはよくあります。
アジアでは、いろいろなスタートアップ企業がユニコーンになっていますが、それは、アジアには日本ほど大企業がないという事情も大きいです。日本には既に強い大企業が多くあり、スタートアップ企業が成長するスペースがそもそも他アジアに比べて多くないと言われます。となると戦い方は一つ。スタートアップ企業は既存の大企業をどう活用して大きくなっていくかと、少し視点をずらす必要があります。ポイントは、そこでどの会社と組むか。大企業がオープンイノベーションの取り組みを進めているように、スタートアップ企業側からも、もっと仕掛けていかないと未来はありません。
フォースタートアップスも、スタートアップ企業の成長のために大手とどう連携するかに着目しています。今回、三井住友海上さんと素晴らしい成功事例を生み出すことができました。向こう数年の間に、さらに大きな成果が出ると期待しています。このような長く一緒にできる感覚を持った方々と手を組んで、スタートアップ企業の成長に貢献していきたいです。
かけがえのないパートナーとしてこれからも伴走
出会いから今まで、お互いにやりたかったことはかなり順調に進んでいるようですね。
柴田:はい、お陰様で。取り組みはすぐに成果が出るものと、先ほどの次世代型モビリティの保険のように開発中のものも多くあります。今後1~2年で、もっと大きな成果がたくさん出てくると思います。
中村:この発信をきっかけに、多くの人に「なるほど、保険にそのような使い方があるのか」と知ってほしいです。「保険の営業が来た!」とマイナスに捉えるのではなく、自分たちの事業を伸ばすために保険を活用する、という事例が、もっと増えていくといいですね。
中村:今、実際にいくつかスタートアップ企業を紹介するなかで、保険と相性の良いビジネスと、それほどではないビジネスがあることがわかってきました。ドローンや次世代型モビリティのようなリスクを伴うプロダクトや、あるいはソフトウェアも個人情報が絡むので、リスクマネジメントが必要です。事例を積み重ねることで、「この領域は相性が良さそうだ」という知見やノウハウがたまってきています。また、今の時点で相性が良くないものも、今後はどうなるかはわかりません。
三井住友海上さんと当社の取り組みは、大枠の座組み、方向性は正しいので、今後は相性の良し悪しなど細かいところで、少しずつチューニングをしながら進んでいくのではないかと思います。
藤田:おっしゃる通りです。本当に、我々が何をやりたいかを瞬時に理解してくれるパートナーだと思います。
柴田:1を話して10を理解してもらえる感覚がありますね。非常にいいパートナーと出会うことができました。これからもよろしくお願いします。
中村:こちらこそ、よろしくお願いします。
──お忙しい中インタビューにご協力頂きまして、ありがとうございました!