アソビューでは2012年以降、多くのシステムをリリースしてきました。そのいくつかは今でも事業を支える重要な柱に育っています。今回は、創業間もないアソビューにジョインし、システム開発を一手に担ってきた取締役CTO・江部隼矢が、そのキャリアに加え、グローバル展開を見据えるアソビューの展望を語ります。
中学の同級生に誘われ、開発を手伝い始めた
江部「人と同じような進路を選ぶよりは、違うことをしたかったので、そんなに深く考えず『はい、留学します』みたいな感じでした(笑)」
そう語るのは、アソビュー取締役CTO・江部隼矢です。高校2年のとき、親や学校の勧めでオーストラリアに交換留学。その経験を土台にして、高校卒業後はオーストラリアの大学に進学しました。
江部「交換留学で行ったときにすごくいい経験ができました。英語力のベースができたことはもちろん、今まで自分が生きてきた世界とはまったく違うカルチャーに触れたり、友だちができたり。そんな環境にもう少しいたいと思い、帰国したときに親に『大学も向こうに行きたい』と話をしました。1年目の学費を自分で出すため、入学までの10ヶ月ほどは英語学校に通いながら日本でアルバイトバイトをして資金を貯めました」
ほぼ開発職一筋のキャリアを歩んでいる江部がエンジニアを目指し始めたのは、意外にも大学入学後。オーストラリアの地でソフトウェアエンジニアリングに関心を持ち、ビジネス系学部から転向したのです。
大学卒業後は、日本のITコンサルティング企業に就職。開発業務を中心に大型クライアントのプロジェクトを担当していました。
入社して数年、手がけていたプロジェクトが一段落した頃、転機が訪れます。中学の同級生だったアソビュー(当時の社名はカタリズム)CEOの山野智久と再会したのです。
江部「Facebookでメッセージが来ました。久しぶりに会うことになり、新橋の激安居酒屋で飲みながら、山野が『Webサービスをやりたいんだ』と話していたことを覚えています。僕自身、クライアントのプロジェクトというより、自分でサービスを立ち上げてみたいなと考えていた時期だったので『それなら』と、昔のよしみで手伝い始めたのがきっかけです」
2012年の1月1日に初めてサービスをリリース(現在はクローズ)。大晦日返上の開発となりましたが、「自分でサービスをつくって動かしてみたい」と考えていた江部にとっては楽しい時間だったと振り返ります。
江部「家族で静岡の祖父の家に帰省していたのに、なぜか近くの漫喫でPCをカタカタ叩いていました(笑)。でも、その時は楽しくやろうとしか思っていなくて。僕自身は『どんなサービスをやるか』を考えることはそんなに得意ではありませんが、山野はそれが得意。一方で、『どうつくるか』については僕の方が経験がありました。お互いの得意領域がうまくハマったのだと思います」
システムを全面リニューアルへ。目指すは“レジャー業界のShopify”
江部がアソビューに本格的に参画したのは2012年4月。当時から取締役CTOの役割を担っていましたが、「この10年間で一番生産性が高かったと思うくらい、毎日コードを書きまくっていた」と語るほど、実務上はほぼエンジニアとして開発をする毎日でした。
その年の江部の誕生日(6月30日)に、アソビューのファーストバージョンをリリース。しかし、すぐにトラブルに見舞われます。
江部「『よっしゃ、リリースした!』と、徹夜明けの朝にみんなで築地の寿司ざんまいで打ち上げをしていました。そこでリリースしたてのプロダクトを見ている途中、急に動かなくなったんです。そのままオフィスに戻りました。まだ28歳だったので、エネルギーがありましたね。山野は『ごめん俺無理だ』って帰っていきましたけど(笑)」
その後、少しずつエンジニア採用を進め、チームとしての開発体制を整備。江部の役割も、その時の会社のフェーズとともに変遷し、2018年にはCTOからCPO(Chief Product Officer)の任に就くことになりました。
江部「プロダクトへの責任を持つCPOは、『どうつくるか』というより『何をつくるか』にフォーカスできる役割で、自分自身として新鮮味がありました。アソビューにジョインして6年ほど開発に注力していたので、新しい目標設定ができるタイミングだなと、すごくポジティブでしたね。その後アライアンスの事業責任者にもなりました。僕はもともと海外志向があったので、海外とのアライアンスに意識を向けられたこともよかったです」
現在は再び取締役CTOとして、開発面における中長期の事業計画の策定や予算管理をはじめ、エンジニアの採用活動や人事施策などを実行。特に今は、全社で重視している「刷新プロジェクト」のリーダーとして陣頭指揮に尽力しています。
「刷新プロジェクト」とは、アソビューのシステムを全面的にリニューアルしていく、長期的なプロジェクト。アソビューが展開するシステムは大きく分けると「コンシューマ向けのアクティビティ予約システム」と「大型レジャー施設向けの電子チケット販売システム」の2種類があります。
それぞれ立ち上げ時期が違い、歴史や背景も異なり、運用も別々に行っています。しかし、重複した機能も多くあり、一括で運用していった方が効率は高まるのが事実。さらに、システム自体に課題もありました。
江部「サービスが成長していく中で、その都度増築を重ねてきたので、品質に問題も出てきていました。そこで、システム全体を見直し、これから目指す事業の形に合ったものをつくっていくため、2021年7月から刷新プロジェクトが始まりました。年単位で時間をかけて刷新していこうと考えています。目的は、社内の業務効率化だけでなく、今までよりも幅広い商材を扱えるシステムにすること。社内では“レジャー業界のShopify”を目指すと言っています」
「1人よりもみんなで」意思決定におけるこだわり
江部がアソビューにかかわり始めた最初の動機は「自分でサービスを立ち上げてみたい」というものでした。約10年が経過した現在、モチベーションの変化を感じているといいます。
江部「今動いているいろいろなシステムをつくってきたという自負があります。そんな我が子娘のようなシステムを、独り立ちするまで見守りたいと思っています。すでに自分がいなくても回るシステムにはなっていると思いますが、もっと良くしていきたい。なかなか子離れできない親みたいな気持ちですね」
また、マネジメント面でのやりがいも加わっています。江部が心がけているのは、「自律的に考えられる機会をつくる」こと。
江部「昔は結構僕が決めて指示してしまっていました。でもそれによってメンバーのモチベーションがそがれるようなシーンを多く見てきて。意思決定のシーンにメンバーが参加している状態をつくることは非常に重要だと感じます。結果的に自分の意見が反映されなかったとしても、『意思表明ができる環境がある』ということが、納得感を持って仕事にあたることにつながると思います」
「実際に僕1人で考えるよりも、みんなで話した方が良い結果になることが多い」とも語る江部。組織の規模が大きくなればなるほど、トップの位置から見えるものはほんの一部になります。現場に対する解像度の高いメンバーが意思決定に関与することで、ものづくりの精度は高まっていくのです。
江部はアソビューの開発環境の強みについて、「自分がこれだと信じたことをやれる楽しさ」を挙げます。
江部「誰かにこうしろと言われるのではなく、あくまでも自分で考えて意思決定をしていく。この環境は他にはないと思います。システム障害など、逃げ出したくなることもありますが、そこも含めていい修行ですね。メンバーにも自分で考えられる人が揃っていて、僕が細かいことを言わなくても、議論して形にしていく動きが垣間見えるようになってきて嬉しく思っています」
また、CTOとして開発面で引っ張っていく上では、事業をドライブさせる「攻め」とともに、「守り」の意識も忘れてはなりません。江部は、CIO(Chief Information Officer)の田中博規とも日々話し合い、組織やマネジメント体制について方向性をすり合わせています。
24時間、地球のどこかでアソビューのシステム開発が行われている状態をつくる
江部は現在、MBAを取得するために大学院にも通っています。その背景には、「ビジネスに対する解像度を上げる」という目的に加え、「これまでの振り返りをしたい」という思いがあります。
江部「今までの意思決定の精度はどうだったのか、この先何か物事を決めていくときに、どういう情報が必要で、どういうプロセスで決めていくべきなのか。それを体系立てて勉強したいと思っています」
オーストラリアへの留学など、海外志向が強い江部は、今後実現していきたいこととして、アソビューのグローバル展開を考えています。
江部「コンシューマ向け、レジャー施設向けの両方で、まずは国内で圧倒的なポジションを確立します。その上で、日本という枠を飛び越えてサービス展開していきたいです。そのときには、サービスユーザーはもちろん世界中にいる状態になって、地域に応じて異なる要件やプロダクトが求められてくるでしょう。
そうしたローカライズが必要になってきたら、おそらくそれをつくる開発メンバーも、多地域化していく必要があります。だからその頃には開発チームも世界中いろいろなところにいて、24時間、地球のどこかでアソビューのシステム開発が行われている。そんな状態を想像するとテンションが上がりますね」
江部が目指すのは、プロダクトドリブンな事業づくりです。現在日本のマーケットでは、真正面からぶつかる競合他社がほぼいないと考えているため、営業によってサービスの導入が進めば会社が成長する構造になっています。ただ、グローバルで見れば強い競合がいるため、その環境でどれだけ優位性をつくれるかが重要です。
江部「グローバルでの競争優位をつくるためには、プロダクトの強化、開発組織の強化が不可欠です。もちろんそれ以外にも要素はありますが、プロダクトがあることによって、必然的に顧客から選んでもらえるくらい、強く質も高いプロダクトをつくっていきたいと思います」
強いプロダクトと強い開発組織をつくり、サービスをグローバルに展開する。その大きな夢に向かうべく、江部は足元の「刷新プロジェクト」やマネジメント、自己研鑽に力を尽くしています。