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CEOの平良 真人と共に、THECOOの共同創業者として名を連ねる下川 弘樹。平良が起業家タイプである一方、下川はアイデアの実現方法を考え、仕組みの整備を得意とする実務家タイプ。流れに身を任せて天職と出会ったかと思えば、義理と恩を軸に大きな決断を下した事も。そのキャリアと半生について語ります。
花は、いまだ咲かず。インターネットにどっぷり浸かった大学時代
▲2003年、自分探し中の学生時代。イスタンブールのスレイマンモスクにて。昔から宗教史に興味があり、神社仏閣を訪れるのが好き
読書好きの両親の影響を受け、本を読むのが好きな子どもだった下川。外で遊ぶことも同じくらい好きで、友達を集めて鬼ごっこや秘密基地作りの遊びにも夢中だったといいます。
中学からは親元を離れ、全寮制の男子校へ。そして、中学・高校の6年間、サッカー部での活動に打ち込みながら、同年代の学生と共同生活を送りました。
下川 「寮にはテレビもなく、お菓子やゲームが禁止。当時はインターネットもありません。やることがないので、寮生と机を並べて勉強したり本をたくさん読んだりしていました。真面目に語り合うことも多くて、観た映画や読んだ本の話、将来の夢について熱く語っていました。中高時代の友達とは今も仲が良いですね」
高校時代の下川の夢は、マスコミ関係の仕事に就くこと。当時好んで観ていた、硬派なドキュメンタリー番組の影響を受けたと話します。
そして、1年間の浪人生活を経て「文系でいちばん潰しのきく学部に行こう」と法学部に進学しました。
下川 「決して優等生とはいえず、怠惰な大学生活を過ごしてしまいました。何をしていたかといえば、映画とインターネット三昧。映画館に足しげく通い、PCでWebページを作ったりブログを書いたりしていました」
下川が大学生だった2000年頃は、ちょうどインターネットが一般家庭に広く普及し始めた時期。インターネットのおもしろさに魅了され、どっぷりと浸かるうちに学業が疎かになってしまったといいます。
下川 「4年できちんと卒業して就職することを斜に構えて見るような、尖った大学生だったというわけでもないんです(笑)。正直なところ、同級生がすんなり卒業して、一流企業に就職していく姿を見て焦っていました。目の前の好きなことに夢中になりつつも、『自分は将来何がしたいんだろう』と悶々と悩んでいた時間も多かった気がします」
中小企業やスタートアップをサポートしたい。Googleでの恩人と起業へ
▲2011年Google時代。尊敬できる上司・同僚に恵まれ、多くを学ぶ
大学卒業後、下川はNTT東日本に入社します。興味のあったマスコミ業界とは縁がなく、「他に自分が夢中になれることは何だろう」と考えたとき、真っ先に浮かんだものがインターネットでした。
下川 「家に高速大容量回線のサービスを初めて引いたときには、『これで1日中インターネットをつけっ放しにしていいんだ!』とすごく興奮したのを覚えています。インターネットに触れたことで価値観やライフスタイルが大きく変わったこともあって、インターネット関連の仕事に自然と関心が向かいました」
入社後、社内ベンチャーのような部署に配属され、金融機関向けに今でいうSaaSサービスの企画・提案などに関わることに。伝統的な大企業であったものの、他部署と比べて自由度の高い部署でキャリアを積んだといいます。
その後、次のステップとして、下川はGoogleを転職先に選びます。
下川 「NTTでは尊敬できる先輩や仲間に恵まれ、Webのビジネスに携わることができて、仕事は充実していました。しかしNTTの本業はインフラサービスの提供なので、いつかは本流のビジネスを手がける部署に戻らなければなりませんでした。
ある時、私がやりたいのはインターネットのインフラを整えることではなく、その上にのっかるコンテンツやサービスに関わるビジネスだと気が付きました。
当時、NTTが大量のヒト・カネ・時間をかけて、いわばインターネットの“道路”を整備し、その上をYahoo!やGoogleといったプレーヤーたちがハーレーやフェラーリのように高速で駆け抜けていく……。そんなふうに見えたんです。自分も早くあちら側に行きたい——そう思って転職を決めました」
Googleでは、インターネット広告に携わる部門に配属。もともと広告に対して特別に関心が強かったわけではありませんでしたが、次第にインターネット広告に魅了され、“天職”だと思うように。
また、後にTHECOOを共に創業することになる平良と出会ったのもGoogleでした。
下川 「海外の企業ではよくあることですが、突然の体制変更で所属チームがなくなってしまったんです。別の部署に異動させられたものの、どうにも仕事にやりがいが感じられず、退職を考えるようになりました。
そんなとき、『うちのチームに来なよ』と誘ってくれたのが平良で、2年ほど一緒に仕事をしました。その頃から『拾ってくれた平良にいつか恩返ししたい』という気持ちをずっと持ち続けていたんです。それで、後に平良が転職を考えていると聞いたときに、『一緒に起業しませんか』と声をかけました」
Googleでの仕事内容や企業風土に不満はなく、むしろ、Google以上の職場で働くことを想像できなかったという下川。起業という道を選んだのは、「世話になった平良と新しい道を切り開いていきたい、という想いが勝ったから」と振り返ります。
こうして、下川は平良と共にTHECOOを設立。2014年のことでした。
下川 「平良と私はGoogleで中小企業やスタートアップの広告運用をサポートしていましたが、そういった企業に必ずしも必要十分なサービスを提供できていないことに常にフラストレーションを抱いていました。そこで、意欲ある広告主に伴走してビジネスを伸ばしていくための支援をしよう、という想いで起業を決意しました」
良い意味での場当たりさが、新しいビジネスを創っていく土壌に
▲2017年、法人向けの製品展示会にて。地道な活動で少しずつTHECOOを認識してくれる人も増えてきた
創業期のTHECOOでは、平良と下川の前職での経験を生かし、広告主向けの広告運用代理業やコンサルティング事業を主軸としていました。広告事業は2022年3月現在もTHECOOの柱のひとつとなっていますが、並行して新規ビジネスの開発にも力を入れてきました。
下川 「もともと商社マンだった平良は、新しいビジネスをどんどん立ち上げたいという商人精神を持つタイプ。他方、私はどちらかというと彼の構想を形にする役割を担っています。さまざまなビジネスを試行錯誤してきましたが、うまくいかないもののほうが圧倒的に多かったですね。ただ、その中でインフルエンサーマーケティングの事業には手応えを感じました。
そこで、初の資金調達を行い、インフルエンサーマーケティング事業を軌道にのせようと画策したんです。ただ、一筋縄ではいかず、当初構想していたサービスの開発を断念したことも。それでも、ゲーム実況者特化の事務所『Studio Coup』など、うまく波にのった事業も生まれてきました」
中でも、現在の主幹サービスへと成長したのが、2017年に開発された「Fanicon」です。
下川 「『Fanicon』はタレントやインフルエンサー(=アイコン)と、彼らのファンで形成される会員制のファンコミュニティアプリ。アプリ内でのライブ配信やトークを通して、アイコンとファンが交流を深めることができます。
当時、“新しいサービスを作る”というミッションを背負って、あるメンバーが渡米していました。彼が半年ほどサンフランシスコで過ごし、持ち帰ってきた種から発案して生み出したサービスです」
「Fanicon」が注目を集めて以来、THECOOに集うメンバーがガラリと変わったといいます。
下川 「以前は、たとえばGoogle時代の同僚が『平良さんと一緒に働いたら楽しそう』と、いわばヒト軸で転職を決めてくれるケースが大半でした。ところが、『Fanicon』の知名度が上がるにつれて、『エンタメ関連の仕事がしたい』『Faniconというサービスが好き』といった、モノやコト起点で当社に興味を持ってくれた方がたくさん仲間に加わってくれるようになったんです」
下川はTHECOOを「一見行き当たりばったりにも見えるが、実はとても変化に強い組織」と表現します。もともと、エンタメ関連のサービスを開発し、提供する企業になるとは少しも想像していなかったからです。しかし、そうやって柔軟に発想し、行動できる組織体があるからこそ、「Fanicon」という画期的なサービスを生み出すことができた──そして急激な成長を実現し、2021年12月にはマザーズ上場を果たすことになるのです。
振れ幅の大きさがTHECOOの魅力。今後も果敢に新規事業創出を目指す
▲2018年、某所での講演。創業して早9期目、これまで様々な方々から、仕事のご縁をいただいたことに感謝
今後も、既存事業の成長と新規事業の開発のどちらもに注力する姿勢は変わらないという下川。現在主軸としているエンタメと引き続き向き合いつつも、振れ幅はいつも広く持っていたいと話します。
下川 「当社で『これはやらない』と決めていることはほぼ皆無で、果敢に新しいビジネスにチャレンジするDNAがあります。IPOを経た今は第二創業期のようなフェーズ。極端なことをいうと、明日まったく違う仕事をしていてもおかしくない企業なので、こうした環境を楽しめるメンバーとともに新しいビジネスを創出していきたいですね」
同じ船に乗り、航海を楽しむクルーを見つけるべく、下川は採用にも積極的に参画しています。Google時代に100名以上、THECOOでは200名以上の面接に立ち会ってきた下川ですが、「どれだけ経験を積んでも面接でいつも正しく候補者を評価できるわけではない。常に謙虚に面接に臨みたい」と話します。そんな中、下川が面接で重視しているというのが、候補者の“知的好奇心”です。
下川 「当社は優秀な方をなんとかして振り向かせる側なので、正直、志望動機はなんでもいいと思っていて。心がけているのは、候補者の方が打ち込んできた体験や得た学びを深掘りすること。とくに新卒採用の面接においては、バイトやサークルの話ではなく、あえて研究内容や大学での学問を通じて興味を持ったテーマについての質問を投げかけます。興味を持って学び、その中で得た体験や知識や気づきはその人しか持ちえないものですから。
楽しそうに語ってくれる方や、わかりやすく研究内容を説明してくれる方、たとえ説明は拙くても、パッションが伝わる方と出会うと、『知的好奇心が旺盛で、夢中になったことを最後までやり遂げる力のある方だな』と感じて、一緒に働きたいという気持ちが増しますね」
知的好奇心あふれる新たな仲間を得て、THECOOと下川は今後どこへ向かうのか。第二創業期も「‟できっこない”に挑み続ける」彼らから、目が離せません。