新年あけましておめでとうございます!ランサーズの曽根です。「事業・戦略編」の第3回。少々遅めのスタートにはなりましたが、新年一発目は、昨年末の「新規事業」に続くテーマとして、「予算計画」について書きます。
ランサーズ社内では、「2018年は『飛躍』の1年にしよう!」と声をかけて年明けから動いているのですが、この時期、特に3月期決算の企業にいる方々の中には、予算計画の策定に何かしらの形で携わり始めている、携わっている方も多いのではないでしょうか。
ぼく自身、コンサルタント、大企業、ベンチャー企業のそれぞれの立場において、既存事業から新規事業、単一の事業から全社の複数事業、単年度から中長期のものまで、視点を変えながらこうした事業計画・予算計画づくりに30回以上関わってきました。
今回は、そうした経験をベースとしながら書いておりますので、実際に事業計画や予算計画に携わる方々にとって、少しでも参考になれば幸いです。
新規事業の計画のつくり方―「楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に実行する」
公開されているスタートアップのピッチ(=事業計画)を眺めたり、メディアなどが開催しているピッチ大会で生のピッチを聞いたりするのは楽しいものです。
たとえば以下のリンクには、Airbnbのシード(2009年)、BuzzFeedのシリーズA(2008年)、WeWorkのシリーズD(2014年)、Crewのシード(2012年)とシリーズA(2015年)など、早々たるベンチャーのピッチがリストされています。
https://attach.io/startup-pitch-decks/?ref=producthunt
WeWorkのレイターステージのシリーズD($335M@2014年)も非常によくできていて好きなのですが、この中でも一番わかりやすくてシンプルなのはAirbnbのピッチです。
Y Combinatorが提唱する構成・テンプレートにほぼ沿う形、とてもシンプルに、でも力強く事業計画が語られています。
一方で、大企業の社内におけるピッチというところでいくと、ぼくも楽天に在籍していたころの2011年に、新規事業アイデアコンテストに事業計画を出して、ファイナルラウンドの5分ピッチ(しかも英語で)をしたことがあります。
その時のピッチの構成を振り返ってみると、上記の7つのうち最後のチーム以外のものは大体カバーしている一方で、具体的なアクションプランや、想定される外部環境リスク(法的、経済的、社会的、政治的、技術的)をしっかり入れ込んでいました。
稲盛和夫のフィロソフィーに掲げられている「楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に実行する」ではないですが、こうした新規の事業計画をつくるときは、楽観と悲観、主観と客観を行き来することが大事だと思っています。
たしかに、はじまりは「こうありたい」「こんなサービスをつくりたい」という夢や事業ビジョンを楽観的・主観的に構想することが重要です。
一方で、この構想を計画に落とす段階では、「本当にこれは実現可能なのか」「どんなリスクがあるのか」といったことを悲観的・客観的に考える必要があります。
そしていったん計画をつくりきったら、「必ずできる」という自信をもって、楽観的に実行に移していく。実行できる組織の仕組みをつくりきる。
これから新しい事業計画をつくられるような方には、ぜひこの楽観と悲観、主観と客観の行き来を意識してもらえればと思います。
大企業における予算策定-トップダウンとボトムアップ、経営と現場を橋渡しする
「事業計画」といっても、世の企業において新規事業の比率は1割もいかないでしょうし、ほとんどの方は既存事業の事業計画、いわゆる「予算計画」と向き合うことが多いのではないかと思います。
ぼく自身も、これまでのキャリアの中で、新規事業の計画だけでなく、既存事業、あるいは複数ある既存事業をとりまとめる形で、会社全体としての予算計画を何度もつくる機会にめぐまれてきました。
いわゆる「経営企画」と称される部門における仕事の王道中の王道ですね。
前工程にあたる「経営戦略」は社長を中心とした経営陣、後工程にあたる「事業管理」はオペレーションを回す現場、が担うことが多い中で、この橋渡しをする形となる「経営企画」の役割として、予算計画はとても重要になります。
経験上、(特に大企業における)予算計画の大まかなステップは以下のようになるかと思います。
1. トップダウンで全体の目標を設定する:トップが強い会社においては特に、3年先や5年先まで見据えた中期経営計画からの逆引きで、翌年の予算計画の前提となる全社としての目標値を設定する
2. 各部門責任者に計画のガイドラインを示す:全社的な目標に対して、各セグメントや事業部門、あるいは間接部門に対して、トップライン(売上高)やボトムライン(利益)のガイドラインや期待値を提示する
3. 各部門担当者と計画のつくり込みを行う:提示したガイドラインに対して各部門が実際に作成してきた計画をレビューし、必要に応じて修正を行う
4. 計画をとりまとめてステークホルダーから承認を得る:レビューや修正が終わった各部門の計画をすべてとりまめたうえで、経営会議や取締役会といった決議機関の場でステークホルダーに対して計画の説明を行い、承認を得る
5. 承認された計画を各部門責任者へ説明する:承認を得たあとで、各部門責任者・担当者への説明の場を設定し、計画の詳細について説明を行う
大企業になってくると、この2と3のステップを何回も何ラウンドも繰り返して、4の承認に向けて少しずつ1の目標に近づけていく必要があります。
言うは易し、行うは難しの典型みたいなものですが、それぞれのプロセスには、陥りやすい罠(NOT)とそうならないためのコツ(BUT)があると思っています。
特に、たいていの場合はトップダウンでの高い目標計画は、ボトムアップでの数値の足し算では達成されないので、そのギャップをどう埋めるかが勝負です。
経営陣の意図をくみ取りながら、現場に寄り添う。
数値を細かく見尽くす一方、数値に溺れすぎない。
横並びの公平性を意識しつつ、でもメリハリをつける。
予算策定のプロセスには、関係者や関係部門が多くなればなるほど、矛盾と苦悩に満ち溢れていきます。
どれだけ考え抜いて、深みのある計画がつくれたか。自分ごととして、経営陣にも現場にも説明責任を果たせるか。
予算策定を担当する経営企画のような仕事をされている方には、ぜひこれらのコツを意識しながら、経営と現場のブリッジ=橋渡しを意識されるとよいのではないかと思います。
ベンチャー企業における予算策定―不確実なシナリオに耐えうる感度分析をくり返す
事業の数が数十をこえるくらいあるような大企業の予算策定においては、複数の事業を束ねたわかりやすいセグメントがあり、またコアとなる既存の事業セグメントについては、過去の実績からかなり精度の高い予測ができることが多いと思います。
一方でベンチャー企業においては、多くの場合、外部・市場環境の変化が激しかったり、また新規事業がどんどんたちあがっていたりするので、その分、予算計画の難易度が格段に高まります(もちろん、多くの事業を抱える大企業での予算策定も難しいのですが)。
そこで気にしておきたいのが、シナリオ分析です。
特に、前々回の戦略編で説明したような不確実性の高い(下図の赤で囲った領域)市場環境の場合、これが重要になります。
サービス立ち上げ直後でまだプロダクト・マーケット・フィットしていない場合。
CMのような今までやってこなかったプロモーションを試そうとしている場合。
既存事業に加えて、まさにこれから新規事業を立ちあげようとしている場合。
そういう場合には、事業のキードライバー(と考えている指標)や新サービスのタイミングなどを変数と考え、アグレッシブなプランからコンサバなプランまでモデリングをして、最終的にその中間くらいのプランに予算計画を着地させる。
※テクニカルには、エクセルでシナリオ条件タブをモデリングの結果を示すシートとは別につくり、そこにシナリオごとのキードライバーの数値を一覧で見えるようにしておく
たとえば以下のようなパターンを用意します。
・松プラン=既存事業のドライバーが大きく伸び、新規事業も早期にあたる
・ 竹プラン=既存事業のドライバーが少し改善する+新規事業の立ち上がりは
・梅プラン=既存事業のドライバーが改善しない+新規事業の立ち上げに失敗
このモデリングやシミュレーションをさまざまな角度から計画段階でまわしておくと、ステークホルダーに対する期待値調整もしやすくなります。
具体的には、シミュレーション結果として、頭の中で数値計画に幅を持たせられるので、「予算はコレ。でもxxがあたればこのくらいまでいくし、逆に最悪のシナリオでもこのくらいでおさまる」という腹積もりができます。
このシミュレーションがどれだけできているかによって、予算計画の「深み」が変わってきますし、これはそのまま経営のかじ取りにも影響してきます。
(特にベンチャー企業の)予算計画の策定に携わるという、とても幸運でエキサイティング(!)な立場にいらっしゃる方は、ぜひこのシナリオの感度分析やシミュレーションをくりかえすことをおススメします。
今回のポイント
というわけで今回のまとめです。
・ 新規事業の計画のつくり方―「楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に実行する」
・ 大企業における予算策定-トップダウンとボトムアップ、経営と現場を橋渡しする
・ ベンチャー企業における予算策定―不確実なシナリオに耐えうる感度分析をくり返す
経営企画という立場で予算計画に携わってきた中で気づいたことは、新規事業は実は計画をつくるのは簡単なのですが見込み通りにはいかない、既存事業は予測を立てやすいが関係者も多くなるので調整含めてつくるのが難しいということ。
数値を扱っているのに、人間力や洞察力や意志力などをさまざまな場面で問われるという点において、事業計画・予算計画づくりは、企画畑の人にとっての総合格闘技みたいなものだと思います。ケガをすることもあるけど、エキサイティングということですね!
次回のテーマは、KPIになります。予算計画を策定したあとのモニタリング、その肝となるKPIの考え方について語りたいと思います。
あらためて、旧年中に本ブログを読んでいただいた方、ありがとうございます。今年も何卒よろしくご笑覧よろしく願いいたします!
これまでのバックナンバー
【キャリア編】
・ 第1回:キャリアを「えらぶ」のではなく「つくる」方法―キャリアの「タグ化」のすすめ
・ 第2回:市場価値の磨き方―ステージ×役割でとらえるキャリア論
・ 第3回(前編):1億総デザイン社会の未来―モデルなき時代に、働き方をハックする
・ 第3回(後編):1億総デザイン社会の未来―働き方は、よりフリーに、スマートに、クリエイティブに
・ 第4回:成長は失敗を糧に―非連続な成長は、アンラーニングと意識の変革から
・ 第5回:「乾けない世代」と「好き嫌い経営」―働く「個人的大義」を大切にせよ
【ノウハウ編】
・ 第6回:「ネクタイ事件」で学んだ、本当の問題解決―ポジティブ思考でいこう
・ 第7回:「伝わる」プレゼン―聞き手が「自分ごと化」できるストーリーをつくる
・ 第8回:ブレストはアイデアをひきだす脳内スパーク―「ブレスト筋」を鍛えよう
・ 第9回:SMARTなゴール設定と早めのトレードオフ決断でプロマネを成功させる
・ 第10回:知的生産性の上げ方―時間の使い方を設計し、会議をプロデュースする
【事業編】
・ 第11回:「4次元チェス」的戦略―不確実な未来のシナリオに、骨太な仮説をそえて
・ 第12回:『新規事業のつくり方―アセットを活用するか、リーンに立ち上げるか』
・ 第13回:予算計画のつくり方―楽観と悲観、経営と現場を反復横跳びする
・ 第14回:本質的なKPIをモニタリングし、計画と予測の「ギャップを埋める」
・ 第15回:M&A、それは究極の意思決定。PMI、なんて深淵な人間ドラマ
【経営/組織編】
・第16回:ユーザーに学び、社会に訴えかけ、組織を動かすミッション・ビジョン
・第17回:強い言葉で行動指針をつくり、模倣困難なカルチャーづくりに投資する
・第18回:安心感×成長実感でエンゲージメント・ドリブンな組織をつくる
・第19回:マネジメントに必要なのは、矛盾に向き合い、乗り越えるための真摯さ
・第20回:「開き直り」の境地で51/49の意思決定し、自らの人生の主権を握る
【番外・総集編】
・ 番外編①:エン・ジャパン主催の「ワーク&プライベート・シナジー勉強会」での登壇
・ 番外編②:ランサーズ勉強会(L-Academy)の「戦略ケーススタディ」のレポート
・ 総集編(前半):「一億総デザイン社会」を生きるためのキャリアと仕事の考え方
・ 総集編(後半):「VUCA時代」を勝ち抜くための事業と組織の考え方