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チームで勝つ、という喜びを知っている。あるいは、たった一人の新星が、チームを強くすることも。
フォースタートアップスのシニアヒューマンキャピタリスト・杉本 峻は、候補者の人生にも、スタートアップエコシステムにも、インパクトを与えるほどの支援ができたときに「これが自らのやりたかったことなんだ」と目を輝かせる。
大学ではラグビーに打ち込み、卒業後は三井物産へ入社。さらなる成長機会を求めてBtoB SaaSスタートアップの現場も経験。その後に、自らが「本当に成し遂げたいこと」を考え、フォースタートアップスの門を叩いた。
「感動した、と言われるのが一番嬉しいですね」と杉本は言う。杉本のまっすぐな熱意は、フォースタートアップスのバリューとも共鳴した。人々に感動や希望を与えることが最大のミッションなのだ、と杉本は語る。「起業家が生き様でそれを伝えるように、私は自らの仕事や言葉で表していきたい。だから、感動した、と言われると生きがいを覚えるんです」。
彼の人生は、学生時代に打ち込んでいたラグビーや、愛する映画や詩の世界からも学んだ「人の心を動かす」というテーマで駆動している。アメリカの牧師、ボブ・ムーアヘッドの言葉を杉本は引用する。
「人生はどれだけ呼吸し続けるかで決まるのではない。どれだけ心の震える瞬間があるかだ。」
「大企業とスタートアップ、双方で経験があることは強みの一つです」と杉本は言う。2年あまりでシニアヒューマンキャピタリストへ昇進し、マネジメントにも携わり始めた彼は、いかなる考えを持って臨むのだろうか。
【プロフィール】
杉本 峻 Shun Sugimoto
フォースタートアップス株式会社 タレントエージェンシー本部 シニアヒューマンキャピタリスト
早稲田大学卒業後、総合商社の三井物産に入社。戦略企画室にて米国スタートアップの日本展開支援や中古農機レンタル事業立ち上げ、鉄鋼製品の物流業務などに従事。その後、SaaSスタートアップにてエンタープライズや中小企業向けのコンサルティング業務に従事。大手企業/スタートアップ双方における就業経験による『“人”が企業の競争優位の源である』という想いから、フォースタートアップス株式会社へ参画。
ヒューマンキャピタリストとは「総合芸術的」
杉本は、大企業とスタートアップの両方での経験が自身の強みであると考えている。大企業では完成形に近い理想的な企業の運営を学び、スタートアップでは企業が成長する初期段階を経験した。両方の視点を持つことで、様々な候補者や話題にも対応できるという。
大学卒業後に進んだ三井物産では4年間を過ごした。「全人格的な成長なくして一流にはなれない」といった先達の教えを刻み込んだ。業務面でも、戦略企画などの上流工程から物流業務という現場仕事まで、さまざまなビジネスの接点を持てた。その後はスタートアップに進んでコンサルティング業務などを担当。それらの経験が今日にも活きているからこそ、候補者の立場や状況を理解し幅広く対応できる自負がある。
ヒューマンキャピタリストの仕事は、支援企業や候補者を理解するだけでなく、マーケットリサーチ、市況の変化、スタートアップが置かれている状況、日々変化する支援企業の状況に至るまで、あらゆる変数を検証しながら考える。杉本は言う、「ヒューマンキャピタリストは総合芸術的な思考が求められる。そうでなければ、相対する人からの信頼を得ることができない。」
「条件やペルソナといったデータだけでマッチングがうまくいくなら、AIの活用が効率的でしょう。しかし、数字化できるものには限界があるのではないか、と私は思っています。表面的に見えない要素やジェネラルな視点を見出すのも、ヒューマンキャピタリストが介在する大きな価値であると捉えています。起業家や候補者との関わりにおいても、そういった見えない部分にまで理解を寄せなければ、真に良いマッチングにならないと考えて取り組んでいます。」
スタンダードを高く持ち、いかに修羅場をくぐれるか
杉本の思考に深く根を張るのは、中学から大学にかけて打ち込んだラグビーの存在だ。ラグビーを選んだのは「サッカーや野球は競技人口が過密だったから、自分がスタメンになれるスポーツを探したんです」と笑顔を見せる。そう、一瞬の「たまたま」が人生を動かすことはざらにある。特に、大学時代を過ごした早稲田大学ラグビー部での日々は、杉本にとって人生の“基礎固め”とも同様だった。
ラグビーのポジションはスクラムハーフ。スクラムからボールを取り出す役割で、ラグビーでは「チームで最もボールに触れる選手」であり、運動量と俊敏性が求められる。早稲田大学ラグビー部に入部した杉本を、カルチャーショックにも近い「伝統」が待ち受けていた。
「早稲田ラグビーは『どんな相手に対しても絶対に負けてはいけない』という組織です。中学生の時に試合に負けると『お前らは早稲田じゃない、すぐにジャージを脱げ』と。でも、強いから負けてはいけない、という訳ではないんです。どんな困難であっても絶対にあきらめない、妥協しないという精神性を叩き込まれた気がします。」
大学卒業時には社会人チームからもスカウトが届いた。しかし、杉本はビジネスの世界へ進むことを選んだ。早稲田ラグビーへの愛着が強かったが、自身が本当に求めていたのは「日本一や世界一を目指せるビジネスの道」だったと再定義したのだ。さらに、ビジネス界のトップから感じた「世の中を変えたいという志」にも、スポーツマンと感覚が似ているようにも映ったのも理由にあげる。
就職活動では商社を中心に活動し、志望していた三井物産に入社。高校生の時にテレビで見た、三井物産の社長の言葉である「修羅場・土壇場・正念場が人を育てる」という考え方に共感を覚えていたのが、志望する決め手の一つだった。早稲田ラグビーの監督から授けられた「修養と鍛錬を重ね、将来の社会的リーダーとなる。そのためにラグビーをするのだ。」という言葉との共感性も高かったのも進む理由を強めた。
「仕事とは何か」というスタンダードを教わった商社時代
杉本は三井物産で4年間を過ごす。最初の2年間は企画戦略室に所属し、社内調整や会議の準備、経営計画書のまとめなどを行った。新規事業開発にも関わり、企画面でのスキルを磨いていた。
その後の2年間は、現場での物流業務に従事。日本のメーカーから購入した製品を海外の顧客に販売する仕事に携わった。交渉スキルが求められるこの職種では、情報を集め、ストーリーを作り、説得力を持って「1円でも多く稼ぐ」ために脳を使い、ビジネスを進める必要があった。商社の立ち位置はすべての中間にあり、様々な関係者を巻き込む仕事だった。
杉本は商社での仕事を通して、ジェネラリストとしての成長を求められた。彼は最初の上司から商社での仕事はスキルだけではなく「全人格的な成長」が必要だと教わった。プライベートも含めて良いものを見て、食べて、聞いて、読むことが大切だと、それこそお経のように聞かされた。尊敬できる上司のもとで、「仕事とは何か」というスタンダードを作ってもらった、と杉本は振り返り、今も大切にしている心構えだと語る。
当時、スタートアップへの興味を抱いた杉本は、入社2年目頃から課外活動的に、友人と共に三井物産OBなどを含めたスタートアップの起業家たちに、SNSで連絡をして教えを乞うことも始めた。
部署異動も志望したが希望は叶わず「自身が本当にやりたいことは別にある」と感じるようになっていった。三井物産での経験と感謝の気持ちはありながらも、新たな挑戦をしなければ変化することは難しいと感じ、明確な目標はなくとも、「今の道を続けても答えは見つからない」と思い、転職を決意した。
命を賭ける情熱は、意義への共感から生まれる
事業会社側ではなく、自身がエコシステムビルダーや支援者側の立ち位置で、企業の成長をバランスよく支えることが適していると感じた。その点では商社も、自らは工場を持たず、投資や物事の進行に関わる立ち位置が似ていると考えた。
振り返れば、ラグビーで勤しんだスクラムハームも「パスで人をつなぎ、トライを生み出す役割」だ。自分がトライを直接取るわけではなくとも、チームやファンが活躍する姿を見ると喜びを感じてきた。杉本は自分自身の人生とのつながりを見出し、自らの役割が他者やチームの成功に貢献することへの価値を再認識したという。
「何のためにやっているのか、なぜやっているのか、という思いが伴わなければ全力は注げないと思うんです。それこそ60点の成果なら出せるかもしれないけれど、120%の力は発揮できない。命を賭けられるほどの情熱は、仕事の意義に対する共感から生まれます」
フォースタートアップスに入社したのは、彼が持っていたヒューマンリソースに関する考え方が一致したからだ。
入社後は、まず仕事量をこなすことに振り切った。中学受験やラグビー部の時代から、自身の弱点を理解し、それを克服する方法を模索してきたという。その一つが「量から質が生まれる」という信念だ。杉本は、自身は多くのことを同時にこなせるタイプではないが、一つのことに100%集中して「やりきる」のが特性でもある、と自覚していた。
「早稲田ラグビーの精神は、名門校に比べてタレントが揃わないなかで、いかに勝てない相手に勝つか。それでいて、負けてもいけない。ならば、何をすべきかを考え尽くさないといけません。目の前の困難を無理だと悟るのではなく、その無理をどうにか超えるからこそ、人は感動するんです。それは、むしろ弱い自分たちにしかできない心の動かし方です。」
最初は思うような成果が出せずにくじけそうになった時期もあったが、周囲の力を借り、考え方を転換していくことで、徐々に成果を出していった。先輩マネージャーから1on1で受けたアドバイスを元に、企業を深く理解し、必要な人材を見極めることに注力した。まずは支援企業を好きになり、その成長に資する人材を見つける、というシンプルだが強力な法則に腹落ちしたのも大きかったという。
現在はマネジメントにもチャレンジし、リーダーシップについて考える時間も増えている。100名以上の社員を抱えるフォースタートアップスの中で、「自分だからこそできること」に目を向け、より多くのスタートアップを支援していきたいと考えている。
「やればやるほど、自分自身がさらに強くなる必要があると感じています。最近、特に記憶に残ったスタートアップ起業家がいて、久しぶりにお会いしたら、遠目からわかるくらいに雰囲気が変わっていたんです。ハードシングスを乗り越えて、身だしなみから仕事のスタンスまで、あらゆる部分が変わっていました。年齢が近いこともあって、私も強い刺激を受けました。そういう環境にいられることから学び、彼のような経営者を助けるためにも、私自身がもっと活躍しなければいけません。」
スタートアップと大企業の双方を理解し、フラットにコミュニケーションを取ることができるのは杉本の大きな強みである。特に大企業に進まれ、スタートアップに興味を持ち始めた方には、自身の経験を踏まえて「メリットとデメリットをお伝えできるはずです」と笑顔を見せた。
何をすべきかを考え尽くし続けてきた杉本は、人の可能性を誰よりも信じているからこそ、人を感動させる努力を弛まない。
(取材・文/長谷川賢人)