日本マイクロソフト - Official Home Page
マイクロソフトは、世界中のすべての人々とビジネスの持つ可能性を最大限に引き出すための支援をさせていただくことを使命として、Surface などのデバイスからクラウドサービスまで多種多様な製品・サービスの開発・提供により、様々な分野で事業を展開しています。
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2019年8月、日本マイクロソフトは、同社初の試みである大規模なスタートアップ向けイベント『Microsoft Innovation Lab 2019』を開催した。これまでも独自のスタートアップ支援プログラムを持ち、約300社の支援実績もある同社だが、これが、初めて大々的にスタートアップとの連携意思を表明する場となった。for Startupsは、プログラムのプロデュースなどの面で支援。このイベントを振り返りながら、マイクロソフトの意図と今後の取り組みについて話を聞いた。
日本マイクロソフト株式会社
マーケティング&オペレーションズ部門
Azureビジネス本部
クラウドネイティブ&デベロッパーマーケティング部
サブシディアリープロダクトマーケティングマネージャー
金本 泰裕 氏
マーケティング&オペレーションズ部門
Azureビジネス本部
インダストリービジネス部
プロダクトマーケティングマネージャー
小田 健太郎 氏
フォースタートアップス株式会社
アクセラレーション本部 オープンイノベーション戦略グループ GM
中村 優太
金本 私の部門は、パブリッククラウドサービスのMicrosoft Azureを、より市場で使ってもらうための様々な戦略を描いています。そのなかで私は、スタートアップ企業、あるいは既に大きくなっているユニコーン企業も含めて、デジタルなサービスを提供しているお客様にフォーカスした活動を行っています。
小田 私も同じ部門で、直近では、業界に特化してマーケティング活動を行うチームに所属していますが、当時はパートナーマーケティングのチームにいました。そこでは、マイクロソフトのパートナー、つまり顧客企業に向けたマーケティング支援を行っており、その一環でスタートアップ企業連携に着目したことが、今回のfor Startupsとの協業の始まりです。
中村 そうですね。2019年8月に御社が開催した『Microsoft Innovation Lab 2019』(以下、ラボ)の内容を、小田さんがご担当で、一緒に作り込みました。
小田 ラボは、このとき初めて開催したイベントでした。
金本 外部のスタートアップ向けイベントへのスポンサードや小規模なミートアップイベントは、これまでも実施していたのですが、数千人規模の会社公式のイベントとしては、今までなかったですね。
小田 順を追って説明すると、当時、私は新パートナー開拓の役割も担っていました。既存のパートナーはエンタープライズ企業など大規模な会社が中心で、今後のMicrosoft Azureのビジネスのグロースを考えると、従来とは異なる新しいパートナーが必要だという課題があったからです。
元々、パートナー向けのイベントとしては、毎年8月に『Japan Partner Conference(以下、JPC)』を開催していました。新しいパートナーを呼び込むために、JPCと同時開催で、スタートアップや新規事業創生のためのイベントをやろうというアイデアが出たのが、ラボのきっかけでした。ですが生憎、マイクロソフトはスタートアップからの認知度や強い人脈がない。且つ、弊社のチームもそんなに大きくない。これは、外部の力を借りるしかないと考えました。
金本 それは、弊社の歴史に起因します。マイクロソフトのビジネスは、当初はWindowsのソフトウェアを開発し、ライセンスを販売するというものだったので、規模の大きな法人のお客様にフォーカスすると、効率が良かったのです。しかし、プロダクトやサービスの主軸が、Microsoft Azureをはじめとするクラウドサービスにシフトすると、社員数はあまり重要な要素ではなくなってきました。例えば、まだ社員数が少ないスタートアップでも、クラウドを駆使してサービスを展開している会社であれば、クラウドの使用量は、何万人規模の会社と同等です。社員数よりもクラウドの使用状況が重要になり、デジタルネイティブなスタートアップ企業は、弊社にとって非常に重要なお客様となってきています。会社のビジネスが変わったことで、アプローチするお客様も変わり、そこで今回、象徴的に、スタートアップにフォーカスしたイベントを実施することになったのです。
中村 御社が、スタートアップとのビジネス上の相性が良くなってきた、ということですね。一方、スタートアップ側に立つ私たちの目線では、連携が、どこまでスタートアップのためになるのかが非常に重要です。スタートアップへのメリット、リターンを考えたとき、私は、マイクロソフトは非常に大きい価値をもたらすと考えました。本社がアメリカで、グローバルな事例もよく知っている。海外展開を推進したいスタートアップにとっては、非常に重要なパートナーになり得るし、技術面での支援も期待できます。加えて、「スタートアップと共に、自分たちも大きくなる」という本気の姿勢もある。私たちは、マイクロソフトという巨大なチームとつながることで、日本のスタートアップ産業に英知がもたらされるという期待を持って、取り組みをスタートしました。
小田 何しろ初開催のイベントで、弊社はスタートアップ関連イベントの運営に明るくない。コンテンツ、ブッキングと不慣れなことも多いため、それらに明るい会社を探しては、話をしていました。いろいろな人の話を聞くなかで中村さんを知り、お会いすることになりました。
中村 私たちとしては、自社イベントや他社支援も含め数百-数千人のイベント企画には知見がありますので、非常にイメージしやすかったです。
小田 結果的に全般的なアドバイスをいただいたほか、10のセッションをプロデュースしてもらいました。
金本 本当に助かりました。私たちには、「このようなテーマで話してもらうには誰がいい」といった勘所もなく、ラボが成り立ったのは、大げさではなく、中村さんのおかげだと思います。
小田 オブジェクトだけ伝えて「これで刺さる人をお願いします」と、全面的にサポートいただきました。
小田 JPCと同日の同会場で開催したので、両方に入場している方もいますが、全体の来場者は約2,000人です。ラボ側はざっくりと半分強が大手企業、3割強がスタートアップ、残り1割がVC、CVC、アクセラレーター、個人投資家などでした。大手企業の方は、オープンイノベーションや新規事業開発を担当している方が多かったです。
中村 これはすごいことで、私たちがスタートアップイベントを実施すると、スタートアップ関係者は来るのですが、その枠を超えて大手企業の方などは、なかなか集められません。しかしラボは大手企業が半分以上。それだけ、そちら側にメッセージが届いているということなので、for Startupsとしても一緒にやる価値が大いにありました。
小田 逆にマイクロソフトだけでやると、スタートアップが3割も来ることはなかったと思います。本来、アプローチしたかったスタートアップ企業にも、しっかり届いたと思います。
中村 イベントをきっかけに、具体的にスタートアップやVCとのつながりや取り組みに発展しましたか。
金本 具体的な社名は出せませんが、登壇していただいた企業の社長さんとリレーションができ、そこから、ラボ開催後に「連携できたらいいですね」と話したり、実際にビジネスにつながったり―、ということはあります。当日、ブースに出展したスタートアップの方々は、「露出機会として有効で、大企業とのマッチングもできた」と喜んでくれましたし、「これを機にマイクロソフトとのエンゲージメントをより深めたい」と言ってくれる会社も、何社もありました。単に、スタートアップへのメッセージを送るだけでなく、実ビジネスにつながったので、弊社にもスタートアップにも利のあるイベントにできたと思います。
中村 マイクロソフトに期待していることの一つは、マイクロソフトとスタートアップの単なる1対1の連携ではなく、そこにマイクロソフトの既存パートナーやクライアントを巻き込むより広いエコシステムへのスタートアップの巻き込みです。マイクロソフトのお客様といえば、国内のみならず世界中のエンタープライズ系の企業の数々。スタートアップからすれば、世界への可能性も検討することができ、そのフィールドは一気に広がります。
小田 ラボは、マッチングにも力を入れていて、大企業、スタートアップ、マイクロソフト社員の3つの対象に向けて、予めマッチングツールを配布していました。当日、待ち合わせができるというサービスなのですが、そこから実際にビジネスが進んでいる案件もあります。3方向のマッチングは非常にうまくいったと思います。
金本 はい。昨今、特に強くなっています。スタートアップはユニークでエッヂのきいたサービスを持っているので、それを自社の事業戦略に取り入れたいと考える企業は多いです。ただし、連携先の見極めが難しい。その点、テックカンパニーのマイクロソフトがお墨付きを出したスタートアップ企業なら信頼できる―と考えるのです。
実際、弊社はこれまでも『Microsoft for Startup』という支援プログラムを運用してきました。グローバルで申請・審査を行い、通過するとMicrosoft Azureの無償クレジットの提供やテクニカルサポート、営業支援などの支援を受けられるというものですが、これが、「マイクロソフトが認めたスタートアップだ」というお墨付きにもなり、大企業との取引の後押しになってきました。
実はこのプログラムは、グローバルでは1万社以上、日本でも300社以上が審査をパスして、活用しているのです。でも、あまり認知されていなくて…。ラボとは、直接はリンクしていませんが、初めてマイクロソフトがスタートアップ向けのイベントを大々的に開催したということは、会社として本気で取り組む意思の表れであり、『Microsoft for Startup』にもいい影響があると思います。
中村 そうですね。マイクロソフトのような大きな企業がメッセージを発し始めた影響は大きいです。となると私たちの次の課題は、メッセージに反応するスタートアップが一気に増えてきたとき、成果に結びつくスタートアップとしっかりつなげていくことです。「スタートアップはたくさん来たけど、成果は出なかったね」では、取り組みに継続性が生まれません。他方、マイクロソフトのような影響力のある会社に、有力なスタートアップを引き合わせ、何かを仕立てることができれば、産業界全体に大きなインパクトになります。良い出会いをつくることが、私たちの大事な役割だと思います。
金本 弊社サイドは、優良なスタートアップと接点を持ち、Microsoft Azureを使ってもらいたい意図があるのですが、それだけではなく、スタートアップ側にも、経営資源の最適化という面で意味あるパートナーシップになれるのではないかと思っています。
経営資源と言えば人、モノ、金ですが、お金は今、世の中に潤沢にあり、VCから資金調達できるでしょう。人は難しいので、そこはfor Startupsの出番です。モノは、サービスインフラが必要になります。立ち上げ時でインフラにコストをかけられないとき、弊社のMicrosoft Azureを使ってもらえれば、人、モノ、金がそろい、経営基盤は盤石になるのではないでしょうか。
中村 スタートアップ側から見て、他社のサービスと比べてMicorosoft Azureやマイクロソフトが優位に立っているポイントは何でしょうか。
金本 私たちのビジネスは、企業ミッションとイコールだと思うんです。マイクロソフトの企業ミッションは「Empower every person and every organization on the planet to achieve more.」。日本語では「地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする」です。エンパワーは「力を与える」という意味。これは重要なポイントで、世の中には、既存の事業者や価値観をdisrupt、駆逐してイノベーションを起こすことを目指す会社もあります。でも私たちは、既存の大企業のお客様と、将来のお客様となるスタートアップ企業の両方を、ITの力でエンパワーすることで世の中を革新しようとしている。根本の立ち位置が違うのです。弊社はあくまでも支援者の立場でビジネスをしていることが、一番の違いだと思います。
中村 今のお話は非常に納得しました。日本では、強い大企業がたくさん存在しているため、スタートアップの成長余地がある市場が潤沢かと言われるとそうではないと思っています。そうなると日本のスタートアップは大企業といかに連携して成長するかを検討する優先順位は高いはずです。秘かに「最終的に越えていく」ことは誰もが考えるかと思いますが、「共に成長する」ことから始められるのであればその道も良い。そういう意味では、マイクロソフトは日本のスタートアップにとってとりわけ相性がいい、非常にいいパートナーだと思いました。
金本 そうですね。私たちは持っている資源を、あらゆる観点から提供し、一緒に成長していくというスタンスです。
小田 CEOサティア・ナデラも折に触れ、「我々はdisruptしない」、「我々は競合にはなり得ない」とメッセージを発しています。スタートアップ企業には、マイクロソフトをもっともっと使い倒してほしいです。
中村 マイクロソフト自身が最強のオープンイノベーションチームなのかもしれないですね。この言葉が出てくるずっと前から、あらゆる企業と協業しスタートアップの支援もしてきたのですから。
金本 そうですね。私がスタートアップ側なら、もっと使い倒すと思います。Microsoft Azureを使ってくれれば、スタートアップ企業のビジネス拡大が、そのまま弊社のビジネス拡大にもなります。だから私たちは本気で、スタートアップの成長に資することなら何でもします。といっても資金調達や人材の紹介はできないので、弊社の得意領域である技術やクラウド提供、営業支援、協業支援では最大限のサポートをするつもりです。
小田 そこで、ぜひfor Startupsの協力を得たいですね。for Startupsに期待している点は、スタートアップの会社を、会社ではなく、その中にいる「個」で見ていること。私たちには持ちづらい観点です。弊社がスタートアップにアプローチしたいとき、個社企業名でお声がけできますが、そのなかのキーマンになかなか直接アプローチはできません。ですがfor Startupsはそこが強み。その点は、今後も特に期待しているポイントです。
中村 スタートアップとの最初の接点を作り、認知を取りに行くところを、引き続き一緒にやりたいです。また、接点を作るところから、どのような連携を実施していくかという部分にも、もう少し踏み込んでいけると、より私たちの価値が出せると思います。
金本 いち早く有力なスタートアップと連携がとれるように、for Startupsならではの情報やネットワークに期待しています。さらには、for Startupsと一緒に、人材とITインフラやテクノロジーのサポートも同時に提供できるパッケージ化の取り組みができるといいなと考えています。そうすればスタートアップ企業、for Startups、弊社の三者に利があるのかなと。どちらかというと、これは個人的な考えですが。
中村 ちなみにお金の支援、出資は可能でしょうか。
金本 グローバルでは出資の機能もあるので、日本でもトライしたいと思います。
小田 サービスやソリューションビルドのための支援などもできます。私たちとしても、本国やアジアのスタートアップ担当にも、日本の活動や日本のスタートアップの情報を発信したいと考えています。
金本 やはり、日本初のグローバルなスタートアップを生み出したいですよね。日本は、ある程度市場ができているので、国内だけでやって行けてしまう。でも、「まず日本の市場を押さえてから」とやっていると、世界に行くのに時間がかかり、日本の市場を固めた頃には、現地で同じことをやっている会社が出てきています。ならば、最初からグローバルを狙いにいくべきで、その気概のある会社と弊社が組めば、多分、非常に大きなシナジーが出ると思うのです。
中村 そのようなスタートアップを探すのに引き続き連携させてください。私たちは毎日、起業家や投資家とお会いさせていただいているため、素敵なスタートアップとの出会いに恵まれています。マイクロソフトと連携して、一緒に本気で支援する。それはすごくイメージできますね。ぜひ、やりましょう。
金本・小田 やりましょう。
中村 もはや、打ち合わせになってきましたね(笑)。これからもよろしくお願いします。
─お忙しい中インタビューにご協力頂きまして、ありがとうございました!