2019の記事とは別に、昨今の転職市場のトレンドとか踏まえて、かつ、これからITに入ってくるであろう業界外の人でもわかるように、新規に書いた記事。
いやね、今年。
ミス応募が多いんじゃよ....。
ミス応募のパターンが、2022バージョンに更新されている。
推測するに(と言うかほぼ確だが)以前からの情弱さんを釣ってカネに替えるムーブメントがWeb上(SNSや動画など)で引き続き展開されており、業界の情報がゆがんだ形で伝えられ、また、調べようにも調べられない。
人材紹介をかましても人材紹介のキャリアアドバイザーさんがそのあたりのトーク内容を知っているかと言えば、さすがに知らない事が多い訳で。めっちゃめちゃにマッチングミスな事故応募が増えてしまっているのである。
IT業界外の人をターゲットに、業界研究にそのまま使えるような情報を用意して置けば、『これ見といて』で済むわけでして、もうそういう記事書こうかなあ....ってなった次第。
なお、以前の記事も2019版とは言え、現在進行形で使えます。
マジで業界研究でこの記事を見ている人は、そっちも見ておくように。
(会社の業態ごとの呼び方、定義などはそちらの記事でしています。)
【IT業界地図?】WebとかSIとか自社開発とかSESとか、言ってることわけわかんねえんだよ!
https://www.wantedly.com/companies/trash-briefing/post_articles/160402
この記事の流れ
1.Web制作とかフロントエンジニア関連てウソ情報が多い
2.SI業界の階層構造の分析
3.SI業界の縦割り構造の分析
4.SES業界の分析
5.フリーランス
6.SES業界の変動
7.各業界の新卒市場へのかかわり方
1.HTMLでフロントエンドエンジニア?
2022現在、めちゃ多い事故応募パターン。
HTMLやCSSがプログラム言語かどうかなどの宗教戦争ネタもありつつ。
そもそも応募先自体がちがうんでねぇかと言うケースが多いので、最初に触れまする。
フロントエンド側でコード書く役割の人が2パターンいて。
・HTMLコーダーさん
サイトの表面のコーディングを担当する人。
・エンジニアさん
サイトの裏側の動きや処理を担当する人。
と、隣り合った別の役割と考えると良いんじゃないかなと思います。
フロントエンドのエンジニアはJavaScriptが主力スキルです。静的なWebサイトですとホントに動きをつけるだけという感じになるので、コーダーさんが兼ねるケースも多いです。
が、システムになりますと、役割がフロントエンド側のシステムエンジニアになります。
システムはふつう、処理は『画面』→『ロジック』→『DB』→『ロジック』→『画面』と帰ってくる様な流れになる訳ですが、ロジックへの情報の渡し方やDBへのデータの格納され方などのイメージが湧きませんと、まず設計ができません。その為フロントエンドエンジニアはバックエンドの知見も要求されることになります。
コード修正のタスクを渡されるだけであればJSを読んで直せるだけで対応できると思いますが、その経験を繰り返しても需要の高いフロントエンドエンジニアにはなれないと言う事です。
よくある広告がゴールに設定している『市場価値の高いフロントエンドエンジニアになりたい』と言うニーズに対しては、ぶっちゃけバックエンドエンジニアからキャリアをスタートさせた方が早いのが実態です。わかりやすくクリエイティブなルートか?と言うと、少し違うと思います。
逆に、エンジニアの多くはCSSが苦手だったりします。カッコイイ画面を作れるセンスの持ち主も多くは無いです。(暴論) Webサイトあたりをターゲットに、HTMLコーダーからキャリアをスタートさせていくとしたら、専門性はCSSやWebデザインのあたりに置くように立ち回るのが良いかもしれません。
Webデザインができて、HTML・CSSが専門家レベルで、Webサイトで使うくらいのJavaScriptが使えるのであれば、一人でサイトが作れてしまう訳で。小規模な案件が多いサイト制作の業界では引きの強い、便利なスキル保持者となる事でしょう。特にバイネームで仕事がバシバシくるデザイナーはフリーでめちゃ稼いでたりします。(請負だと1案件に縛られないし。)
ユーザーが直接触れる部分であり、検索されるかどうかへの影響も大きい領域のデザイン(設計)スキルですので、専門性は深いです。CSS等もプロレベルですと様々なお作法があるようです。
常識的に考えてWebの制作会社(システム開発会社ではない)で修行させてもらうところからスタートすべきでしょう。
Webサイトとシステム開発は、そもそも業界が違います。
スクラッチのシステムは高額である為そこそこの規模の企業が導入するわけで、その様な需要を受注・納品物を定義・プロジェクト化・納品などを行うSIerを頂点に、システム開発会社などがぶら下っているいわばSI業界の領域になります。(対エンドメインの受託会社やパッケージベンダーもいるけど)
対してWebサイトは広告代理店を頂点にした広告業界の領域です。(クリエイティブな印象なほう)
一社ですべてを開発する会社もありますが、多くは各専門分野の制作会社に製作依頼が振り分けられていく事になります。こちらは小規模な話が多いこともあって請負契約がメインの世界で、この業界内での競争があります。
この競争の中を生き抜いている制作会社などでの下積み期間をすっ飛ばして、貧弱なスキルでいきなりフリーランスデビューと言うのは、門外漢の私から見ても自殺志願者にしか見えません。そのようなルートをアドバイスする人は、実は詳しくないか、貴方の人生がどうなってもいいので短期的な賞賛かお金に変換したいと考えている人でしょう。まあ、サイコパスですよね。
2.SI業界の階層構造
広告業界はさておき。
SI業界自体も外部からではかなり解像度が低いというか、わかりにくい構造になっている様でして。
たとえば人材紹介のキャリアアドバイザーでも解像度が高い人は少ない印象を受けます。
(もしくはトーク上の都合か)
前述のように、システム開発プロジェクトはそれなりの規模感のものが多い為、その様な需要を受注・納品物を定義・プロジェクト化・管理・納品などを担当する役割、それがSIとなります。
(厳密には、もっといろいろな役割を持つが、ビジネスプロセス上の重要なポイント)
雑ですが、『エンドユーザーのシステム開発需要』を、システム開発のリソースを使用して『利益』に変換するバリューチェーンはこのようなものになるかと思います。
【バリューチェーン】
ハーバードのポーター教授が、 著書『競争優位の戦略』の中で用いた言葉。
価値連鎖(かちれんさ)とも。
みたまんま。
主活動のどの部分が利益 (付加価値)を産んでるかとか。
競合と比較したりとか。
んで、このバリューチェーン。だいたい上のほうと下のほうが付加価値が高い。
横軸にバリューチェーン。縦軸に付加価値額(粗利みたいなもん)を取ったグラフが下記。
だいたいどの業界も 😊な感じの線になるので、スマイルカーブと呼ばれる。
で、儲からないところはアウトソースし、自分達はなるべく儲かる所に集中。
専門特化していくのが経営戦略的に正しい。
つまりこの業界では『上流』と『運用』が儲かるので、そこを重視する会社が多い訳ですな。
というわけで、要件定義して、プロジェクトの全体像が固まり、計画が出来たら、付加価値が低い作業をアウトソースするという話になる訳であります。
この際、派遣社員を一名ずつバラバラに調達してしまうと、この派遣社員の管理をSIerの社員が行う事になってしまう。これでは管理コストが激増してしまう為、なるべくリーダー付きの体制で参画・担当範囲のシステム開発のQCDの担保ができる会社が望ましい発注先となります。
【QCD】
クオリティ(品質)・コスト(金額)・デリバリー(納期)
要は予算内で、あるべき品質で、納期通りに納品できるかどうか。
これを担当できる会社が、2次請け層・3次請け層の企業群と言う事になる訳。
この間の契約は請負契約も準委任契約もあり得ますが、基本的には『ある程度、丸投げしても大丈夫』と言うものを求められている訳で、いわゆる狭義の『SES』とは提供するものやビジネスモデル自体が異なります。
このあたりの層はいまいち定義があいまいになっており
・ソフトハウス
・開発会社
・中堅/零細SI (SIの機能ではないので、あんまし言わない)
・(広義の)SES
など、人によって違う呼び方をされています。
ここではいったん区別の為に、ソフトハウスと言う呼び方で統一しておきたい。
なお、現在ではほとんどのプロジェクトで再委託制限があり、主要なプレイヤーはほとんどが3次請ソフトハウス層までに集中している構造になっています。
【再委託制限】
2007年~2008年ころの、経産省・厚労省も絡んだ『請負適正化』や『ソフトウェア開発モデル契約』の影響もあり、なるべく適正な商流にしようね、偽装請負絶対すんなよと言う圧力が公共エンドや各SIerから発せられる。その中のひとつがこれ。
まあ、だいたい3階層目の会社の社員までしか参加できないプロジェクトが多いんだなと思っておけばOK。
システム子会社が絡んだりプロジェクトが大規模化する事によって、階層は増えてしまうものでもあり、例えば3階層めだからと言ってショボい会社かと言うと、必ずしもそうではなかったりする。
この辺は注意。(メーカー孫会社など、大企業でも3階層め、SIとエンドの間に情シス子会社挟まって4階層目と言う事もありうるわけで。)
3.SI業界の縦割り構造
縦のポジションの他、SIerの各事業部・各ソフトハウスごとに得意な領域と言うものがあり、これはこれで別のセグメントになっていると言える。主力の業務知識によるセクション化である。
金融や銀行を得意とする会社が多いのは、金額高いし規模も大きいしで、SI業界の花形的なポジションにあり、そこに関与する(したい)会社も多いからな訳ですな。
人気の領域ではあるが、その分プレイヤー数も多く、強力で、2次請けソフトハウスの規模も巨大に。深い業務知識を持っているSEも多数所属。中規模のマネジメント能力や納品までの長期間を生存できるキャッシュストック等も有している事が多い。
何処で戦うかは、各ソフトハウスの戦略次第と言ったところ。大規模な会社でなくても、ニッチな専門性を有する事で良い商流を確保する会社も存在する。また、無駄にデカいだけで専門性が低く、3次請け以降に甘んじる会社なども存在します。
ソフトハウス層に正社員応募・面接となれば、このあたりの情報も出てくるはずなので、なんとなくであっても、理解しておきたい。
ちらっと前述したが、SIerに依存しない開発会社も存在。対エンドでのパッケージ販売や、請負開発、コンサルティングを行う会社も存在します。(特に近年は、外注できる営業手段が多彩化しており、エンド直接でビジネスをするハードルは下がってきていると思う。事故案件も増えたが....)
SIerが処理しているシステム開発需要と比較するとまた規模や難度も変わってくるので、エンド直なのに意外と高くなかったりもして、だいたいのソフトハウスはSIerの仕事も・エンド直の仕事もどっちもやるよ。
みたいなスタンスが多くなってきているんではないかねぇ...。
※エンド直で人月150万くらい取れてると、たぶん高いほう。(年間1800万)
しかし、別にエンドの仕事多くないけど、社員一人当たり売上が4000万と言う会社もふつうにあり、このへんはなかなか奥深い。いろいろな稼ぎ方があんだな。
4.狭義のSES
今日の視点で言うと、SIでもWeb広告でもない、第3軸の別業界と考えた方がすんなり説明できるかも。そのくらい、10数年前のふつーの零細ソフトハウスとは違うものになってきている。
まずおさらい。
・SI層
受注し、プロジェクトを用意・進行する。納品する。
・ソフトハウス層
開発工程の主戦力として、リーダーを中心に、体制参画する。
プロジェクト規模によっては、再発注で3層まで参加する。
これらのソフトハウスの体制に対して単品のリソース供給。これが所謂狭義のSESの役割となります。
下図のように、一つのプロジェクトに複数のソフトハウスが体制参画しうるわけで。場合によってはそれぞれから増員の案件が、それぞれのパートナー企業に送られて行く事になります。
近年はSES市場内にも層ができてきており、一旦は下記の各営業会社(SES)層に案件情報が集中。
下層のSES会社の人材情報もここに集中。この中でマッチングがなされる構造になっているようです。
層化していることもあり、ここでの単価の抜き幅は、大きな額になってきています。(8万~20万くらい)
層化の原因は、SES市場内での分業・専門化の進行であると思われ、こうなるといよいよ独立した一つの業界と言う印象に。
そもそも、現在のSES領域の企業にとってSI業界はメインユーザーとは言い難い。上のほうから体制参画とかQCDとか言われてそれを守っても、直接契約している訳で無し、別に儲かる訳ではないのです。上記のソフトハウス群を相手にするよりも、直接発注してくれる事業会社を狙った方が、なんぼか単価も高い。(そういう金額で需給が均衡したっぽい)
直接発注してくれるエンドとは、『自社でエンジニアを雇用しており』『外注含め、管理を行う』タイプの会社となります。 ソシャゲバブルの頃であれば、ゲーム開発会社であり、現代では、『資本調達したベンチャーの類』『成長したメガベンチャー』のあたりが、より良いターゲット顧客となる訳です。
SES業界上層部の、営業力の強いSES会社は、この顧客層を主に狙った営業活動となります。
※Web広告業界は、小規模ながらも請負で再受注してほしい案件が多い感じ。ただし単品派遣の需要がゼロと言う訳ではない。
※ゲーム・Webビジネス側は、どちらかと言うと単品で優秀なエンジニアを派遣してほしいというニーズがメイン。(やはり管理コストがかかる為、管理が不要なレベルの個のみを求める感じ。)チーム参画し、発生した増員枠を自社で『よしなに』したいソフトハウスと、ゲーム・Webビジネスの顧客は、多くの場合、あまり相性がよろしくない。
※なお、この『営業力のあるSES会社』は、『フリーのエージェント』を兼ねる事が多い。
というわけでSESと言うサービスの実態は、『SIerの下請けの下請け』と言うよりも、『全ての”派遣契約できない派遣需要”に対して準委任で人員を供給するサービス』と表現した方が近しいものであると言える。
ベンダーではなく事業会社に当たるWebビジネス関連企業はもちろん。SI業界・Web業界の零細企業や、ゲーム業界の中小デベロッパーとは違う業態・業界・ビジネスモデルの企業群であり。それらの企業群の情報が集積され、そのやり取りが行われているのが、主にSES市場であると考えると、理解しやすいのではないかと思います。
IT企業の見分け方は難しいのですが、例えば案件数では明確な差が出ます。
Webビジネス→運営するプロダクトに関連するもの。
ソフトハウス→チームで参画した、増員枠を取れるもの
Web広告 →受託する、又はしたもの。
と、これらの業態の企業が持つのは極少数の案件となり、人員のアサインもこの中からの選択とななります。選択肢が狭まります。
対して、(狭義の)SESでは、『全ての”派遣契約できない派遣需要”』がターゲットなので、一日あたり200~1000件くらいメールで送られてくる案件情報すべてが『有効案件数』となり、常時数千件の案件から選ぶと言うトークになる訳です。
代わりに、自分達で主体的にシステム開発プロジェクトを用意するスタンスではないので、原則、SES市場内での平場勝負の競争を戦う必要が発生します。
未経験枠や責任・権限のある枠は、可能な限りソフトハウス側が自分達の社員育成・利益追求の為に使いますので、その中からこぼれてきたわずかな枠をSES市場内のプレイヤーたちが取り合う形になります。これが故に、未経験者アサインやリーダー経験自体が難しいという話になります。(2ndや3rdの配下で3名チームとか無理ではないが、需要は少なく厳しい勝負になりがち。ぶっちゃけ権限も中間会社に吸われる事が多い。)
まあ、何事もメリデメがあるっちゅう訳ですな。
で、繰り返しになりますが、この案件を集積する立ち位置が『営業会社(SES)』であり。
これらの会社群にぶらさがる形の、『営業力のない会社(SES)』 つまり、採用と雇用のみを行う会社群が存在。 これを『牧場型(SES)』と、仮に名付けました。
ほか、旧態依然の、『零細SES社長同士のネットワーク』と言うのもまだ存在するはずですが。この領域はかなり減少している様子で....。
この領域の顧客層はもともと『SI業界のセカンダリ・ターシャリの古いソフトハウス』であったのですが、再委託制限が広がった時にSI業界から押し出された形になっており、そのままのビジネスモデルを今も継続しているとは考えづらいです。何らかの変化をしていると考えられます。
(M&Aで売却された会社も多そう。)
実は、営業力もあって人も抱えていると言うタイプのSES会社も減少傾向にあるらしく? 2019年前後にこの手の会社の事業売却が流行ったりしました。(続けるより売った方が儲かるから売る訳で。)他の業界のように、分業・自分達が得意な領域に専業化していると考えられます。
しかし、新規創業が常に発生する領域でもあり。このような企業の区切り方がなされた統計など探しようも無いので、増加・減少については、ほぼ推測の話になります。そのつもりでご理解ください。
SES業界内のバリューチェーンを図に当てはめますと、下記のようになります。
円の中をアウトソースする先が牧場型。上と下を担当するのが営業会社型。
下流を担当する牧場型SESは、営業活動全般・信用の獲得などの営業面のコストを負担せず、採用数と稼働率の維持に特化する事ができ。上流を担当する営業会社型SESは、8万~20万と言う、一件あたりの粗利額を大きくとる事ができるようになりました。
どちらのスタイルが儲かるのかは、会社ごとの個別差が大きく、まだ何とも言えないところです。
個別差が発生する原因も、現時点では断定が難しいです。
この状況はしばらく変化は無いものと思われますが、SES市場内のプレイヤーは3~5年ごとくらいに新しいスタイルの物が市場に出てきますので、何とも言えないところです。
5.フリーランス(SES)
ビジネスモデルなんかは各事業主の自由なので、業態に縛りなんかはないのだけど。(各市場の各企業と直接契約してるのは割と当たり前)
フリーランスの母数もかなりいるので、フリーランス向けの営業代行と言うか。受託や準委任の案件情報を提供するサービスも成立します。『フリーのエージェント』とか『フリー向けマッチングサービス』と言われる業態が代表格かなあ。
潤沢な情報が提供されるので参入ハードルはめちゃ低い事になっており。エージェントは増えまくり、結果、大量の(営業力の無い)フリーランスの生存が可能に。そんなこんなで(営業力の無い)フリーランス向けの市場が出来上がった感じ。
その構造は、SES業界の営業会社と牧場型の関係と酷似しています。
牧場型のSES会社とは並列のポジションに位置する事になります。
フリーで食える人はふつう『めさき、仕事には困らん』くらいの経歴書なハズで、個人の価値観で意思決定する為、エージェントからみても会社より扱いやすいです。
しかし、フリーランスを確保するには多額の広告費がかかります。
『フリーエンジニア』などのワードはかなりの額になっており、それなりに利益を転嫁できませんと、エージェントはサービスを維持できません。一件あたり8~20万くらいという抜き幅は、この辺りから発生したものではないかなあと思います。
6.上記から推測するSES業界孤立化の流れ
フリーランスからスタート、起業し、そのままの取引先(エージェント)の利用を継続したまま、社員の増加だけを考えた。それが牧場型のスタイルの会社の原型になったのではないかと推測します。そんな会社間の組み合わせが増えていったと考えますと、フリー向けの高額な抜き幅が会社間でも適用されるようになっていった背景や、営業型SES会社の向こう側の世界についての知識をあまり持たない会社が多いあたりなども説明がつくかなと考えています。
さらにそこに再委託制限が加わり、最も物量のあったSI領域の仕事が大きく減少。混乱の中で別商流へチャネルのメインストリームを移していった。大きな商流の変更の中で、商習慣・慣習などSES業界内で独特の物が発生し、定着していく。そんな流れが2015年前後~で、あったのではないかなあ。
そして、下記のように、言葉の定義の違いすら生まれていく結果になったのかと思います。
Aは、昔ながらの意味。『直エンドです』だと、二重派遣できない派遣会社は全案件がプライマリって話になるが、さすがにふつうはそういう言い方はしない。プロジェクトの主幹の会社のことを指すのが一般的かなあと。昔ながらの文化圏では『〇〇社がプライム取った』みたいな言い方をする。
Bは、エンドと直接契約している会社から『もらった』案件。Webビジネス系やゲームなど、エンド側が自社でプロジェクトを用意・要員管理する案件であってもそう呼ぶっぽい。
つまり。
Webサービス
↓
エージェント
↓
牧場型/フリーランス
と言うケースでも『プライム案件』と言う事になる。
さすがにこれはねーわな。元の意味とは違う、新しく生えたSES業界用語と言える。
※悪意でウソついているというよりも、これがSES業界内の当たり前の使い方っぽい。
こういう定義が怪しい言葉はたくさんある。新卒ではまずよくわからない。注意しよう。
7.新卒採用市場での勢力分布
新卒採用市場には、『未経験者を育成する能力』『未経験者に投資してリターンがある』タイプの会社が多く参入。求人を掲載しています。
中途の経験者を採用する方が、お金も時間もかからず楽な訳ですが、残念ながら、中途市場には組織の中で活躍するタイプのハイパフォーマーが多く存在せず、上層の高ブランド企業以外にはなかなか流通しないという問題があります。
組織に適合するハイパフォーマー、ふつうに成果出してポジションも上がり、報酬額も上がっていくんですね。ですので、なかなか転職もしない。転職しないので中途市場にも出てきづらい。
出てこない人を待っても供給不足になる訳でして、現職の企業に就職する前の段階で取りに行くしかないとなります。これが、新卒市場だと考えられます。
『投資する価値のある未経験者(学生)』を、新卒市場で取り合う構図。
言い換えれば、『未経験者を育成する能力』『未経験者に投資してリターンがある』タイプの会社が新卒市場のメイン層であるとなる訳です。
下記のような企業の求人が多いのではないかと思います。
1.高ブランドの大手企業
昔ながらと言う感じ。今まで長い期間を前線近くで戦い続けてきましたが、さらに次の20年30年を戦うために、未来の主力層を採用しに来ています。応募数が多すぎるので、出身学校のブランドで足切りを行う事になります。 成績が良ければ地頭も良い確率は高いのでしょう。また、ハイブランドな学校の卒業生はハイブランドな企業、官公庁などに入社する率も高い訳ですから、将来的なコネクションも確保しやすいです。
大手SIerの企業群も、この層に含まれるかと思います。
2.メガベンチャー
ベンチャーって言っていいのかどうか怪しいんだけど、まあ。
中途採用の採用数も少なくないはずですが、この辺の会社になると新卒市場に参入する率が高くなってきます。やはり、企業にとっての真のハイパフォーマーは新卒市場の方が採用しやすいのでしょうか?
なお、ベンチャーはだいたい100名~200名の規模感から、新卒市場に参入する会社が出始めます。
零細のベンチャーはそこまでの経験が無いのか、育成のスキームを用意できないのか、中途市場で経験者採用を狙って失敗、中途未経験を採用しました。みたいなケースの方が多そうな気がします。
3.中堅SI・ソフトハウス群
多いです。
基本戦術がチーム戦となる上、自社・顧客の勝利条件を把握して立ち回れるような人が主戦力になります。この層も規模感が大きくなってきますと、新卒市場へシフトしていく傾向がみられます。
大手SIの様に全領域で仕事しますとかではなく、その大手SIの特定の事業部にぶら下っている訳でもありますから、主な守備範囲もそれぞれ特化している傾向が強いです。
一言で金融系と申しましても、銀行・保険・証券など業種がありますし、さらにその中に特定の業務知識が要求される領域や、高度なシステム可用性が要求される領域などもあります。
ほかにも、常時パッケージを複数取り扱い、乗り換えながら進む戦略や、請負を重視してライトな技術領域を志向する戦略。サポートの仕事を積極的に取りに行く戦略や、SESライクなスタイルと半々みたいなスタイルの企業もいます。
大手と違って割と専門性がはっきりしている傾向がある(選択と集中)ため、配属ガチャは少ないと思われますが、企業の特徴をちゃんと把握しないのであればガチャ引くのと何も変わりません。しっかりとした企業研究が必要ですし、面接でもしっかりと質問をすべきです。
4.SES企業群
少ないです。
特に商流を上げていく方針が無い企業(牧場型とか)は、新卒市場に参入するメリットは薄いのではないかなと思われます。システム開発能力で成果を上げて儲けるスタイルではありませんので、組織の中で活躍するタイプを無理に取りに行く印象がありません。また、未経験の育成に不向きですから、そもそも新卒を欲しがりません。
一応受託で未経験者を育成する事はできますが、商流が悪いのに受託と言うのも死亡フラグでしかないですから、これも多くはないのではないでしょうか。
とは言えいちおう、たまに求人を見かけはするので、よくあるパターンを挙げておきますと、Webベンチャーを模倣したような雰囲気だったりします。
重視するのは能力より頭数ですので、成果と相反しやすいような福利厚生もウリとして打ち出せますし、自由度や個人の尊重なども強調されています。まあ、一番見分けやすいのは案件数。ウン千件の案件がありますとか書いてあったら、SESか派遣会社のどちらかに当てはまると思います。
8.おわり
そういうわけで、IT業界の全体像はても広大かつ複雑なことになっており、その中の各界隈ごとに常識もスタンスも違えば、言葉の意味さえ違ってくるという感じだったりします。また、若い零細の会社ですと、その段階ではSES市場に参加しての平場勝負しかできなかったりしますので、本当に見分けが付きづらいです。求人や面談の情報から、ビジョンや積み上げているものなどを確認するしかなさそうです。
それぞれの業界・業態でそれぞれ良いところがあり、悪いところがあります。
できればその様な部分まで把握し・理解した上で、自分に合った領域の企業をターゲットにして、就職活動されると良いかもしれません。わからないと、志望動機とかも作りようないですしね。
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