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https://www.creativevillage.ne.jp/79702
昨今、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、ゲーム開発に携わる方から「エンタテインメント業界全般では景気悪化がみられるが、果たしてゲーム業界は大丈夫だろうか?」といった質問や不安なコメントが多く寄せられます。
この記事では、ゲーム分野のエージェンシー事業を行うクリーク・アンド・リバー社(C&R社)のチーフプロデューサー・下條聡男が新型コロナウイルスによるゲーム市場への影響を考察します。
※2020年4月15日時点での市場動向による観測です。
新型コロナウイルスがゲーム市場に与える影響
昨今のニュースより、日本のマスマーケットをみると不況の影が見え隠れしている。
そもそも日本経済は今回の危機以前からGDPマイナス成長だったにも関わらず、オリンピック景気でなんとか維持したに過ぎない。
そのタイミングで今回の危機が勃発したわけで景気の鈍化は避けられない状態である。
4月14日に発表されたディップ株式会社のアンケート調査※によると一般の派遣社員は失業16.0%。休業・シフト減は4割弱。シフトが減った人のうち約8割が給与も減ったと回答している。
※ディップ株式会社ディップ総合研究所調べ
https://www.baitoru.com/dipsouken/all/detail/id=403
また、広告においてもつい先日まで放映されていた、石油社や清涼飲料水メーカー、家電メーカーなどのオリンピック観戦チケットを当てようといったTVCMがなくなり、関西のアミューズメント施設のTVCMもなくなっている。
差し替えCMはACジャパンの「にゃんぱく宣言」「それは地球です」の広告になっていたりする。わかりやすい指数だとYouTuberの広告に関して4月は激減しているという悲痛の動画が多数アップされている※。諸説あるが1月を1.0とした場合4月の広告売上は0.77〜0.86まで減少している。
※著者調べYouTube内で「広告 減少」で検出
https://www.youtube.com/watch?v=kCHNP_m9ROY
https://www.youtube.com/watch?v=7M2zJh2EOiA
ゲーム市場のマスマーケット
それでは、ゲーム市場はどうか?まず、ゲーム市場のマスマーケットについて考察する。
スマホアプリゲームのマスマーケット、特に国内ゲームセールスの進捗についてみてみる※。4月1日から4月15日までの売上進捗と3月全体の売上を比較してみる。実は4月15日現在の数字だと売上トップ200タイトルについて前月比で106.6%の売上が上がっている。
※筆者調べ#セルラン分析/ゲーム株『Game-i』より抽出
http://game-i.daa.jp/
この数字は意外かもしれないが、多くのユーザーが在宅勤務となりスマホのゲームをより楽しんでいることがうかがえる。裏付けるようにゲームのダウンロード(DL)数についてApp Anni※では2月と3月の比較も発表されており、日本マーケットでオンラインゲームアプリは158%増加しているとしている。
※AppAnniゲームDL数2月3月比較について
https://www.appannie.com/jp/insights/market-data/staying-at-home-and-spending_change-mobile-gaming/
移動を制限されることで最も影響を受けるだろうと予測された位置情報系のゲームについても同様の軸で詳しくみてみると「ドラゴンクエストウォーク」(以下DQW)は138%増加、「Pokémon GO」(以下PMG)は76%のマイナスとなっている。
予測はもっと下がっていると感じていたので、コロプラが運営としていかに頑張ってユーザーをつなぎ止めているかがわかる。
DQWは在宅でもレイド戦ができ、強敵とも戦え、なんとシナリオ進行もできるように神仕様変更を行なっている。この大幅な仕様変更はもはやウォークではなく、普通のRPGとほぼ同じ仕様となっている。
この臨時仕様変更は本来の本ゲームのゲーム性を損なう可能性もあったが、ピンチをチャンスに変えるべく柔軟な意思決定をしており、運営次第では状態を好転できることを指し示している。
PMGも在宅で対戦ができる仕様に臨時変更しているが、在宅対戦可能なレイドなどの実装には時間が掛かっており出遅れ感がある。マネタイズがガチャ中心のDQWと狩の便利アイテムを販売するPMGとはやや差が出てしまった感じがある。
コンシューマゲームの市場動向
コンシューマゲームについてもみてみる。ファミ通.com「ゲーム販売本数ランキング」(集計期間:2020年4月6日~2020年4月12日)によると、任天堂の「あつまれ どうぶつの森」は3月20日に発売後久々の300万本越えの大ヒットとなっており※、女性を中心に対応ハードである「ニンテンドースイッチ」の購入も牽引している。「ニンテンドースイッチ」は売り切れが続出しており転売ヤーによる買い占めがニュースになるなど活況である。
4月10日にはスクウェア・エニックスの「FINAL FANTASY VII REMAKE」も販売になっている。販売本数は発表されていないが100万本以上の販売が確実視されている※。また、ソースからも大作タイトルらしく、同梱版含め、PS4本体を非常に牽引していることが読み取れる。総じてコンシューマゲームはビックタイトルの発売が続き、巣篭もり需要にマッチングすることで活況であると言える。
※ファミ通.com「ゲーム販売本数ランキング」
https://www.famitsu.com/ranking/game-sales/
ファミ通.com「ゲオ新品ゲームソフト週間売上ランキングTOP10」
https://www.famitsu.com/news/202004/14196567.html
ゲーム開発市場におけるクリエイター動向
それでは目線を身近なゲーム開発市場に向けてみよう。直近のクリエイター大移動を考えてみる。
実はゲーム開発に従事する人は5万人から7万人いる。その中の約80%の方が今回在宅勤務となっているので4万人から5.6万人が家で仕事をしていることになる。これはイメージしにくいかもしれないが、東京ドームの収容人数が5.5万人なので同じくらいの人数が在宅勤務していることになる。
それに伴い急遽ウェブカメラやヘッドセット、Wi-Fi関係もニーズが高まり品切れを起こしている。ゲームクリエイターの在宅勤務による特需は他にもあり、多くの方はケーブル各種に始まり椅子やモニター、机、ベビーバリケードなどを準備した様子だ※。
※筆者調べ 自社アンケート調査による
ゲーム開発の転職市場動向
また、私が所属するC&R社は、全てのゲーム開発会社をクライアントとしているので多くの情報が入ってくる※。就業関係での困り事の相談も多い。例えば本来は派遣社員として新規でジョインすべき人がいても、クライアント側の担当者が在宅勤務のため、受け入れができない状況があり、ジョインが延期になったり見合わせになったりしている。
※クリーク・アンド・リバー社はゲーム開発市場に対して人材派遣、人材紹介、500名のスタジオでの請負を行なっている
転職市場においても面接日程が組みづらく選考が長引く傾向にある。その分現場ではリソース不足が継続されることとなる。また、新卒の受入研修ができずに困っているという相談も受ける。確かに即戦力ではない新卒には研修は必須なのだが、研修自体が厳禁とされている「3密」にあたるため困難な場合が多い。総じて経験の少ないクリエイターにとっては厳しい環境であると言える。
ゲーム開発市場においては他の問題もある。アンケート調査から受託系の仕様書に沿って物作りをするクリエイターは生産性が上がっているが、最も川上のゲームを煮詰めて作るものを生み出す現場では濃厚なコミュニケーションが不可欠でWeb会議ではこの問題を十分に解決できないでいる。仕様を決定したり面白さに言及したりする部分は複数人で揉み込んでブラッシュアップする作業が必要なためだ。また意思決定やスピードを求められる瞬間も多く、これもWebでは解決できない問題となっている。
総じて、一般マスマーケットでは不況の兆しがみられるが、ゲーム市場おいては在宅勤務が好影響を与えている。ゲームの売り上げ自体が好調で、問題も多々あるが開発は活況となっている。新規タイトルをローンチさせることは難易度が高まるが、既存運営タイトルで好調のタイトルがある企業にとっては企業努力で状況を好転することができる。
ゲームは批判されることもあるが、こんな時だからこそ日本を明るく豊かな国にするために、胸を張って良質なゲームを作ることに微力ながら貢献したい。
文:クリーク・アンド・リバー社 デジタルコンテンツ・グループ チーフプロデューサー 下條聡男