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「BTSファン経済圏」の先にあるもの──「NFT」から「DAO」へ

*本記事は、以下noteの転載になります。
https://note.com/yuyasan/n/n65c43af16423

あるエンタメ業界の人に「BTS(防弾少年団、バンタン)がとにかくスゴい」と噂を聞きました。「何が?」というと、BTS自身だけではなく「ARMY」と呼ばれる彼らのファンたちがスゴいというのです。

有名なエピソードは、初の英語楽曲「Dynamite」を米ビルボードのシングルチャートで1位に押し上げたARMYの底力です。

発売直後から、チャート上位を獲得できた最大の理由はダウンロード(DL)販売です。1週目の売り上げは30万枚(うちDLが26万5000件)。その後も売上を伸ばし、ヒットランキングに定着しました。CDにオリジナルグッズなどの「特典を付けたから」ではありません。なぜDLの売上を伸ばせたのでしょうか?

BTSが所属するBig Hit Entertainment(現HYBE)の戦術は、複数のリミックス・バージョンを用意することでした。初期に公開したリミックスに加え、9月には「NightTime(Slow Jam/Midnight/Retro/Bedroom)」を追加し、9種類のリミックス・バージョンでリリースしました。すると、一時はiTunesのチャートのトップを独占するなど、各種チャートを席巻したのです。

さらに同曲は、YouTubeでの配信直後の24時間で1億110万回が再生され、英ギネスワールドレコードに「24時間で最も再生されたユーチューブビデオ(Most viewed YouTube video in 24 hours)」として記録されました。

BTSに関するさまざまな話題がSNSやネットニュースに飛び火することで、認知が広がり、さらなる新たな潜在顧客にリーチすることで、楽曲のセールスにとって好循環となりました。

ARMYの驚くべき「行動力」

こうしたBTSの躍進を支えているのがARMYと呼ばれるファンたちです。戦略コンサルタントのBTSファンが書いた記事を参考にして、個人的に特に驚いた4つを紹介したいと思います。

1. 組織化(Organize)

どうすれば「Dynamite」をチャート1位にできるのか? YouTubeでギネスを取るにはあとどれくらい再生回数が必要か? ARMYの中には、こうした1つの目標に対して、SpotifyやYouTubeなどのプラットフォームのアルゴリズムを「リバース・エンジニアリング(仕様や構成要素を逆探知する)」するファンがいます。

こちらのツイート(↓↓↓)のリンク先にあるWEBページには、「どうすればYouTubeでのストリーミング再生を効果的に行えるのか」を案内したチュートリアルがあります。

BTSがトップを獲得するための効果的なアプローチは、すぐにSNSで共有され、ファンたちの行動に移されます。今、どのような投票イベントが行われているのかをまとめるファンのTwitterアカウントがあるなど、ARMYは高度に組織化されています。

2. 募金(Fundraise)

すべてのファンが「お金持ち」というわけではありません。また、DL販売では1人のファンが購入できる楽曲は1つ。そこで登場したのが、ファンから寄付を募り楽曲購入資金などをお金のないファンに分配するファンドです。こうしたアカウントはARMYであるファン自らが運営しています。

こちらの記事に詳しいですが、1位獲得という目標に向けてGoogleフォームで応募を受け付け、購入の証明はスクリーンショット画像でやり取りするようです。さらに、スプレッドシートで資金の履歴を管理することで透明性を高めるなど、プロさながらにオンラインでコラボレーションします。

3. 翻訳(Translate)

ライブ配信、各国のメディアで行われるインタビュー、雑誌の記事などBTSの活動は、すぐにファンのSNSで共有されます。BTSのファンはグローバルに広がっているため、Twitterなどで翻訳があっという間に共有されます。

たとえば、こちらのツイートでは、メンバー7人のそれぞれに動物の絵文字が使われることで、すばやく発言がわかるような工夫を解説しています。放送のすぐそばでTwitterで同時通訳されているようなものです。ファンのチカラで言語の壁を感じさせないのは、本当にすごいです。

4. 研究(Research)

BTSは「ボーイズバンドに夢中なのは10代の少女だけ」といった偏見にさらされることが多くあります。そうした見方に対抗するため、ファンはBTSとARMYによって生み出されたアート的側面、経済効果、社会や文化への影響などについて論文を提出しています。

2020年1月には最初のBTS学術会議が英国のキングストン大学で、第二回目は2021年5月にカルフォルニア州立大学で開催されました。さらに、BTSを評価する前に知っておくべき知識をまとめた「スターターガイド」をGoogleドキュメントに独自でつくるなど、自主的なファンの研究活動が活発に行われています

なぜARMYは「行動力」を持つようになったのか?

BTSのファンであるARMYがアクティブに活動するようになった理由として、次の2つのポイントを挙げたいと思います(あくまでファンではない私の見方です)。

(1) 成長ストーリーへの共感

韓国にはビッグスリーと呼ばれる芸能事務所(SM/JYP/YG Entertainment)があり、アイドルはそこに所属しないと売れないといわれてきました。BTSが所属するのBig Hit Entertainmentは、もともとは弱小の芸能事務所でした。そのため、BTSはテレビなどメディアに出られず、不遇の時期をARMYと共に過ごしました。

楽曲の購入やSNSでの発信など、ARMYからの多大なサポートを受けて、BTSはスターへの階段を駆け上がりました。Big Hitは、BTSの成長とともに大きくなり、2020年10月に上場。時価総額は一時1兆円を超えました。
またBTS株自体がファンのグッズの様なコンテンツになり、初めて株式投資を行う若者がBTSきっかけで大量に増えた事も注目すべき点です。

BTSは、自分たちの”弱さ”を隠さずファンへ伝え、率直に歌いやパフォーマンスしました。こうした1つのアイドルグループが成長するストーリーを共有し、ARMYはその共感を力強い行動に移したのです。

(2) 成長を記録した「膨大な素材」と「切り抜き動画」

BTSは早い時期からSNSでファンと積極的に交流する機会を提供してきました。メディアに出られないこともあり、Big Hitは自社でカメラをまわし、さまざまなBTSの舞台裏をVlog(ビデオのブログ)として撮影。バラエティ番組を自社で制作して、早い時期からYouTubeを活用するなど、BTSが成長していく過程において膨大な写真や映像があります

そこで登場したのが「YouTube切り抜き動画」です。2ちゃんねる創設者ひろゆきさんの「何にもしなくてもチャリン​チャリン入る」という発言で日本でも大ブレイクしましたが、BTSにも同じように非常にたくさんのARMYがつくった切り抜き動画があります。

たとえば、こちらのARMYが創った動画は(↓↓↓)BTSがトップアーティストになるまでの過程をまとめた動画を見ると、とても苦労してきた様子がわかります。

でも「著作権は大丈夫?」と気になるところです。それが調べてみると、なんとBTS(Big Hit)は公式がYouTubeやTwitterにアップした動画や画像をARMYが編集することを黙認しているようです。あまりに行き過ぎたものはNGとなるケースもあるようですが、公式が暗に認めているというのは驚きです。

ファン経済圏をどう創るか?

ここまでをまとめると、BTSのファン(ARMY)になる流れはざっくりと次のようになります。

・ネットニュースやチャート1位で「BTS」のことを認知する
・興味を持ったので曲を聴いてみようとYouTubeで「BTS」を検索する
・関連動画の枠に「切り抜き動画」がたくさん表示されるので見る
・BTSが苦労した時代のことを知り「成長ストーリー」に共感する
・もっと知りたくなってオリジナル動画など「課金コンテンツ」を見る
・応援したくなってARMYとしてさまざまな活動をする

調べてみて思ったのは、エンタメ企業であるBig Hitがファンの切り抜き動画を黙認するなど、ファン(ARMY)をとても大切にしている姿勢が印象的でした。SNSの登場により、ファンが今まで以上にコンテンツに大きな影響力を持つようになったことを知り、「ファンエコノミー(経済圏)」を考える上でとても学びが多いと思いました。

ただ、BTSとARMYの関係性から学ぶことは多くても、再現性があるかと言われれば微妙で、かんたんには真似できるように思えません。BTSの場合「成長ストーリーへの共感」という要素は決定的だと思いました。

では、どうしたらエンタメに関わる企業がどうやったら再現性の高い「ファンエコノミー」を創れるのでしょうか?

私はGaudiyというスタートアップで、多様なエンタメ領域で(漫画、アイドル、ゲーム、スポーツetc..)の公式ファンコミュニティサービスを大手エンタメ企業と複数展開しています。
参考例: 「約束のネバーランド公式コミュニティ」

そこでの経験を基に、再現性の高い「ファンエコノミー」をどう創れるかを考えてみたいと思います。

「NFT」がファンの活動をアクティブに変える

BTSをはじめとするK-POPアーティストがコンテンツを配信するアプリにネイバーの「V LIVE」があります。V LIVEが面白いのは「ファンサブ」と呼ばれるファンによる字幕作成が定着していることです。

この記事に詳しいのですが、翻訳をすればするほどレベルが上がり「バッジ」がもらえ、優れた翻訳者はサイト上で「Best Members」として紹介される。あるいはV LIVE上で使える通貨(V COINS)がもらえます。

実は、私たちGaudiy(ガウディ)が運営するファンコミュニティでも同じような仕組みを導入しています。ファンはコミュニティ内でさまざまな活動をすることで「コイン」や「デジタルトレカ(NFT)」が配布されます

インセンティブ(外発的動機づけ)としてもらえる「デジタルトレカ」はコレクションできるので、ファンとしては収集することの楽しさがあります。これがモチベーション(内発的動機づけ)につながります。

さらに、ファンたちの熱心な活動により、ファンコミュニティの人数が拡大したときに、もっと面白いことが起こります。手に入れた「デジタルトレカ」を売買できるマーケットプレイスをつくることで、ファンがあとで値段が上がったときに売ることができるのです。

以前、トレーディングカードゲームの「マジック:ザ・ギャザリング」で希少な「ブラックロータス」が約5380万円で落札されたというニュースがありました。

これは同ゲームが30年近い歴史があり、「もっともよく遊ばれているTCG」などでギネス世界記録に認定されるなど、ファン層が拡大してきたからだと言えます。

デジタルトレカを発行する仕組みとしては「NFT(Non-fungible token)」が登場しており、デジタルデータに価値を付けることができるようになりました。私たちGaudiyもブロックチェーン・スタートアップなので実装は得意です。

デジタルトレカなどのNFTをファン活動のインセンティブとして使えれば、コンテンツ提供側とファン側の双方にメリットがあります。

・パブリッシャー(発行体):発行コストが大きくかからない
・ファン:自分の応援活動でファンが増えれば値上がりが見込める

これはスタートアップの「ストックオプション(従業員が自社株を一定の行使価格で購入できる権利)」に近い機能だと思います。

ファン経済圏の先にあるもの──「NFT」から「DAO」へ

株ではなく「デジタルトレカだ」というところがポイントです。この最大の利点は「単にコレクションとして持っていたら、いつの間にか値上がりしていた」というように、デジタルトレカだと「金銭的な価値があること」をほとんど意識しないのです。

「値上がりするから購入する」というのは、やはりファンにとってはダサい。なので、

・大好きな「○○○○」のためにたくさんファン活動をする
・ファン活動の内容に応じて「デジタルトレカ」がもらえる
・みんなの熱心なファン活動によりファン層が広がる
・初期の希少なデジタルトレカは欲しいファンが増えるので値上がりする
・ファン活動に熱心で古参のファンほどメリットを享受できる

という流れがベストです。人気になる前に「発見する」ということには喜びがあり、今まで以上に楽しめるはず。自分だけの「推し」を見つけて、応援してファンが盛り上がれば、みんなの持つNFTの価値が上がるという楽しさが加わります。

この「消費する→応援する=投資になる」という流れは、とても良い仕組みだと思っています。BTSのように強烈なストーリーがなくても、NFTのインセンティブ(外発的動機づけ)とファンのモチベーション(内発的動機づけ)との両輪の歯車が噛み合えば、「ファンエコノミー」がうまく回りだすのではないかと私たちGaudiyは考えています。

共感するものに人々(ファン)が自律分散的に集い、その実現や価値向上のために活動し、個々の価値貢献に対してフェアにインセンティブが還元される。こうしたコンセプトは「DAO(ダオ:Decentralized Autonomous Organization)」と呼ばれており、世界で注目が集まっています。

たとえば、DAOの実現を目指すスタートアップ「BitDAO」は、著名な投資家であるピーター・ティールらから約250億円(2億3000万ドル)を調達して業界の話題となりました。

このDAOを創るには、ファンの求心力が高い日本のエンタメコンテンツがいちばん良いと考えています。アニメやゲームはNFTの発行に向いているので、「ファンエコノミーの再現性」も高いはずです。世界が驚くような圧倒的なファンエコノミーを日本から創りたいというのが私の決意です。

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今回の記事では、BTSのファンエコノミーからの学びを、自分たちのファンコミュニティ運営に近づけて考えてみて、「NFT」や「DAO」コンセプトが描く「エンタメの未来」を言葉にしてみました。うまく伝わっていればうれしいです。

最後に宣伝。私たちGaudiyは、SonyMusicや集英社、アニプレックスなど日本のコンテンツ業界を牽引するエンタメ企業と一緒にNFTやブロックチェーンを活用したサービスを多く展開しています。

特に、「DAOコンセプト」ならばBTSのファンエコノミーを超えるかもしれない「めちゃくちゃすごい経済圏がつくれるはずだ!」と信じてます。チームや組織もDAOコンセプトを大事にしています。もし共感してくれたなら、Gaudiyでは採用を強化中なので、いつでもご連絡ください。

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