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ちょうど1年前、クアンドは、ALL STAR SAAS FUNDをはじめとする投資家の皆様から、初めての資金調達を実施しました。今回は、リード投資家であるALL STAR SAAS FUNDマネージングパートナーの前田ヒロさん、同じ福岡県のB2B SaaSの大先輩である株式会社ヌーラボ代表取締役橋本正徳さんをお招きして、『地方×SaaS』をテーマに、地方からSaaSスタートアップをやることの意義やイノベーションを取り巻く環境の変化についてお話をうかがいました。
イノベーションハブの分散化
下岡
前田さん、この度はクアンドに投資してくださってありがとうございます。そして、その前田さんと繋いでくださったのは、橋本さんでした。ありがとうございます。
今日は、『地方×SaaS』というテーマで、ということなんですが、お二方とも、グローバルに活動されているので、東京か地方か、という狭い視点ではなく、もっと広い視野でお話を伺いたいなと。おふたりはスタートアップに携わってもう10年以上経つと思いますが、この10年で大きく変わったなと思うことはありますか?
橋本さん
ヌーラボが創業したのは2004年でしたが、当時はまだ「スタートアップ」という言葉なくて。当時は「ベンチャー」という言葉が流行っていて、第三次ベンチャーブームでした。
前田さん
2004年はまだ高校生でした(笑)ただ、その頃、FacebookやTwitterが立ち上がって。Facebookははじめ大学生しか使えないというのがすごく印象的でした。僕の中では、スタートアップ=シリコンバレーというイメージで。当時認知していたプロダクトやサービスはすべて、シリコンバレー発でしたね。
VCとして投資をスタートしたのが2009年頃ですが、当時はシリコンバレー一極集中で、それを追いかけようとしているのが東京だった。でも今はNYでも著名なスタートが生まれてるし、イスラエルやトルコといった土地からもユニコーン企業が誕生している。イノベーションのハブがどんどん分散している、という印象があります。
日本も同じで、ベンチャーといえば東京だったのが、今は東京、地方関係なく、あちこちからスタートアップが生まれているなと。
橋本さん
地域による差って何かというと、情報による印象の差だけな感じはしますね。2004年当時も、ICQをはじめとしたイスラエルなどアメリカ以外を出身地に持つサービスがインターネット業界に流通してました。だけど、誰かがシリコンバレーがナンバーワンと言ったから、ベンチャーといえばシリコンバレーなんだというイメージがついたのかなと。東京も同じことだと思う。ジャストシステムさんやサイボウズさんなど東京以外の場所で生まれたサービスも多くありますが、東京だけにしかベンチャーがないイメージがついちゃっている。
下岡
私は2009年に大学のプログラムでシリコンバレーに行ったんですけど、その時、シリコンバレーの歴史を知りました。元々シリコンバレーは軍事産業の都市で、そのあとに半導体産業の都市になり、ITの都市になったと。世界大戦中は、軍事の力こそが国の力であり、各国が軍事産業の技術を競い合っていた。その後半導体の時代を経て、当時はWEBの時代へと変わろうとしているころ。そういう歴史や風土をもった土地というのも起因して、イノベーションのハブだったのでしょうが、ここ数年そのハブが分散化したのはなぜでしょう?
前田さん
1つは情報の民主化でしょうね。昔は本当にシリコンバレーにいないと得られない一次情報があったと思います。例えば、研究だったり、アイディアだったり、人材、テクニックといったもの。それが、最近はオンラインで情報が拡散されて、オンラインで人の交流ができて、どこからでも情報が得られる状態になった。さらにその情報が一次情報に近くなっているというのが大きいと思います。
2つ目は、マーケティングがオンラインで完結するようになったということ。昔は物理的に近くに顧客がいないと営業ができず、自分の顧客がいるところに会社を作っていたけれど、オンラインでセールスができるなら営業戦略上もシリコンバレーにこだわる必要がなくなったんですね。
そして、3つ目。まさに今起きていることですが、働き方が自由になったということ。リモートワークが主流になってきて、リモートファーストという会社もたくさんでてきていますよね。ZapierとかGitHubも、リモート中心に展開してます。これもイノベーションのハブを分散させている要因だと思います。
下岡
ヌーラボさんはリモートワークをかなり早いタイミングで取り入れられていたイメージがありますね。ヌーラボさんははじめから、社内も営業もオンラインという感じでしたか?
橋本さん
当時はリモートワークというより、リモート受注でしたね。東京の案件を福岡で受注している感じ。2010年あたりの中小企業白書を見ると、できるだけ遠い距離のところにものを売っている会社が成長してたんです。だから、ヌーラボもできるだけ遠いところに売っていくことに注力していこう!って考えたりしました。
起業したばかりの頃って、どこの会社もみんなリモートワークになっちゃうんですよね。事務所を持つお金がないから、自宅で働く。ヌーラボは社員数が増えてきて、一旦オフィスを設けたけど、また今、リモートを推し進めています。リモートワークにしてよかったなぁと思う一方で、事務所をもったときの俺たちの城ができたぞ!という嬉しさを覚えているので、今はオフィスなんていらない!という声が大きくなっていて、少し寂しさも感じますね。
イノベーション促進の鍵は「IT人材がどこにいるか」
下岡
日本で現場仕事向けのサービスを提供するときは、ANDPADさんなんかも、現場に行って、丁寧にオンボーディングをされているようですが、これは全世界同じなんですか?それとも日本特有の文化で、海外だと現場向けのサービスでもオンライン完結したりするんでしょうか?
前田さん
それは、「IT人材がどこにいるか」ということが影響していると思います。海外、特にアメリカの場合、顧客側にIT人材がいるケースが多いです。建設業でも製造業でもCIOがいる企業が多いので、そういう企業は、CIOが中心となって、ITサービスの導入を行うので、サービス提供側は現場に行かなくてもサービスが完結できます。
一方で日本の場合は、IT人材はみんなIT業界にいて、ユーザー企業側にIT人材がいないことが多いので、サービス提供側が手厚くサポートする必要があるのかなと。
参考)総務省|平成30年版 情報通信白書 | 日米のICT人材の比較
橋本さん
たしかに、徐々に変わってはいくでしょうね。時間の問題な気がしています。今は年配の方のITリテラシーもどんどん上がってますから。僕はキャンプが趣味でYouTubeでキャンプ動画をよく見るんですが、普通のおじさまYouTuberもたくさんいますからね。年配の方でもスマホを使っている人もたくさんいるし、高度な動画編集もしています。みんなプライベートでは、色んなアプリやサービスにどんどん慣れています。レガシー産業といわれるような業態にはもう少し時間はかかるでしょうが、あと数年で大きく景色は変わると思いますね。
世界から見た日本のスタートアップ事情
下岡
話は変わりますが、ヒロさん(前田さん)は今シンガポール在住ですよね。シンガポールから見て、日本のスタートアップ事情はどう見えますか?
前田さん
本当に今はスタートアップにとって環境がよくなってると思いますね。セールスやマーケティングのあり方は10年前は海外の事例を参考にしていたと思いますが、最近日本が最先端なのではないかと感じるケースも多いです。フリマアプリなんかは、日本から世界に概念が拡がっていたような感覚はありますね。
下岡
日本が強い部分って、日本人の気質が何か関係していたりすると思いますか?
橋本さん
感覚ですが、0→1フェーズはあまり日本は得意ではないなと。暗黙知を形式知に変えるフェーズ、例えばAIを作ることは苦手だけど、AIを使うということはとても得意。形式化されたものを、ガッと大きく広げるのが得意という部分は、日本人の真面目さや勤勉さも関係しているのかなと思いますね。発見・発明をするよりも、その発明をどのように活用していくか、いわゆる出口戦略が強いんだろうと思います。
実は、日本も発見・発明が苦手なわけではないんですね。パテント(特許)を獲っている「数」だけでいくと、日本もかなりの数を取っていると思います。でもそれを伸ばしていこうというフォロワーシップよりも、バッシングの方が大きかったりするので成長しないから、結果的に0→1フェーズが不得意のかなと。なので、出口戦略は日本の強みですが、実は入り口の部分も上手くやると強みになるかな、と思います。
参考)https://www.matsuda-pat.com/tokkyo-nagare/kensuu.html#section3
下岡
僕は、その地域にどういう課題があるのか、がその国の強みになるんじゃないかと考えています。例えばイスラエルは地政学的に国防や軍事が非常に大切な国なので、サイバーセキュリティ系のスタートアップがとても勢いあるし、中国は国や自国の貨幣を信用していないので、信用(Fintech、シェア、 スコアリングなど)に関するスタートアップが多い。インドネシアは交通網が発達していないので、交通系や物流系のスタートアップが強いなと。じゃあ、日本って何だろう?と考えると、1つは少子高齢化による人材不足の課題だと思っています。なので、日本で人材不足を解決するスタートアップは成長するのではないかと思います。
前田さん
そう思いますね。課題が多いからこそ、チャンスもたくさんある気がします。日本は少子高齢化による労働人口の減少で、どの国よりも自動化や効率化へのニーズと緊急度が高いですよね。インドやインドネシアに投資をすることもあるんですが、そこでは何か課題があっても、人を採用すればいいや!という考えが根本にあるんですよね。なかなかそういう国は、自動化や効率化をテーマとしたプロダクトは生まれにくいと思います。だからこそ、課題の数だけ、チャンスがあると思いますね。
地方はスタートアップにとって最適な場所
下岡
そういう意味では、日本の中で考えても、地方にしかない、東京にはない課題ってたくさんあると思うんですよね。例えば、交通や物流の課題。地方は東京ほど、公共交通網が発達していないので、地方ならではの課題というのがたくさんあると思います。地方とスタートアップはとても相性がいいんじゃないかな。
前田さん
まさにそうですね。さらに今は、人材の流動化も進んでいます。元々、ITエンジニア職は場所を選ばずどこからでも働ける状況でしたが、セールスやマーケティング系の人材は東京に顧客がいるから東京にしかいないという状況でした。今はオンライン化が進んだ背景もあって、地方にもセールスやマーケティング系の人材が増えるようになってきましたよね。それも地方発スタートアップにとってはいい動きですよね。
橋本さん
たしかに、物理的に東京にいないとできない仕事、例えば新聞やテレビといったメディア密接な関係にあるPRや銀行や証券取引などの金融系の仕事はこれからも東京に集中するでしょうが、それ以外のほとんどの仕事は場所を選ばなくなりましたね。ヌーラボも一部の職種を除いて、全世界の拠点に各職種が分散していますね。
下岡
地方スタートアップにとっての1番のネックである「人材」という壁は、昔に比べてどんどん解消されているでしょうね。
一方で、僕が東京がいいなと感じるのは、起業家のコミュニティです。ちょっと困った、こういうの他社ではどうやっているんだろう?というのを気軽に相談できるコミュニティがなかなかない。もちろんオンラインで繋いで話すことはできるんですが、そうではなくて定期的に飲んで、色々話し合う、というのはとても羨ましいです。もちろん、福岡にも起業家コミュニティはありますが、母数が違うので、同じBtoBや現場向けのサービスを展開している起業家、となるととても少ないんです。
橋本さん
それはわかりますね~!社長ってなかなか褒められることがないから、同じ起業家同士で褒め合いたい!笑
前田さん
僕は、「自分のまわりにいる人が自分をつくる」と思っているんですね。例えば、野球で一流になりたければ、一流が集まるメジャーリーグに行くべきだし、バスケならNBAに行くべきで。それは経営も一緒だと思いますね。「人=経験の質」という意味で。
橋本さん
良し悪しはあると思います。「渇き」というのは大切な要素。もっと褒められたい、もっと認められたい、という「渇き」がエンジンになることはとてもあると思います。もし、東京で起業して、東京の起業家コミュニティでたくさん褒められていたら、もう十分満足だなと思ったかもしれないです。笑
前田さん
そうですね。僕もシンガポールにいるので、ある意味ノイズが入らない環境なんですよ。東京にいるといろんな情報にアクセスできるけれど、アクセスしなくてもいい情報もたくさん流れ込んできます。そういったノイズからシャットアウトされて、集中できる環境にいられるのは、東京を離れたことのメリットの1つですね。必要な情報にアクセスしたいと思ったらアクセスできるけど、アクセスしたくないときには自分の意思で情報を遮断できるということです。
橋本さん
地方にいるからこそ、インプットとアウトプットのバランスは常に意識しておかないといけないなと思っています。インプット過多になってもいけないし、アウトプット過多になってもいけない。ちょうどいい塩梅にコントロールすることが大切だなと。
下岡
たしかに、ヌーラボさんは社外にむけた勉強会などのアウトプットが盛んですよね。
橋本さん
勉強会みたいな場は、実は社内、メンバー個人個人にとってもすごく有効なんです。
前田さん
あとは、常に高い目線を持ち続けることはとても大切だと思います。コミュニティから遠いところにいるからこそ、常に自分に高い視座をもたせておかないといけないなと。そういうのは日頃のルーティンで意識をしています。
下岡
実はあるVCには、東京に出てきた方がいいと強く進められました。起業家は自分で自分を律することができるかもしれないけど、メンバー全員そうとは限らないからと。必然的に目線が高くなるように東京に出たほうがいいという意見です。
前田さん
グローバルスタンダードのマインドセットはとても大切ですよね。起業家もメンバーもこれは同じです。東京と言わずに、一流の視点をもって、高い水準で働くというのはどこにいても同じだと思いますね。
橋本さん
働く場所や住む場所に関係なくグローバル意識を持つこともできると思います。僕がエンジニアに勧めるのはOSSのコミュニティに参加すること。OSSは世界中の優秀なエンジニアが集まっていて、自分がすごい!と尊敬するエンジニアを勝手に自分の先生にして、その人の書いたプログラムを読んで勉強できるのですから。これほど最高の環境はないと思います。
下岡
なるほど。クアンドのエンジニアもOSSに積極的に参加してもらいたいです!いやーそろそろ時間ですが今日はたくさん学びがありましたね。
前田さん
最後に採用候補者向けにクアンドをアピールしておいた方がいいんじゃないですか?笑
下岡
そうでした!ナイスパスありがとうございます。
良いプロダクトやサービスって良い課題から生まれるものだと思っているのですが、地方には沢山の課題が眠っています。しかもその課題が目の前の触れられる距離にある地方は、スタートアップにとってチャンスしかない場所だと思ってます。今は地方でも、様々な情報にアクセスしやすくなっているので、東京と比較して、地方も遜色ない、というよりは、地方の方が有利な点も増えてきていると思います。
僕たちクアンドは、SynQという現場向けのSaaSプロダクトで、製造業、建設業、設備管理業の現場を変革し、地域産業・レガシー産業をアップデートしていこうとしています。
また、地方という物理的制約に縛られず働けるように、東京・福岡・沖縄の好きなオフィスで働ける3拠点パッケージという福利厚生も作りました。
今後は地方SaaS企業も続々と出てくると思いますが、クアンドはそのパイオニアとして、福岡発のグローバルスタートアップ企業を目指していきたいと思っています。これから面白いフェーズに入るので、ご興味のある方は是非ご連絡お待ちしています!