人と人との繋がりを生み出すソーシャルコワーキング®ビジネスの背景には、「この人と出会わなかったら、こんなことできなかったな」と思えるような人との出会いがあります。今回は嶋田さんの生い立ちや、大学や新卒時代に影響を受けた人物とのエピソードをインタビュー。ATOMicaの事業構想がどのように生まれたのか、スタートアップ企業としてどのような価値提供をするのか、その背景に迫ります。
人物紹介|Co-CEO 嶋田 瑞生(シマダミズキ)
1994年仙台生まれ、 東北大学卒業。大学1年生の冬にGamificationの領域で起業。会社経営を通じて様々なオトナと出会い、 そして共創が起きていく面白さに気付く。その後、靴磨きを通じて学生のキャリア教育と地域活性をめざすビジネス団体を立ち上げ、仙台市長に表彰を受ける。
新卒では株式会社ワークスアプリケーションズにエンジニアとして入社し、顧客巻き込み型の開発スタイルを学ぶ。その後、転職活動をする中で創業メンバーや各地の方々との思いもよらぬ出会いがあり、2019年4月にATOMicaを創業。創業から5年で累計資金調達額は13億円、従業員数は100名を超え、北海道から沖縄まで事業展開を進めている。
人が人に与える影響って面白いし、何ならちょっと怖い
──「人と人との繋がり」を意識し始めたのはいつ頃ですか?
小学5年生のころ、周りの強気な女の子達に圧倒されていた僕は、ちょっと控えめな性格でした。それでも漫画で読んだようなキラキラした学生生活に憧れを持ち、中学では命がけで友達を作ることを決意。
友だちと人間関係を対等に築くためにはどうしたらいいのか?中学生なりに必死に考えてトライ&エラーを繰り返した結果、ありがたいことにだんだんと友達に恵まれ、なんなら中学1年生の夏は彼女ができて、部活も勉強も成績がぐんぐん伸びていきました。
当時を振り返って感じるのは「人が人に与える影響って面白いし、何ならちょっと怖い」ということ。というのも、周りの人との関わりが影響して小さく縮こまっていたはずの僕が、新たな人と繋がることで、超V字回復の人生を歩むことになったからです。
人との関わり方次第で、自分の人生は大きく揺さぶられると、子どもながらに気付いた瞬間でした。
──控えめな少年が学生起業を志したきっかけは何ですか?
あまりお話していないのですが、実は友人からある日突然「一緒に起業しないか」と誘われたからなんです(笑)。歳は違えど同じ高校、大学の仲間であり、履修している講義が多く被っているなど、なにかと縁を感じる面白いヤツからの起業の誘いに二つ返事で乗っかったのがきっかけです。
小さな頃から「将来の夢は?」と聞かれるのが苦痛なタイプだった僕は、それまで「起業」なんて全く考えておらず、むしろそんな目立って責任のある仕事は嫌だ!と思うほどでした。
まさしく「この人と出会わなかったら、こんなことできなかったな」の原点ですね。
そして僕たちはGamificationの分野で起業をしました。共同創業者と一緒に受けていた授業でビジネスゲームを扱ったことがきっかけで、はじめはゼミの先生が作っていたゲームを代わりに売ったり、イベントや研修で活用したりするところから始めました。
ゲームって能動的に取り組もうという気持ちになる仕組みがありますし、なにより楽しい。あらゆる物事をゲーム化して、誰しもがカジュアルに楽しく学べる仕組みを作れたらどんなに楽しいだろうと思い、どんどん魅了されていきました。最終的にはゼロからオリジナルでゲームの企画・開発・提供を通じて、上場企業の管理職から新卒学生まで様々な方に学びを届ける仕組みを作っていました。
気持ちの良いおせっかいが人生に影響を与える
学生起業の活動に精を出していると、地元の先輩方に可愛がってもらえる機会が多く、良くも悪くもおせっかいをたくさん受けました。「もっとこうしたらどう?」「そんなに頑張ってるなら手伝うよ」など、大人たちの有難いおせっかいを受けて、自分たちの可能性が飛躍するきっかけを得たり、自分の中の制約がとれる瞬間を数多く経験したりしました。
誰かの力を借りることで一人では出来ないことができる、というのは勿論ながら、「そういうもんだ」と思い込んでいた制約や呪いを沢山取り払ってもらったことにすごく感謝をしています。中でも、「嶋田くんさぁ、なんか優秀そうだから色々そつなくできるんだろうけど、”こうしなきゃ”的な義務感があるんだよなぁ。仕事って楽しんじゃいけないって思ってない?思い切り楽しんでいいもんなんだよ?」と言われた一言が今でも心に残っています。
学生起業を通して、「頼り頼られる関係性」の多さが人の幸福度につながると気付きました。つまり「頼り頼られる関係性」の多さが価値尺度であるという考えです。この考えは今のATOMicaの事業構想に影響を与えるものでした。
あらゆるビジネスの着地点は課題解決か価値創造。新卒時代に得た事業のヒントとは?
「今の自分たちでは、生み出せる価値に限界がある」と思うようになり、僕たちは大学4年生の3月に事業を閉じました。新卒では学生起業家時代に出会い、その熱量に感銘を受けた牧野さんが当時CEOを務めていた、ワークスアプリケーションズに入社します。
ワークスアプリケーションズの主な事業内容は、誰もが知る超大手企業が活用できるレベルのERPパッケージの開発です。僕の名刺上の肩書はアプリケーションデザイナーでしたが、問題解決に関すること全てが業務スコープでした。
配属された部署は超大手建設会社様の契約業務、請求回収、プロジェクトマネジメント、会計システムへのデータ連携など本当に幅広いスコープの機能化を担っており、黙々とPCと向き合っているだけでは当然ミッションは実現できず、お客様や社内の他部署を思い切り巻き込み、共創をしながら推進していく必要がありました。
僕の職種は「エンジニア」のくくりではあるものの、営業やコンサル、マーケティング色の強い業務内容が特徴的だったと思います。「目の前の人のことが好きだ!もっと知りたい、力になりたい!」という自分の個性を活かした面白い開発ができたなと、今振り返って思います。
──ATOMicaのビジネスに影響を与えた経験や知見はありますか?
1社目の仕事を通して「相手を正しく理解する」能力やビジネスの基礎となるコミュニケーションスキルを学びました。それと同時に「価値創造軸」について学べたのは大きな収穫だったと思います。
価値創造軸とは、あらゆるビジネスの着地点は「課題解決」か「価値創造」の2つである、という考え方です。仕事のアウトプットの在り方や解釈のことですね。社会人の早い段階で「世の中のビジネスは課題解決か価値創造に分けられる」ことを知り、人々の中にある悩みや事柄を整理し理解を深めて解像度を高め「課題」として特定さえできればビジネスで勝てると体感できたのは、大きな学びでした。
もう1つ、ワークスアプリケーションズの仕事で学んだのは「パッケージ化」の考え方です。
同社が提供するERPパッケージの導入シェアは業界随一であり、ありとあらゆる会社の業務をアプリケーションに反映しています。「A社に必要な機能はB社やC社にも求められる」という思想のもと、機能の標準化を行うパッケージ思想が特徴でした。今のSaaS全盛期では、当たり前の発想かもしれませんが、まだオンプレミスのシステムがギリギリ主流だった頃に、この考え方を学べたことはとても良い体験でした。
「パッケージ化×カスタマイズ」のヒントを得て全国の拠点展開に注力
このパッケージ化思想をヒントに、ATOMicaでは「この地域の課題は、他の街でも課題になり得る」という視点でパッケージ化に取り組んでいます。例えば、類似した産業構造を持つ北九州市と広島市は同じような課題を抱えているし、観光に強い宮崎市と金沢市は同じような課題を抱えているわけです。
パッケージとしてカバーできる範囲が広がれば、相手の要望にあわせたカスタマイズも可能になるのがポイントです。例えば、拠点プログラムの企画やオペレーション支援、コミュニティSaaSの開発といったパッケージ内容が充実するほど、顧客に提案する引き出しが増えていって、地域の特性にあわせたカスタマイズが可能になるというイメージです。
ソーシャルコワーキング®の拠点を全国展開する店舗ビジネスは、スタートアップ企業が着手するには手がかかるのでは?と思う方もいるかもしれません。ただ、僕たちは戦略的に展開する拠点を増やしてパッケージを充実させ、地域ごとのカスタマイズ性を高めながら事業価値を厚くしていく思想を持っています。これは、ワークスアプリケーションズ時代の考え方を参考にしたものです。
「頼り頼られる関係性」の価値にスタートアップ企業としてどう取り組むのか
──「人と人との繋がり」「頼り頼られる関係性」などをスタートアップ企業としてどう体現していきますか?
スタートアップ企業として、どのように「頼り頼られる関係性」をテーマとしたビジネスを骨太に展開していくのか。「社会課題の解決」と「価値証明」の2つの視点で考えています。
「行き過ぎた合理性」「単一解の疲弊」という社会課題を解決する
21世紀の社会課題は、行き過ぎた合理性や、単一解への疲弊だと僕は考えます。今は皆が当たり前にスマホをもっていて、SNSやネット検索をすればいつでもどこでも情報にアクセスできる便利な時代。ただ、情報にアクセスしやすいことが裏目に出て、同世代の"凄いやつ"と無駄に比較して凹んだり、悩んだりするケースが増えています。
例えば、東京の一等地で裕福な暮らしをして、高額な進学塾で学んで有名大学に入り、大企業に入社するといったいわゆる"エリート"と自分を比較して、落ち込んでしまう。そんな無意識に「正解(のように見えるもの)を押しつけられる」状態が、21世紀の社会課題ではないでしょうか。行き過ぎた合理性による不安や焦りは、誰しもが抱える社会課題であり、僕たちはその課題解決をする集団と位置付けています。
もう1つの社会課題は「単一解への疲弊」です。例えば「次の休みは仙台へ旅行しよう」と話が出たとき、"ググり力"が高い現代人はインターネットやSNSでおすすめスポットや宿泊先を見つけてきますよね。でも本来は、仙台出身の僕が「推し」を紹介したほうが、皆の満足度が高まる場合もあるはず。つまり、単一解ではなく個別解のほうが幸福度が上がるのでは?という視点です。
情報社会の現代では、インターネットを駆使すれば、何かしらの答えは見つかります。「仙台でおすすめの飲食店は?」「東北大出身者が新卒で受けるべき企業は?」など、ググれば情報を即座に得ることができます。
でも、僕の場合はたまたまの友人の誘いをきっかけに学生起業の道を歩めたし、地元の先輩方のおせっかいを受けたから「頼り頼られる関係性」をビジネスで表現したいと思えました。
人から"推し"てもらいながら意思決定を重ねていくことで、思いがけない突破口を見つけたり、予想もしなかった道を歩んだりできるはずです。
「頼り頼られる関係性」を築いて人々の幸福度が高まることが社会課題の解決になるし、人々の幸福度の向上にもつながる。すなわち、僕たちの事業はウェルビーイングをテーマにしているとも解釈が可能です。
「頼り頼られる関係性」の価値証明が2つ目のミッション
「人、ご縁、コミュニティ、繋がり」という言葉は、正直なところ胡散臭く思われがちで、本来の価値から目を背けられてきたと思います。
しかし人間は社会的動物で、コミュニティなしでは生きられないはずですよね。人との繋がりを求める生き物なのに、コミュニティや人と人との繋がりに対する資本主義上の価値証明を皆が諦めていることに気付き、僕らのミッションは「頼り頼られる関係性」の価値証明だと決めました。
「頼り頼られる関係性を増やせば人生の幸福度は上がる」という考えに共感する人は多いけれど、「頼り頼られる関係性」の数や大きさを計る方法を真剣に考えた人はいないはず。すごく抽象的で、計りづらいものですからね。
ATOMicaの手によって「頼り頼られる関係性を生み出せる人は社会価値の高い人だ」ということが証明されれば、今以上に「頼り頼られる関係性」は増えるはずです。僕らなりに価値証明を行うために、今までWISHやKNOT※1という言葉を生み出し、共創拠点を拡大させながら定量化を試みてきました。
※1 WISH(ウィッシュ)、KNOT(ノット)はATOMicaが生み出した言葉。WISHは願い事や相談事、悩み事など「自分ひとりでは実現できない願い」を指し、KNOTは「さまざまな願い(WISH)を一緒に叶えられる相手を結ぶ、繋げること」を指す。
少し話はそれるかもしれませんが、「絵が上手な事務の人」と言われていた人達の価値証明が進んだことで「インハウスデザイナー」という肩書きとなり、活躍の場を広げましたよね。
つまり、「人と人を繋げるコミュニティマネージャーのスキル」「ホスピタリティ」といったものの価値証明に僕らがチャレンジすれば、かなりゲームチェンジできると考えています。それこそ、接客業従事者が売上だけでなく、集めたWISHの量で評価されるようになったら面白いと思いませんか?
次なるステップは、ATOMicaが積み上げたアセット活用
スタートアップをはじめ地域の企業や学生、研究者など様々なステークホルダーの共創を促す拠点『YUI NOS(ゆいのす)』にて
──5周年を迎えたATOMicaは、どのようなステージを目指していますか?
ATOMicaが生み出したWISHやKNOT、全国各地の拠点やコミュニティマネージャーなどをアセットと捉え、これらのアセットの上に新たな事業を形作るのが次のステップだと考えています。
今日まで、全国各地に人と人との繋がりをつくり続けてきました。各地域につくった繋がりを土台とすれば、地域で事業展開を試みるスタートアップ企業への出資支援や、雇用関係事業など、さまざまな切り口で事業展開が可能です。
地域に入って泥臭く関係構築をしてきたからこそ、足腰の強いプラットフォームができたと感じています。そして、このプラットフォームはどの方向にも舵を切れるのが魅力です。
すでに何個か実証実験を進めていますが、ATOMicaのプラットフォームとアセットの活用方法は無限大です。今後は事業づくりのプロや、大型アライアンスが得意な人などがメンバーに加わってくれると嬉しいですね。とはいえ、ATOMicaには多様な人材を受け入れる風土が根付いているため、あまり気負いせずにドアノックいただけたら嬉しいです。
人と人を結び続けることで人類課題を解決し続けるのがATOMicaです。
アセットを生かした事業展開が進んだ先には、受発注の仕組みも変えられると期待しています。例えば「地域のステークホルダーを巻き込んで新規事業を立ち上げたい」という事業性のあるWISHから、「地域で共通の話題をもつ人とつながりたい」というカジュアルなものまで、ネット検索をする前に「ATOMicaに相談しよう」というアクションが生まれるのが理想ですね。そこから思いも寄らない個別最適解が生まれ、また関係性が結ばれていけば嬉しいです。
ATOMicaに行けば、思いもよらぬ出会いと巡り会える。そして、行き過ぎた合理性や単一解ではなく、人と人との繋がりの中で得られる個別解である"相手の推し"を信じて意思決定をしていく。このように、従来の意思決定プロセスとは全く異なる世界観を目指していきたいです。
明日が楽しみだ。そう思って眠り、いきいきとした顔で日々暮らす方が一人でも増えたら、その地域は「活性化」しているはず。そして、そんな地域で溢れたら日本は世界はもっともっと豊かになる。 人と人を結び続けることで人類課題を解決し続けるのが、私達ATOMicaです。
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