※2022.08.02 古くなったので修正。
謎のJavaくん(Duke)の絵は残しとこう。
もともとはけっこう古い記事です。
さて、今回のネタは、やや経験者向け。業界未経験だと、なんの話かわからんと思う。
昔は検索すれば2chのプログラマー板などがすぐヒットしたのだが、どうも今は事情が違
うらしく、スクールや求人関連のアフィリエイトブログが検索結果に並んでしまい、業界を詳しく知
る術がないみたいだ。
とりあえず『ggrks』と言えば済む時代ではないらしい。
1.まず、解雇規制の話。
シリコンバレーは報酬も高額で、SIerが少なく、技術者はエンドで雇用。アジャイル開発がメインである。それに対し、日本はゼネコンSIを頂点とした多重下請け構造があり、非効率で、プログラマーの立場が低い。
この対比は、よく見かける話。
常識的に考えて、市場も企業も経済性を求めて変化して行くはずなのに、日本のIT業界はもう何十年も変化がない。これは、SIの経営者の能力が低いからだ!
日本の技術者は被害者だ!
ここで思考停止すると話は(この記事も)ここで終わりなので、彼らは経済性を求めて変化している前提で推理します。
アメリカ側の年収を仮に1000万と仮定、(ITではない)システム開発の需要の為、エンドが雇用したとします。まーなんだかんだでシステム開発は成功。運用フェーズに移行するとします。
さて、ITではないエンドで、プロジェクトの最大時の頭数のSEが継続的に必要になるでしょうか? 仮にアジャイルであっても、継続的に作るモノがないとしたら、MAX人数の維持は経済的ではありません。 どうするのでしょうか?
解雇(レイオフ等含む)ですね。
日本企業とは違い、解雇規制が厳しくない為、契約期間は長くはありません。
※シリコンバレーの平均勤続年数が2年無いなんて話を昔どっかでみたが、今回統計は見つからなかった。調べた感じ、もう少しありそう? ほか、AMAZ〇NのSEの平均勤続年数は0.9年とか。
また、日本と同じように40代以上の技術者の価値は落ちていくそうです。
これもう、日本で例えたら、単にエンド直でやってるフリーランスですよね。
(1000万÷12ヶ月=83万) フリーだと考えると報酬も別に変じゃない。
エンド直でやるわけなので、年収2000万でもおかしな話じゃあないね。
コレに対し日本のエンドは、ITリテラシー以前の問題で、『解雇規制がある為、自社社員で自社向け開発が難しい』と言う事になります。(継続的にシステム開発需要が発生し、利益に結び付く業態は別。)
この問題に対し『エンドの技術者雇用のリスクを肩代わりする』のが、派遣会社であり、SIerです。
※というわけで日本は派遣会社の数もメチャ多い。
また、特に大規模なエンドに対してのサービス提供者が、いわゆる大手SIと大手派遣会社と、なります。 社員数・資本金の額がめちゃめちゃ多いのも、共通点ですね。大規模な開発を行う能力・大規模な人数の雇用を維持する能力・大規模な人数を投入可能な能力、が、まず必要になる訳です。
SIerは、複数の大手エンドユーザーからかわるがわる受注を取る事によって、エンドでは出来ない『大量のSEの雇用の維持』を実現しています。(実際には外部リソースを使用する前提で、自社に在籍している社員の製造能力以上の売上・利益を確保できる業態)
こう考えますと『解雇制限がある限り、SIerと派遣会社のニーズは消えない』と、言えるかと思います。代替品が登場しない限りは、全体として死滅すると言う事はまだまだないでしょう。
2.SIerは市場に合わせて効率化した姿であると言う話。
この話は特に、プライムベンダー級では顕著です。
SIerはその巨体を維持する為、大手エンドユーザーからの受注を取り続ける必要があり、SIの競合が増えたことから、この関係性はユーザー側有利であると思われます。(異論はありそうなとこだけども、そうでなくては、技術者不足といい続けながら、受注単価が下がってる理由が説明つかない)
エンドは、雇用のリスクに加え、システム開発失敗のリスクの肩代わりを望みます。エンドに専門人材が少ない事も背景にはあるかもしれません。この肩代わりにあたるサービスが、
『一括請負』
と言う契約形態です。
一括請負と言う契約形態に関しての問題点は、2015以前あたりで語られる事多かった印象、ここでは関係ない話ですし、避けます。気になる人はググってください。
※たとえばこれとか
http://tech.nikkeibp.co.jp/it/atcl/column/15/112600270/112600001/
さて、SIerは利益を最大化する為の進化をします。
ここで、キーワードとなるのが、『ウォーターフォール型開発』です。
※ウォーターフォールは、そもそも反復を想定してた。などなど。
http://simplearchitect.hatenablog.com/entry/2016/06/20/080807
実は、現行のウォーターフォールモデルは、アジャイル開発に対して、ひとつだけ確実にメリットと言える部分を持っています。それは、
『工程ごとに分業できる』
ことになります。
スマイルカーブと言う言葉があります。
ITに合わせて簡単に言えば、『上流・運用』は儲かる。『開発・テスト』は、儲からない。
SIerは経済性を求め、『儲からない工程をアウトソース』し『儲かる工程に特化』します。
最小限の人員で、最大の利益を上げられます。理にかなった行動です。ウォータフォールであれば、コレは可能です。SIとそのパートナーから構成される市場において『上流できなきゃ無能』と言う価値観は、ここから発生していると考えられます。
本題にもどりますが、なにはともあれ、こういった背景があり、アウトソースが行われる前提の市場構造を産んでいます。
3.効率化以前の、無いとみんな困る機能
ほか、(効率化以前の)超根本的な話をしますが、『営業・受注』がなければ、エンドのシステム開発需要が開発会社の売上に変換される事がありません。
小規模だったり要求される要素がさほどでもなければ我々中小企業でも受注は可能ですが、大規模なものやシステムの可用性への要求が高いものなど、それなりに資本力や実績がある企業への発注となる訳でして、それらの信用やネームバリューなどカンバン的なものの存在が受注の前提条件になっていたりします。
請負契約の場合、完成しなければ売上は入ってこない(実際はいろいろだが)訳であり、完成リスクは受注者側が負うことに。炎上した場合の追加工数は受注者側の持ち出しになります。
このあたりのリスクを背負えるのも大資本力があってこそと言えたりします。
また、エンドにシステム開発需要があるとして、そこにバラでただプログラマーだけ突っ込んでも、モノは出来上がりません。まずは『システム開発プロジェクト』に変換し、管理してやる必要があります。
請負ならば『完成品』の姿やその『品質』が先に決まっている訳でありまして、特に大規模なプロジェクトにおいては、全体を計画し、リスクやギャップなどを管理しながら進めていく必要があります。
このあたりもSIerが担当してくれているので、その下のパートナー企業や、さらにその下の受注者も『担当できる仕事がある』状態になると言えます。
厳密には請負契約やウォーターフォールに限った話でもありませんし、大規模システム開発の話ばかりと言う事でもありませんが、基本的なビジネス構造はこうなっている為、同じようなフローをたどる事が多いです。
このように『受注者が限られる』こともあり『アウトソース前提のビジネス構造』でより利益を取る事ができ、利益の効率がよいのでそれ実行するビジネスフローになる。
パートナー層も、そのフローに合わせて効率化しており、営業機能や金融機能をある程度オミット。
システム開発の中流工程を主力にしつつ、アウトソースされる前の仕事を取る為にスキルを上流に寄せるとか、逆に大人数の需要を獲得するべくサポートもやるとか、市場にSIerがいる前提の戦略を取る会社が多く存在します。
このように、市場に最適化した結果、エンド・元請(SI)・下請(2次・3次)の主要プレイヤーそれぞれにこの構造を維持するメリットがある状態となっており、なにもなければこの構造は維持されることになります。
4.じゃあ、4次請5次請けが存在するのはなぜやねん。
SIの存在理由はわかった。
じゃあ、なんで2次3次を経由しなくてはいけないんだ?
いらないだろ2次3次。
この記事を最初に書いてから4年くらい経過している様なんですが、その間に見えてきたことも結構あったので、追記込みで説明していきます。
〇まず、大手発注者側からの制限
そもそもこれがなきゃ、一発で解決する問題。なんであるんだ?という話なんだけども。
SI側の事情としては、エンドに対して責任を持つ立ち位置である為、下請にもそれなりの取
り組みであったり、納品能力を求めなくちゃいけない。少なくとも、サブシステム一本の中
流工程をまるっと請けられなきゃ、その下請けと取引するメリットがあんましないんだろうな。
そんな、規模であったり資本力であったり開発能力による取引制限。
我々、営業を期間契約ないし派遣で雇って、タイミングごとに調達強化して、浅い商流でパートナーを集め、管理させたら、少なくとも中間会社分の利益は不用なので、コストも浮くし所属と話もしやすいと思うんだが、そういうモンでもないらしい・・・。(ちな、製造業派遣なんかも似た構造。)
☆2022.08 追記:なんで安い下層の人を直接調達しないの?
『そのほうがより多くの人数をお手軽に管理できるから』が、現段階での仮説①です。
プログラマーを直接調達するにしても、管理するのはSIerの社員になるのでは、『SIerの社員数×一人当たりの管理限界数』が上限になってしまいます。仮に4人のPGを上限としますと、SIerの社員一人当たりの売上は、PG5名分が上限になります。ビジネスパートナーのリーダーに管理させる形を取りますと、この上限を無視して、一人当たり売上額を20名分などにできます。SIerは、大手・中堅ソフトハウスにサブシステム一本を丸投げできる構造を作った方が、全体としては儲かる訳です。
つまり『リーダー付きである程度の規模の頭数をまるっと投入できる会社』が、2次や3次の受注者として好ましい会社と言う事になります。
単品派遣的な方針のSES会社や、そもそも一人のフリーランスは、上記の2次・3次のソフトハウスが作った増員枠に支援で参加すると言った形になります。自力で営業機能を持たない場合は中間に営業会社(エージェント)が入る事になりますから、例えば大規模で3次までが体制で参画となりますと、4次にエージェント、5次にフリーランス。と言う事になります。
なお、SIer側は再委託制限をかけており、3次の社員までしかいないはずじゃね?と言う認識だったりします。所属会社をゴマかして誓約書書いてくださいとかは、こういうケースなんでしょうね....。
〇そもそも業界構造を理解せぬままの新規起業。
再委託制限による市場の変化、その影響が新規創業の会社にも出始めていて。『再委託制限の”中の世界”を知らないSESエンジニア社長による起業』みたいなケースが増えている感がある。
【SES会社でキャリアスタート→即フリーランス→加齢で行き詰まる前に起業】 みたいなパターンですな。
このようなケースでは、それまでの観測範囲である4層以下の世界が上層でもずっと続いているという認知になり、4層以降の世界の中での生存・利潤追求に最適化した戦術を取るSES会社も発生。確信犯的にその領域に陣取って成長。と言う事もおきるっぽい。(そもそもSIと2次3次ソフトハウスの区別がついているかも怪しい感じ)
この会社では引き続き4層以下での最善手が繰り返されて行く。
こんな感じの会社で育った技術者が、全体構造の理解をせぬまま、自社への不満を抱え、また独立・起業。と言う無限ループ。
うーん。
もう、クチでは文句言いつつも、誰も本質的に業界が変わる事を望んでいないんじゃないか・・・?
とさえ、思えてきた。
この辺の議論、語られなさ過ぎる。
不満はよくみるが、こう解決しようぜ! って話をほとんど見ない。(言ってる人はいる)
そしてまた、ループ・・・。
5.まとめ
というわけで、まずは、特に儲かる大規模なシステム開発需要を売上に変換していくビジネスの構造が、多層構造を前提にしていると言う事。まあ、建築とかもそうだけども。
構造を知らぬまま、起業する人が多いこと。この中の多数が下層部固定を良しとしていること。
さらにその背景として、多くのエンジニア・営業が、本質的には多層構造の解消を求めていないと言う事。(不満を言うだけで、解決手法には全く興味ない)
これもう、こうなるのあたりまえだよね。
だって現状を理解している人が少ないうえ、誰も対処しようとしてねえもんよ。
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