大同電鍋やKingston、さらには大阪・関西万博のパビリオンなど、台湾にまつわる国内外の案件を幅広く手がけてきたTAM台湾。台湾企業の日本市場進出を支援するチームとして、SNS運用から広告ディレクション、クリエイティブ制作までを一貫して担っています。
TAM台湾が大事にしているのは、デジタルの仕事であっても「自分たちの手を動かすこと」。そのこだわりは、メンバーがこれまでの活動を通して培ってきた経験とも、深く結びついているようでした。
今回は、TAM台湾の成り立ちから、台湾を代表する企業のプロモーションを手がけるようになった背景に迫ります。AIの活用によりクリエイティブ制作のハードルが下がりつつある今だからこそ大切にしている、“ものづくり”への姿勢についてお話を伺いました。
<プロフィール>
Ginaさん(左) TAM台湾リーダー。米系IT企業デジタルマーケティング担当を経て2016年来日。慶應義塾大学日本語別科に留学後、インバウンドメディアでWebコンテンツの企画・制作を経験。2018年TAM入社、2021年、日本および台湾にて子会社(株式会社TAM台湾、TAM TAIWAN Inc.)を設立。
Alinaさん(右) TAM台湾アートディレクター・カメラマン。台湾の雑誌社で3年間カメラマンとして勤務後、ワーキングホリデーで来日。写真の専門学校で2年間学び、2021年TAM台湾に参加。「台北アリーナ」名義でイラストレーターとしても活動。
日本国内の知見を活かし、台湾企業のマーケティング領域を広げるTAM台湾
——TAM台湾ではどのような仕事をしているか教えてください。
Gina: 台湾の企業やブランドを日本人に紹介するマーケティングの仕事をしています。私は主にプランニングや新規案件開発を担当していて、現在のチームは社員6名、パートナーさん2名体制です。TAM台湾ではSNS運用やWebサイト制作、インフルエンサー施策、広告配信など、幅広くやっていて、最近は屋外広告や電車の広告ジャックなど、さらに領域がどんどん広がってきました。
もともと私は海外観光客向けに日本を紹介する仕事をしていましたが、台湾の良い製品や観光地を日本に紹介したいと思い、2018年にTAMに転職しました。当時は台湾支社のメンバーも少なく案件もほとんどない状態でしたが、営業とともに少しずつ台湾の企業からの依頼が増え、2020年頃にTAM台湾として独立したチームになりました。
Alina: 私はアートディレクターとして、撮影のディレクションやビジュアル制作全般を担当しています。クライアントへのプレゼンから、SNSのコンテンツ制作やスタジオでの本格的な撮影まで幅広く行っています。
もともと私は台湾の雑誌社でカメラマンとして働いていました。日本にワーキングホリデーで来日したのをきっかけに、日本で撮影の仕事を続けたくて専門学校に通い、卒業後、ちょうどコロナ禍で就活が厳しくなった矢先に、渋谷の台湾一人鍋専門店「BOILING POINT」の案件でGinaさんと出会って、TAM台湾に誘ってもらってジョインしました。入社して今年で4年になります。
Gina: ちょうど台湾チームとして独立した時期で、案件も増えてきていたんです。写真もデザインも全般的にできる人が必要になったタイミングで、Alinaさんも仕事を探していて。まさにご縁で、制作まわりはAlinaさんにお願いする形でチームを作りました。
Alinaさんが撮影した台湾一人鍋専門店「BOILING POINT」のクリエイティブ
——TAM台湾ならではの強みは何でしょうか?
Gina: 「日本人の考え方を取り入れながら、台湾のクライアントさんに中国語で直接提案できる」というのは、やっぱり一番の強みですね。
台湾にも日系の代理店はたくさんありますが、その多くは「日本から台湾に来た企業」をサポートするのがメインなんです。逆に、台湾の企業が日本へ進出するのを本格的に手伝える会社は、実は大手さんでも意外と少なくて。最近は越境マーケティングを専門にする新しい会社も増えていますが、日本市場の細かいルールや、長年の経験で得られる深いノウハウまで持っているところは、まだそんなに多くないのが実情だと思います。
その点、私たちは日本でずっと積み重ねてきたTAMの確かな実績や手法をベースに、台湾からダイレクトに日本向けの実務が進められます。この「日本市場での確かな実行力」を台湾拠点から提供できるのは、他社にはない大きな特徴ですね。
こうした品質を地道に守り続けてきたので、今では信頼も厚くなって、お任せいただく案件もどんどん大きくなってきました。時にはクライアントさん以上に私たちがクリエイティブにこだわってしまうこともあるのですが(笑)、そういう熱量も私たちの強みとして評価していただけていると感じています。
TAM台湾の仕事風景
TAM台湾 事業紹介スライドより引用
こだわりを持ってクライアントの魅力を伝えることが、信頼構築に
——TAM台湾では台湾の国民的な家電「大同電鍋」のプロモーションもされていたとか。
Gina: はい、日本での全般的なプロモーションを担当していました。大同電鍋は、60年以上の歴史があるロングセラーの電気鍋で、台湾では一家に一台くらい持っているんです。それをどうやって日本人に紹介するか、日本人のスタッフと一緒に考えて、商品やレシピを撮影したりインフルエンサーに依頼したりと、世界観やブランドを構築していきました。
Alina: 最初はGinaさんの自宅で料理しながら撮影しました。レシピも自分たちで考えながら撮影して、大変でしたよね(笑)
Gina: いろんなレシピで撮影したいけど、当時はまだ十分な予算もなく、スタジオを借りるのももったいないなと思い、まずは私の家で“試し撮り”してみたんです(笑)。
それで肉じゃがなど、日本の料理も大同電鍋で作れるレシピをいくつか考えて、テスト用の写真や素材をクライアントに共有しました。クライアント側でも実際に使ってみたところ反応が良く、そこから本格的にスタジオを借りて、商業撮影として展開していきました。もともと大同電鍋は「台湾の伝統的な料理用」というイメージが強かったんですが、新しいレシピと撮影で現代的でおしゃれなイメージを意識して展開していきました。
それが功を奏して、クライアントさんから「日本だけじゃなくて、他の国のプロモーションにも使いたい」と言ってもらえて。アメリカの公式サイトにも採用されることになり、英語版の動画作成も行いました。
——プロモーションを通して、大同電鍋のイメージ自体を変えていったんですね。
2025年に開催された大阪・関西万博パビリオンの案件ではどういったことを?
Gina: 大阪・関西万博の案件では、台湾関係のTECH WORLDパビリオンを担当して、SNS運用を軸に、プレゼントキャンペーン、インフルエンサー起用、体験動画の撮影・編集、屋外広告やサイネージ、さらには貸切電車の広告ジャックまで、広告ディレクション全般を任せていただきました。
特に大きな挑戦だったのが、OOH広告の制作です。OOHというのは「Out of Home」の略で、屋外の大きな看板など自宅の外で接する広告全般のことなんですが、私たちにとっては初めての領域でした。出稿方法も含めて自分たちで調べながら、制作から実施まで一貫して行いました。TAM台湾では、こうしたスタジオ撮影や芸能人のキャスティング、OOHプロモーションなど、TAMがこれまであまり手がけてこなかった領域にも積極的にトライしています。
大阪・関西万博パビリオンTECH WORLD
大阪・関西万博パビリオンTECH WORLDの実際の電車内広告
——日本だけでなく、グローバルに展開している案件もありますか?
Gina: はい。韓国のSSDメーカーのグローバル全体のSNS運営をしています。もともと日本向けのSNSアカウントの運営をはじめ、今では7カ国に展開するようになりました。ビジュアル制作はAlinaさんが統括していて、商品の写真撮影だけでなく、トレンドに沿った投稿や広告配信なども行っています。英語圏に数多くのエージェンシーがある中、ありがたいことに私たちの仕事を信頼していただいて、長くご一緒させてもらっています。
完璧すぎない「不完全さ」が心を動かす。AI時代だからこそ価値を増すアナログの温度感
——Alinaさんのアートディレクターとしての役割を教えてください。
Alina: 私は、製品の機能を「直感的に伝わるビジュアル」に変換することを大切にしています。たとえば冷却機能を持つ製品では、塩を雪に見立てて雪山のセットを作ったり、時にはアイスクリームに製品を刺してみたり。言葉で説明しなくても「冷たさ」という性能が瞬時に伝わるような、アナログならではの「非日常感」があるビジュアルを制作しています。
——あえてデジタル合成ではなく、実写にこだわる理由は何でしょうか?
Alina: こうした世界観はデジタル加工でも8割ほどは再現できますが、本物の光の反射や素材の細かな質感は、どうしても加工では届かない「クオリティの差」になります。そのわずかな差が、見る人の心を動かすリアリティを生むと思っています。だからこそ、自分たちで小道具を揃え、実際にセットを組んで撮影することには妥協したくないですね。
——Alinaさんはイラストレーターとしても活動されているんですよね。
Alina: 「台北アリーナ」という名前で活動しています。早稲田で開催される「台湾黒市」というイベントに毎年出品していて、大同電鍋のYouTubeにもイラストが使われています。イラストは趣味で、3歳から始めました。台湾にまつわるフードやアイテムなどのイラストを描き下ろしたり、粘土で造形したりしています。
——Alinaさんのクリエイティブのインスピレーションはどこから?
Alina: 他の人が思いつかないようなアイデアを出せることがクリエイティブだと思っているので、そのためにはたくさん見ることを日々意識しています。例えば普段からネットでいろいろなサイトやSNSを見て、いい投稿を見つけたらスクリーンショットを撮って保存したりしています。特に同じジャンルのブランドや競合のアカウントをチェックして、どんな運営をしているかを把握した上で、担当しているクライアントのクリエイティブはどうすれば違いを出せるかを考えるようにしています。
手作りの活動も大切にしていて、日本はものづくりが身近でDIYの材料が手に入りやすい環境なので、休みの日に家で実際に手を動かして作ることもあります。
——AIが身近なクリエイティブ制作ツールになった今、お二人はどのように向き合っていますか。
Alina: AIはとても便利なツールだと思っています。ただ、AIが作るものって光や質感が少し綺麗すぎて、一目見て「AIだな」と感じることも多いんですよね。私は、ほんの少しだけ不完全だったり、手作業だからこその粗が残っている作品のほうが、見る人との距離を縮められると思っています。手作りの良さって、ひとつひとつが少しずつ違っていて完璧ではないことだと思うんです。そのばらつきの良さや温度感は、今のAIにはまだ再現できない部分だと思います。
それに、クリエイティブで一番大事なのは、一般的だと思われているものとは違う角度や、意外な組み合わせから新しい表現を生み出すことだと思っていて、AIで何かを生み出す場合でも、「何を面白いと感じるか」「どこをゴールにするか」を決めるのは人。その感覚の部分は、人にしか担えないと思っています。
Gina: AIで簡単にものが作れるようになって、情報量自体がすごく増えましたし、SNSも情報で溢れています。でもその中で実際に注目され続けるのは、やっぱりちゃんと人の心に届く「いい」と思われるものだけだと思うんです。
だからこそ、これからの時代でも温度感のある表現や手作りの要素は、価値が上がっていくんじゃないかなと感じています。私自身もアイデア出しの段階でAIに相談することはありますが、最初の判断や方向性を決めるのは人間じゃないと難しい。私は絵が描けないので、考えたレイアウトをAIでラフにしてもらうこともありますが、そのまま使うことはありません。必ずデザイナーさんに仕上げてもらっています。撮影に関しても、AIで動画を作ることはできますが、人の自然な表情や空気感は人の手だからこそ出せるものだと思っています。
事業領域を広げるTAM台湾の、これからのビジョン
——最後に、これからのビジョンを教えてください。
Alina: 好きなことを仕事にしたい、という気持ちはずっと変わりません。これからもアートディレクターやカメラマンとしてだけでなく、イラストレーターとしても、さまざまな仕事に挑戦していきたいです。手作りの活動も続けていきたいですし、ものづくりの中から新しい商品や表現が生まれたらいいなと思っています。
Gina: 台湾の企業に対して、日本と同じクオリティで一流の仕事を提供したいと思っています。日本には優れた代理店や制作会社がたくさんありますが、クリエイティブを軸にしたエージェンシーとして、台湾企業に限らず他の国のブランドにも一流のレベルを届けられる存在になりたいです。台湾に関わる案件だけでなく、Alinaさん自身のクリエイティブな力も、もっと外に発信していけたらと思っています。
——ありがとうございました!
[取材・文] 前田沙穂 [撮影] 高橋良和
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