データ復旧市場における国内トップ企業、デジタルデータソリューション株式会社(以下、DDS)とSalesforceが取引を開始したのは2014年のこと。この年は、同社にとって「創業以来もっとも大きなターニングポイントを迎えた年」だったと、DDSの代表取締役 熊谷聖司氏は振り返ります。同社が倒産を経て民事再生法の適用を申請した年であり、熊谷氏が代表取締役に就任した年でもあるからです。しかしその後DDSは、成長著しいデータリカバリー事業を軸に、データ犯罪や不正アクセスを解析するフォレンジックサービス、重要なデータを守るセキュリティサービスへと事業領域を急拡大させています。DDS社はなぜ、もっとも厳しい経営状況を克服し、成長を手にできたのでしょうか。熊谷氏に話を聞きました。
デジタルデータソリューション株式会社
代表取締役社長 CEO
熊谷 聖司氏
<略歴>1976年生まれ。2000年にデジタルデータソリューション入社。2003年役員に就任。ゼロから2004年にデータ復旧事業に参入。3年後の2007年には国内データ復旧市場で日本一の実績を獲得以来(※)11年連続で日本一の座を守り続けている。2014年9月に代表取締役CEOに就任。現在同社はデータリカバリー事業、フォレンジック事業、セキュリティ事業分野において10種類以上のサービスを展開している。2018年1月、日本HDD協会データ復旧部会会長に就任。※東京商工リサーチ調べ
株式会社セールスフォース・ジャパン
執行役員
コマーシャル営業 第一営業本部
本部長
植松 隆(写真左)
<略歴>1979年生まれ。大学卒業後、ソフトウェア開発会社のSEを経て、大手SIerの営業に転じ、7年間に渡りアウトソーシングビジネスの販売に携わる。仕事の傍ら立教大学大学院ビジネスデザイン研究科を修了。2012年1月、Salesforceに入社し、コマーシャル営業を経験後、15年2月に部長に着任、現在は執行役員として、コマーシャル営業 第一営業本部の営業本部長を務める。取引開始以来、歴代営業担当者を通じデジタルデータソリューションのビジネス課題と向き合っている。
コマーシャル営業 第一営業本部
アカウントエグゼクティブ
廣瀬 慶(写真右)
<略歴>2012年決済システムベンダーに入社。6年ほど営業として新規導入および売上向上に向けたコンサルティングを実施。2018年1月Salesforceにインサイドセールスとして入社。9ヶ月後にはアカウントエグゼクティブ(外勤営業)となり、現在は中小・スタートアップ企業を中心に担当。2020年2月から、デジタルデータソリューションの担当となり、同社の3事業部の経営管理情報統合プロジェクトを支える。
半減した従業員と急増する新規問い合わせ。経営の効率化が急務でした
——現在主力ビジネスであるデータ復旧サービスをなぜ立ち上げられたのでしょう? 経緯を振り返っていただけますか?
熊谷氏(以下、敬称略) 以前展開していたウェブサイトで商品を販売するコンサル事業を立ち上げしばらく経ったころのことです。当時パソコンに保存していた10万件の顧客情報が突然開けなくなってしまうという出来事がありました。それで急遽あるデータ復旧会社に電話をかけたところ、接客が杜撰で驚きました。横柄な言葉遣いで、不安に苛まれている見込み客にためらうことなく専門用語をぶつけてくるんです。怒りを抑えて見積を依頼しましたが、想像以上に高額で完全に足下を見られていると感じたのをいまでもよく覚えています。その後、同業他社にも電話をかけましたが、サービスの品質や金額にさしたる差があるように感じられません。それで結局、最初に問い合わせた会社にデータ復旧を依頼したのですが、そのときふと、これをビジネスにしたら「面白いな」と思いました。なぜなら私たちがまっとうな接客に徹し、獲得した案件をデータ復旧会社に紹介すれば「勝てる」イメージが湧いたからです。
——実際にやられてみて手応えはいかがでしたか?
熊谷 非常に反響がよかったですね。初年度こそ売上は1億にも届きませんでしたが、3年目に10億、5年目20億円程度まで一気に伸ばすことができました。この間、海外技術の導入やエンジニア採用などの取り組みを通じて社内でデータ復旧作業が行えるようになり、これからもっとビジネスを大きくしようと思ったタイミングで思いもよらぬ事態に見舞われます。他の役員が管掌していた複数の新規事業が軒並み大赤字を出した結果、会社が倒産することになってしまったんです。周囲からは「データ復旧事業には将来性がある。別会社で出直すべき」という助言を多くいただいたのですが、私は会社を引き継ぎ、データ復旧事業に絞って民事再生する道を選びました。私には担当役員ではないにせよ取締役として経営に責任がありましたし、お世話になった債権者をないがしろにはできません。自分を慕って付いてきてくれる従業員も多くいたので経営再建を決断しました。
——立て直しは順調だったのでしょうか?
熊谷 毎月数千件の問い合わせが入ってくる状況でしたから、売上を確保することはそれほど難しくはありませんでした。しかし当時は社内に情報の共通基盤を担うシステムが存在せず、ある部署ではExcel、ある部署ではAccess、またある部署では別のソフトを使った顧客情報や作業進捗を管理していたため、部署間で案件を引き継ぐだけでも膨大な手間と時間を要していました。しかも従業員は倒産前の80人から40人に半減している上に、問い合わせも修復依頼も右肩上がりでどんどん増えていたため現場はパンク寸前の状態。一気通貫で顧客情報を管理・共有できるシステム基盤の構築が急務なのはだれの目にも明らかでした。
——それが、Salesforceとの出会いだったわけですね。
熊谷 ええ。当時の担当者にCRMソフトウェアのなかから、有望と思われる製品を2つに絞り込んでもらって、それぞれの営業担当者と会うことにしました。その1社がSalesforceさんだったわけです。
現場の経営課題や事業の将来像を理解しようとする姿勢に驚きました
——Salesforceの印象はいかがでしたか?
熊谷 当時は名前すら存じ上げなかったのですが、当時の担当営業とその上司にあたるマネージャーにお会いして驚きました。なぜなら、ソリューションの説明や価格の話をまったくしなかったからです。まるで「そんなことは取るに足らないこと。二の次で結構」といわんばかりに、われわれが抱える経営課題や現場で起きている不具合やトラブル、そして将来どのような事業展開を考えているか、詳しくヒアリングされてその日は帰られました。ソリューションベンダーの営業というのは自社ソリューションを売り込むのが仕事だと思っていたのですが、ビジネスや経営のことしか聞かれず、むしろ経営コンサルタントと話しているような印象を持ったほどでしたね。
——その後はどのような対応を受けたのでしょう?
熊谷 本当に毎日のようにご来社いただき、各部署を巡りデータの運用状況をつぶさに見てもらいました。「見る」といっても全体を眺めて雰囲気をつかむといったレベルではありません。各部署の担当者がどんな手順でどのような情報を入力し、最終的にどのように活用しているかを詳細に調べ、問題点を洗い出していくイメージです。先ほどSalesforceの営業とお会いして、経営コンサルタントのような印象を受けたと申し上げましたが、現場の社員とやり取りしながら課題を丁寧かつ的確に把握される姿を見て、経営上の施策だけでなく業務オペレーションにも通じていることがよくわかりました。ITソリューションの営業にも、そんな人がいるのかと本当に驚きましたね。
——当時、DDSさんの担当営業とその直属の上司を通じて、DDSさんの状況をご覧になっていた立場からすると、お客様からのこうした指摘はどのように受け止めますか?
植松 非常にありがたいお言葉です。弊社の営業は、モノ売りに徹する「プロダクトセリング」でも、顕在化しているお客様のオーダーにお応えする「ソリューションセリング」でもなく、まずお客様がこれから実現したいと考える理想的な状態を定義し、そこに至るまでの障害を取り除くために何を提供すべきかを考える「ビジョンセリング」掲げ、営業の指針としています。Salesforceの営業を営業たらしめているポイントを高く評価いただきとてもうれしく感じます。
熊谷 実は検討期、導入コストの安さからもう1社の自社サーバで運用するオンプレミス型製品の導入に気持ちが傾きかけた時期もありました。しかし企業は成長に伴ってビジネスモデルや業態が変化するもの。もしデータ復旧事業を軸にサービスの多角化を考えているなら、将来のシステム改修費用やアップデート費用も勘案した上で選択をすべきだと示唆してくださったのもSalesforceさんの営業でしたね。
植松 はい。営業である以上、数字を作ることは大切ですが、お客様が抱えていらっしゃる課題やご懸念、また潜在的な問題を明らかにしないまま売り急げば、おそらく結果が出ることはないでしょう。我々が提供するクラウドソリューションは売り切り型の製品と違って結果が伴わなければ簡単に解約されてしまう運命にあります。だからこそ当社の営業はお客様の社員になったつもりで内情に迫ろうと試みますし、頂いた情報をもとに最善の提案を行う努力を惜しまないのです。
熊谷 Salesforceは当時の私たちにとって決して安い買い物ではありませんでした。しかし不安要素を一つひとつ丁寧に洗い出しては解決策を示し、現状の課題だけにフォーカスするのではなく将来の成長を見越した提案をしてくださったのはSalesforceさんだけでした。だからこそ導入に踏み切ることができたんです。
ビジネスモデルの転換と拡大するサービスを念頭に次の挑戦を始めます
——民事再生手続きから6年。ビジネスは順調に成長していると聞きます。現在のご状況はいかがでしょう?
熊谷 社員の努力と債権者のご協力もあり、当初、5年を想定していた返済計画を4年前倒しで終えることができました。この間、データリカバリーサービス事業に加えて、データフォレンジック事業、セキュリティ事業を立ち上げ、現在はこれら3事業合計で10種類以上のサービスを展開するまでになっています。Salesforceの導入に踏み切ったおかげで業務上のロスが減ったことが経営再建の助けになりました。
——Salesforceを導入された当時と比べて御社の状況は大きく変わられたのですね。現状の御社の課題について聞かせてください。
熊谷 問い合わせ件数、受注件数がさらに伸び、これらに対応する社員の数も大幅に増えました。事業に関してもデータリカバリーだけだった当時と違い、現在はビジネスモデルや受注プロセス、回収フローが異なる多くの多様なサービスを抱えています。そのため、業務効率が以前ほど高くなくなってしまったのが現時点での大きな課題です。また、収益に占めるスポット案件の比率を抑え、ストック型ビジネスへの移行をどのように実現するという新たな経営課題も浮上しています。これらの課題をシステムで解決したいのですが、ビジネスの拡がりと成長スピードになかなか追いつけていない状況です。
——DDSの担当営業として、今後どのように支援をされていくつもりですか?
廣瀬 いま熊谷社長がおっしゃったように、サービスの多様化とビジネスモデルの変化に対応するため、現在、情報システムのご担当者と一緒に課題の洗い出しを行っているところです。具体的にはデータリカバリー事業に特化して作り込んだシステムを見直しながら、成長の過程で導入された複数のペイメントシステムの情報を統合し、全事業を一気通貫で管理できるシステムを確立しようと試みています。
熊谷 Salesforceを使いこなすなかで気付いたことがあります。それはビジネスを作るにあたって、経営陣がホワイトボードの前に集まるよりも、Salesforceのデータを確認しながらダッシュボードにどんな情報を表すべきか議論したほうが、素早くビジネスを改善できるということ。今回のシステム刷新によってより一層迅速にビジネスの見直しや立ち上げができるようになることを期待しています。
廣瀬 Salesforceは設定変更がしやすくビジネスの状況変化に対応しやすいのが特徴です。DDSさんの成長の足かせにならないよう、全力を挙げて取り組みます。
植松 新規ビジネスは何が正解かわかりません。経験上、最初に想定したKPIがビジネスで通用する確率は半分程度に過ぎず、残りの半分は経営を取り巻く外的要因や企業のステージによって変わっていくものです。経営やオペレーションを担っている方にしか感知できない小さな違和感が、大きな変化を生み出すきっかけになることも少なくありません。
廣瀬 経営データの可視化と変化に対する対応力はSalesforceの強みですし、われわれ営業もどのようなKPIを設定すべきかといった段階からコミットします。ダッシュボードを駆使しながら新しいビジネスを作っていくというスタイルは、スピードを重視する企業にとって非常に理に適っている手法ですし、Salesforceがもっとも得意とするところでもあります。
——今後、Salesforceに期待されることは?
熊谷 私はSalesforceさんを経営パートナーだと考えているので、廣瀬さん、植松さんには、当社の経営やビジネスの成長に資する情報をどんどん提案していただきたいですね。いまでも資本施策や人材採用など、ソリューションとは直接関係のない事柄について相談させていただくことがあるのですが、いつも的確にご回答やご協力いただいておりとても感謝しています。
植松 そういっていただけるのは光栄です。われわれはソリューションプロバイダーですがそれはSalesforceの一面に過ぎません。持てるナレッジはお客様に惜しみなく提供し、カスタマーサクセスを実現するのがわれわれの使命です。そのためにできることは何でもするつもりでいます。
廣瀬 私も御社にとって価値あるサービスを提供し、結果を出せるよう力を尽くす所存です。熊谷社長を始め、社員のみなさんから信頼していただけるよう努力していきます。
熊谷 情報システムの刷新は当社のビジネス拡大に欠かせません。Salesforceさんには期待していますので、これからも何卒よろしくお願いいたします。
植松 本日はお話しいただきありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。
熊谷 こちらこそよろしくお願いいたします。
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