社会的養護啓発プログラム こどもギフト | READYFOR
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クラウドファンディングの実行者に伴走し、プロジェクトの立案から終了までをサポートするREADYFORの「キュレーター」。ムーブメントを起こしプロジェクトを成功に導くため、戦略を立て実行していきます。
小さな命を守りたいから。1人でも多くの命を救いたいから。
子どもの福祉や病院・医療分野に関わるクラウドファンディングに込められた実行者さんの切なる想い。その想いは、支援者さんに届いたとき、はじめてかたちになります。
想いと想いをつなぐため、プロジェクトを届ける先にいる支援者さんの顔を思い浮かべながら、実行者さんに伴走し道筋を描く──。
キュレーターの仕事の裏舞台に迫るインタビュー連載「ムーブメントの裏側」第二弾では、キュレーター歴6年の田中万由さんに話をうかがいます。
――田中さんはインターンを経てREADYFORに入社しています。READYFORを知ったきっかけを教えていただけますか。
2016年にREADYFORが特集されていた『カンブリア宮殿』を観たことがはじまりでした。
当時大学3年生だった私は、就職活動が始まりつつあり進路に悩んでいて。父が「合いそうな会社がある」と言って、録画した番組を観せてくれたんです。大学ではチアリーディングをやっていて、誰かを全力で応援することに夢中になっていました。その姿を見て、私の性格的にも「裏方で支える仕事が向いているのでは」と父も思うところがあったようです。
番組にはキュレーターがプロジェクトの達成に向けて企画を練ったり、実行者さんにお会いしたりする姿が映っていました。就活で自分に何が向いているかを考えても、特別やりたいことや大きな夢があるわけじゃない。だからこそ、夢のある人をサポートするキュレーターの仕事が眩しく見えたんですよね。社会勉強にもなりそうだなと、まずはインターンに応募しました。
――READYFORでインターンを経験し、そのまま就職に至った決め手は何でしたか?
夢を持って実現に向かって行動を重ねる人たちの姿に感銘を受けた、という点ですね。
子どもの虐待防止に取り組む人、ライブハウスをつくりたい人……。クラウドファンディングのプロジェクトにはさまざまな「夢」や「想い」が込められています。そしてその背景は、必ず何かしらの社会課題やその人がぶつかっている壁があって。課題を解決するために、壁を乗り越えるために、実行者さんたちは一歩を踏み出している。尊い存在だと感じました。
それから、プロジェクトを通じて社会課題を知ることができたのも大きな一つの決め手となりました。世界が広がると同時に、まだまだ解決すべき課題があって、世の中はもっとよりよいほうへ進んでいける、と。たとえば、さまざまな社会課題に取り組むNPOの活動や治療薬の開発など医療分野における研究。一つ一つは小さな動きでも、それぞれが想いを持って挑戦し続けていけば、社会を変える力にもなる。その一歩に寄り添えるキュレーターの仕事に、やりがいを感じたんです。
――ここからは具体的なキュレーターのお仕事について聞かせてください。
立ち上げメンバーとして関わり、2018年から担当している「こどもギフト」についてお話しますね。こどもギフトは、イラストエッセイストの犬山紙子さん中心の「#こどものいのちはこどものもの」というSNSアクションをきかっけに立ち上がったプログラムです。
社会的養護を必要とする子どもや家庭に対して、支援を届ける複数のクラウドファンディングが集まり、毎年展開されています。虐待防止月間の今年11月、第5弾がスタートしました。
――通常の単発プロジェクトとは異なり、こどもギフトが複数の支援団体が関与して継続的に行われるプログラムとなっているのは何か理由があるのでしょうか。
こどもギフトが立ち上がった背景には、5歳の女の子が命を奪われた虐待事件があります。
プログラム立ち上げにあたり、虐待事件を調べていくなかで見えてきたのが、その背景には複雑に絡み合うさまざまな問題があるということ。一つのプロジェクトが成功したからといって、虐待という大きな社会課題が解決されるわけではない。第一弾では、社会的養護を必要とする子どもはもちろん、親のサポートや子どもを支援する団体など、色々な方向から子どもの将来を守るためのプログラムを立ち上げることにしました。
こどもギフトには、ひとり親家庭にちょっとした「ゆとり」を届けるプロジェクトや、虐待をした親が子どもと適切な距離で生活できるように支援するプログラムなど、多岐にわたるカテゴリーの支援活動がまとまっています。サイトを見た人が、「子どもたちのために自分にもできることがある」と感じていただけるようなつくりを意識しています。
小さな一歩が積み重なって、社会の大きな変化につながっていく。プログラム全体で、そんなメッセージも伝えられたらいいなと。
――毎年継続的に開催していく中で、他の単発のプロジェクトと比較してキュレーターとしての関わり方に違いはありますか?
その時々の社会の動きによって、「いまはどんな支援が求められているんだろう」という点は常に考えています。
たとえば、コロナ禍になってからは10代の若年層の妊娠相談の急増など、これまでは見えていなかった社会課題が表出してきました。時代と共に刻々と変化する状況に対して、クラウドファンディングを通してどこに想いの乗ったお金を流すべきなのか。そうした視点を持って、こどもギフトの主旨とマッチする団体さんや過去にREADYFORでプロジェクトを立ち上げた実行者さんにこちらからお声かけさせていただくこともあります。
――こどもギフトは、SNSでも影響力のある方々がプロジェクトメンバーに名を連ねています。プログラムを広げていくために、やはり拡散力が鍵になったのでしょうか?
影響力のある方たちが表立って活動してくださっているので、ハッシュタグをつくりTwitterで拡散しやすくするなど、メンバーのみなさんを起点に広く届けていくことは意識しました。
ただそれ以上に注力したのは、広がった「その先」にいる方々が直面する課題を知ってもらうことです。
そもそもこどもギフトで取り上げられている子どもの福祉に関する課題をよく知らない方がたくさんいます。そこで、どんな方が支援を必要としているのか、支援を届ける先はどんな場所なのか、プロジェクトページでわかりやすく詳細を説明するようにしました。
たとえば第1弾では、児童擁護施設と自立援助ホーム、両方のプロジェクトがあったため、自立援助ホームのプロジェクトでは、児童養護施設との違いを一目でわかるように図を挿入して解説しています。私もそれまで違いを詳しく理解していなかったのですが、自立支援ホームでは自ら就労し生活費含め本人が負担しなければならないなど、児童養護施設とは違う点がいろいろありました。支援する先にいる子どもたちが何を望んでいるのか、きちんと伝わるよう丁寧にページを作成しました。
また、プロジェクトのトップページだけでなく、新着情報でメンバーのみなさんが現場を訪ねたレポートなど、継続的な発信も心がけました。
――なるほど。
こどもギフトを通じて「こんな現状があるんだ」と知ってもらう。子どもを巡る社会課題を知っている方が増えることは、子どもたちの未来が変わる第一歩にもなると思っています。
虐待の背景にあるさまざまな社会課題の現状を知り、支援活動をしている実行者さんの想いに触れる。一つのプロジェトを支援したことが、また別の角度から課題を知るきっかけとなり、さらなる支援につながっていく。そうして、一連の活動を追い続ける人が増えていく。その一人一人の一歩一歩が、複雑な社会課題に向き合い続けることにつながると思っています。こどもギフトがその一助を担えたら嬉しいですね。
――ただ闇雲に「広げる」のではなく、誰にどんな視点で届けていくのか、そのプロジェクトの支援者さんを想定した上で、ページ設計や広報施策を考えているのですね。ほかのプロジェクトではどうでしょう?
たとえば日本医科大学千葉北総病院 救命救急センター(通称:北総救命)が立ち上げたプロジェクトでは、異なる二つのターゲットに向けてコンテンツ施策を考えました。「医師を目指す方」と「ドラマのファン層」です。
救急医療のパイオニアでもある北総救命では、医療ドラマの監修も手がけています。そうしたことから、SNSのフォロワーに医療関係者だけではなく、そのドラマの主演俳優のファンという方が多くいらっしゃいました。
一般的に、病院のクラウドファンディングでは患者さんやそのご家族といった関係性での支援が多いのですが、北総救命の場合は、救命救急センターという立場から患者さんとの関わり方が通常の病院とは異なります。そこで、違った届け方が必要だと思いました。
――具体的に、どんな情報を展開されたのでしょうか?
まずは、プロジェクトページを、医療関係者以外の方も読みやすい少しドラマティックな構成にしました。救命救急医療に必要なシミュレーション機器を購入するクラウドファンディングだったのですが、医学的な説明ではなく、「1人でも多くの命を救う」というメッセージを強調し、救命救急センターの重要さを説いています。
次に、プロジェクトの新着情報で、届けたい2つの対象に沿った発信をしました。北総救命の医師に憧れている医学生や医療関係者の方々に向けては、「北総救命ドクター紹介」という連載で現場で働く医師の方々にご登場いただきました。
対してドラマのファン層の方々へは、北総救命が医療監修に携わった『コード・ブルー』を観て医師を目指した先生を紹介する記事を作成。他にも、「医療監修の裏側に迫る」というテーマでドラマに触れる内容を発信しています。
――ほお。一般的な病院のクラウドファンディングとは異なる層に届けるために、その人たちが興味を持つコンテンツを作成したのですね。
医療分野のプロジェクトは、支援を募る目的や病院の立地、規模などによって支援者さんの層が変わります。北総救命のプロジェクトでは目標金額が2000万円と高く、さらに想定される支援者さんが、病院と患者という関係性だけではない、どちらかと言えばライトな結びつきの方々も含まれます。適した広報戦略を見極める力が、キュレーターに求められていました。
――プロジェクトが公開された後の反応はいかがでしたか?
それが……残り2週間時点で支援者さんがまだ400人。伸び悩んでいました。
――そうなんですか!? でもプロジェクトは支援者2,300人以上で達成していますよね。ラストスパートで5倍近い支援をどのように集めたのでしょうか?
SNSで発信する投稿のトーンを、がらっと変えたんです。
それまでは、普段は医療や救命救急に馴染みのない方たちに届くよう、あえて明るく、読むときもライトに読める情報を発信していました。残り2週間を切ってからは「命を繋ぐためにこの装置を購入したい」「みなさんと一緒にプロジェクトを達成させたい」といった、プレッシャーや不安も織り交ぜたシビアなトーンに変えたんです。
北総救命さんのインスタのフォロワーは2万人を越えていていたので、もともとSNSを起点とした戦略を立てていました。事前調査でインスタライブやFacebook投稿の反応率を見て、残りの何日間でどんなアクションをすれば、どれくらいの支援が見込めるのか計算していたんです。ラストスパートで、プロジェクト公開時から見てくださった方たちに「今が支援のタイミングなんです」と、訴えかけるように支援をお願いしました。
――ラストスパートでの駆け込み支援も含めての戦略だったんですね。
はい。SNSでのコメントは、期間中全部チェックしていました。最後の2週間で追い上げないと達成できない、という温度感が伝わり、実行者さんや関係者、すでに支援をしてくださった方々、みんなで達成を目指そうという雰囲気に変わったと感じました。
そこから終了まで残り3日、目標金額まで400万円という時点で「#救命の未来をつくるために」というハッシュタグで応援コメントをつけてリツイートする企画を実施しました。その前日、ドラマ『コード・ブルー』に出演していた俳優さんが自身のツイッターで北総救命のプロジェクトの応援ツイートをしてくださったのです。
達成自体は見込んでいたのですが、その投稿の影響もあり、最後の支援の数がぐんと伸びました。発信する内容、タイミング、広がるときの温度感などあらゆる施策を考え挑戦したからこそ、達成できたプロジェクトだったと思います。普段は医療分野に強い関心がなかった方たちにも、救命救急の実情を知っていただくきっかけになったという点で、意義深いプロジェクトでした。
――最後の質問です。田中さんにとって「READYFORのキュレーター」とは?
正解がないなかで、道筋を描く仕事だと思っています。
クラウドファンディングのプロジェクトには一つとして同じものはありません。実行者さんが挑戦してよかった、支援者さんが寄付をしてよかった、と思えるように、キュレーターは戦略を持って道筋を描き実行者さんに伴走し、支援者さんに届けていきます。
キュレーターとしてプロジェクトを達成に導くは、さまざまなスキルが必要です。想いを届けるライティングスキルや、拡散や広報に人々を巻き込んでいく力、SNSを有効的に使うための分析力も求められます。プロジェクト毎に、広がるかたちも、届ける相手も、届け方も異なります。
まずはリスペクトを持って実行者さんを知ること。そして話し合いを重ねながら、プロジェクトに適した目標を決め、期間内に成功するまで繰り返し施策を展開していくこと。過去のREADYFORの事例も参考にしながら、実行者さんそれぞれのベストにカスタマイズした道をつくる。それが、キュレーターの仕事だと思います。
実行者さんの想いが、支援者さんに届く。そのきかっけをつくることで、救われる命があり、よりよい社会につながっていく。これからもそんな誰かの一歩に寄り添うキュレーターでありたいと思っています。
田中 万由 MAYU TANAKA
READYFORキュレーター/ キュレーター事業部 /医療カテゴリキュレーター / 准認定ファンドレイザー
大学時代にインターンを経て新卒でREADYFORへ参画。2018年には、社会的養護の子どもたちへの支援に特化した「こどもギフト」の立ち上げ、プロジェクトの主担当を経験。その後、医療カテゴリのキュレーターとして、50件を超える医療機関や研究機関、医療NPO団体等のプロジェクトに伴走。現在までに6億円以上の資金調達をサポート。
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