キッチハイク「ふるさと食体験の準備室」メンバーインタビュー、第5回目は執行役員の川上真生子(@makiko_kawakami)さんです。
2021年夏に東京から福岡へUターン移住した川上さん。そのきっかけや、福岡暮らしの魅力、そして、キッチハイクで目指す食べることへの豊かさについてお話を伺いました。
ー 川上さんは、今年の夏、福岡に移住したんですよね?
7月に、地元の福岡市に約10年ぶりに戻ってきました。大学で上京してから、社会人の最初の数年間も福岡勤務だったので、2度目のUターンになります。
福岡は、高校まで住んでいた街です。街を歩くと、いたるところに思い出スポットがあって、街に自分の人生が層になって堆積しているような、居心地の良さを感じられます。
それまでは、上野にあるキッチハイクオフィスまで自転車で10分の距離の、浅草に住んでいました。古い建物や銭湯が好きなので、下町暮らしは気に入っていたのですが、コロナ禍で1年以上フルリモートワークの生活を続けるうちに、以前から漠然と夢見ていた「どこにいても働ける」ワークスタイルが現実のものとなって。いま自分が生活の拠点にしたい場所ってどこだろうと考えたときに、真っ先に浮かんだのが福岡でした。
仕事は全力でやりたい。家族のことも大事にしたい。両方叶えるのが福岡だった
―2度目のUターンということは、ゆくゆくは福岡にという考えは以前からあったんですか?
私みたいな「地方からの上京組」には、「いつか地元に戻らないと」という宿命を背負っている人は多いかもしれません。30代も半ば、親もだんだん年を取る中で、たとえ親が「自分の人生、好きに生きなさい」と言ってくれたとしても、近くに居られないもどかしさや寂しさが、帰省するたびに大きくなっていました。
とくに私の場合は一人親家庭で、母親は60歳を過ぎてもフルタイムで生計を立てつつ、祖母を在宅介護している状態で。母親自身は気丈にしているけれど、この生活があと何年持つだろうかと思うと、東京での生活にタイムリミットを感じることが増えていました。
そんな中、コロナによる帰省自粛で帰りたくても帰れない状況を経験して、離れて暮らす不自由さを痛感して。
また、私自身が子どもを持つことを考えるようになったこともあります。子どもを持つなら、自然豊かな環境で、もう少し広い家で、伸び伸び育てたい。とはいえ仕事は全力でやりたいから、両立しやすい環境は絶対にはずせない。
そう考えると、いざというときに近くに母親がいて、海も山も近いコンパクトシティ・福岡市がとても魅力的に思えました。親に負担をかけたくはないけれど、新しい命があることは、喜びにもなるだろうと。
コロナをきっかけにした働き方変化は、人生の選択肢を広げた
―ご家族やご自身を取り巻く状況やワークスタイルの変化が、移住を選択するきっかけになったんですね。
そうですね。特に同じチームではたらくみかこが、一足先に福岡に移住したことには、大きく背中を押されました。おお、福岡移住、ありじゃん!と。
コロナを機に会社ごとフルリモートワークになったことで、それまで考えもしなかった人生の選択ができました。それまで「地元に戻る」ということは、私にとって、東京での仕事をやめて、福岡でイチから生活を築くことを意味していました。東京と地方とで優劣はないと頭では分かりつつも、夢を追って上京した身としてはどうしても「諦めの選択肢」のように感じてしまい、前向きになれなかったのでした。
それが、福岡にいながらキッチハイクの仕事を続ける選択肢が生まれたことで、「仕事も、家族も」が可能になった。これまでの仲間とつながり続けながら、家族の近くにもいられるなんて、数年前の自分からすると夢のようです。
ごく一部の遠い世界に感じていた「どこでも働ける」働き方を、コロナを機に自分も手に入れることができ、自分の人生が大きく広がったことにワクワクしています。
リモートワークファーストで選んだ住まいは、築40年の80平米!
― 福岡に移住してからは、どのような生活を送っているんですか?
夫婦ともにON/OFFどちらも家の中ですごすので、家の心地よさは大切にしています。福岡での家は、2人別々にミーティングできる部屋数、オンオフ切り替えがしやすい間取りなど、リモートワークファーストで選びました。古くて味のある物件が好きなので、築40年の今の家を見つけたときは心躍りましたね!カウンターがあるサンルーム、壁一面の備え付け棚、キッチンを隔てるコンクリの間仕切りなど、これまでの住人が残してきた個性を「どう住みこなそうかな」と考えるのが楽しくて。
まだ住んで1ヶ月ほどですが、ホームセンターに行って植物を買い込んだり、プチDIYしたりして、少しずつ自分たち好みに整えていっています。
私は根っからの朝型人間なので、目覚ましをかけなくても朝5時には目覚めてしまい、夫とは時差生活をしています。朝のひとりの時間には、まず本棚の一角につくった「祈りコーナー」で線香をあげます。今年6月に他界した祖母が、毎朝お仏壇に線香をあげて家族の幸せを祈っていた姿が目に焼き付いていて。とりたてて信心深いわけではないけれど、そんな祖母の愛情を受け継げたらという気持ちになって、朝の日課になりました。
線香のアロマと鈴の音を感じながら手を合わせるわけですが、私の祈りはだいたい仕事のこと。「あの案件が無事決まりますように」とか、目の前の願いでいっぱいになってしまいますね(笑)。
家の植物に水をあげたら、近所の公園に出かけることも。朝から散歩やジョギングをすると、考えごとがはかどり清々しい気持ちになります。
九州出身の私でも、知らないことはたくさんある!だから面白い。
福岡に来てみて、やはり地域ならではの食文化が根付いている感じがしますね。それほど大きくないスーパーで福岡の郷土料理「おきゅうと」が普通に並んでいたときは「そんなに買う人いるんだ!」と嬉しくなったし、麺コーナーのうどんスープとごぼう天のラインナップには、博多うどんへの愛を感じます。
「九州」を意識することも増えました。東京にいるときは、東京は日本の中心地という意識が強く、「関東」というくくりで捉えることはあまりなかったように思います。福岡にいると、九州産大豆、九州産野菜など、「九州」くくりの商品をよく見かけます。
有明海産わかめ(熊本)、嬉野豆腐(佐賀)、鹿児島産さつまいもなど、日常的に食べる食材も同じ九州内でとれたものが流通していて、自然と地産地消になるのがいいですね。
日本の地方都市は均質化している、と言われて久しいけれど、暮らしに一歩踏み込んでみると、やっぱり地域性ってちゃんとあるし、それを感じながら暮らしたいなと思うこの頃です。
九州出身の私でも知らないことはたくさんあって、先日入ったイタリアンでは、福岡・八女市のジビエや、熊本・菊池市の「走る豚」という自然放牧のブランド豚をおすすめしてくれました。八女ジビエも走る豚も、この10〜20年くらいで新しく生まれたブランドのようです。伝統的な食文化にも魅力を感じますが、同じ時代を生きる食の作り手の方々が、各地で新しい動きを起こしていることを知ると、ワクワクします。
私自身、もっと解像度高く地域の食の魅力を知りたいし、「ふるさと食体験」を通してみんなにも紹介していきたいと思っています。
入社4年、執行役員になって約2年。
―川上さんはキッチハイクの第3号社員ですよね。事業内容の変化も見てきているわけですが、振り返ってみてどうですか?
キッチハイクにジョインして、早4年が経ちました。ジョイン当初にも記事を出しましたが、自分個人としてもチームとしても、当時は想像もできなかった地点にいるように思います。
東大の卒論は「アウトサイダーアート」。社員6人のスタートアップで、今、人生をかけてやりたいこと。 | 大切にしていること昔、何していたの? 東大の卒論は「アウトサイダーアート」 絵が好きだったので、中学時代から美術部だったのですが、街のギャラwww.wantedly.com
入社時から「事業開発担当」というポジションですが、小さなスタートアップなので、それこそ最初の頃は、社長業とプログラミングとデザイン業務以外はぜんぶ自分の担当、というくらいの気持ちでやっていました。
入社当時6人だった社員数も20人以上に増え、今でこそ専任メンバーも増えてきましたが、刻々と状況が変わるスタートアップにおいて、大企業のように自分の担当範囲を線引きしていては、抜け落ちる業務が生まれるし、回らない。キッチハイクが成長するためにその時々で必要なことを、それぞれが越境精神を持って機動力高くやっています。
― 昨年は、執行役員に就任しましたよね。今までとは景色の見え方も変わりそうです。
そうですね。執行役員になってからは、より一層、個人ではなくチームで最大出力する意識が高まりました。正直、わたし個人でできることなど知れているし、頼もしいチームメンバーが揃っているので、みんなに任せて個々の能力を発揮してもらったほうが良い。
私ができることは、一歩引いた視点でキッチハイク全体を眺めて、数ヶ月先を見越して今すべきことを見極めること。みんなの持ち味が最大限発揮できるように、その時々でベストなチーム体制・目標設定を考えること。
まだまだ手探りですが、初めて直面する事態に、頼れる仲間といっしょに試行錯誤しながら立ち向かっていくことは、とても刺激的で充実感のある道のりです。
ここ半年ほど主に担当しているのは、「ふるさと食体験」の自治体向けセールスや新規事業開発、収支管理や法務面の整理など。オペレーション設計も広報も採用も、必要とあらば担当します。
嬉しいことに、コロナ後にスタートした「ふるさと食体験」事業が昨年の5倍以上のペースで伸びていて、キッチハイクとしてこれまで経験したことがない規模・スピード感で業務を進められるよう、私個人としても組織としてもギアチェンジをはかっています。
事業の成長と、自分の成長は裏表「キッチハイクの可能性に、自分自身がキャップをしてしまわないこと」
事業の成長と、自分の成長は裏表。キッチハイクが成長するほど、自分に求められるレベルが高まるし、自分が成長することで、キッチハイクをさらに成長させられます。
「キッチハイクの可能性に、自分自身がキャップをしてしまわないこと」というのは、ジョインして4年間、ずっと頭に置いてきたことかもしれません。
変わりゆく事業と、変わらないキッチハイクのコア
―川上さんがキッチハイクでやりたいことも、入社当初から変わってきているんでしょうか?
ジョインして4年の間に、キッチハイクのコア事業は、料理をつくる人・食べる人のCtoCマッチングサービスから、家庭料理のごはん会を定期開催する「みんなの食卓」事業、提携飲食店で食の好みが合う人同士のごはん会を開催する「みんなでお店」事業、そしてオンラインで地域の食を紹介する「ふるさと食体験」事業と、変遷をたどってきました。
ジョイン当初に私が実現したいと思っていた「地域の中に開かれた食卓をつくる」という構想は、事業の成長性やコロナによる社会情勢の変化などを受けて、キッチハイクとしては実現できない現実に行き当たりました。
それでも私がキッチハイクにコミットしつづける理由は、事業はあくまで理念を実現するための手段であって、キッチハイクのコアはなにも変わらず、むしろ時を追うごとに時代と呼応しながら深化しているように感じるからです。
「おいしいものを食べる」だけでなく、「おいしく食べる」ための食べ手のスタンスや選択こそが食を豊かにするし、自分個人だけでなく社会をもより良くする力を持っている。その想いは、私が自分自身のライフテーマにしている「幸せな食べ手を増やす」ということにもつながります。
― キッチハイク以前は、楽天に在籍していたんですよね。大手からスタートアップへの転職という大胆な決断に、周りも驚いたのでは?
4年前、キッチハイクに転職した自分の決断を「よくやった!」と思います。この選択をして本当に、良かった。
その前は、新卒から7年間、楽天で働いていました。スタートアップに転職する同期や先輩はそれなりにいたけれど、社員が数十名いて上場も射程圏内、といったミドル〜レイターステージの企業が多く、私みたいに社員数名のスタートアップにジョインするのは珍しく映ったと思います。大企業の安定を手放して、1年後どうなっているかも分からない、そんな道を選ぶなんてと。
何か大きな人生の決断をするときは、わりと直感で飛び込むタイプです。目の前にワクワクする選択肢が現れたら、もちろん情報収集や比較検討はするけれど、短期間でエイヤ!と決めてしまいます。
キッチハイク共同代表の山本・藤崎と出会ったとき、二人の描く社会のあり方に自分の理想が重なり、心が揺さぶられました。
そんな彼らと同じ船に乗り、キッチハイクでしかできない経験ができるのなら、給与が下がることだって、安定を手放すことだって、大したことではない。だいたい、安定なんて幻想で、人生100年時代、自分が持っている経験やスキルしか信じられるものはないわけで。
そう腹を括ってから4年。キッチハイクに入り、コンパクトなチームで仕事をすることで、視野も視座も変わりました。大企業ならではのスケール感も良いですが、その分どうしても細分化されたチーム内で業務が完結してしまい、会社全体としての視点を持ちづらくなります。
キッチハイクでは、一人一人のアウトプットが会社の成長に直結することや、一人一人の醸す雰囲気や興味関心が影響しあってキッチハイクというチームのグルーヴを生んでいることが、手触りをもって感じられます。「自分がキッチハイクをつくっている」という感覚をそれぞれが持てる環境は素晴らしいし、これからも大事にしたいなと思っています。
点と点はつながる。前職、楽天時代から続くテーマ、「地方を元気に」
― 前職の楽天でも、地域に関するお仕事をされていたと聞きました。
「ふるさと食体験」を通して地域の生産者さんや食関連事業者さんと頻繁にやりとりするようになり、ここにきて、新卒で入社した楽天での仕事と重なることが多くなり、自分のキャリアの点と点がつながったことを感じています。
楽天は「地方から日本を元気に」という思いで1997年に創業された会社です。当時生まれて間もなかったインターネットの力を使って、地方の中小事業者さんが手軽に全国に商圏を広げられる「インターネットショッピングモール」を打ち出したのが楽天でした。
私は新卒1年目に、楽天市場の出店事業者さんの売上アップをお手伝いするECコンサルタントとして福岡支社に配属になり、九州エリアのありとあらゆるジャンルの事業者さんと関わらせていただきました。
朝から晩まで事業者さんにお電話をして、商材のお話を聞いて、インターネットでの仕掛け方を一緒に考えたり、時には先輩とレンタカーに乗って、事業者さんを訪ねて熊本や宮崎などを巡ったり。九州エリアは食品ジャンルが強く、野菜や果物などの一次産品から、もつ鍋屋、明太子屋、酒屋などの加工品まで、さまざまな食品事業者さんと接する機会がありました。
まだ「働く」ということの右も左も分からない新卒時代。なかなか結果が出なくて、朝7時に出社して夜中まで働いて、休日も出社して…みたいな生活をしていました。苦しかったけれど、働いてお金をいただくことの厳しさや、結果への意識、与えられる側ではなく与える側になること、楽しく仕事をすること…当時の上司や同僚から教わったことは、今も仕事をする上での基盤となっています。
楽天でもキッチハイクでも共通するのは、地域の事業者さんの魅力を全国に届けること。その手段は、楽天ならECモール、キッチハイクならオンラインイベントや動画、と異なるけれど、事業者さんの想いに耳をかたむけ、食べ手となるエンドユーザーとの橋渡しを担う点は同じだと思っています。
食べ手目線で「ここが素敵!」と思うポイントは、地域の方たちにとっては当たり前すぎて案外見落とされていたりします。そんな魅力を価値化して届けることで、地域に継続的に人やお金の流れができる仕組みがつくれたら、こんなに嬉しいことはないですね。
幸せな食べ手を増やしたい
―もともと川上さんが食に興味を持ったきっかけは何ですか?
食に関わる仕事がしたいと思ったのは、先程お話しした楽天での新卒時代ですね。人生かけてやりたいことを考えたときに、学生時代から悩んできた「食べること」が自分の人生のテーマだと思ったんです。
前回の記事にも書いたのですが、大学で一人暮らしを始めてから、孤食やダイエット、インスタントな食生活などが積み重なって、「おいしく食べて満足する」というごく普通のことが遠くなった時期がありました。食事がカロリーという数値でしかなくなって、食べることに罪悪感を感じるようになってしまったんです。
私にとって、食べて満たされるとは、単に空腹が満たされるということではなく、心が満足することです。そのためには、作り手の想いが込もっていることと、食べ手がその想いを感じ取れること、どちらもが大切で。
「ふるさと食体験」で私たちがやっていることは、想いを込めてつくっている作り手を全国から見つけ出して、食べ手に届け、想いをつなげることです。
オンラインイベントという場を用意することで、食べ手は作り手の想いを直接受け取れ、そしてまた、感じた想いを作り手につたえることができる。両者の想いがつながりあって、あたたかな関係性が生まれていきます。そんな関係性のなかで得られる食体験は、心から満たされるものだと思っています。
環境や消費への意識も高まっています。自分が選ぶ食は、地球環境に配慮されているか?応援したくなる人たちが作っているか?自分が口にするものが、社会をよくすることに繋がっているかどうかも、「おいしい」の大事な要素になりました。
何を食べるか?どう食べるか?
食の選択肢が無限にあり、情報が氾濫するなかで、キッチハイクが発信する食は、いつでも食べ手を幸せにするものでありたい。日々を生きていくなかで、365日毎日は理想の食生活が送れなかったとしても、キッチハイクに触れている限り、食べることの豊かさに立ち返れるような、そんなサービスを作っていきたいと思っています。
川上 真生子(かわかみ まきこ)
2017年2月入社
東京大学文学部美術史学卒業。
現在、執行役員。
大学卒業後、楽天に入社。楽天市場ECコンサルタント、社長秘書をつとめたのち、楽天レシピに異動しアンバサダーマーケティング事業を展開。
2017年、事業開発担当としてキッチハイクに入社し、2020年より現職。
<趣味>
からだにいいこと全般、植物、街歩き。
<好きな食べ物>
白和え、珈琲、自家調合のシリアル。
<暮らしの変遷>
転勤族だった親の影響もあり、幼少期から通算15回以上の引越しを経験。
埼玉と兵庫に少しと、福岡と東京に10年以上。現在は福岡市で夫と二人暮らし。
キッチハイク「ふるさと食体験」を一緒に作りませんか?
キッチハイクは、全国各地から食と文化と交流に興味がある仲間を探すべく、「ふるさと食体験ができるまで」をコンセプトに、ふるさと食体験を一緒につくっていく準備室メンバーを募集します。
社員候補の新メンバーだけでなく、業務委託や副業、まるっとチームでの参加もOKです。
個人・法人、年齢・性別、問いません。また、居住地も問いません。全国地域からフルリモートで参加できます。ご応募、お待ちしています!
▼ソリューション営業 (自治体・企業向けセールス)
▼編集者・プランナー
▼コンテンツ制作プロデューサー
▼食材バイヤー
▼エンジニア
▼アプリ開発
▼Webエンジニア