こんにちは!株式会社キカガク 人事部の藤岡です。
AIが人に「教える」ことすらできるようになったいま、人にしかできない価値とは何でしょうか。組織のAIネイティブ化が進むほど、この問いは避けて通れません。
今回はクロストークとして、技術を「作る」側と、組織を「動かす」側。その両方の最前線に立つ、執行役員 研究開発責任者の木下涼さんと、CHROの和泉正倫さんにインタビューし、AIネイティブ組織づくりをテーマに、二人に率直に語り合ってもらいました。
今回の前編では、いま二人がそれぞれ取り組んでいることと、世の中の教育のあり方についてお届けします。
木下 涼さん|執行役員 研究開発責任者 兼 R&D部門責任者
2021年キカガク入社。新たな教育・評価の提案とデリバリーを一貫して実施し、各企業との伴走による仕組み作りを行う。大手自動車メーカーのソフトウェア人材育成や大手製造業のリスキリングなど、数多くのプロジェクトでマネージャーを歴任。教育とAIに関する研究にも精力的に取り組んでいる。
和泉 正倫さん|CHRO 兼 Global Leap International School 理事長
小学校教諭を10年経験したのち、2021年キカガク入社。研修事業部マネージャー、スクール事業部責任者を経て、2026年開校の Global Leap International School の理事長に就任。AI × 国際教育 × 探究型学習を融合させた先端プリスクールを立ち上げ、同年6月よりCHROとして全社の人事・組織戦略を統括している。
キカガクの「AIネイティブ度」、10点満点で何点ですか
早速ですが、お二人の"肌感覚"を数字で伺いたいです。キカガクのAIネイティブ度は10点満点で何点だと思いますか。
木下:3点です。
和泉:2点です。
想像していたより厳しい点数ですね。理由を聞かせてください。まず和泉さんから
和泉:10点は見えていない状況ですが、最低限の下地として、AIを使おう、こういうことをやろうという経営のメッセージが明確なのは大きいと思います。ただ、それを制度だったり実際の働き方に、具体的に落とし込めているかというと、まだそうではありません。今はまだ、経営と一緒に現場を作っていっている段階だと思っています。
木下さんはいかがですか。
木下:ほぼ同じ考えです。素養はかなり進んでいると思うんですが、いま研修業界で言われている「AIネイティブ」の定義は、AIが主体で、人間がそこに付随する状態だと理解しています。それを前提にすると、現場がそこまで行っているかというと、まだそうではない気がします。
和泉:そう思います。AI活用企業ではあるけれど、AIネイティブとは全然違う。まだまだですね。
いま、二人がいちばん熱を入れていること
「まだまだ」という現状に対して、お二人はいまどんなアプローチを取っているんでしょうか。次に、いま一番力を入れているテーマを教えてください。
木下:いま一番力を入れているのは、「あるべき教育のアップデート」です。これまでのキカガクは、研修や人材育成の需要があって、それに応えるという形でやってきました。それも大事なんですが、これからのAI時代の「あるべき」教育を、逆算して先んじてやっていきたいと思っています。
具体的には、どんなことに取り組んでいますか。
木下:大きく二つあります。一つは、その時代に合ったデータサイエンス教育・技術教育を考えることです。「批判的思考力が大事」とはよく言われますが、それが「AIの出力が正しいかどうかを確認する力」という定義で片付けられがちなのが、僕は引っかかっていて。もっと本質的なスキルを言語化して、育てられるようにしたい。
もう一つは、AIに代替されにくい専門技術人材の育成です。セキュリティが重要になるローカルLLMの構築など、AIが完全には代替しにくく、かつどの企業にも共通して必要になる技術領域を特定して、そこに特化した人材を育てたいと考えています。話題性は批判的思考力の研修の方が高いと思いますが、資産や代替されにくさを軸に考えると、価値が残り続けるのは技術特化だと思い、あえてこちらを選んでいます。
ただ、外部から教育を提供する立場としての限界もあるのではないでしょうか。
木下:そうなんです。僕らはどうしても教育ベンダーという、外側から教育する立場です。1ヶ月〜1年ほどのスパンで、専門性をどれだけ深められるかというと、正直そこには限界があると思っています。最終的にどれだけ深まるかは、本人がどれだけ考えて試行錯誤したかによる部分が大きいので。
伴走支援はもちろんできますが、僕たちに与えられている役割は、その試行錯誤ができるだけの知識と技術を身につけてもらうところまでだと思っています。
和泉:僕も同感です。最近、法務領域でAI活用している企業の例を聞きました。法務の専門知識を持つ人が、AIをどう使いこなすかを試行錯誤しながら、新しい法務人材になっていく。そういうスペシャリストにAIという武器を与えることが必要だと思います。
和泉さんは、いま何に力を入れていますか。
和泉:僕のキーワードは「人間回帰」です。人事とインターナショナルスクール、僕が携わっている二つの領域、どちらで考えても行きつくのはここだと思っています。
まず人事領域では、どんなことを考えていますか。
和泉:人事領域で大事にしているのは、AIを使うこと自体を目的にしないということです。
会社の制度や働き方をAI化していくほど結局人間は何をやりたいのかという問いに行きつきます。そうなった時にもっと僕たちはそもそもの人間というものを知らないといけないし、人間の価値をどう引き出すかを軸にAIとの組み合わせを考えないと、形だけの仕組みになってしまうと思っています。
次にインターナショナルスクールの領域では、どんなことを考えていますか。
和泉:幼稚園児のうちからAIを使いこなそう、という話ではありません。感じる、考える、感動するといった、人間の非認知能力を育てることが本質だと思っています。テクノロジーやAIをパートナーとしながら、「自分は何をやりたいのか」「どうなったら幸せなのか」を考えられる人を育てる環境を、教育の場としてつくっていきたいです。何か既存の教育法を導入するというよりも、テックとの共存を前提にした環境そのものを、新しくつくっていきたいと思っています。
木下:僕も同感です。「あるべき教育」を考え続けると、最終的には「そもそも教育って必要なんだっけ?」という問いに行きつきます。AIネイティブ化とともにこれから「教育の再定義」が始まると思っています。
インターナショナルスクール(GLOBAL LEAP INTERNATIONAL SCHOOL)の理念
AIが人に教えられる時代に、教育会社は何を価値とするのか
AIが人に教えられるようになりました。キカガクのような教育の会社の価値は、どこに残ると思いますか。まず木下さんから。
木下:僕の答えは、「わからない」というのが正直なところです。理論的には考えられますが、実際にはAIだけで教育した場合と人間の講師で学んだ場合を比較してみないとわからないと思っています。
もし学習効果が変わらないなら、人間である必要がないものがこの世にあるということだし、そうじゃないんだろうという感覚はみんなどこかにあると思うんですが、それを確かめるにはエビデンスが必要で、そこがないと次の議論に進めないと思っています。
和泉さんはどう思われますか。
和泉:僕が思うのは、そもそもAIは「教えて」いるんだっけ、というところです。AIからも知識は出てきますが、それは教えると同義ではないと思っています。教えるという行為は、学習者の状態をしっかり把握して、ゴールを設定して、そこに向けて要素を分解して、介入していく。この判断も含めて、正しい打ち手を置くという行為だと捉えています。ここは、まだAIにはできていないと思っていて、キカガクの研修が評価いただいているのも、この点だと思っています。
木下さんが言うように、実際にAIと比較してみないとわからない部分もあるので、一度トライしてみてもいいかもしれません。
他にもキカガクが選ばれ続けている理由はありますか。
木下:キカガクの研修が評価されている理由は他にも、講師と学習者の関係が、一人称でも三人称でもなく、「あなたと私」という関係性になっていることだと思っています。その人を模倣したり、その人みたいになりたいと思える距離感です。
和泉:それ、僕は「憧れドリブン」と呼んでいて。一番教育効果が高いのは、憧れだと思うんです。何かの上司からのフィードバックや評価制度よりも、憧れる人が一人いるほうが、人は自然と伸びていく。僕はそういう人間的なアプローチは必要だと思っています。ただ難しいのが、「どう憧れられるようになるんだ」という話はありますよね(笑)。
木下:面白い話があって、先日聞いた話ですがAIに圧倒的に足りないのは「人格」だそうです。この人にはこういう話し方をした方がいいよねとか、こういう情報を提示したらいいよね、という場面がありますが、AIはそういうことはできず、全員に同じアプローチをしているのが今のAIです。
人格を持たせて人との接し方で最適なところを出していく取り組みがいまなされています。ただAIに人格を持たせる技術は進んでも、AIに憧れてAIになりたいと思う人はいないだろうな、と思っています。やっぱり人は人にしかなりたくないですよね(笑)。
技術のアップデートと、人間回帰。世の中に向けた教育のあり方について、二人の考えは驚くほど近い場所にありました。では、その考えを自分たち自身の組織にも向けたとき、何が見えてくるのか。後編では、キカガク社内の教育文化についてお届けします。
キカガクは、こうした問いを社内で終わらせず、率直に発信していきたいと思っています。取り組みに関心を持ってくださった方は、ぜひ採用ページも覗いてみてください。