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【11月虐待防止推進月間】 「予期せぬ妊娠」に悩む母親の実態。必要なサポートとは? コロナ禍における「フローレンスのにんしん相談」実態調査(2019年9月~2021年9月)結果

国内の親子領域の社会課題解決に取り組むフローレンスは、予期せぬ妊娠に悩む親への相談支援と特別養子縁組を支援する「フローレンスの赤ちゃん縁組事業」を運営しています。

このたび、2019年9月~2021年9月末までに電話やLINE、メールで「フローレンスのにんしん相談」に寄せられた相談1,768件の内容を分析し、調査レポートにまとめました。

※なお、フローレンスは2016年に赤ちゃん縁組事業(妊娠相談・特別養子縁組あっせん事業)をスタートし、予期せぬ妊娠に悩む方からの相談に応じ、必要な場合には妊婦健診の付添いや、養育などのサポートを続けてきました。2016年からの「にんしん相談」相談受付件数は2,500件以上にのぼります。今回はコロナ禍を含む直近2年間にフォーカスしました。

今回の調査では、数値データだけでなく、実際に寄せられたコメント内容などから、相談者のおかれている状況を明らかにし、社会に求める支援策などを提言にまとめました。

■本レポートの背景ー約1ヵ月にひとり失われている新生児の命ー


赤ちゃんの遺棄についての報道は絶えることがありません。

2021年9月以降だけでも8件の新生児遺棄事件について、続報や発覚が報道されています。妊娠に気づかなかった、若年である、相手と連絡が取れないなど状況は様々ですが、いずれも医療機関や自治体とつながることなく事件に至っています。

2021年に入って明らかになった件では、コロナ禍で人間関係がさらに狭まったことで「誰にも相談できなかった」と述べているケースも見られました。

2021年8月に発表された厚労省のまとめ*によると、2020年3月31日までの1年間に親などから虐待を受けて死亡した子どもは心中を除いて全国で57人にのぼります。そのうち「0歳」が28人(49.1%)と約半数となっており、そのうち11人(39.3%)が、月齢0か月児でした。

妊娠期・周産期における問題(複数回答)として、「予期しない妊娠/計画していない妊娠」が20人(35.1%)、「妊婦健康診査未受診」が20人(35.1%)、「遺棄」が18人(31.6%)などが多くなっており、母親への支援策が必要であると指摘されています。
*…子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について 第17次報告(厚生労働省)より

【「フローレンスのにんしん相談」相談内容分析調査 概要】

・集計期間:2019年9月1日~2021年9月30日
・対象地域:全国(全47都道府県)
・対象:認定NPO法人フローレンスのにんしん相談窓口(電話・メール・LINEチャットボット)に寄せられた相談
・有効回答:1,768件※
※対応のキャパシティの関係で一部の相談を停止していた時期を含む件数
※着信のみがあった場合など相談内容の把握ができないものは有効回答数に含めていない

調査サマリ

妊娠相談者の年齢は25歳以下の若年層が64.7%を占め、20歳以下は38.1%。首都圏などを中心に全国47都道府県から相談が寄せられる

「妊娠しているか不明(妊娠前)」と回答した相談者の68.1%が20歳以下

出産後に相談に至った相談者は7.9%。うち、生まれた子どもの障害(「障害の可能性」も含む)に関する相談が15.0%を占めた

・「妊娠しているか不明(妊娠前)」な相談者の74.1%が妊娠不安を理由に相談。妊娠中期(~22週)までは中絶に関する相談が39.4%、妊娠後期(22週~)以降は養子縁組に関する相談が52.3%とそれぞれ最多となる

・コメント欄に寄せられた声からは、子育て環境が整わず、虐待不安を抱えたり、自分で育てられないと思うほどに精神的に追い詰められる状況が伺える

コロナによって課題が重層化し、追い詰められる妊婦や親子がいる

調査結果

1.妊娠相談者の主な属性(年齢層 n=1,468)

妊娠相談者の年齢層は、「15歳以下」が3.9%、「16~20歳」が34.2%、「21~25歳」が26.6%、と10代~20代前半までの若年層が64.7%を占めました。都道府県別の分布を見ると、首都圏を中心に全国47都道府県から相談が寄せられています。


2.妊娠段階別の相談内容(n=1,616)

相談者の妊娠段階は「妊娠しているか不明(妊娠前)」が36.5%で最多となりました。「妊娠しているか不明(妊娠前)」と回答した方の68.1%が20歳以下(「15歳以下」が8.2%、「16~20歳」が59.9%)。身近な人や医療機関等に具体的な症状や行為を開示し相談することへの物理的・精神的なハードルは低くありません。

「検査薬陽性(週数不明)」と回答したのは12.9%で、「一度も病院に行っていないがどうしたらいいかわからない」との相談が複数名から寄せられました。急を要する状況である一方で、医療機関や家庭、学校等で状況を十分にキャッチしきれず必要なサポートが受けにくい様子が伺えます。

■妊娠段階が「検査薬陽性(週数不明)」かつ、受診に至っていない相談者の声(コメント欄より抜粋)
※相談者の個人が特定できないよう、実際のコメントの内容を要約して記載しています

<経済的な不安>
・産みたい気持ちはあるが、パートナーの収入も少なく、自分もコロナで仕事が決まらず経済的に産めない。中絶するにもどこの病院に行っていいのか。費用も一括で払えない。怖い。辛い。

・無職でお金がなく、妊娠中であるため仕事も断られてしまう。誰からの援助も受けられない。このままだと今現在の生活すら維持できないです。

・お金も保険証もなく、病院に行けない。お腹も大きくなってきて不安。

<在学中の妊娠>
・まだ学生だが妊娠してしまったことを親にも言えないまま数ヶ月過ぎてしまった。病院に行くのも怖い。

・学生で卒業後の就職も決まっているが、妊娠していることが分かると退学になってしまう。病院を受診したら学校に言われるのではないかと不安。親にも言えない。

<受診への物理的・精神的なハードル>
・海外に滞在中の日本人だが、外国人は診られないと言われた。中絶できる期限が近づいてきており焦っている。

・つわりの症状などもなく気づいた時には中絶できる時期を過ぎていた。お金がなく病院にも行けていない。

・以前も出産しているが子どもを手放している。過去のことも心に残っており、妊娠したことを受け入れられないままここまで来てしまった。コロナの状況もあり不安で未受診のままである。

また、出産後に相談に至った相談者が7.9%(「出産後」3.4%、「養育中」4.5%)おり、今まさに不安を抱えながら育児している相談者は決して少なくありません。

妊娠段階「出産後」には経済的な不安や困窮、育児の過酷さ、DV、予期せぬ妊娠で誰にも相談できず自宅出産してしまった、という声が寄せられました。こうした声からは、出産前にとどまらず出産後も切れ目なく、養育不安や特別養子縁組についての相談支援、経済的な不安の解消など、幅広い支援が必要とされていることが伺えます。

■妊娠段階が「出産後」に相談を寄せた相談者の声(コメント欄より抜粋)
※相談者の個人が特定できないよう、実際のコメントの内容を要約して記載しています

<養育不安・自身の虐待を不安視>
・現在生後4ヶ月の子どもがいます。精一杯子育てしてきたが、精神的に疲れておりもう限界。夫も解雇寸前で、正直子どもを育てる経済的な余裕もなく、泣き叫ぶ子どもの口を塞いでしまいハッとする事も増えてきた。他の家庭で育ったほうが幸せなのではないか。

・本当は産まない選択をしたかったがパートナーに「中絶するなら別れる」と言われ、産むと決めた。しかし子供のことが憎いと思ってしまうことがあり、子供の顔を思いっきり叩いたり暴言を吐いて大声で怒鳴ったりしてしまう。可愛いと思うが産まなければよかったという思いの方が強い。彼氏は経済的援助もしてくれない。このままだと虐待が加速しそうでつらい。

<経済的な不安>
・3人めの子どもだが、これまでも生活保護などを受けてきており、お腹の子どもの出産費用や産まれてからの生活でかかっているお金の不安のことばかりが頭に浮かび、毎日悩んでしまう。

<受診への物理的・精神的なハードル>
・1人で出産してしまった。既に3日経っているが、病院にも怖くていけない。

<特別養子縁組の検討>
・今日、パートナーの子どもではない子を出産した。養子縁組を検討している。

また、妊娠段階が「養育中」となると、特に乳幼児期の子どもを持つ方からの相談が増え、子育ての不安や経済面、健康面、精神面、家庭環境などに複数の課題を抱え、その過酷さから今後育てていくことが難しいという訴えが寄せられています。一部の相談からは、子育て環境が整わず、虐待不安を抱えたり、自分で育てられないと考えるほどに精神的に追い詰められる姿が浮かび上がります。

■妊娠段階が「養育中」に相談を寄せた相談者の声(コメント欄より抜粋)
※相談者の個人が特定できないよう、実際のコメントの内容を要約して記載しています

<重層的な生活課題>
・シングルマザーになる覚悟で出産し1歳の息子を育ててきたが、経済的に厳しく借金返済も滞っており、養子縁組したい。

・10代の母親、子どもは1歳。相手は認知していない。家を出て母子保護施設で暮らしているが、もうこれ以上子育てするのは無理だと感じている。

・ひとり親で精神障害で通院中。子どもは4歳。自分も虐待を受けていたため子どもへの接し方が分からず暴言や手を上げてしまうこともあり、子どもが原因で精神面でも悪化している。子どものためを思うと新しい家族と過ごした方が良いのではないか。

・生後2ヵ月の子どもを養子縁組したい。2歳になる長男が自閉傾向があり、子育ての大変さから二人目の出産前から不安だった。出産後も一度も可愛いと思えない。

・産後すぐにシングルマザーになり、実家で両親と一緒に子育てしているが、実父が子どもの前で自分に暴力をふるってくる。実家を出たいが子どもと二人暮らしでやっていくことも難しく、養子縁組を考えている。

また、「出産後」「養育中」に寄せられた相談の中には、生まれた子どもの障害(「障害の可能性」も含む)に関する相談が15.0%(126件のうち19件)を占めました。障害・医療的ケア児が生まれた家庭へのサポートの整備や養育中の継続的な支援が必要とされていることが伺えます。

■「出産後」「養育中」に子どもの障害に関する相談を寄せた相談者の声
※相談者の個人が特定できないよう、実際のコメントの内容を要約して記載しています

・数日前に出産したが、子どもに障害の疑いがあると言われ、受け入れることができずにいる。
・子どもに障害があると告知され、母親もうつ状態になっており、養子縁組を検討している。

3.時期別に見る相談内容の変化(n=1,750)

時期別に相談内容の内訳を見てみると、2020年後半頃から、「妊娠したかどうか」という妊娠不安からの相談が顕著に増加。また、コメント欄に寄せられた声からは、コロナ禍による生活環境・雇用環境などの変化や、経済的な不安の影響が伺えます。


■コロナ禍による生活環境・雇用環境などの変化や、経済的な不安が伺える相談者の声(コメント欄より抜粋)
※相談者の個人が特定できないよう、実際のコメントの内容を要約して記載しています

<コロナ禍での課題の重層化>

・以前から借金があり、もうすぐ臨月だが、金銭的に余裕がなく、入院準備や赤ちゃん用品の準備もできていない。出産費用は出産一時金でも足りない。夫も自営業でコロナ禍で影響を受け売上が落ちてしまった。給付金もギャンブルに使ってしまい、それを伝えると暴力を振るわれる。コロナの状況も不安だし、胎動を感じるたびに精神的にも不安定になり涙が流れます。

・飲食店パートをしながら小学生の子どもを育てるシングルマザーだが、交際相手がおり妊娠が分かりました。コロナ禍で仕事もなく、給付金で何とか生活している状況で借金もある。同居している家族も闘病中で、経済的に厳しく、お腹の子を産み育てる自信がない。

4.妊娠段階ごとの相談理由の内訳(n=1,616)

妊娠段階別の相談理由として、「妊娠しているか不明(妊娠前)」な段階では、相談者の74.1%が妊娠不安を理由に挙げています。

妊娠初期~中期ごろ(「検査薬陽性(週数不明)」209件、「病院で妊娠確認済(週数不明)」167件、「妊娠初期(~12週)」133件、「妊娠中期(~22週)」85件)までは、中絶相談に関する内容(「中絶相談その他」191件、「中絶相談お金がない」43件)の割合が39.4%を占めます。日本では中絶手術が可能な時期は母体保護法によって「妊娠22週未満」と定められており、この時期に中絶という選択肢を検討する方が増える背景であると考えられます。

妊娠22週以降(「妊娠後期(22週~40週)」306件、「出産後」54件、「養育中」72件)はいずれも「養子縁組したい」という相談が226件で最多の52.3%、次いで「育てられない」が82件で19.0%と続きます。
妊娠相談の内容も、妊娠段階において傾向が変化していくことが分かります。


「赤ちゃん遺棄死ゼロ」を目指して、私たちが社会に求めるサポート

「孤独に出産を迎え赤ちゃんを遺棄する」事件は、誰にも相談できず、様々な事情から適切な情報が得られないまま支援に繋がれなかった結果です。
妊娠は女性単独によるものではないにもかかわらず、この結果から母親のみが法的に処罰され、また社会全体も母親に非難を集中することに大きな課題があると考え、以下をはじめとしたサポートの充実を求めます。

<虐待を未然に防ぐセーフティネットの充実>
●妊娠・出産と同時に社会的支援につながれる仕組みを
・コロナ禍で孤独な子育てが加速、虐待不安を抱える親への支援
・妊婦健診の完全無償化
・孤立化しやすい外国籍の妊婦・親子の支援
・障害児/医療的ケア児のいる家庭への包括的な支援
・多胎育児、自身の心身疾患による理由など、困難な子育て環境にある親への保育支援
・共働き家庭のための保育園から、希望する人は誰でもみんなの保育園に入れるよう制度の転換への転換を図り、地域の親子の福祉拠点として活用する保育サポートを行う

<予期せぬ妊娠を防ぐために>
●必要な人が緊急避妊薬を手に入れやすいよう制度変更を
・緊急避妊薬を医師による処方箋が必要なく、薬局・ドラッグストアで買える一般用医薬品に
・緊急避妊薬を入手しやすくすることでリスクを軽減する

●若年層への適切な性教育を
・性教育の遅れや不足が「予期せぬ妊娠」の一因に。妊娠・出産・特別養子縁組なども含めた包括的な性教育を
・コロナ休校や分散登校など、学校に通えない事情があっても、相談できる窓口の拡大を
・出産後の相談も多い、特別養子縁組という選択肢の啓発

<コロナ禍で高まるリスクへの支援>
●コロナ禍で課題が重層化する子育て家庭の支援を
・コロナでの経済的不安により病院を受診できない妊婦への支援
・就労支援、ひとり親や若年層、生活困窮家庭への継続的な支援強化
・経済的、精神的、身体的、家庭内など複数の課題への複合的なアプローチを

最後に、赤ちゃんの虐待死は、出産や育児が困難な環境にある女性、予期せぬ妊娠に悩む母親個人の問題ではありません。母親の自己責任論に矮小化せず、そうした状況に追い詰められる親子を生む社会構造に、私たちフローレンスはアプローチしていきます。

フローレンスの赤ちゃん縁組事業について

フローレンスは2016年に赤ちゃん縁組事業(妊娠相談・特別養子縁組あっせん事業)をスタートし、にんしん相談と特別養子縁組のマッチングを行ってきました。

にんしん相談については、相談員が予期せぬ妊娠に悩む方からの相談に応じ、必要な場合には妊婦健診の付添いや、養育などのサポートを続けてきました。フローレンスのにんしん相談受付件数は2020年度までに2,500件以上にのぼります。「深夜・休日・時間帯を問わず、匿名で相談したい」というニーズの高さに応じるため、2020年5月にはLINEで24時間いつでもチャットボットが応答する相談窓口も開設しました。

予期せぬ妊娠に悩む親がいる一方、子どもを迎えたいと望む夫婦も全国にいらっしゃいます。フローレンスでは、特別養子縁組で子どもを迎えることを検討しているご夫婦を対象にした「特別養子縁組オンライン基礎研修」(有料)を2019年にスタート。日本全国どこからでも特別養子縁組に関する正確な情報にアクセスでき、動画で学べる環境をご用意しました。さらに手軽に無料で特別養子縁組の正しい知識をお届けするため、LINEを活用し情報提供を行っています。

2021年8月より、東京都から委託を受け、都が運営する妊娠相談事業「東京都妊娠相談ほっとライン」に寄せられた相談のうち、市区町村の窓口につながっておらず継続的な支援が必要な方のサポートを行っています。

赤ちゃんの遺棄死ゼロを目指すため、フローレンスを応援してください

フローレンスは、赤ちゃんの遺棄死をはじめとした、こどもの虐待をゼロにし、孤独な子育てを根絶したいと活動しています。

今回はにんしん相談に相談を寄せる相談者の実態を分析し、調査レポートにまとめ、社会に求めるサポートの提言を行いました。

このように、「みんなで子どもたちを抱きしめ、子育てとともに何でも挑戦でき、いろんな家族の笑顔があふれる社会」を実現するため、様々な事業で親子にサポートを届けるだけでなく、働き方や男女格差の問題、こどもの貧困問題に対して、さまざまなアクションを起こしています。

これらの活動は、全て皆さまからの寄付に支えられています。

ぜひ、フローレンスの活動を応援してください。

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