「俺が行きたかったのはハノイじゃなくてハワイなのよ」
いまから約6年前、エンジニア組織の確立と自社プロダクトの構想を求めて、単身でベトナムの首都・ハノイへ。
お土産は、現地の優秀なAIエンジニアも在籍する「オフショア」の設立と、念願の自社プロダクト「BOTCHAN(ボッチャン)」の開発でした。
株式会社wevnal(ウェブナル)のフロンティアを常に開拓し続けてきた、共同創業者 兼 取締役副社長の前田 康統(まえだ やすのり)。
2021年の4月からは、CPO(最高プロダクト責任者)として、BOTCHANの改善や新しいプロダクトの開発などを主な役割として担っています。
直近では、AIによってチャットボットを自動生成できる世界初(※)の新機能をリリースしました。(※2021年7月13日現在、当社調べ)
wevnalの経営陣4名に、このたび刷新されたミッション・ビジョン・バリューに込めた意図や、wevnalへの想いなどについてインタビューする連載企画。
第3回は、プロダクトに思想を吹き込む新規事業の立ち上げ請負人・前田に話を聞きました。
第1回、第2回の記事はこちら。
(聞き手:管理部 人事担当 新原)
「スゲェ会社・・・?」「それだ」
━━新しいMVVについて聞く前に、そもそも前のMVVはどういう経緯で決めたんですか?
前田:5年前くらいかなー。千葉で経営合宿をしてて、そこで前のMVVは決めたのね。ただ当時、合宿の場で話し合っても話し合っても、全然しっくりくる言葉が出てこなくて。
俺も含めた経営陣3人みんながうんうん唸って、予定していた議論の時間も大幅にオーバーしてた。「もうこの場では無理かもしれない」と諦めて切り上げようとしたとき、磯山さん(※wevnalの代表取締役社長)がボソッと「スゲェ会社・・・?」ってつぶやいて。
━━前のビジョンの「スゲェ会社」が、最初はそんな弱々しい登場だったのは知らなかったです・・・笑
前田:当時のそのタイミングは、磯山さんだけじゃなくて、俺も森元さん(※wevnalの常務取締役)もいろいろと考え尽くして、もう頭が疲れ切ってた。
だから言葉を選ばずに言うと、3人ともちょっと変なテンションだったのかもしれない。磯山さんの口から出た「スゲェ会社」って言葉を聞いた瞬間、俺も森元さんも口をそろえて直感的に「それだ」と答えて。
wevnalの創業者3名。左から前田、磯山、森元
前田:当時はまだ、いまのBOTCHANみたいな「これ」っていう自社プロダクトを持っていなかった。世の中に対して発信できる具体的なメッセージがなかったという背景もあって、「それぞれのメンバーに解釈の余地を持ってもらったうえで、もうめちゃくちゃスゲェ人や会社になろう!」というビジョンにまとまって。
字面だけを見ると抽象的なんだけど、決まった過程も含めて当時のwevnalの組織フェーズにとっては、その「理屈では説明できない勢い」が大事だったなとは思う。
━━逆に言うと、今回新しくMVVを決めたのは組織のフェーズが変わりつつあるからということですか?
前田:そう。3年前くらいにBOTCHANの事業部を立ち上げてから、BOTCHANシリーズの合計で、700社以上のお客様に使っていただけるようになった。今後はその自社プロダクトの展開をメインとして、エンジニアにより重きを置いたテクノロジーに強い組織を作っていく。
そういうwevnalの提供価値や組織として目指す方向が明確になってきたこのタイミングで、新しいMVVを社内外に対して発信していく必要があるなと感じていたね。
「データの民主化」から始まる新ミッション
━━ではここからは、新しいMVVの具体的な内容について聞きたいです。まずはミッションの「人とテクノロジーで情報を紡ぎ、日常にワクワクを」には、どんなメッセージが込められているんですか?
前田:一言で言うと、まずは「データの民主化」ということをやりたい。とは言え、情報を単にオープンにするだけだと、あんまり意味がなくて。
「この数値からはどんな考察が導き出されるのか」とか「このデータはどんなことに活用できるのか」とかっていう、二次利用までを含めてやりたいんだよね。そしてその過程では、テクノロジーの力も活用していく。
━━「データの民主化」に関して言うと、現状はひとつの企業や機関内で情報が閉じてしまっていることも珍しくないですもんね。
前田:最近の「人とテクノロジーで情報を紡いだ」良い例で言うと、台湾のオードリー・タンが中心になって作った「マスクマップ」が当てはまるなと思っていて。新型コロナウイルス感染症への対応として、マスクの在庫がいまどこの薬局にあるのかを、スマホ上で分かりやすく見れるようにしたのね。
━━当時テレビやSNSでもよく話題になってた記憶があります。
前田:あれって、各薬局のマスクの在庫状況に関するデータを一般公開して、Googleマップと組み合わせて作っているんだよね。
しかもこのマスクマップをオープンソース化することで、数百人以上の民間のエンジニアたちと協力して、数日だけで完成させていて。
今後我々もそうやって人と情報をつなぎ合わせていくことで、世の中に対する新たな価値を提供していきたい。
暗礁に乗り上げかけていた「チャットボット自動生成AI」
━━では次に、新しいビジョンの「コミュニケーションをハックし、ワクワクするユーザー体験を実現する」について教えてください。
前田:「コミュニケーションをハックする」に関して言うと、その究極は「人の需要を書き換える」ことだなと思っていて。その人がいままで全く興味を持っていなかった商品のことを、チャットボットを通じたコミュニケーションによって欲しくなることが、理想形として目指すところ。
━━たしかに、最初に興味のないものを好きになってもらったり買ってもらったりするのが、一番難しいかもしれないですね。
前田:さっきの「情報を紡ぐ」の話にも関連するところで、いまいろんな企業や政府が、大量のデータを保有している現状があるじゃない?
ただ、いまのBOTCHANがやっているような「会話をしながら商品を購入した」データを持っているところって、日本や世界全体で見ても、そこまで多くはないと思うのよね。
それくらい、我々の情報は価値のあるものだなと思っていて。そのデータをきっかけに、顧客の新しいニーズや感情を浮き彫りにしていきたい。
━━では、新しいMVVに関して最後の質問なのですが、今回、ミッションとビジョンの両方に「ワクワク」って言葉が入っていますよね。この言葉にはどんな想いがありますか?
前田:まず前提として、プロダクトを提供する我々自身が、ワクワクしている状態が大事だなと思っていて。例えば、3年前くらいにBOTCHANの事業部を立ち上げたときなんて、毎朝、起きたら事業部トップの俺ですらよく分からないエラーや問題が起こりまくっていたからね(笑)
━━なかなかカオスな状況ですね。
前田:でも俺は、それが楽しかったんだよね。「生きてる」って心地がする。誤解を恐れずに言えば、毎日が祭りみたいな感覚。
━━当時、事業部を外から見ていたんですが、前田さん個人だけじゃなくて、チーム全体としてすごい熱量があるなと感じてました。
前田:まずはやっぱり、自分たちがワクワクした状態であることは大事だね。そのうえで、我々のプロダクトを使っていただく顧客やユーザーに対しても、ワクワクする体験を提供したいと思っていて。
例えば今年の5月にリリースした新しいプランのBOTCHANは、自社サイトの問い合わせフォームのURLを入力するだけで、AIが自動でチャットボットを作ってくれるのね。
新プランのBOTCHAN。URLを入力するだけで、自動でチャットボットが作られます
━━私もつい、いろんな会社さんの問い合わせフォームを入れちゃいました(笑)
前田:URLを入れるだけで、すぐにチャットボットが自動で作られるっていう体験は、やっぱりそれ自体が楽しいじゃない?
そういったワクワクは、いままで知らなかったものに興味を持ったり、好きになったりっていう「コミュニケーションをハックする」ところにもつながってくると思うんだよね。
且つ、今回はその過程でAIという「テクノロジー」も使っていて。
━━ミッションとビジョンの両方に通ずるものがありますね。
前田:実は、チャットボットをAIで自動生成する機能ってあまりにも難易度が高くて、一回途中で頓挫しかけたのよ。ただ、このユーザー体験は俺のなかでどうしても譲れなくて。エンジニアをはじめとする社内のみんなに協力してもらって、どうにかリリースまで漕ぎつけることができた。
━━まさに前田さんにとって、BOTCHANの今回の新プランは悲願だったんですね。
前田:そうだね。BOTCHANのこの新しいプランは、組織としてはもちろん、俺個人としてもめちゃくちゃ想いが詰まっている。
目標を初達成したMTGで「前田のモノの言い方が気に食わない」
━━先ほど「今回の新しいBOTCHANのプランは俺個人としての想いも強い」という前田さん個人の観点の話もありましたが、2021年の4月からはCPOとしてBOTCHANの開発面を統括するようになりましたよね。それまでのBOTCHANに関連する全ての部署をマネジメントするようなポジションから肩書きが変わったことで、前田さんのなかで心境の変化はありましたか?
前田:ないね。別に俺、肩書きで仕事してるわけじゃないし。ただ、他のメンバーにBOTCHANのビジネスサイドのトップを任せられたのは、自分自身に対して安心した。
━━どういうことですか?
前田:もしそこで「俺が立ち上げてここまで大きくしたチームだから、他の人に任せたくない」ってエゴが出たら、組織が終わるから。俺とエンジニアの木曽さんの2人で始まったBOTCHANのチームが、この3年で50人以上が関わるくらいすごい大所帯になった。
前田:事業のフェーズとしては1→10の拡大期に入ってるんだけど、俺自身のパフォーマンスが最大限に出て且つ好きなのは、やっぱり0→1でなにか新しいものを生み出すところなんだよね。
━━前田さんが0→1を好きっていうのは、ずっと前からご自身でも言ってましたもんね。
前田:1→10のフェーズで事業をグロースさせていくのは、俺よりも今回ビジネスサイドのトップになった、にしやん(※西田:取締役COO)の方が向いていると思う。そこはまさに、適材適所だね。
2021年4月から取締役COOとなった西田
━━前田さんのその「それぞれに適した役割がある」っていう考え方って、いつから強くなったんですか?例えばwevnalの創業当初は「キングギドラ」って社員の人たちから揶揄されてしまうくらい、経営陣内でもそれぞれが自分のことを「俺が一番できる」と思って、バラバラな方向を向いてた時期もあったかなと思うんですけど。
前田:6年前くらいに、ベトナムに行ったとき。自分で言うのもなんだけど、当時の俺って、わりと尖ってたのよ(笑)
━━なんとなく想像はつきます(笑)
前田:各チームのトップが数値報告をする「幹部MTG」っていう定例会議があったんだけど、そこで俺、他のメンバーに対してめちゃくちゃ厳しい態度だったし、言葉遣いも荒かったのね。当時は平気で「お前ヤル気あんのか」とか「テメエふざけんなよ」とかって言いまくってた。
━━めちゃくちゃ尖ってますね。
前田:そしたらある日の幹部MTGで、他のメンバーたちから「前田のモノの言い方が気に食わない」って言われて。
前田:しかも、当時は組織が新規案件チームと既存案件チームに分かれてて、俺は新規チームを担当してたのね。それでその日は、ようやく月の売り上げ目標を初達成した日の幹部MTGだったのよ。
「チームが少しずつ成長してきたな」って喜んでたら、みんなからめちゃくちゃ責められまくった。
━━精神的にめっちゃ辛いですね、それは・・・。
前田:もうめちゃくちゃムカついて、一瞬wevnalを辞めてやろうかと思ったくらい。でもそこは一旦冷静になって、「どうすればwevnalでまた自分の役割を獲得できるだろう」って考えた。それで、組織にとって必要だけど誰もやってないことを探して出た答えが、「ベトナムに行くこと」だった。
海を眺めながら「いそに会いたいな」「レオは元気にしてるかな」
━━前田さんがベトナムに行った経緯って、自らが望んで行ったというよりは、必要に駆られての側面も大きかったんですね。
前田:というか、最初はベトナムになんて興味なかった。海外は好きだけど、俺が行きたかったのはハノイじゃなくてハワイなのよ。文字は1文字しか違わないけど、もう全然違う。
━━たしかに、全然違います。
前田:とは言え、いずれにしろ日本語が通じない異国の地に来たから、ここで「メッセージの伝え方」について、自分を訓練できるなと思った。
前田:日本にいるときは、そこが未熟で、他のメンバーとうまく意思疎通できなかったわけだから。
結果的に、海外の人たちとのコミュニケーションを通して、自分の「伝え方」に関してめちゃくちゃ鍛えられた。ただ最初はやっぱり、自分の言いたいことが全然うまく伝わらないわけよ。
━━言語だけじゃなくて、その背景にある文化とか価値観とかも違いますもんね。
前田:だからベトナムに来てしばらくは、友だちや仲良くなる人も全然いなくて。正直、もうめちゃくちゃ寂しいよ。異国の地で一人でポツンといて、マジで何もすることがない。
━━想像しただけで、すごい心細いです・・・。
前田:それである日、海に行ったのね。ボーッと海を眺めていたら、ふと「あ、この水面の先は、日本だ」と気づいて。
そしたら急に感傷的な気持ちになってきて、「いそ(※磯山)に会いたいな」とか「レオ(※森元)は元気にしてるかなあ」とかってことを思い始めたんだよね。
━━すごい唐突にかわいい前田さんになった。
前田:そうすると、日本で社内のメンバーとバチバチやっていたことも、「俺が悪かったな」って受け入れられるようになってきて。そこで「よし、ここでちゃんと結果を出して、みんなに自分のことを認めてもらおう」と気持ちを入れ直した。
━━ベトナムでの孤独な時間が、オフショアの設立やBOTCHANの開発につながったんですね。
「他の誰よりも良いプロダクトを作る」
━━では最後に、wevnalのプロダクト全体の責任を持っているCPOの立場として、今後のプロダクト構想について教えてもらえますか?
前田:ひとつは、BOTCHANの新しい機能として、複数商品を同時に買えるようにしようと思っている。チャット内でクレジットカード決済ができること自体、技術的なハードルが高くて日本に数社しかできる企業がないのね。ただ、これまでは一度の決済で1種類の商品しか買えなかった。
今回はそれをさらにアップデートして、同時に複数の種類の商品を買ってもらえるようにする。数多くの商品のなかから、自分に合った商品を選びながら買い物をすることは、今回のビジョンの「ワクワクするユーザー体験」にも繋がるところなので、この機能はぜひ実現したいなと思っている。
前田:あと他には、「解約防止」の用途でも使えるBOTCHANも開発している。いままでのBOTCHANは、さっき話した複数商品を同時に買える機能も含めて、主に「新規購入」の場面でのユーザー体験を向上させることに重きを置いていたのね。ただ、この解約防止のBOTCHANは、そのあとの解約場面でのコミュニケーションをチャットボットで代替させる。
━━具体的には、どんな会話をするんですか?
前田:ユーザーの解約理由をヒアリングして、例えば「求めていた効果が出なかった」と答えたら、それに対して商品の正しい使い方を解説したり、他のユーザーの成功体験談を紹介したりする。
他には「値段が高かった」と答えたら、少し安くなるクーポンをプレゼントして、「もう少しだけ使って効果を実感してみませんか?」って案内したりもするね。
ユーザーと商品との間にある認識の齟齬を、チャットボットを通じたコミュニケーションで解決したいなと思っている。
━━その新しいBOTCHANも楽しみです・・・!
前田:これから事業規模や組織が大きくなっていくなかで、俺の次の役割のひとつはメンバーのみんなに「前田にいてほしい」と思わせる価値を出すことだと思っていて。
磯山さんは「代表取締役社長」っていう存在そのものが唯一無二なんだけど、俺の場合、貢献の度合いが小さいのに「創業者」という理由だけで大事なポジションにいると、組織が崩壊するから。
━━前田さんのこれまでの働きを見たら全員が「いてほしい」と感じると思うんですけど、前田さん自身がそこまでの危機感を持ってるのは意外でした。
前田:今後は上場に向けて、どんどん採用も強化していくなかで、俺より優秀なメンバーとか強いやつとかがたくさん来るかもしれない。
経営観点で言うと、めちゃくちゃうれしいこと。ただ、一人のビジネスパーソンとしてはガチンコ勝負をして、他の誰よりも良いプロダクトを作っていきたいね。
wevnalの経営陣4名に、このたび刷新された新しいMVVに込めたメッセージや、wevnalへの想いなどについてインタビューする連載企画、第3回はここまでです!
第4回では、代表取締役社長の磯山へのインタビュー記事を公開いたします。
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第1回
第2回
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