1
/
5

感情とはなにか?哲学でEmpathを支える研究者:西田文香さん(Internship)

プロフィール

西田文香 Internship

1993年生まれ。北海道大学文学部にて社会学を学んだ後、大阪大学人間科学研究科修士課程に進学。現在は同大学院博士課程を休学し、将来設計を考えながら「心理学の哲学」の研究に取り組んでいる。2021年よりEmpathにインターンとして参画。関西在住のためフルリモート勤務。
「感情とは何か?」を哲学の観点から研究している。
好きなことは絵を描くこと、小説を書くことや読むこと、など。

ーー「社会と人の動きが研究できる」学問との出会い

高校生のとき日本史が一番好きな科目だったので、大学でも学ぼうと思い北海道大学の文学部に入学しました。
なぜ日本史が好きだったかというと、高校の担当の先生がなかなか面白い人で、ただ用語を覚えさせるのではなく、その事件が起きた背景、つまり、歴史的出来事の社会的な原因や過程、そこでどんな人の相互作用があったのかなど、説明して日本史を教えてくれていたんです。そして私は、その歴史を形成していった「社会と人との関り」が面白いなと思うようになりました。

でも実際に大学の教養として日本史を学ぶと「資料を見つけて、出来るだけ正確に読み取る」ことに始まり、使いたいデータや資料が無いという状況でも、それを自分で作ることはできないという、制限がある分野だということが分かりました。
逆に、教養課程のなかで学んだ文化人類学や社会学は、データがなくても自分で調査設計や分析していくことができるので、その意味では「自分でデータを取ってくることができる」分野です。

入学後の1年間の勉強でわかったのは、私が日本史に対して好きだと感じていたのは、取り扱う時代にかかわらず「社会のなかで人がどう動き、そしてその動きが社会にどのような影響を与えているか」を知ることが好きだったからだ。ということです。そういった過程を経て、大学2年生以降にはこのような興味関心に合致している社会学の研究室を選ぶことにしました。


ーー哲学を勉強しないとできないことがある

今、私が哲学に取り組んでいるのは、この社会学を勉強していたことが入口です。社会学では、統計を使って社会学の勉強をしていました。人の社会的属性と意識、例えば、学歴と政治意識の関連を調べるような研究をしていたんです。
大学院に進学し、修士2年生のころ、この政治意識について自分なりに満足のいく答えを得るためには哲学を勉強する必要があると気が付いて、そこから哲学の勉強を始めました。

なぜ哲学を勉強する必要があるのかというと、意識や態度などの「人の心」を社会調査で測るときの様々な問題に対応するためです。
例えば、社会調査では「あなたは○○についてどう思いますか?」というような設問をいくつも作りますが、回答者が自分の気持ちについての本当のことを、自分自身で認識できているかどうか分かりません。
また、回答者が自分の本当の気持ちを自分自身で認識できていたとしても、それを正直に答えてくれるかどうかわからないし、回答者が正直に答えてくれたとしても、研究者側が本当に知りたいことをその設問で正確に測りとれているかどうかもわからない。こういった何重もの問題があるんです。

研究者として「何を測定したくて」「どこまで測定できるはずで」「どこから測定できない」のかということは、「人の心」を扱う学問においては、必ず議論しなければならないテーマだと思います。しかし、社会学でも心理学でも、もっと広くいえば社会科学でも、このテーマはこれまで充分に議論されてきていないんです。だったら「自分がやらなきゃ!」と感じました。

ただ、そういうふうに興味関心が徐々にずれていったとき、すでに私は修士課程を終える頃になっていました。修士に入ったころは社会学で博士号をとり、研究を続けていこうと考えていましたが、いまや哲学をやる必要がでてきたうえに、一般的に社会学分野では、「哲学」は取り組まれない分野であるために、独立して研究する道を考えるようになりました。


ーーEmpathとの出会い

いろいろと悩んで、いったん同大学院の博士課程に進学し、すぐに休学しました。それから1年間はゆっくり過ごしながら体調を整え、文献を探して読んだり、好きな趣味にも取り組んだりしていました。
その間に、やはり専攻を社会科学の哲学、特に心理学の哲学とすることを決め、しかし同時に、研究者として日本の大学に就職するという将来に期待するのも辞めました。代わりに何か食い扶持を見つけなきゃと、本格的に仕事探しを始めました。

そんな中、以前からEmpathでインターンをしていた知人から「この会社、西田さん合うと思いますよ」って紹介してもらったんです。そこで初めてWantedlyに登録して、説明会を聞いて、面白そうだと思い社員さんと色々お話した結果、参加することになりました。


ーーEmpathは学問研究所

Empathでは自由に働かせてもらっていて、まずは自分の得意なこと、出来ることをやらせてもらっています。いまは主に、Empathのプロダクトを支える様々な概念に関わる研究をまとめて報告したり、プロダクトの改善に役立つためにはどうすればいいかを考えています。

端から見ると、ただ文献をよんだり、それをまとめて自分のコメントを書いたりしているだけに見えてしまう作業なのですが、この分野の背景はかなり深くて、自分なりに社会学を7年間、哲学3年積み重ねてきた経験値を活かせているのではないかな、と思っています。

Empathはインターン同士の交流も盛んで、各分野の専門知識を持った人たちが集まっています。会社の姿勢として、目先のビジネスの事だけではなく、いまインターン生の勉強していることが研究学問の中でどういう位置づけになるか?という視点をもっているので、民間の研究所のような場所でもあると思います。大学で研究する道をほぼ諦めた私にとって、Empathのような場所はとてもありがたいです。



ーー哲学的思考「感情って何ですか」

具体的にEmpathでやっていることをお話しすると、Empathは「感情を測れます」というサービスを提供していますが、私は「そもそも感情って何ですか」という問題に取り組んでいます。

人って、表情をみたときに、誰に教わった訳でもなく、笑っている・怒っている・驚いている・恐れている、などを見分けることができますよね。従来心理学では、今の私たちが「感情」と呼んでいる怒り・悲しみ・喜び・恐怖、といったものが、人間の脳のある領域と一つずつ結びついている、生まれながらにして備わった性質だと考えてきました。

ところがここ最近、約30年の脳神経科学の発展でわかってきたのは、脳は必ずしも、一つの部位が一つの働きを担っているわけではないということです。例えば、従来「扁桃体」という脳の部位が「怖れ」を感じる機能があるといわれてきたけれど、実は扁桃体を損傷した人でも、脳の別のネットワークで「怖れ」を感じることができる。という研究結果が出ているんです。つまり、感情とはどのようなものかという認識は、科学の進展に伴ってアップデートされるべきものなんです。

加えて、人間の感情は、怒り・悲しみ・喜び・恐怖といった基本的な感情で表しきる事の出来ない、もっと複雑なものだと思っています。例えば、罪悪感とか、名誉についての感情とか、社会的な感情は基本的な感情で簡単に表すことはできないですし、例え表せたとしても「それは怒りと恐怖が50対50です」とは言い難くて、グラデーションの組み合わせだと思います。

そこで、Empathが扱う感情というものについて、もう少し違う捉え方や表現の方法はないか?ということを考えています。そのために、感情とは心理学、神経科学、医学などで、どのように捉えられてきたのかということを調べ、まとめて、より適切な捉え方を論じていきたいと思います。

正直なところ、はじめにEmpathでインターンを始めるときは、Python使って何かやるのかな…とか思っていたのですが(笑)複数のプロジェクトで概念調査をして、今は感情全般について調べていて、想定以上に自分の研究に近いところを担当させてもらっています。


ーー世が応えていないことに応えていく

今私のやっている研究は直ぐに製品に反映出来るかというと、難しいです。
さっきお話したような感情に関する捉え方って「感情をカテゴリーではなくてグラデーションで捉えましょう」というように言えると思うのですが、私たちが素朴に使っている気持を表す言葉「喜び」「悲しみ」などは、長い歴史のなかで人々の間に浸透しすぎていて、代わりに何を使えば良いのか?他の方法で表現できるのか?ということには、まだ誰もじゅうぶんには応えてくれていないんです。

私が取り組む哲学系の研究は、一つに定まった数値としての結果というものがそもそもないし、ないからこそ哲学と言われるので。その代わり、「自分はここまで精緻に考えました」「ここまでいろんなものを調べてまとめました」という「交通整理」を積み重ねて、プロダクトの哲学的基礎づけができるようにしたいと考えています。

これからもEmpathと一緒に着目している事柄について、何らかの形でひとつのまとめを残せるまで、ここで取り組んでいきたいと思っています。


編集後記

哲学の研究をしている!と聞くと、私のような素人は難しそうな印象を受けていたのですが、西田さんは「日常で実際に体験した具体的な出来事は、文章として言葉に出すか、似たようなことを描いている映画を見るとかして、想いを昇華しつつ、だから人間なんだよなあ、面白いんだよなあという風に。思えたらいいなと思って生きています。」という温かみあるコメントも残してくださり、大変楽しい時間となりました。Empathのエンジニアリングは、工学のみならず哲学からも底支えされていると、筆者も勉強になるインタビューでした。Empathではあらゆる分野のインターン生を歓迎しています。ぜひ一緒にお話ししましょう!

株式会社Empath's job postings
11 Likes
11 Likes

Weekly ranking

Show other rankings