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トラストバンクが2023年から本格開始した新規事業「休眠預金活用事業」。本事業部のメンバーは、休眠預金を主な財源として、事業者さんが考える「地域の課題解決」と「持続可能な収益性」を同時に叶えられるソーシャルビジネスを、実行に至るまで併走しています。
★休眠預金活用事業に関する最新のプレスリリースはこちら
この、TBbaseの期間限定特別連載「有希子のPO(ピーオー)日記」では、そんな「休眠預金活用事業」に携わる「プログラムオフィサー(PO)」の普段のお仕事内容や、採択された事業者さんのプロジェクト進捗などを現場からお届けします!
本年もどうぞよろしくお願いいたします!
第4回活動紹介 | ORGANが守り、次世代へ繋ぎたい技と文化
こんにちは!休眠預金活用事業/ソーシャルイノベーションデザイン室の有希子です。
能登半島を中心とした災害につきまして、関係者の方含め、被災された方には心よりお見舞い申し上げます。
前回、「PO日記③」で紹介をさせていただいた石川県七尾市に拠点を置く「株式会社御祓川」の皆さまも被災されました。
御祓川さんの皆さまはご自身も避難をされている中で、受益者である能登の地産品事業者さんの状況把握に走り、支援を広げていこうと活動されています。(能登スタイルストア)
私も微力ながら、ふるさと納税を通じての災害支援や、能登の産品の購入を通じた支援など、今能登のためにできることを考え、行動に移していきたいと思います。
さて、2024年初のPO日記は、岐阜の長良川流域に息づく文化・伝統を次世代へ繋ぎ、持続可能な地域づくりを支援する活動を展開する特定非営利活動法人(NPO法人)ORGANさんにお伺いした際のレポートをお届けしたいと思います!
<NPO法人ORGANさんについて>
NPO法人ORGANさんは、「岐阜と長良川に愛と誇りを持って暮らす人をさらに増やす」ため、長良川流域の持続可能な地域づくりを支援する団体さんです。
長良川とは、岐阜県中央部に流れる清流で、「清流長良川の鮎」は、2015年に世界農業遺産(GIAHS)に認定されました。長良川は流域に約86万人の人口を抱え、都市部を流れる川でありながら、流域の人々の暮らしの中で清流が保たれており、地域の歴史や食、文化に深く結びついています。
ORGANさんは2030年度をゴール年とし、「伝統的な生業が次世代に受け継がれている長良川流域の実現」の達成に向けて、多様なステークホルダーの参画を促し、伝統文化の新市場を開拓し、持続可能な仕組みを提案されています。
向かって左から3番目の方が、NPO法人ORGAN理事長の蒲さん。蒲さんの向かって左隣が、事業担当者の熊田さんです。そして、蒲さんの向かって右隣が、岐阜伎芸学院 の小野崎さんです。(皆さんこれから本文に登場されます!)
<ORGANさんが考える、伝統工芸・芸能を継承していくべき理由>
突然ですが、皆さんは、生まれ育った地域に対して「誇り」「愛着」はお持ちですか?その大小はあると思いますが、きっと「持ってるよ!」という方が多いのではと思います。私は出身が秋田県秋田市ですが、「誇り」と「愛着」、どちらも持っています。では、その「誇り」や「愛着」はどこに由来しているんだろう…と考えたときに、何を思い浮かべますか?私は秋田の自然(どこまでも続く広い田んぼや山々)、美味しい食べ物(お米、きりたんぽ、鰰(ハタハタ)、果物、山菜)、美味しいお酒(特に日本酒)など、秋田ならではのものが頭に浮かびます。
ORGANさんと初めてお打ち合わせをさせていただいた際、代表の蒲さんの「岐阜の伝統工芸である和傘、伝統芸能である芸舞妓を守り、次世代に繋いでいく継承の仕組みを作りたい」というアツい想いに圧倒されました。
しかし、「PO日記②」でも記載をしたのですが、地域内で「残したい」と思っている文化や伝統、産業は、(乱暴な言い方ですが)外部の人間から見ると「なぜ残さないといけないのか」が理解しづらい場合が多くあります。そこでまず、「岐阜の伝統工芸・芸舞妓が継承されなくなると、地域はどうなってしまうのか」「社会課題は何か」というところをまずはORGANさんと一緒にじっくり深掘りをしていきました。
そこで見えてきたのは、岐阜の和傘・芸舞妓は、長良川流域文化を形成し支えている大切な要素であり、新しい担い手が育成できない=次世代に継承ができなくなってしまうと、長良川流域の独自の文化が消失してしまう、「地域固有の価値が消失する危機にある」ということでした。その地域でしか見ることのできない、体験することのできない地域固有の文化は、その地域に住む人たち・その地域出身の人たちにとっても、「誇り」と「愛着」を持てる大切な要素でもあります。長良川流域文化を形成する和傘・芸舞妓の担い手を育成し次世代に繋いでいくことは、ORGANさんの掲げている「岐阜と長良川に愛と誇りを持って暮らす人をさらに増やす」というビジョンにも繋がっていく、ということが課題の深掘りによって双方で明確になりました。
NPO法人ORGANホームページ(https://organ.jp/)より出展。ORGANさんが目指す、長良川流域文化の好循環図です。
<岐阜の「和傘」「芸舞妓」の今>
課題の深掘りを通じて、理事長の蒲さんと事業担当者の熊田さんがずっと話されていたのが、「継承のための仕組みを作るのは、一筋縄ではいかないんです」ということでした。岐阜の和傘・芸舞妓の担い手たちの現状や業界団体との調整など、背景にたくさんの多くのお話をいただきましたが、当時の私は和傘の製造工程も全く知らず、岐阜の芸舞妓が長良川流域文化でどのような役割を担っているのかもわからない状態でした。一緒に事業設計をしていく中で、このままでは上辺だけの話になり、ORGANさんと地域の課題解決のための事業を一緒に考える、ということができなくなってしまう…と思い、和傘・芸舞妓の「今」を吸収すべく弾丸で岐阜にお伺いをしてきました。
長良川の鵜飼観覧船のりば。観覧船がたくさん並んでいます。鵜飼の開催シーズンは5月~10月です。
岐阜駅からタクシーで15分程来たところに、長良川を臨む「鵜飼観覧船のりば」があります。
鵜飼とは、鵜を巧みに操って川にいる魚を獲る漁法のことで、岐阜では7世紀頃から鵜飼が行われていたと言われています。そして鵜飼を「見せる(魅せる)」ことでおもてなしの手法として最初に取り入れたのが織田信長と言われており、その後も将軍家や天皇家の保護を受けながら、現在までその技や伝統が引き継がれてきました。もちろん、この「鵜飼」も長良川流域文化を形成する大切な要素の一つです。
この「鵜飼観覧船のりば」から西へ続く、昔ながらの日本家屋が軒を連ね、格子戸のある古い町並みが残る通称「川原町」に、ORGANさんの事務所はあります。
ORGANさんが運営する「長良川デパート」。長良川流域で作られる逸品を取り揃えた店舗で、ORGANさんの事務所も兼ねています。本当に素敵な品揃えなので、岐阜市に行った際はぜひお立ち寄りください!
ORGANさんの事務所に到着後、まず一番最初にお伺いしたことが「和傘について」でした。
和傘の製造工程は、骨・ロクロ・繋ぎ・張り・油引き・塗と各工程で細分化されていて、和傘職人は1人で全ての製造工程を担うわけではなく、自分の専門の製造工程をそれぞれで持っています。和傘はこういった分業体制で作られることが多く、一つの工程で職人がいなくなってしまうと、和傘自体の製造ができない、ということになってしまいます。
和傘の各製造工程では、これまで技を継承するノウハウや仕組みはありませんでしたが、ORGANさんの働きかけによって一般社団法人岐阜和傘協会が設立され、「骨(傘を支える骨)」と「ロクロ(和傘の柄と骨をつなぐ部品)」の工程は継承の仕組みが作られました。しかし、他の工程ではまだ担い手を育成する仕組みがなく、人材も不足しているため安定した和傘の製造体制が確立できていない状況です。そしてこの不安定な製造体制が、生産本数の拡大や販路開拓にも影響を与えており、現在活動している和傘職人たちにとって、安定した収益性が担保されているとは言い難い現状でした。
恥ずかしながら、私はこれまで和傘に触ったことがなかったので、同じくORGANさんが運営されている岐阜和傘専門店「和傘CASA」にお伺いして、和傘を見て、触って、その美しさを体験させていただきました。
とても繊細で素敵な和傘を恐る恐る手に取る私。和傘は、閉じている状態では柄が全くわからないのですが、傘を開くと美しい色と柄が一気に広がるので、そのワクワク感も魅力だな、と感じました。
続いてお話をお伺いしたのが、「岐阜の芸舞妓について」。ここで、ORGANさんと共に学院設立に向けて活動される小野崎さんにもお話をお伺いすることができました。
岐阜の芸舞妓は、先ほど画像でご紹介した鵜飼観覧船上で、お客様を舞の披露などでもてなし鵜飼観覧と一緒に楽しんでいただく「船遊び」という岐阜独自の遊宴文化に欠かせない存在です。
舞妓は「芸妓の研修生」という位置づけで、かつては作法や舞踊、岐阜の文化等を10代から習得し、20代に修行を終えて芸妓になる、という過程を辿っていましたが、ここ数年ほどは、舞妓から芸妓になる方はいなくなっているそうです。加えて、舞妓の育成は2-3年ほどの時間と経費がかかる投資的な取り組みでもあるため、現在は鳳川伎連さんを中心に舞妓の育成を行っていますが、財源等に乏しく、育成できる人数も限定的になっているという現状がありました。
長良川の鵜飼観覧船での舞妓の船遊びのようす。長良川の鵜飼を楽しみながら、舞妓の舞も楽しめる、とても贅沢な時間です。(尚、私はまだ体験できておらず、こちらはORGANさんご提供の参考写真です)
<長良川流域文化の技を継承するために~ORGANさんの取り組み>
ORGANの蒲さん・熊田さん、そして岐阜伎芸学院の小野崎さんのお話をお伺いし、実際に現地で改めて感じたことは、歴史を持つ技や文化は、歴史を持つが故に引き継がれてきた背景も複雑であること、そして次世代に繋ぐ継承の仕組みを作っていくために周囲の協力と理解を得ていくことが本当に大切であること、でした。
ORGANさんは、この休眠預金活用事業において、和傘・芸舞妓の技を継承していく仕組み=「学院」を設立し、岐阜で和傘職人や芸舞妓を志す新しい担い手・そして現在の担い手たちが伝統の技を継承し続けることができる環境を構築していきます。そして10年後は、この次世代育成ノウハウを他の長良川流域文化を支える技の担い手たちにも広げ、岐阜の地域固有の文化である長良川流域で次世代の担い手が技を継承し続けている状態を作ることを目指しています。
ORGANさんは、設立からこれまでも、和傘職人や岐阜花柳界の関係者たちとの連携関係を丁寧に構築されており、この継承の仕組みづくりに関しても、丹念に周囲との議論を重ねられています。それぐらい、継承されてきた技や文化が持つ背景は大きいものであるということでしょう。
ORGANさんの事業を通して、これから和傘・芸舞妓の新しい担い手が育成されていく過程をぜひ楽しみに見守っていただければ嬉しいです。私たちも事業を届ける”次世代の担い手たち”の変化だけではなく、”地域や業界”の変化も併せて追って行けたらと思っています。
ORGANの皆さま、引き続きどうぞよろしくお願いいたします!
次回はこちらにお伺いしたレポートをお届けいたします!(さて、どこでしょう…)
次回も、事業者さんを訪問した際のお打ち合わせ内容について、アツくお伝えできたらと思っています!
ではでは、次回もどうぞよろしくお願いいたします!
<プログラムオフィサー連載記事>
・有希子のPO日記①
・有希子のPO日記②
・有希子のPO日記③
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