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クリエイティブ・テックエージェンシーTAMは「社長を100人にする」という目標を掲げ、社員の「社内起業」を支援しています。
そんな中、今年、大好きだった(とはいえまったく伝手のなかった)「韓国」での事業を社内起業したのが大内千佳さんです。
なぜ社内起業したのか、本人は元々起業家タイプだったのか、「大好きな国」を仕事にした今、どのような日々を送っているのか、いつか自分も起業したい人へのアドバイスは・・・?
起業家一年目、奮闘中の大内さんに率直に語っていただきました。
起業は「絶対イヤ」だった
―まずお伺いしたいのですが、大内さんは「いつか自分で起業しよう」みたいな気持ちは以前からあったのでしょうか。
株式会社TAMCHANG 代表取締役
大内千佳2009年にディレクターとして入社。2017年にEC事業を立ち上げ、2020年に株式会社TAM取締役とOHTAM代表取締役に就任し、これまで多数の大規模ECやD2Cサイトの支援を行う。2024年には日本に韓国事業の子会社TAMCHANG(タムチャン)を設立。韓国企業の日本向けデジタルマーケティングや、韓国現地の日本法人のクリエイティブ支援を開始
大内:それがまったくなくって。TAMでは毎年5月に「キャリアプランミーティング」っていうのがあるんですが。2017年に私が記入した事前アンケートを見返すと、「起業に興味がありますか?」っていう質問に、私は「絶対イヤ」って書いていたんですよ。特に「一人起業なんて絶対イヤ」だって書いてあって。
このころはちょうど、TAMでEC事業を立ち上げていて、だから「チーム作り」に自分の興味が行っていたんでしょうけど。でも、その理由までちゃんと書いてありました。「自己管理ができないから」「仲間がいないとやる気が出ないから」。本当に一人がイヤだったんですね。自分は一人だとなにもしないってずっと分かっていたから。
―そんな「起業は絶対イヤ」だった大内さんが起業することに。
大内:あるとき突然、子会社社長のポストを「卒業」せざるを得ないことになりまして。理由はいくつかあったんですが、これは、自分が抗がん剤治療と並行して働いていて、大変だったことも影響していたかもしれません。
そんな私の状況を見かねた(TAM代表の)爲廣さんが、「君はお山の大将タイプやから、グループの頂点に立つか、自分でゼロから山を築くかのどちらかでないと生きていけない」と。
結局、私は「起業したかった」わけじゃなくって、「他人に命令されたくなかった」んです。自分で道を切り拓く、私にとってはこれが一番大事なんだろうなと気づかされたんです。
人脈ゼロの韓国での仕事作り
―それで韓国にまつわる事業を立ち上げることに。
韓国出張中の大内さん
大内:韓国にハマったきっかけはドラマの『愛の不時着』です。その後、「BTS」にもハマりました。
いよいよ子会社を「卒業」しないといけなくなってきたタイミングで、事業プランを3つ立てて、爲廣さんに提案しました。1つ目がECの戦略コンサル事業。2つ目が社内の40代以上の人たちと一緒になにかをするという計画。そして、3つ目が韓国事業でした。
現在は、韓国企業の日本進出を支援するためのWebサイト制作、マーケティングコンサルがメインのお仕事です。韓国は国内市場がせまいので、日本や世界を見据える企業さんが昔から多くって。特にファッションやコスメは横展開しやすいので、そういう業態の日本向けECの最適化だとか。それから日本人観光客が多いので、ホテルのWebサイトも制作しています。
―元々韓国に人脈はあったのでしょうか?
大内:一切なかったです。なので、まずは韓国での人脈作りを徹底的にやりました。
まずは韓国に縁がある知り合いに、韓国に関わりがあるEC業界の人を紹介してもらいました。そこからさらに伝手をたどったり、日韓支援の公的機関やコミュニティに問い合わせたり。「X」で韓国で事業をやっている人を見つけてメッセージを送って、お話聞かせてもらったり。
こんな調子で、3月にはじめて出張で韓国に行ったときは知り合いはわずか3人だったのに、今では100人以上の日本人、韓国人の方たちとつながっています。
私のような、「女性一人で、韓国語を勉強して、韓国で起業するケースはめずらしいので応援したい」と言ってくださる方もいて、そのご縁がお仕事の受注にもつながりました。そこからまた人をご紹介していただいたり。
―韓国語を勉強されているんですね。
大内:そうなんです。勉強を始めて、一年くらい経ちました。極論、今だと翻訳ツールもChatGPTもあるので問題ないですし、日本に進出したいホテルなど企業さんだと、日本語ができる方も多いんですが。
でもやっぱり、韓国語を勉強したことは大きいですね。先日、韓国でスタートアップイベントがあって、みなさんの前で少しご挨拶する機会をいただいたんですが、このときも「韓国語で話した」ということで喜んでいただけて。専門的な話になってしまうと助けが必要になるんですが。
韓国語で話す大内さん
すごい偶然もあって。がん治療の無理がたたったのか、体が痛くてなんとも動けなくなって。いろいろ考えた末に「もう休職するしかない」と思って、爲廣さんにも話を通して、「今日からはもうSlackも見ないようにしよう」と思っていた朝に、それまでの営業が実を結んでお仕事を受注したんです。もうラッキーと、タイミングと、人の優しさですね。
爲廣さんはよく「経営者にしんどいなんてない」って言うんですが、ある日私も気づいたんです。「今日が一番元気かもしれない」と。明日、体が元気な保証はないから、もう今日悔いのないようにやろうって、考えが変わりました。
社内起業の「孤独」と「安心」
―「社内起業」、やってみてどうですか?人にオススメしたいですか?
大内:いやあ・・・ 半分オススメ、半分オススメしない、ですかね(苦笑)。オススメしたい理由は、本当に自分のやりたいように仕事できるから。特に韓国にいるときは、「あっ、今日はこっちに行ったほうが将来的に良さそう」とか、自分の予定をすべて自分で決められます。
逆にオススメしない理由は「孤独」です。しんどいときや頑張っているときに、その姿をだれも見ていない。それってやっぱり寂しいですから。
この間、TAMの人が「今度のコンペで案件が取れたら、チームミーティングに大内さんを呼ぼうと思っているんだよ」って言ってくれたとき、めっちゃ嬉しくて。「いいんですか?ミーティング参加して・・・?!」みたいな(笑)。「良いことも悪いことも、どうでもいいこともシェアできる仲間がいる」っていうのはすごい励みになりますから。
爲廣さんもよく「孤独を乗り越えた先」の話をしますけど、チームメンバーがいる経営者の孤独と、一人起業家の孤独って、種類がまったく違う気がします。経営者の孤独はまわりの人に言いたいことを言えない孤独、一人起業家の孤独はガチでだれも言う人がいないってことですね。
一方で、私は「社内起業家」なので、相談する相手もいるにはいますし、経営が本当にどうしようもなくなったら会社からお金を借りられる。これは大きいですね。逆に、完全に自分で起業している人は常に背水の陣だし、頼れるものもなにもないというか、私にはたどり着けない境地だと思います。そういう意味で、社内起業はオススメというか、チャレンジしやすい。
それから、会社としての実績が自分の信頼をバックアップしてくれるというメリットもあります。韓国で私が仕事をするときも、やっぱりTAMのクライアントである大手グローバル企業の名前を出すだけで、一気に信頼度が上がりますから。
「社内起業」のチャンスを得るには?
―「いつかは起業」と考えている読者もいると思います。TAMには社内起業を支援する文化はありますか?
大内:あると思います。爲廣さんも「100人の経営者を作る」と言っていますし。私も本当に自由にやらせてもらっていますが、とはいえ、それまでの過程で信頼関係を築いてこそ、子会社に必要なお金を投資してくれているっていうところはあると思います。
大内さんと爲廣さん
そのために大事なのは、やっぱり1つ目は「売上を立てた」という実績、これが一番大きい。2つ目は「逃げないこと」。自分の仕事を途中で放り投げないか、は普段から見られていると思います。そして、3つ目はTAMのクレド(行動指針)の一つでもある「誠実であること」。
私、TAMという会社のことを根本から理解しているって勝手に思い込んでいるんですけど、それって結構大事なことだと思っていて。社内起業するっていうことは、その「会社らしさ」をますます背負っていくことになる。例えば、韓国で出会う人たちにとって、私は「最初のTAMの人」になるわけで、私が「TAMらしさ」を体現しないといけないですから。
韓国事業は、5月に創業したばかりなので、まずは「黒字化」が目標です。直近ではクライアント10社、行く行くは売上10億円を目指しています。
―「韓国をいつか仕事にしたい」という人は少なくないかもしれませんね。
大内:こうして起業して、普通なら知り合えなかった人や価値観と出会って、その経験はすごく大きかったです。この仕事を通じて出会った人たちの中には、本気で「日韓の壁をなくしたい」とか、「日韓の関係を良くしたい」と思っている人もいて、本当に会えてよかったと思います。
一方で、韓国に興味はある人は多いけど、なかなか行動できないっていう人も多いんじゃないかな。そういう人に言葉をかけるとしたら、「近いんだから、まず行って、そしてやってごらんよ」。お金がかかるから難しいけど、そういう意味では、社内起業はいいチャンスだと思います。
そこからどう具体的に仕事につなげるかは、想像しにくいかもしれないんだけど、仕事の作り方って、人それぞれだと思っていて。
得意な方法でやればいいと思います。私は例えば、韓国で就職したり、学校に通うみたいな真面目さは持ち合わせていなくって、「とにかく人に会いに行く」「紹介してもらって人脈を築いていく」ことしかできないタイプ。
その人に合ったやり方っていうのが、やっぱり人それぞれあるから、それを見つけるのがいいかもしれないですね。
[取材] 岡徳之 [構成] ウルセム幸子 [撮影] 藤山誠