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こんにちは。契約を変革するAI SaaSを提供する、MNTSQ(モンテスキュー)のFounder / CEOの板谷です。
MNTSQでは、このたびValue(行動指針)を策定しました!!!
本投稿では、ベンチャーの組織経営におけるValueの策定プロセスにご関心がある方に向けて、MNTSQのケースをご紹介しようと思います。
この事例は、PMF前後で30人くらいのフラットな組織から、100人規模まで急激にスケールしていくときに、どのように情報や意思決定プロセスのオープンさを維持し、ボトムアップで改善がなされる組織文化を維持・強化できるかという問題意識を出発点にしています。
本投稿は、少しでも皆さまの参考になるように、できる限り客観的に書いていくつもりです(たまに経営者としての私の気持ちが滲みでてしまっているかもしれませんが…笑)
前提となる状況 - 30人までの組織
MNTSQは、設立後3年ほどのSaaS企業で、2021年末までは創業者を除いた30名が完全にフラットな組織体でした。それは、「全メンバーが、Visionを実現するために自律的にボトムアップで破壊的改善を進める」組織を理想として、階層化を意図的に避けていたためです。
「フラットな組織」はよい組織であると語られることが多いものの、実際はワークさせる難しさもあります。しかし、MNTSQでは30名まではこの組織モデルがそれなりに上手く機能しており、その理由を振り返ると以下のあたりがポイントだったと思います。
「ドキュメント文化」が機能していた
フラットな組織をワークさせるためには、各メンバーが自律的に意思決定をしながら仕事を進めていく必要があります。
そのためにまず必要なのが「情報が完全にオープンであること」です。MNTSQではこの点に偏執的にこだわっており、取締役会も公開でライブ中継していました(これは今でもそうです)。
そこからさらに進めて、あらゆる意思決定の過程に誰でもアクセスできるように、ディスカッションを可能なかぎりドキュメント上で進めていき、あらゆるメンバーからのコメントを可能にするという「ドキュメント文化」を採用していました。取締役会も、全員のログへのコメントを見ながら進んでいきます。
そして、重要な意思決定の結果は、最新の内容をGithubにPull Requestを出すことで更新していきます。例えば、MNTSQでコアタイムを廃止してフルフレックスに移行するぞという宣言を、人事のメンバーがPull Requestし、全メンバーがReviewのうえでApproveしています。このあたりは、Gitlab社の事例なども参考にしながら構築していました。
「Issue Raiseの責務」が機能していた
組織において、「なにか問題に気づいたら遠慮なく声をあげてほしい」という言説がトップからなされることは多いと思います。しかし、ほとんどの場合にはタテマエと化しているのではないでしょうか。
その理由の一つは、「効果的な声の上げ方」のプロトコルが存在しないことが挙げられます。そこで、MNTSQでは以下のプロトコルを設けています。
- 漠然とした違和感でも、なにか問題を感じたらGithub Issueを立てる
- Github Issueには必ず担当者がアサインされ、オープンにディスカッションされる
(※組織IssueがまとめられているKANBAN。全員がコメント可)
さらに一歩進んで、MNTSQでは「問題を感じたときにGithub Issueを立てること」を、メンバーの権利ではなく、責務だと捉えています。この点について、MNTSQのドキュメントはかなり厳しいスタンスを取っており、以下のような記載があります。
「相手が誰であっても、既存議論を破壊するような内容であっても、見て見ぬ振りをすることはMNTSQの文化への最も重大な違反だとみなします」
そのようななかで、30人時点のMNTSQでは、実際に自律的に問題提起をして自ら解決することができる組織になっていました。
(※MNTSQがGithubで運営する組織ポータルに対するコミット数)
採用のBar Raiseが機能していた
フラットな組織の前提になっているのが、ジョインするメンバーが「自律的に意思決定をしながら仕事を進める」ことを本当に望んでいることです。正直なところ、実際には(採用面接でどう言うかは別として)そうでない方も多いと思います。
個人的な感覚ですが、組織運営の失敗の半分以上は、組織への入り口(=採用)の間違いが本質的な原因となっているのではないかと思います。有力スタートアップの平均年収が上場企業を上回るなど、加熱する採用市場においては、この間違いはさらに発生しやすくなっていると言えるでしょう。
この問題への対策として有名なのは、Amazonが設置する「Bar Raiser」でしょう。「採用基準(Bar)を、常に上げ続ける人(Raiser)」という意味ですが、採用プロセスにおいて拒否権を有するメンバーを組み込むことでミスマッチを防止するというものです。
MNTSQでは採用の最終意思決定において「役員4名が全員拒否権を持つ」というかたちを採りました。実際に、役員のうち1名だけが猛烈に反対して採用に至らないというケースも複数ありました。
また、PMF前のMNTSQでは、採用スピードも意図的に押さえており、「Onboardingが十分に可能な1月2名までに制限する」方針を採用していました。
行動指針の策定時の問題意識 - スケールの負の側面
MNTSQが目指していたのは、このように「全メンバーが、ボトムアップで自律的に破壊的な改善活動のできる」組織です。そして、30人までの組織では(完璧ではないにせよ)それを実現できていました。
しかし、売上が急激に伸びていき、PMFの手ごたえが感じられたなかで、MNTSQではメンバー(正社員)の数を以下のように急増させる計画を立てています。
100人の集団にスケールしていくなかで、理想の組織を実現するための現実的なハードルは大きく上がっていきます。MNTSQでも、30-40人を超えたあたりで以下のような「スケールの負の側面」が忍びよるのを感じていました。
情報の爆発
ベンチャー組織が生産する情報は、PMF後には爆発的に増大する傾向があります。MNTSQでも、Slackに流れる投稿を呆然と見つめるだけで1日が終わってしまうような状況になりました。Slack投稿数の推移は以下のとおりです。
この情報爆発によって発生したのが、「情報はオープンなはずなのに何もわからない」状況です。DMの利用率は1%未満でしたが、それとは関係なく各メンバーが会社経営の全体像を理解できず、適切なIssue Raiseをしようと思ってもできない状況が産まれてしまいます。
このことが、「自分の知らないところで局所最適な意思決定が行われているのではないか」という不信感を産み、この不信感は「自分の分かる範囲でだけものごとをコントロールしよう」というセクショナリズムの温床になる懸念もありました。
階層化と自律性
爆発する情報に対処するため、どれだけ全メンバーが優秀で信頼できる組織であっても、仕事の交通整理をするためのメンバーが必要になります。また、人事評価や労務管理の責任を明確化する必要も生じてきており、これらを解決するためにいわゆる「マネジメント」機能を担うメンバーを設置することになります。
MNTSQでも、会社の機能をいくつかに分解し、そのうち特に規模が大きくなっていた機能についてマネジメントを設置することにしました。
このとき、「階層化する=マネジメントでないメンバーは自律性を求められないソルジャー(言うことだけ聞く兵士)である」とは全く思っていませんでした。むしろ、ボトムアップでのIssue Raiseを促進するための交通整理役としてマネジメントを設置するという思想です。
これから階層化が進んだとしても、私たちは「全メンバーが、ボトムアップで改善を続ける組織」を維持する。その決意を全メンバーで確認したいと考えていました。
Value(行動指針)を策定する意味
スケールの過程で起こるこれらの問題(情報爆発・階層化・改善活動の鈍化)は、Value(行動指針)を策定するだけで解決できるものではありません。
しかし、私たちはまずValueから始めました。なぜなら「スケールしても、この偏執的なオープンネスを維持し、ボトムアップで自律的に破壊的改善を続ける」という、徹底抗戦の宣言を組織全体で出すことが出発点だと考えたからです。
また、MNTSQのValueを明確化することで、Valueへのフィットを明確に採用要件とすることが可能になるはずです。
具体的な制度設計は、それらをベースにすれば優秀なメンバーが自然と進めてくれるはずだと考えました。
Valueの内容
Valueの実質的な内容は、これまでのMNTSQの信念を表現するだけなので、最初からほぼアラインしていました。最初にもう内容をお見せしてしまうと、こちらです(※Valueの内容自体をご紹介する記事は、また別途書こうと思います)。
MNTSQのValue=自由と責任の文化において、「自由」とは「メンバーがベストを尽くせるように、情報と意思決定プロセスへのアクセスを常に保証する」ことを意味しています。すなわち、自由とは今回守りたかった徹底的なオープンネスそのものです。
他方、MNTSQのメンバーは、与えられた自由をベストを尽くして活用するという「責任」を負うことになります。
Value(行動指針)の策定プロセス
Valueの策定プロセスは、Valueに従って進める必要があります。考えてみれば当然なのですが、これは意外と難しいことです。
MNTSQでは、まさにオープンネスを最重視して、以下のプロセスで意思決定を進めました。
- ①叩き台の作成と全メンバーコメント
- ②大方針決め+全メンバーのアンケート(結果は公開)
- ③共感が得られていないポイントの公開ディスカッション
- ④公開MTGで最終意思決定
- ⑤各Valueの詳細な肉付けを、私(CEO)がGithubにPull Requestを出して全メンバーがReview
①叩き台に対する全メンバーのコメント
ドキュメント文化を採用するMNTSQでは、意思決定のReviewはその理由をそえてドキュメントにされる必要があります。Valueでももちろん同様で、私(CEO)が約10ページの叩き台を作ったのですが、30名のメンバーからなんと339個のコメントがつきました
(※コメントのスクリーンショット。なお、これで全体の1/4程度である)
②全メンバーのアンケート(結果は公開)
メンバーからのコメントを踏まえ、改めて私(CEO)にて新Valueの具体的な案を取りまとめました。これまでMNTSQが大事にしてきたものが、それぞれのValueにどう表現されているのかを1時間でプレゼンテーションしたうえで、「ぶっちゃけどう思います?」というのを以下のようにGoogle Formでアンケートします。
おおむね、共感度の5段階評価と、その理由という構成でした。結果は各Valueによって正直まちまちで、この時点で本当にやって良かったと確信していました。
最も割れたValue「Challenge Yourself」
また、私(CEO)のプレゼンテーションに対して正面から「共感できない」という声が届いたことに誇りを感じました。なお、このとき私が提示したValueは、「Be Professional」以外のすべての表現が書き換えられることになります。
③共感が得られていないポイントの公開ディスカッション
これにより、Valueのうちどこに共感が得られていて、どこに共感が得られていなかったの
かが明らかになりました。私はそれぞれをスライドに整理しました。
(最も共感が得られていた「自由と責任の文化」という基本コンセプト)
(※意見が割れていた部分にドキュメントで道筋を示していく)
共感が得られていなかった部分は、実質的に再考すべき部分は再考し、実質的にはアラインしているものの伝わる言葉になっていなかったものは定義をブラッシュアップしました。
例えば、「Professional」という言葉は、なにかの専門家であることというようなニュアンスがありますが、MNTSQにおいてはそのような意味ではなく、「責任をもって自由を行使する人」であるという定義が明確化されました。
なお、どなたに対してもCrystal Clearであるために、このときの私のプレゼンテーション資料を公開します。こちらから閲覧することが可能です。
④公開のMTGで最終意思決定
前述のとおり、MNTSQの最高意思決定機関であるManagement MTGはGoogle Meetでライブ中継されており、かつその会議室には会議途中で誰でも入ることができます。
上記のブラッシュアップを経た内容は、このManagement MTGにて最終意思決定されました。なお、この会議ではなんと新入メンバー2名がMTGに参加してガシガシ発言し、実際にそれで最終的な文言が変化しました。
(この日の議事録(もちろん公開)。赤字が新入メンバーだが、実際には各1分以上の発言があった)
⑤Valueの詳細な肉付け
こうして、「自由と責任の文化」の核となる内容・表現が決まりました。後は、それらの内容について後からジョインしたメンバーにもわかりやすいように肉付けをしていく作業を残すのみです。
ここでは、MNTSQのValueに則り、最終化されるまでの全ての更新差分がわかるように、私(CEO)がGithubに新ValueのPull Requestを出しました。
(※実際のPull Request。ここでもメンバーからのコメント起点でディスカッションが行われる)
今後、MNTSQにジョインするメンバーであれば、MNTSQがValueを設定するために実施されたすべてのディスカッションを追体験することができます。また、MNTSQでは、新メンバーは私とValueについてのディスカッションを設定することにもなっており、Valueの策定の現場にいなかったメンバーも、より深いレベルでValueに向き合えるようにしています。
おわりに
長文にお付き合いいただきありがとうございました。PMF前後で30人くらいのフラットな組織が、その長所を活かしながらどのようにスケールしていくか、一つの事例としてご参考になれば嬉しいです。
MNTSQは、これからもこのValueを胸に、ボトムアップで破壊的改善を続けられる組織づくりのチャレンジを続けます。私がまたPull Requestを出したとき、読者の皆さまがMNTSQのチームの一員として私にコメントをいただけるのであれば、とても素敵だなと思います。