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ChatGPTと大喜利し、ミミズになりきる?!社会にインパクトを生み出す“姿勢”を育てるための学びの「場」

ロフトワークは、コンサルティングやデザイン会社ではなく「クリエイティブカンパニー」と名乗っています。あえて、「クリエイティブカンパニー」を公言しているのは、物事を今日までの延長線上で考えず、明日の新しい価値を創造していきたいと考えているからです。

日々、クリエイティブなプロジェクトを生み出し社会にインパクトを創出するために、私たち自身もアップデートしていく必要があります。そのために必要なスキルや思考法を磨くには、一人ではなく複数人で、そして頭の中で考えるのでなく形にしていくことを大切にしています。

私たちがプロジェクトで大切にしていることは、創造性を引き出す“プロセス”と、活動が持続する“しくみ”をデザインすること。そのための姿勢を育てていくために、これまで学びの「場」を様々な形でつくってきました。2023年に始まった「Culture Design Lab」もその一つです。ロフトワークのカルチャー実験室として位置づけ、個人の好奇心から始まる勉強会や活動の立ち上げを支援しています。今回は、6月に開催した「Culture Design Lab」の4つのプログラムをお届けします。

執筆:宮崎 真衣(株式会社ロフトワーク)
撮影:松永 篤、澤 翔太郎、宮崎 真衣/株式会社ロフトワーク

「Culture Design Lab」4つのプログラム

「Culture Design Lab」は、ロフトワークのメンバーが起案者となり、それぞれの偏愛や関心のある領域でプログラムを組み立てます。さらに、外部の視点も取り入れるために、ゲストを招いたインプットトークやワークショップを開催しています。今回は「AI」「哲学対話」「ウェルビーイング」「サステナブル」という4つのキーワードでプログラムを開催しました。

Chat GPTで大喜利! 「AIPPON GP」

長きに渡りXR領域をリードしてきた連続起業家としての経験から、生成系AIが言葉をどのように捉えているのか? その仕組みをわかりやすく解説いただきました。

▲ゲスト:井口 尊仁 (TAKA)/ Audio Metaverse, Inc. CEO、ロフトワーク フェロー

井口さんから生成系AIのメカニズムについての基本を教えていただいた後、Chat GPTで大喜利する「AIPPON GP」(エーアイッポングランプリ)を開催しました。「お題」に対してChat GPTを用いて回答を競うチーム戦。AIによる回答をそのまま採用せず、要約したりリズムよく文体を変えてもOKというルールです。

入力するプロンプトが人によって異なるので回答にバラエティが生まれ、中には芸人さながらの尖った回答が出ました。「破壊」を「パフォーマンス」という表現に変えたり、「ゴジラは最後に何を倒すのか?」という視点で深堀したり、歯切れの良い回答にするために「リズムを刻んで」と入力してみたり、いくつも視点を変えながら回答を磨いていきました。

  • お題「ゴジラが街を壊すときに、心がけていることとは?」
    • 「中継のカメラ写りを気にしている」
    • 「破壊の後をパフォーマンスアートとして信じている」
    • 「続編意識で街を半分しか壊さない」
    • 「スカイツリーは最後にとっておく」

AIの進化は目覚ましく日に日に精度が向上しています。今回の大喜利のように、出力した回答をそのまま使うのではなく、人の手が加わることでより良いアウトプットをつくり出すことができる。AIを使って模範解答を導くのではなく、うまく寄り添いながらクリエイティブな選択肢を広げていく実験の場となりました。

日常で感じる哲学的な問いを対話する「哲学対話」

参加者が輪になって問いを出し合い、一緒に考えを深めていく「哲学対話」。日常会話からスタートし、そこから取り出した問いを起点に、普段とは異なる深度で対話をしました。

▲ゲスト:永井玲衣/哲学研究者、片柳那奈子/ワークショップファシリテーター

「なぜ人は働くのだろう?」「友達ってどういう存在?」といった答えのない哲学的な問いに、誰しも一度は思考をめぐらせたことがあるのではないでしょうか。

プログラムでは、ふたグループに分かれて、それぞれ永井さんと片柳さんにファシリテートいただき、参加者が輪になって問いを出し合い、一緒に考えを深めていく「哲学対話」を行いました。私たちは、仕事や生活に追われると、自分の関心が高いことでなければ、つい会話を後回しにしてしまうものです。そこから抜け出してじっくり対話すると、どんな変化が生まれるのか? 今回は、ゲストの永井さんと片柳さんにファシリテーションいただきながら、参加メンバーが皆で考えたい「問い」を、80分たっぷり対話しました。

参加したメンバーからは、「自分が話しはじめて、こんなこと考えていたんだなぁと気がついた」「普段の短いテンポの会話より、思考力が上がった気がする」といった感想が寄せられました。

私たちは会話するとき、無意識にお互いの距離を探りながら、会話の意義を見出そうとしたり、ときに共感しながら落としどころを見つけたり、永井さんの言葉を借りると「大丈夫じゃない気持ちで話している」ことがあります。そんなとき、「哲学対話」は心をほぐしてくれる助けになるのかもしれません。

「環世界」による生物の視点をヒントに、それぞれのウェルビーイングを捉え直す

生物が独自に体験する世界「環世界」を体験するワークショップを開催。自然界の生き物の視点をヒントに、バイアスからの脱却や新しい自分や価値観を発見するディスカッションをしました。

▲ゲスト:釜屋 憲彦 / 慶応義塾大学SFC研究所上席所員

私たちは、生まれてから死ぬまで、同じ日常を繰り返すことはありません。ライフイベントに右往左往したり、自分が病にかかったり家族のケアをしながら、自分の意思に反して、それまでの生き方や働き方を変えることがあります。そんな「不測事態」に遭遇したとき、絶望したり諦めるのではなく、よりよい選択肢を手繰り寄せるために、どんな視点が必要なのでしょうか?

このプログラムでは「環世界*」を学び、さまざまな生き物が暮らす、各生物種に固有の世界を知ることで、自分のバイアス(偏見や先入観)から脱却することを目指しました。環世界を体験する方法として、人間とは別の生物になりきることで新たな視点を得ることにチャレンジしました。その生き物とはミミズ! ミミズには目がありませんが、ヨーロッパ圏に生息するミミズの一種は、朝方になると巣穴に冷気が入ってこないよう、落ち葉で巣穴口を塞ごうとする習性があります。このとき、ミミズは全身を動かし落ち葉に触れながら葉の形状を知り、口でくわえて器用に巣穴にひっぱり込むのだとか。
ゲストの釜屋さんに準備いただいたジオラマ生態系には、湿った土に石や葉っぱが入っていて、箱の下に数箇所穴が空いています。その穴から指を入れて、ミミズさながら、葉っぱを穴に引き込むワークを行いました。

*環世界:それぞれの生物が独自に体験する主観世界のこと。エストニア生まれの生物学者、ヤーコプ・フォン・ユクスキュル(1864-1944)が提唱した。


私たちは、常に不測事態を想定してあらゆることに備えておくことは難しくても、もしもそれが起きたときに、どうやって事態を好転させるのかを考えたり、あるいは、よりよい未来を選択するための力を養うことはできます。そのヒントの一つとして、他種が観ている世界をのぞくことで想像力が鍛えられ、不測事態を乗り越えることができるのかもしれません。

社会の“正しさ”に囚われず常識を疑う:サステナブルを批判してみる

起業家や芸術家、研究者たちの息の長い活動を伴奏支援する専門家として、固定概念に囚われない問いの立て方や、社会にどのような貢献ができるかという“We”の視点の重要性を投げかけました。

▲ゲスト:槌屋 詩野/ 株式会社Hub Tokyo代表取締役&共同創業者/Community Builder

サステナビリティ」に取り組むことは当たり前の世の中で、「そもそもなぜ取り組むのか?」という理由をわざわざ問い直すことはしません。しかし、「サステナビリティ」のように、社会一般の“正しさ”を獲得した物事に対して批判的な視点を持つことは、新しい発見やアイデアにつながることがあります。
このプログラムでは、固定概念に囚われず、身の回りに溢れる正解のない問いに向き合うことで、批評的な思考プロセスを学びました。

そもそも、「サステナブル」とは「持続可能な」という意味ですが、持続的な物事なんてこの世に存在しません。人や物には寿命があり、一つのサイクルが終わりを迎えても、次にバトンを渡して循環させることが「サステナブル」であれば、そのサイクルを意識できるようなワークを行いました。まずは、「今日食べたものは何?」という問いを立て、体に入ってくるもの(インプット)と、出ていくもの(アウトプット)を洗い出しました。さらに、インプットとアウトプットで、それぞれの工程を遡ります。例えば、「パンを食べた」として、体に入ってくるものは「パンの栄養」です。「パンを食べる」工程は、「店でパンを買う」→「パンを工場から出荷する」→「パンを製造する」→「材料を仕入れる」→「小麦を育てる」といったように遡れるかもしれません。反対に「パンを食べる」のアウトプットは、「パンの包装」「食べ残し」「二酸化炭素」「排泄物」などがありそうです。

こうしたワークを重ねるうちに、私たちの生活には、さまざまなインプットやアウトプットが溢れていて、それらが価値の連鎖の途中にあるのだということに気付かされます。大きな物事を捉えるときに、物事と物事の間に焦点をあて、自分の目線で考えられるまで分解してみる。そうすることで、固定概念に囚われない問いの立て方ができるのかもしれません。


カルチャーと呼べるものが、その会社“らしさ”を生む

知識や情報を知ることが「勉強」だとすると、そこから発展させて、疑ったり視点を変えることで新しい発見につながることが「学び」と言えそうです。その「学び」は一人では生まれにくく、さまざまな立場の人が交わることで、思いもよらない形で爆発させることができるのかもしれない。さらに、続けていくことでその会社らしいカルチャーとして根付いていく。ロフトワークが大切にしている「クリエイティビティ」は、こうした学びの「場」の積み重ねによって培われ、今後も続いていきます。


起案者

Chat GPTで大喜利! 「AIPPON GP」

伊藤 望(VU unit リーダー)
ChatGPTをもっとクリエイティブな方法に使えないか、という議論がチームの中でかわされた結果、AIと一緒に大喜利しようぜという話にまとまりました。未知数だった企画もみんなの創造性で面白いイベントになりました。AIと人間の共創なんて半分冗談かと思っていたけど、希望が持てますね。
原 亮介(MVMNT unit リーダー)
テクノロジーに明るい未来の希望を見出す時代は終わってしまったのだろうか? AIを食わず嫌いしてる人も多いのではないだろうか? 好奇心をもって前進をやめないことの意義をメンバーたちと共有したくて、楽しさに振り切ったAIとの大喜利をやってみた。すべってなければいいのだけれど。

日常で感じる哲学的な問いを対話する「哲学対話」

安永 葉月(クリエイティブディレクター)
生産性が求められるディスカッションや、娯楽性の高い雑談とは少し違う形の対話に興味があり、哲学対話のワークショップを行いました。ストレッチをするような心地よさや、対話仲間との非日常的なつながりを感じてもらえたので、今後も身近なアクティビティとして続けていきたいです。

「環世界」による生物の視点をヒントに、それぞれのウェルビーイングを捉え直す

基 真理子(HRディレクター)
30代で乳がんに罹患し、現在も治療を続けながら働く私にとって「病とともにどう働くか」は、大切なテーマでした。今回、環世界を通じ、生き物が本来持っている強さや、しなやかさを知り、新たな可能性を見出せた気がします。
柳原 一也(MTRL クリエイティブディレクター)
これまで環世界からヒントを得たプロジェクトをいくつか行う中で、多くのインスピレーションをいただいてきた釜屋さんをゲストに基さんと企画しました。「ジオラマ生態系」を使い土や葉っぱの匂いの中ミミズになりきるワークを通して、参加者が楽しみつつも悩みながらミミズの世界を想像している様子が印象的でした。

社会の“正しさ”に囚われず常識を疑う:サステナブルを批判してみる

玉木 春那(クリエイティブディレクター)
サステナビリティと向き合う中で大切な視点は何か? を追求したく思考実験的にあえて「サステナビリティ」をテーマに設定しました。日々の私たちの行動が次世代にどう影響するのかを俯瞰して考える機会になりました。ゲストの槌屋さんが「“変化”こそが持続する」とおっしゃったように、次世代にどんなバトンを渡したいのか考えさせられました。

企画・運営/寺井 翔茉岩沢 エリ齋藤 稔莉松永 篤小城 真奈澤 翔太郎
企画サポート/木下 浩佑三輪 彩紀子川口 和真


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