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昔、何していたの?
東大の卒論は「アウトサイダーアート」
絵が好きだったので、中学時代から美術部だったのですが、街のギャラリーで草間彌生さんの作品に衝撃を受けて、現代アートに惹かれるようになりました。 高校時代は美大に行こうとデッサンを習っていたんですが、当時は2001年同時多発テロを受けて緊迫した世界情勢。TVで連日イラク戦争の模様が流れるなか、研修旅行でニューヨークの国連やグラウンド・ゼロを訪れる機会があって、「アートなんてのんきなこと言ってていいんだっけ」と思っちゃったんです。今なら当時の自分に他の視点のアドバイスもできそうですが、その時はもっと直接的に社会の役に立つ力をつけなくちゃと思ったんです。それで、猛烈な受験勉強の末に、東京大学に入りました。
地元の福岡をはなれて初の一人暮らしが始まり、戦争や貧困の問題は変わらず関心にあったんですが、数え切れないほどの展覧会やイベントが連日開催されている東京の地で見るもの聞くもの全てが目新しく、自然と生活の中心はすっかりアートのほうになっていきました。当時、大学キャンパスの端っこに、校内地図にすら載っていないボロボロの倉庫を部室にして美術サークルが存在していたんです。そこは大学8年生とかバンド活動に明け暮れる先輩とか、いわゆる東大生らしからぬ人たちの溜まり場で(ちなみにRoomClip創業メンバーの方々もその一員です)、そこに部員として出入りしつつ、その他にも友達とアートユニットを組んで活動していました。作品を観ることのクリエイティビティーがテーマだったので、「作品展示」がいわば私たちの作品だったんです。コレクターの方から作品を借りて学内で展示したり、アーティストのトークイベントを開いたりしていました。
マジョリティーよりはマイノリティー、社会的に価値がなくても魅力あるものに心惹かれるタチなので、美術史の卒業論文では「アウトサイダーアート」を研究テーマにしました。いわゆる美術教育を受けた人を”インサイド”と捉えて、教育を受けてない”非アーティスト”(多くは知的障がいや精神障がいがある人)の創作物をアートと位置づける概念です。イン/アウトというインサイド側からの上から目線な区分ってどうなのよ、という観点も含め、障がい者施設にリサーチに行きながら論文にしました。
アートの道ではなく、IT大手の楽天に就職
そのまま大学院、研究職とアートの道に進むつもりでいたんですが、4年の夏ごろに、ハタと「社会に出て働こう」と思いました。アートの世界、特に大学の研究機関は、当たり前なんですが経済活動とは遠いところにあって、趣味としては良くても仕事にはできないと気がついたんです。 そこから急きょ就職活動をはじめて、IT大手の楽天のその年の最終選考にすべりこむ形で就職が決まりました。
という行き当たりばったりの就職活動だったんですが、結果的にはKitchHikeに入るまでの約7年間を楽天で過ごすことになります。 最初の3年は楽天市場出店店舗へのコンサル営業、次の2年は社長室で社長秘書、最後の1年半は投稿型レシピサイト「楽天レシピ」のマーケティング。転職に匹敵するほどの仕事の変化だったので、気がついたら7年経っていたという感じでとても充実した7年間でした。
楽天レシピへの異動は営業時代からの念願で、というのも食に関わる仕事がしたかったからです。 食が自分の中で大きなテーマになったのは20代前半の頃です。大学に入って東京で一人暮らしを始めてから、実家にいた頃と食環境が大きく変わりました。壁に向かって一人で食事をするって、全然食べた気がしないんですよね。誰とも会話をしないからあっという間に食べ終わって、単に空腹を満たすだけの行為になってしまう。 外食となると安い定食屋にお世話になることが多いわけですが、だいたい男子学生向けの唐揚げ定食やらカツカレーやらで、普通に残さず食べていたら体重がみるみる増えてしまう。これはマズイということで流行りのダイエットをはじめてみたものの、なかなか思うようにうまくはいきませんでした。 初めて孤食やダイエットを経験するなかで、それまで当たり前にできていた「おいしく食べて満足する」という難しさをヒシヒシ感じました。
人生かけてやりたいことは「幸せな食べ手を増やす」こと
そんな学生時代の経験があって、営業時代に毎月の目標に追われる中で、自分が人生かけて本当にやりたいことってなんだろう?と自問自答した結果が「幸せな食べ手を増やす」ということでした。わかりやすい言葉だと「食育」になるかもしれません。
机に向かって一人で食事をするのが当たり前で、人と食卓を囲む機会が減っている。作り手の顔がみえず、「いただきます」の感情を抱きづらくなっている。24時間食べ物が手に入る環境や、砂糖や添加物にまみれた食品がたえず食欲を刺激する。 半世紀前にはとても考えられなかった食環境に私たちは生きているわけですが、そんな中でも、人と食をともにできる場所、そこに来たら自然とおいしくごはんを食べられるような場所を、人生かけてつくりたいと思いました。
当時その手段として考えたのがカフェでした。その頃、コミュニティとしてのカフェの役割が注目されるようになっていて、場づくりの文脈で自分の店を持ちたいと思いました。それで飲食店開業スクールに通ったり、カフェ経営者に話を聞きに行ったりしていました。
2つ分かったことがあって、1つは店を持つことのリスクの大きさです。初期費用が数百万単位でかかることに加え、10年後には9割がつぶれるという世界。「この料理を出したい」「こんな内装の店にしたい」など、店という形態によっぽどのこだわりがないと、その覚悟はできないなと正直思ったんです。私にとってのカフェは場づくりの手段だったので、であればカフェにこだわらず、ワークショップのような形でも良いのではという結論になりました。 もう1つの気づきは、自分一人でできることの上限です。そもそも私は料理の腕があるわけじゃない。カフェのために今から私が修行するより、今すでに技術がある人に活躍してもらったほうがいい。また、私一人でアプローチできる人数には限りがあるから、食育と言っても社会を変えるほどのインパクトは見込めないだろう。となると、もっとたくさんの人を巻き込む必要がある.....。
社長室から楽天レシピへ異動を希望。起業も考えた。
そんなことを悶々と考えながら会社員を続けていたわけですが、そうか、ビジネスという手段がある、と思うようになったのは、楽天社長室での2年間が大きかったかもしれません。入社3年が経った頃、突然異動を言い渡されて、社長秘書チームの一員になりました。社長の三木谷さんは日本を代表する経営者の一人。その日々に密着できる環境はビジネスの最前線を肌身で感じる刺激的なものでした。
社長はもちろんのこと、日々訪れる世界中の名だたる経営者や若手スタートアップ経営者、熱くディスカッションを交わす社内の経営陣や精鋭戦略チームの方々と間近で接するなかで、皆に共通していると感じたのは、ビジネスの力を信じていることと、自分が世界をつくる側だと思っていること。既存の枠組みの中で受け身に生きるのはつまらないと感じました。 社長室を卒業するとき、食関係の仕事経験を積むため楽天レシピへの異動を希望し、約1年半マーケティングを担当しました。その間、食べ手同士がつながるマッチングの事業で起業することも考えたのですが(サービス名はそのまんま「Eatogether」)、いったんはスタートアップを経験しようと転職先探しを開始。これまでの経緯から「食×ITのスタートアップ」と心は決まっていたので、あとは良い出会いを見つけるだけでした。
なぜ、KitchHikeに携わっているのか?
KitchHikeのことは数年前から知っていて、良い意味でスタートアップらしくない、エッジーな雰囲気を感じていましたが、国際交流のイメージが強かったので自分とは方向性が違うと思っていました。それが、ちょうど転職活動中にFacebookのフィードでKitchHikeが資金調達した記事が流れてきて、採用を始めたこと、事業が旅先から日常へシフトしていることを知りました。そして「これは!」とWantedlyでコンタクトしたのが出会いのきっかけなんです。
*3月に移転したばかりのKitchHikeのオフィス。みんなで内装しました。
初めての転職活動、何を企業選びの判断軸にすればいいのかとても悩みました。サービスの成長性、市場規模、待遇、資本力......重視するポイントは人それぞれだと思いますが、私は創業者のサービスに対する思いの深さが譲れない部分でした。私自身が食というテーマに対して思い入れがあるので、単に「シェアリングエコノミーがホットだから」「体験型の食がトレンドだから」といった理由だけだと、一緒に仕事をする上で気持ちのズレが生じてしまう気がしました。大企業からスタートアップへの転職なので、それなりの覚悟がいります。その覚悟を決める上でも「この人たちとなら運命を共にできる」と思えるかどうかが私には重要でした。
その点、KitchHikeの創業者二人には、それぞれの人生からにじみ出た「なぜ食か」の理由があります。CTOの祥見さんであれば、実家であるお寺の役割を、インターネットで人が食卓に集う仕組みを作ることによって、現代にふさわしい形で復活させるため。COOの雅也さんであれば、450日かけて世界中の家におじゃまして現地の人と一緒にごはんを食べて、食で人とつながる実体験を得たため。食を通じて絶対に社会を良くするという、狂気にも近い強い意志が伝わってきて、この人たちの仲間になりたい!と強く思いました。 くわしくは二人のインタビュー (ページ下部) をぜひ読んでみてください。
KitchHikeで何をやっているのか?
ユーザーがKitchHikeを使いたくなるように、KitchHikeのプロダクトがより上手く回るように、サービスの裏側を設計しています。 たとえば「みんなのキッチン」というプロジェクト。 KitchHikeはリアルありきのWebサービスなので、フードイベントを開催するにはキッチンスペースが必要です。世の中にはレンタルキッチンやキッチン付シェアハウスなど、数種類のキッチンスペースがありますが、大半は時間制で貸し出しているもの。これって実は、主催者にとってはリスクが大きいシステムなんです。レンタル料を支払ったはよいものの、お客さんが思ったように集まらなければ赤字になってしまいます。 もっと気軽にイベントを開催してもらえるように、KitchHike独自のレンタルプランで使えるようにしたのが「みんなのキッチン」です。嬉しいことに賛同してくださるキッチンオーナーさんが増えてきていて、イベント開催者(COOK)に新しいキッチンをどんどん紹介することができています。
最近の例だと、昼間のアイドルタイムを使わせてくれるバー。2度目の利用でキッチンオーナーさんも手探り状態のなか、KitchHikeに登録したばかりのCOOKの初イベントを開催することになったんですね。お客さんはちゃんと集まるか?利用時間内に終わるか?など懸念点もありましたが、イベント終了直後にCOOKとオーナー双方から「参加者が心から楽しんでいる素晴らしいイベントでした。ぜひ継続開催したい」と連絡があったんです。すぐに半年先まで利用が決まり、最高の結果になりました。 こうした仕事のほか、ユーザーに安心してKitchHikeを使っていただくための保険設計や、シェアハウス・シェアオフィス、企業など外部パートナーとの連携も担当しています。
オフィスで一番たのしいことは?
やっぱり、まかないです。まかないは最高のコミュニケーションで、KitchHikeの原点です。KitchHikeの考え方で好きなのが「KitchHikeのふだんの生活を拡張したのがKitchHikeのサービス」というもの。自分たちが楽しい、心地よいと思う世界観をそのままサービスにすることにこだわっていて、まかないはまさにその中心。「食と交流」がテーマのKitchHikeを日々体現しています。
*この日のランチは、メンバーでお花見をしました。
*サンドイッチを作ってみました。
好きな料理、食べ物は?
これはいつも悩む質問ですね。食べるの大好きなので、ときどき寝言で食べ物の名前を言ってしまいます(笑)。最近の寝言は「バインミー」でした。
現代美術家のEat&Art Taroさんという方がいて、私の好きな作品に『おにぎりのための、毎週運動会』というのがあります。おいしいおにぎりを食べるためだけに、地域の小学校で運動会を開いて大人も子供も一緒になって汗をかく。おにぎりはいたって普通の塩むすびで、お米も炊き方も普通、ボランティアさんたちが給食室で握ったもの。でも、そうやってみんなで食べるおにぎりって最高においしいよね!という作品です。食の本質を突いた素晴らしい作品だと思います。 おいしさは食べ物そのものではなくシチュエーションで決まるよね、というのが私の基本的なスタンスです。答えになってますかね。
今、はまっていることは?
昨年はじめたキックボクシングです。この話をすると意外に思われるのが自分では意外なんですが、こういうストイックなのはわりと性に合うみたいで、頭のなかを空っぽにして、ジャブ、ストレート、フック、と1時間パンチを繰り出し続けるのが快感なんです。ヨガやジムは続きませんでしたが、しばらくいかないとソワソワするくらいはまってます。 ちなみに、私がやっているのは初心者向けのプログラムなので、音楽に合わせてシャドーで動くだけで、対戦相手はいません。それでもかなりハードなので、床に落ちるほど汗をかいてフラフラになりながらやっています。たぶんすごい怖い顔をしていると思います (笑)。
これから、やっていきたいことは?
地域の主婦たちに、KitchHikeを通じて食育の担い手として活躍してもらいたいです。食育というと学校などの教育現場で行われるものと捉えられがちですが、予算ありきのそうした食育ではなく、ふつうの主婦が地域の食を支える世界を想像しています。 前職のレシピサイト時代、レシピの投稿者と接する機会が多くありました。レシピを投稿するモチベーションはシンプルで「自分のごはんを美味しいと言ってほしい」「料理で誰かの役に立ちたい」というもの。
ただ、そうやって多くのレシピがオンライン上に集まることにより、レシピコンテンツはすでに飽和状態です。であれば、そのモチベーションをオフラインで活用できないか。つまり、料理の作り手として、地域で活躍してもらうのです。 レシピ投稿者の多くは、子育てが落ち着いて時間に余裕ができた女性です。そういう人の家に、ふだん一人で食事をしている子どもがごはんを食べにいく。働くお母さんが料理の時間が取れなくても、地域の「みんなのお母さん」がごはんのあたたかさを教えてあげられる。「今日は○○さんちでご飯食べておいで」といえる世界を、KitchHikeのプラットフォームを使って実現したいなぁと思っています。
KitchHike: https://kitchhike.com
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