エモーションテックは、今後のCXマネジメントの未来を共に考え、参加者の事業成長を加速させる最新の情報提供を行う場として『EmotionTech Day 2024』を開催しました。2013年の創業以来、約600社のCXマネジメントを支援してきた実績から、新たなCXマネジメントの推進手法やソリューションについて紹介しました。
今回は有識者による講演も含め、今後のCXマネジメントのために必要な情報を届けるため、「分析をする組織から行動して顧客体験を変えていく組織へ」をテーマに、イベントの様子の一部をレポートでお伝えします。
エモーションテックの軌跡と挑戦
イベントの冒頭では、代表の今西からCXマネジメントの重要性を感じたエピソードや、創業までのストーリーが語られました。今西は前職のユニクロでマネージャーとして働いていた際に、CXマネジメントの重要性を感じたエピソードがあったといいます。
今西「ある日、新しい販促施策や新商品のリリースがあったわけでもないのに、売上が跳ね上がりました。その背景には、熱烈なファンのお客様からの長文のアンケートハガキの存在があったのです。
そのハガキには、スタッフの接客がいかに自分の期待を超えていたのか、それにどれだけ感動したのかが綴られていました。非常に嬉しくなった私は、スタッフたちにインカムを通してその内容を共有しました。
すると、スタッフたちが『自分たちもそんな言葉をもらいたい』と、お客様のためになる行動を考えて動き始めたのです」。
株式会社エモーションテック 代表取締役CEO 今西良光
スタッフたちの行動の中でも、特にインパクトがあったのが「カゴ配り」。ユニクロではカゴを配るとお客様が楽にお買い物をできるだけでなく、顧客単価が上がると言われています。両手が商品で埋まってしまうと、次の商品を手に取る気にならないが、カゴに商品を入れると次の商品に手が伸びやすいからです。
スタッフ全員が、お客様のためにと積極的にこのカゴ配りを行ったことが売上増に繋がったのでした。この経験から、お客様の声を社内に共有することでメンバーの行動が変わり、顧客満足や売上向上に繋がると身をもって実感した今西。そのような仕組みを社内だけでなく、様々な企業で作りたいと立ち上げたのがエモーションテックです。
今西「起業した2013年当時は、CXという言葉はあまり認知されておらず、Web系の会社でかろうじてUXという概念が語られているという時期でした。そんな時、とある講演でアメリカではCSからCXという概念にシフトしてきているという話を聞いたのです。
個々の体験を見ながら局所的な改善を施すのではなく、顧客接点の一連のプロセスを把握し、優先順位をつけながら改善を行っていく。そして、その活動の成果指標として『NPS®︎』というスコアを使うと聞いた時、私は『これだ』と思いました。
NPS®︎を使えば、私がユニクロで思い描いていたことが実現できる。そう思った私は今のエモーションテックのサービスの原型となる構想を練り始めたのです」。
その後、サービスをリリースした今西は、様々な企業のCX改善に携わり、約600社の企業の支援に結びつけてきました。しかし、今西は自身が描く「顧客、従業員、企業の三方がよしとなる社会」の実現度は、まだ1%にも満たないと感じています。その実現に向けての思いを口にし、締めくくりました。
今西「この10年でやれたことはわずかかもしれませんが、顧客の体験に着目していく文化づくりには一石投じられたのではないかと思っています。一方で、まだまだ顧客体験をどのように変えていけば良いか悩まれている企業も少なくないでしょう。
本日は『分析をする組織から行動して顧客体験を変えていく組織へ』をテーマに、私たちが今後どのようなご支援をしていきたいと考えているかご紹介いたします。、みなさまの明日からのお仕事にとって、少しでもご参考になることがあれば幸いです」。
CXマネジメントのこれまでとこれから
株式会社エモーションテック Strategic Project Manager 武下大作
続いて登壇したのは、Strategic Project Managerの武下大作。彼が紹介したのはエモーションテックが考える「CXマネジメントのこれから」と、それを実現するためにエモーションテックがどのような支援を提供しようとしているかです。
普段はコンサルタントとして、クライアントのNPS®︎調査の設計や分析、レポーティングのほか、CXマネジメントの推進体制の構築などを行っている武下。冒頭では、独立行政法人情報処理推進機構が発行している「DX白書2023」をもとに、日本におけるCXマネジメントの現状について語りました。
武下「DX白書によると、日本で年に一回以上、顧客体験を評価している企業の割合は36%となっています。『どのような指標を用いて顧客体験を評価しているか』という問いに対しては、顧客からのレビューが48%、行動分析が37%、NPS®︎が26%という結果になりました。NPS®︎を用いている企業が多くいらっしゃる印象です。
そして大事なのが『顧客体験を分析した後に、顧客体験を向上させる取り組みをしているか』という問いです。実際に取り組んでいるのは44%以下という結果でした。そして、そのうち『毎週取り組んでいる』が5%、『毎月取り組んでいる』が16%という結果に。裏を返すと、四半期以上の長いサイクルで取り組みを行っている企業が8割を超えているのが現状です」。
市場の変化が早い現代において、より短いサイクルで顧客体験の向上に取り組むことが欠かせません。顧客体験の分析に取り組んでいる企業でも、その8割はまだ顧客体験を戦略的に向上できる組織にはなっていないと言えるでしょう。
続いて武下は、エモーションテックが独自で調査した資料をもとに説明を続けました。
武下「ここで紹介する『CXマネジメント成熟度』は、私たちが独自に作成したもので、企業のCXマネジメントへの取り組み状況を総合的に可視化したものです。「導入期」、「検証期」、「浸透期」、「定着期」という4段階で表しており、私たちのお客様でも、最も成熟度が低い「導入期」の企業が6割を占めています。先ほどご紹介したDX白書の内容と同じく、日本のCXマネジメントはまだまだこれからという状況であることがわかります」。
現在は黎明期とも言える日本のCXマネジメントがこれからどのようになっていくのか。NPS®︎発祥の地であり、CXマネジメント先進国のアメリカのデータを見てみると、NPS®︎を始めとするCXマネジメントの指標を8割の企業が取り入れているとのことです。
顧客体験の向上に取り組んでいる企業の割合は90%と日本の2倍の水準で、毎週改善をしている企業の割合は38%にものぼっています。
武下「アメリカに比べてCXマネジメントが遅れている日本ですが、10年前はNPS®︎という言葉を知っている人はほとんどいませんでした。日本企業もこれからCXマネジメントを戦略的に行える企業が増えてくると私たちは信じています。そして、エモーションテックは『CXマネジメント成熟度』の考えを用いながら、経営層から現場まで、全ての方が顧客体験を自分ごととしてとらえられるような組織を作るための支援に取り組んでいきたいと思います」。
CXマネジメントを支えるテクノロジーの進化
株式会社エモーションテック 執行役員 CPO 吉田翔
次に登壇したのは執行役員 CPOの吉田翔。エモーションテックが考える新たなテクノロジーの活用方法について語りました。
吉田「今や多くの企業が顧客の声を聞いて改善することの重要性を感じていますが、一方で改善活動が進まないのはなぜなのか。私たちエモーションテックは、この問題に対して真剣に向き合ってきました。
一つの可能性として考えられるのは、行動することにより『CX活動の説明』という負担が生じてしまうこと。CX活動をしている方の中には、他の部署にネガティブな印象を持たれたり、思うように活動が進まなかった経験をお持ちの方も多いでしょう。
私たちはこれまで顧客解像度の分析力の強化ばかりしてきましたが、一方でそれはCX活動に参加する人を限定させてしまったのかもしれません。CXマネジメントを専門化したことで、周りの人が関わるハードルを上げてしまったのだと反省しています」。
これまでのプロダクトの反省を挙げながら、吉田は新しいプロダクトのコンセプトを説明しました。それは「顧客分析から専門性をなくす」というものです。一方的に情報を届けるのではなく、相手に合わせた情報を届けることで、誰もが顧客を深く理解し、自分ごと化してポジティブに改善行動を進められることを目標としています。
吉田「そのために2つの核を考えています。1つ目はシンプルかつ簡単に顧客の想いがわかる仕組み。もう1つがCXマネジメント活動への生成AIの導入です。
このコンセプトを反映した機能が『CX Summary』です。顧客の声をわかりやすく伝える機能で、組織ごと、レイヤーごとに必要な情報をまとめて出力できる機能です。重要指標だけを現場に届けることで何を改善すべきかはっきりわかるようになります。
また、既存の機能からも専門性を排除し、直感的にわかりやすく、誰もが顧客に向き合える仕組みに再構築したいと考えています」。
CX Summaryを活用したキャリアアドバイザー(CA)部門と取り組むCXマネジメント
株式会社マイナビ 事業推進統括事業部 新卒紹介事業推進部 事業推進課 課長 酒井芳浩様
続いてはスペシャルセッションとして、株式会社マイナビ 新卒紹介事業推進部 事業推進課 課長の酒井芳浩様が登壇。新卒紹介の現場で、どのようにCXマネジメントを浸透させてきたのか紹介してもらいました。
酒井「私はマイナビで新卒採用向けのエージェントサービス『マイナビ新卒紹介』を提供する部門に所属しています。企業様の求人の依頼に対して、学生を推薦するという採用支援サービスです。学生と面談するのがキャリアアドバイザー(CA)、企業様とやり取りするのがリクルーティングアドバイザー(RA)で、両方でNPS®︎を導入しています。
RAでは年に一度、スポット調査で満足度アンケートをとっているのですが、今回お話するのは学生の定常調査についてです。実際に面談した学生の初回面談後と15日後、そして実際に内定承諾になった際に定常調査をしています」。
この調査は2022年4月からスタートしており、最初はいかにCXマネジメントを事業部の中に浸透させるかをゴールに設定したと言います。その際に3つのマイルストーンを設定しました。
1つ目はNPS®︎によってCAに求められる行動指標が明文化されている状態。2つ目は、現場でNPS®︎の重要性を認識し、自組織の状態を正しく把握している状態。そして3つ目がNPS®︎課題を現場が認識し、改善に向けて実装できる状態です。
酒井「1つ目に関しましては、エモーションテックにご尽力いただきながら、実際に学生がどのような行動体験を求めているのか策定できたため達成したと捉えています。ポイントになったのは2つ目です。NPS®︎の重要性を現場に対してどのように認識させていくのか、ないしは自部門の状況をどのように理解してもらうか。
その課題となっていたのがNPS®︎の専門性でした。ジャーニーマップといった専門知識や、NPS®︎と収益の関連性が分かりづらく施策を理解してもらえなかったのです。
たとえばNPS®︎をもとに『学生との面談はこうした方がいいよ』という行動指標を示していても、その理論の背景になる原理を理解してもらえません。そのため『このエリアではこっちの方がいい』『この時期は当てはまらない』などの個別の理由で行動がバラバラになっていたのです」。
その解決のために現場向けレポートの作成をしたそうです。統括部がそれぞれの組織に向けてサマリーを作ることで、現場がしっかり施策に対して向き合ってくれるようなったと言います。
しかしレポートの作成によって解決の糸口が見えてきたものの、ここで新たな問題が発生します。それはサマリーの制作が大きな負担になるということ。複数ある組織に対して、2人でレポートを作成し続けるのは現実的ではありませんでした。その問題を解決してくれたのもまた、エモーションテックだったと続けます。
酒井「CX Summaryというサービスのβ版を導入させてもらい、自動でサマリーを作れるようになったのです。全ての組織に対して同じフレームで作成できるので、他の部署と比較することで組織ごとの課題が浮き彫りになりました。また内容も噛み砕かれて書かれているため、専門知識がない方でも簡単にサマリーを読み取れるようになったのです。
作成工程もシンプルなため、私たち制作側の負担にならなかったのも嬉しいですね。分かりやすい変化を挙げるとすると、Slackで『NPS®︎』と検索すると、施策を始める前に比べて投稿率が220%に増えていました。それくらい、組織に対してNPS®︎ないしはCXマネジメントが浸透したのだと感じています」。
セッションの最後には、創業50周年を迎えたマイナビが新たに定めたパーパスに触れました。
酒井「新しく定めたパーパスは『一人ひとりの可能性と向き合い、未来が見える世界を作る』というもの。
顧客体験、顧客満足度をしっかり追求することで、企業や学生一人ひとりが納得のできる採用支援や就職支援に努めていきたいと思います」。
※ネット・プロモーター、ネット・プロモーター・システム、ネット・プロモーター・スコア及び、NPSは、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、NICE Systems, Inc.の登録商標又はサービスマークです。 eNPSはベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、NICE Systems, Inc.の役務商標です。