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悩みがない人生、カウンセリングが必要とされない社会のほうが、幸福度は高いはず。
けれども現実は、誰もが悩みや迷いを抱えて日々を生きています。
株式会社cotree(コトリー)は、オンラインによるカウンセリング・コーチングを中心としたメンタルヘルスケアサービスを提供する企業です。
カウンセリングとは何をどうしてくれる場なのか?
オンラインによるメンタルヘルスケアが日常の選択肢になることが、社会に与える長期的な影響とは?
第二創業期に突入したcotreeの根幹にある思想と目指す場所、そしてエンジニア募集の意図について、社長室の平山和樹とデザイナーの長谷川真澄に語ってもらいました。
心に種を蒔いてもらえる時間
--「カウンセリング」に対する世間のイメージをcotreeのマネジメントメンバーとしてお二人はどう捉えていますか。
長谷川:名前だけは知っている、薄く理解はしている、といった状態の人がまだまだ多い印象を受けます。
平山:認知はだいぶ浸透してきていますよね。「つらいときはカウンセリングとか受けてみたら?」という会話は少しずつ増えてきているように思います。一方で、「あなたはカウンセリングを使ったほうがいい」と口にする反面、「自分は大丈夫だけれども」と思い込んでいる人も意外と多い。そのあたりに難しさを感じますね。
--おふたりはプライベートでカウンセリングを受けた経験は?
平山:僕は3年前にうつ病を発症して心療内科に通っていた時期があるのですが、治療が始まって3ヵ月くらい経ったタイミングで初めてカウンセリングを利用しました。対面で10回くらいでした。
カウンセリングって「考える」行為がたくさん発生するんです。でも病状が悪いときは考える気力がないし、ネガティブ思考に陥りがちなので、心療内科の先生も最初は僕にはあまり薦めてはこなかった。症状がやや落ち着いてきた段階で「自分の内面をちょっと考えてみようかな」と思えたので受けてみた、という流れです。
長谷川:私は障害があった姉の死がきっかけでした。亡くなった直後ではなく、何年かしてから突然、自分の気持ちに折り合いがつかなくなった時期があったんですね。心配した妹が心療内科につなげてくれて、そこでカウンセリングを受けるようになりました。
最初のうちは抵抗感というか警戒心が正直ありました。でもカウンセラーの方を前にして自分のことを少しずつ話していくうちに、どんどん自分の内面に変化が起きたんですね。話しを聞いてもらうことで、心にいろんな種を蒔いてもらうような感覚があった。カウンセリングの数日後に「あ、こういうことなのかな」とストンと折り合いがついたり、マインドセットがいい方向へとどんどん変わっていったりと、そんな感覚がありました。
平山:カウンセリングの質問に答えていく過程で、自分の感情が見えてくるんですよ。無意識に避けてしまう回答や、それっぽく答えたものの本心を言っていないときって、自分でもわかるんです。
でも本当の感情を言語化していく作業を繰り返すうちに、思考のクセや認識って変えていけるんですね。カウンセリングを利用したことがない人は、そのことをまだ知らないのかもしれない。僕は回復した今も、2~3ヵ月に1回のペースでカウンセリングを続けています。
カウンセリング=切実な人限定の場ではない
--今もカウンセリングを活用されているんですね。症状が落ち着いてからは、どんなことを話しますか。
平山:仕事の具体的な相談などはしませんが、メンタル面での棚卸し的な思考の整理や、家族との関係性、「最近こんなこと感じたんですよ」といった話とか……。いろんなテーマについて話しますよ。
長谷川:ちょっとコーチングっぽい使い方かもしれませんね。
平山:「話す場」として使っている部分はありますね。今の僕にとってカウンセリングは、余計な気遣いなしで全力で思考して話せる場所。全部を出したら、全部が返ってくる。そのときの自分の限界値が、自分にフィードバックされる感覚があります。
長谷川:私にとってカウンセラーは、話をしっかり聞いてくれて、自分の認識や捉え方を変える手伝いを一緒にしてくれる存在です。正解に導くのではなく、私自身が「気づく」までのサポートをしてくれる人たちですね。
平山:個人としての人格に興味を向けてくれる存在ですよね。性別や肩書き、カテゴリーなどの外的要素を一切取り払って、一貫してこちらの内面にフォーカスしてくれるから。だから心の状態によって、使い方も違ってくる。
メンタルが不調なときは「ただ聞いてもらう」だけでいいし、心の健康度が高いときは「何を成したいのか」「そのために何が必要か」など自己理解を深めて行動や目標を設定していくコーチング的に使うという手もあります。
長谷川:同じコミュニケーションでも、プレゼンであれば行き着くところは「あなたは私に何をしてくれるのか」ですよね。相手に何を差し出すか、差し出されるのか。そこには明確なゴールがある。
でも私にとってのカウンセリングは「ゴールがないもの」です。ただ寄り添い、話を聞いてくれる。その関係性が存在し続けること、それ自体がゴールと言えるかもしれません。
可視化できないプロダクトをどう磨くか
--では、対面が大前提だったカウンセリングやコーチングの世界に、オンラインの潮流が生まれたのはいつ頃だったのでしょう。
平山:海外では1970年代頃から研究が始まり、1990年代にはチャット形式やビデオ通話形式でのセラピーがすでに行われていました。日本では、すこし遅れて1990年〜2000年代に少しずつ取り組まれるようになりました。そんな歴史の中で、cotreeは2014年10月よりサービスの提供を開始しています。
cotreeの創業と同じ頃、他のサービス全般も少しずつオンライン化にシフトしていって、徐々にオンラインのカウンセリングは広がって。とはいえ、やはり決定打となったのは、コロナ禍による影響です。cotreeの利用者数は前年比のおよそ3倍にまで増えました。
長谷川:クライアントとセラピスト(カウンセラー、またはコーチ)が長い時間をかけて関係性を維持することを考えたら、オンラインのほうがやりやすさはありますね。引っ越しや居住地域による物理的な距離の制約がなくなりますから。
ただ、カウンセリングは突き詰めるとセラピストさんとユーザーさんの個別体験ですから、どうしてもクローズドになりがちです。そのあたりのバランスをどう取るか、という難しさもありますね。
平山:長谷川さんが入ってくれた2019年頃からは、ユーザー体験の質を上げていくことも並行して注力してきました。カウンセリングというプロダクトの価値自体をもっと高めるための設計、その創意工夫に関しては同業他社のどこよりもcotreeが一番深く考えている自負があります。
オンラインの弱みを直視する
--では、オンラインの弱みをあえて挙げるならば?
平山:いつでもどこでもカジュアルに受けられる。それはオンラインカウンセリングの大きな強みだと思いますが、裏返すとそこが弱みにもなり得ます。
対面であればクライアントは指定された場所に向かえば、カウンセリングに適した環境が用意されています。つまり物理的に移動さえできれば、誰かが次にすることを指示してくれる。
ところがオンラインになると、自由度が高すぎるんですね。騒がしかったり集中できなかったりと、カウンセリングに適さない場からも繋がってしまうので、本心を打ち明けられずに不満を感じてしまうケースもあります。
長谷川:cotreeのセラピストの方からも「オンラインだと画面の枠内でしかクライアントさんの状態を判断できない」という悩みを聞いています。例えば対面であれば、セラピストさんはクライアントの方が話す内容と同じかそれ以上に、目の前の相手をよく見ているんですね。ドアのノックの仕方、顔色、声音、視線の動かし方まで、いろんな部分を観察して汲み取っている。
そういった受け取る情報が絞られてしまう、という点は現時点でのオンラインカウンセリングの弱みだと言えます。
平山:とはいえ、そのあたりは今後、テクノロジーでカバーできる方法が必ずあると思っています。事前の問診票をもっと詳細にする、カメラの範囲を広げる、画像の精度を上げる……そういった工夫でリカバリーしていきたいですね。
長谷川:弱みは常に強みに変えられますからね。むしろオンラインだからこそできることが多くあります。例えばセッション数という意味ではオンラインのほうが断然有利です。カジュアルになったぶん、気軽に回数を重ねることもできますから。
記録を残すという意味でも、実はオンラインのほうが圧倒的に有利です。もちろん事前の承諾が大前提ですが、両者が望んでクライアントさんの変化や回復の過程を見ていきたいと思ったのならば、動画でそのまま記録することもできますよね。
素材の共有もオンラインなら容易です。「あの記事、見ました?」「こんな教材があるんですよ」といった話題がすぐにチャットなどで共有できますから。試行錯誤の余地はまだまだ残っていると思っています。
平山:その延長線上で考えるならば、セラピストが見守る中でクライアントが砂の入った箱の中におもちゃを入れていく心理療法の1つである「箱庭療法」のような手法もオンラインのほうが低コストで実現できるかもしれません。
とはいえ、「対面カウンセリングの価値をいかにオンラインでも再現するか」という方向だけに縛られなくてもいいと僕は思っています。そうではなくて、「オンラインだからこその新しい価値を創造する」方向に向かっていきたい。
いずれにしても一番大切なことは、クライアントとセラピストの関係性をどうスムーズに繋いで、どう良くしていくかという「安心できる場づくり」ですから。
「対面の価値」に縛られすぎない
--最近では「友達紹介割引」や「新型コロナメンタルサポートプログラム」、「法人向けプラン」など、新サービスも続々開始しています。今のcotreeはどんなフェーズにあるのでしょうか。
平山:今のcotreeは第二創業期にあたる段階に入っています。現在のプロダクトをどう変えていくかということも大事ですが、最もリソースを割いて進行させているのは2021年後半から2022年に発表予定の新しいプロダクトづくりです。
長谷川:次のステージでは長く使ってくださるユーザーさんを増やしながら、使用の感度をさらに高め、同時進行でコロナ以降に顕在化した法人向け福利厚生のサービスもさらに強化していきたい。
組織としてここからもっとギアを上げていくために、この春から新たにエンジニア募集を行っています。エンジニアリングの技術力をもって、オンラインカウンセリングの市場でどういうプロダクトを提供していくべきかということを一緒に考えていける方にぜひ参画していただけたら嬉しいです。
--どんな人がcotreeのエンジニアに向いていそうでしょうか。
長谷川:ただコードが書けるだけではなく、どういうコードを書くべきかを一緒に考えてくれる人。
悩んでいる人に寄り添いたいと思える気持ち、そこに共感する力はとても大切ですが、そのひとつ上のレイヤーから「悩みを抱えきれない人を一人でも減らすためには、どういうプロダクト、UXを提供できるか」「そのための必要な材料とリソースとは?」という判断ができる。知的好奇心をもって臨床のテーマに取り組んでいける方が今求めているエンジニア像としては適切かなと思います。
平山:オンラインのカウンセリングやコーチングの形を、日常の選択肢として社会に実装していく。それができる広い視野を持ったエンジニアを必要としています。カウンセリングという体験を、誰もが気軽に使える形に変えていく。まだ形にできていない僕たちのイメージを、仕組みに落とし込んでいくメンバーが来てくれたら心強いですね。
組織のあり方を根本から見直す
――事業の急成長期には、世間からの注目度も高まります。2021年5月には櫻本代表の発言や契約条件等をめぐるトラブルを契機に、cotreeへの批判の声もSNSの一部では挙がりました。一連の出来事をどう受け止めましたか。
平山:個人として、そして組織としても、一連の出来事を重く受け止めています。
「心のケア」というセンシティブな事業を扱う企業として、ただ反省するだけでやり過ごしてはならない、組織のあり方を根本から見直すべきだと経営陣で話し合い、全社員を対象に課題と改善点について意見を出してもらう社内アンケートを実施しました。
その結果、意思決定のプロセスが曖昧になっていたこと、指示系統に不明瞭な部分があったこと、ビジョンとバリューが社内に浸透しきれていなかったことなどの課題が可視化されたことを受けて、6月に組織体制を大幅に改革しました。
大きな変更点は、チームリーダー制の導入です。COO職に集中していた権限を分割するためにチームに分かれ、各チームリーダーと社長室から組成される会議を設置することで、意思決定を迅速化・責任の明確化を図ることを狙いとしています。従来のように、少ないメンバーで信頼関係をベースに事業を推進していたところから、組織として仕組み化していくフェーズに入ってきたと捉えています。
セラピストの方々とのコミュニケーションを円滑にするために、組織改善チーム、調査室なども新設しました。もちろん、体制を変えるばかりではなく、役員をはじめとしたメンバー一人ひとりの倫理意識の向上も必要不可欠です。
「やさしさでつながる社会をつくる」というビジョンを実現するために、そしてユーザーの方々やセラピストの皆さんとフェアな関係性を構築していくために、組織として何をしていくべきかをもう一度、丁寧に見直していきたいと思います。
--最後に、今のcotreeにジョインすることのメリットを教えてください。
平山:悩みや不安は、人間が生きている限りは永遠に存在し続ける根源的なイシューです。そこをどう解決していくか、という視点は日本のビジネスのフィールドにおいてはこれまであまりなかったように思います。だからこそ、新しい仕組みをつくるチャンスがまだまだたくさんある。
新しい仕組み、新しい働きやすさを自分の手でつくっていきたい、と考えられる人にはすごく向いていると思います。
長谷川:私たちは数字で成果を出し、ビジネスとして成立させながら、社会に還元していくという複数観点の達成を諦めることなく取り組み続けています。
今のcotreeには、それを実行していける土壌がすでにできあがっています。さらに、ここからいくらでも価値を拡張できるフェーズにある。この先に待ち受けている面白さと難しさ、それを分かち合っていく仲間として加わってもらえたら嬉しいですね。