10期に向けて、U.S Incは、2022年3月にオープンした体験型アートカフェ「金沢茶寮」や、2024年4月にリニューアルオープンした九谷焼の陶芸工房「to-an」をはじめとしたCX(customer experience)事業への一層の注力を目指している。customer experienceに、そして自社事業にこだわる意味を今回は掘り下げる。
びっくりすること、減っていませんか。
旅先でガラス吹きやろくろを回したことはありますか?多くの体験教室では、忘れた頃に作品が家に届きますが、作品は使わずじまいになってしまうことも多いようです。旅の体験をよりすてきにリ・デザインできないだろうか。それが「金沢茶寮」のコンセプトの出発点でした。当日に作りたての器でお茶を楽しみ、嬉しい気持ちとともに作品を持ち帰ることができる。これまでにない体験が楽しめる「金沢茶寮」は、2022年のオープンから順調に来客数を伸ばし、年間約5000名の方々が「金沢茶寮」を金沢旅行の新しい目的地の一つに加えてくださっています。
情報の流通スピードはますます速まり、その情報がもたらす驚きや感動もすぐ失われるようになった、と最近強く感じています。例えば、2022年末に登場したChatGPT。当初はすごい技術だと感動していたのですが、すでに僕の日常になってしまった。その一方で、サッカーを始め、スポーツの放映権料はどんどん高くなっています。スポーツ以外の分野でも、リアルな体験の価値が上がり続けています。
そんな社会の動きを踏まえると、「金沢茶寮」や「to-an」のような五感で味わう体験を自社で提供できることは、これからのU.Sにとって強力な武器になると信じています。現在も、「泊まる美術館」をコンセプトにした体験型宿泊施設や、九谷焼をモダンに再発明するプロジェクトが進行中です。
to-an(https://to-an.jp/)
金沢茶寮(https://www.kanazawasaryo.jp/)
リスクを取らない人の言うことを、僕は信用できないから。
今、U.Sは7期を迎えたところなのですが、10期に向けてCX事業の占める比率を高めるために、かなり思い切った舵取りをしています。稼ぐことだけを考えれば、クライアント事業に注力したほうが効率はいい。それでも、絶対にCX事業をたたむ気はありません。CX事業を持っていることこそが、U.Sの競合優位性だからです。
そもそも、U.Sが自社事業としてCX事業をやると決めたのは、僕がクライアントの立場なら、社外の人間が数百万、数千万円かかる提案を持ってきて、失敗しても何の責任も負わないのはムカつくだろうなぁ、と前職のころから常々感じていたからです。自分でやったことのない人の話は僕なら信用できません。
だから、U.Sでは自分たちでやってみることにしました。創業2年目で自社ブランド「room705」を立ち上げてから、商品の箱詰めや発送の大変さ、在庫を抱える怖さ、事業を続けていく大変さを現在進行形で実感し続けています。
U.Sは、自分たちでリスクを取って事業をやっている、と胸を張って言えるようになってからクライアントの反応が明らかに変わりました。信頼獲得の総量が全く違うと感じます。自社事業を持っているU.Sなら、自分たちと同じ目線で会話ができる、信頼できると思っていただけるようになったんです。
リアルなインプットから、U.Sらしさが生まれる。
U.SのCX事業をよりユニークなものに磨き上げていく上で、すごく役に立っているのがクライアントワークを通じて直接見聞きしてきた幅広い業界の経営方針や、様々な課題、成功事例や失敗事例です。パソコンや本に向き合っているだけではとても得られないような質と量、そしてリアルなインプットを得られていると思います。他社の意思決定のプロセスを知り、その重さを感じ取れる。自社事業の将来を考える上ですごくありがたい環境です。
イノベーションを創出したければ、できるだけ遠くにあるアイデアを取り入れる、というのは教科書に載っているような基本的な考え方です。でも、遠くに意識を向けるのは簡単なことではないと思うんです。もし仮に、U.Sが飲食業を専業にしていたら、「金沢茶寮」を立ち上げる時に同業他社のカフェなんかを偵察していたと思います。それだと、今の金沢茶寮は生まれていなかったでしょう。
日頃のクライアントの事例の引き出しがあるからこそ、異業界・異職種のアイデアをポンポン掛け合わせることができている。クライアント事業とCX事業、その両輪が回り続けることで、U.Sの独自性が生まれているのです。
今回は主に、クライアント事業とCX事業の関係性をお話しさせていただきましたが、人を育てる上でも、CX事業があるからこそ、いい環境が作れると思っています。次回はその辺の話をもう少し詳しくしたいと思います。