猛スピードで進化する自動車業界への挑戦_新しい発想と視点でブランドデザインに化学反応を
マツダのブランドメッセージを伝えるため、2016年に発足した「デザイン本部ブランドスタイル統括部」。動画や静止画から店舗やWEBサイトまで、ユーザーとマツダのあらゆるタッチポイントをデザインしている部門です。
技術も価値観も急速に変化していく自動車業界において、マツダのデザイン本部が目指すもの 。そして、この時代だからこそ求められている人材とは―。
【対談参加者紹介】
デザイン本部ブランドスタイル統括部
寺田洋士 マネージャー
松井貴宏 クリエイティブエキスパート
山田陽平 シニアスペシャリスト
――デザイン本部ブランドスタイル統括部立ち上げの中心的存在である寺田さん、プロパー社員で社内のさまざまな職種を経験してきた松井さん、中途採用で入社された山田さん。職位もキャリアも異なる3名にお集まりいただきました。まず、ブランドスタイル統括部のミッションについて、それぞれのお考えを教えてください。
寺田 今、マツダという会社そのものが、ブランド価値を高めていくことにフォーカスを置いています。お客様と強い絆を築くことができる唯一無二のブランドを目指し、ブランドスタイル統括部だけではなく、全社的にブランド価値の創造に注力しています。そのような状況の中で、マツダ独自のブランド様式を確立するための戦略を考えたり、表現するためのデザインを提案することが、ブランドスタイル統括部のミッションだと思っています。
松井 私も同じ認識です。個人によって、多少レベル感の違いがあるとしても、みんな意識していることだと思います。
寺田 もっと掘り下げると、マツダは人を大切にしたブランド。クルマが単なる鉄の塊ではなく、人の手の温かみや心が感じられるものだということを、ブランド表現を通してしっかり伝えることが重要な任務です。
山田 会社が目指す方向性がしっかり示されているのでブレないんだなって、実感することは多いです。
松井 守るべきガイドラインがある中で、車種やシチュエーションによって表現を変えたり、アップグレードさせたりしています。
多様性の時代で勝ち抜くために
――ブランドスタイル統括部の発足から6年。ミッションはどの程度クリアできたと感じていますか?
寺田 発足した2016年当時は、私たちの目指す姿と現実に大きなギャップがありましたが、今はそのギャップはかなり埋まっていると感じています。マツダとユーザーのタッチポイントは、ディーラー、カタログ、WEBサイトなどいろいろとありますが、それぞれで一貫性を持ってブランド表現ができるようになってきたかなと。さらに、アメリカやヨーロッパなど海外市場に向けてもブランド様式を創る活動を続けており、グローバルな一貫性も達成できてきたと感じています。ただ、デザインは生き物。激動の時代を迎えた自動車産業で生き残るためには、ブランド表現をどんどんアップデートさせていく必要があります。進化を続けていくことが、これからの私たちの課題です。
松井 これからは多様性に富んだ時代になるので、今のマツダがアプローチしていることだけで充分ではないですよね。進化という点については私も強く意識しています。動画にしても写真にしても、見る人や媒体によって、その姿は変わっていく必要があるはず。時代に合わせてアップデートさせていくことも大切だと思います。
――時代に流れと共に、新たな課題が生まれてきている、と。
山田 マツダはこれまでブランドづくりをとことん突き詰めてきたからこそ、今しっかりとしたイメージを持てていると思います。ただその反面、多様性という側面からはまだまだやれることは多いと思います。この先、新たな商品なのか表現なのか分かりませんが、別の切り口が必要ではないかと個人的には思っています。
寺田 今の時代、自動車が(従来の価値観の)自動車らしくあればいいというものではありませんからね。走りやデザインだけではなく、コネクティビティや自動運転だったり、さまざまな要素やサービスを含んだものが求められています。これまでデザイン本部ではクルマの本質的な部分を追及して世界へ挑戦をしてきました。しかし、ただそれだけでは今の時代は生き残れなくて、これまでとは違う世界にも同時に挑戦をしなければなりません。いわゆる他流試合ビジネスで挑んでいかなくてはいけない状況になりつつあります。慣れないフィールドでどう戦うか…そこは課題です。
松井 そういった課題を解決していくためにも、今、中途採用の人を増やそうとしているわけですよね。若いデザイナーたちが専門性を生かしながらいろいろな職域にもチャレンジをしていくことが、多様性への対応にもつながるのではないか。実践を続けて、組織を変革させていくことが必要だと思います。
寺田 それも含めて考えると、強さと柔軟性の両面を持つことが大事なんでしょうね。これまで通り活動を続けながら、柔軟性や変化の獲得を目指していくことが大事だと思います。
――この先、日本で高齢化が加速する一方、海外ではZ世代が大きな人口比率を占めていきます。ターゲットのギャップが国内外で生まれることについては。
寺田 まさに、ターゲットとする世代もエネルギー政策も国や地域によって異なってきているため、単一商品でグローバルに勝負することが難しい状況になり始めています。かといって、市場のニーズに合わせて全く違う製品をつくるということはできません。この状況でどのように展開していくかも課題の一つです。
山田 私も常日頃からギャップについて考えています。私たちが発信するメッセージはあくまで一方通行。世界中にいる多様性あふれる人たちがどのような受け止め方をしているかは、すごく気になるところです。私たちが良いと思っていることが、同じように良いと感じてもらえるかは分かりません。とにかく今分かっているのは、クルマ好きな人だけにフォーカスしたようなメッセージでは、生き残っていけないということ。先ほども話にありました、他流試合をどう戦うのか?という問題に挑んでく必要があります。
キーワードは、“しつこさ”…? 徹底してこだわり抜く!
――新たな挑戦に向けて、人材がカギになってきますね。
寺田 新しいスキルや 考えを持ち込んでもらいたいです。我々が持っていない発想、モノの見方など、これまでにない視点が欲しいです。
山田 クリエイトする能力を持っている上で、発想力が豊かで芯の強い人が仲間に加わってくれるといいなと思います。新しい視点や表現を、何があっても提案し続けられる強さがあるといいですね。
松井 2人と同感です。自分の考えや想いがあることが一番ですよね。さらにマツダとしては、とにかくこだわりを持つことが大事。クルマを造る人も、ブランドデザインの人も、一緒に働いたらびっくりするぐらい(笑)みんながこだわりを持っています。山田さんなんて人当たりが良くて穏やかな雰囲気ですけど、仕事に関しては本当にしつこいですよね…。あ、褒めてますからね!(笑)
山田 (笑)。
松井 何人かで写真のチェックしているときに、みんなで「いいね」って話していたら、山田さん一人が「ここに若干、緑色が見える」と言い始めたことがありましたよね。どうやら、みんなには見えない色が見える、と。フォトショップで確認してみたら確かに、本来は写ってはいけないところに緑色があったんです。山田さんの細かさのおかげで気付くことができて良かったです(まぁこれに気付く人がどのくらいいるかは分からないけど…笑)。
山田 (笑)。私から見て、松井さんもなかなかしつこいですけどね(笑)。ずっとマツダでデザインに関わっているだけあって、ソウルレッドなどの色へのこだわりは相当なものです。私も色にはこだわりますが、松井さんの情熱とか粘り強さは、本当にしつこい(笑)。
松井 しつこいと言われる人の気持ちがわかりました(笑)。でも、これって仕事をする上で本当に大事なことだと思っているんです。「もうこれぐらいにしといて~」って周りが言うぐらいの強いパッションを持っている人同士であれば、たとえ最初の方向性が違ったとしても、時間が許す限り突き詰めていく と良い結果につながっていくはずです。
寺田 そういえば…みんなが仕事している後ろを通りがかることがあるけど、山田さんはずっと同じパソコンの画面を見て、何かずっと作業していますね。ちょっと時間が経って見てみても、また同じ画面。そういうのを見ると、しつこさを感じますね(笑)。
松井 これだけこだわって取り組むということは、当然、時間がかかるわけですが、その時間を与えてもらえているのは寺田さんのようなマネージメントの立場の人たちが相手と交渉なり折衝なりしてくれているからなんですよね。特に寺田さんは統括の立場なので、いろいろな部門と関りを持たれています。マツダの中で、寺田さんほど幅広い仕事をしているマネージャーはいないのではないですかね? 寺田さんがいてくれるおかげで、私たちはこだわりを持って仕事をさせてもらっているのだと、いつも感謝しています。
世界が相手だからこそ、広い視野が必須
――こだわりを持ってアウトプットし続けるためには、インプットも大切だと思います。普段から意識していることはありますか?
山田 発想の幅を広げるということを常に意識して、いろいろな物を見るようにしています。例えば、自動車メーカーの動画だけではなく、ライフスタイルブランドやスポーツメーカーのビジュアルなどもチェックするなど、広い視点で新たな表現を取り入れようとしています。もう日々のルーティンになっていますね。ただ、マツダとしての一貫性は必要なので、上手に取り入れていくことを意識しています。
寺田 現状を当たり前と思わず、広い世界を見て、自分で感じて考えるということが一番大事だと思っています。今はコロナ禍で行けていませんが、以前は海外のモーターショーなど普段の生活圏とは別の場所に出向き、世界の動向を実際に肌で感じることができていました。そこでの経験があるのと無いのとでは、実際の業務にあたるときの説得力が違います。特に車はグローバルな商品なので、世界を見ることが何よりも重要。コロナ禍が落ち着けば、海外出張も復活させたいと思っています。
松井 今、会社としては内製化を進めているところもあるので、私も自分ができることから徐々にチャレンジを始めています。今までアイデアは自分たちで考えて実制作は外部に依頼していましたが、自分の手を動かすことで新しいアイデアにもつながるかもしれないし、難しさを感じることもあるかもしれない。何かしら新しい発見を得て、成長していきたいと思っています。
――最後に一言メッセージをお願いします。
寺田 ここ数年で写真や動画の世界観を広げて表現しており、この結果がどう出るのかは検証している最中。チャレンジをして、成功と失敗を繰り返しながら前に進むという状況ですので、バイタリティのある人ならやり甲斐を感じられると思います。
山田 動画を作るだけではなく、空間表現や宣伝広告などデザイナーとしての職域はどんどん広がっていくと思います 。いろいろなところにジョイントして、可能性を広げられる人が向いていると思います。
松井 みな自信を持ってこだわりを貫いています。この想いを共有できる仲間が加わってくれたらうれしいです!