「課題解決にむけた意思決定の多くが現場でできる」トヨタ自動車と協働でサービス開発を進める技術本部の役割とは?
「実は意思決定の多くは私には相談が来ません。」そう語るのはトヨタコネクティッド技術本部 本部長の久保田好彦です。技術本部はトヨタ自動車とともに個人・法人各々に向けた多様なサービスの開発を担っています。大規模な企業グループの中にあって、権限が委譲され自律的に開発を進める技術本部の役割や特徴について、久保田に聞きました。
文系専攻の学生時代からトヨタコネクティッド技術本部長へ
---トヨタコネクティッドへ入社するまでの経緯を教えて下さい。
学生時代は、実は理系ではなく文系の経営学を専攻していました。大学卒業後は、総合電機メーカー系SI会社に就職。ここでは、プログラマ、SE、プリセールスエンジニア、プロジェクトマネージャーを経験しています。
その経験をもとに、2社目では大手ソフトウェア会社でソフトウェアのコンサルタントをしており、コンサル営業、大手SI企業との合弁会社への出向、コンサル部門のリードなどを行なっていました。その後、2016年からトヨタコネクティッドの社員として働いています。
現在の所属は、技術本部です。組織マネジメントを担当しています。
トヨタ自動車・トヨタコネクティッドの多くのサービスの開発・維持・管理を行う技術本部
---技術本部は、全社の中でどのような位置付けでしょうか?
トヨタコネクティッドは、システム開発・運用を担う受託事業とエンドのお客様にサービスを提供するサービス事業の2つの側面を持っています。
トヨタ自動車からお金を頂いてシステム開発をするのがトヨタコネクティッド技術本部の担当エリアです。トヨタ自動車からの受託ですね。システムを作ったら、トヨタ自動車に納めます。運用の際も同じようにトヨタ自動車からの依頼に基づいて納めるという形を取っています。
この他に、直接お客様に提供する自社サービスも展開しています。この場合はトヨタコネクティッドの事業部門から「こんな開発をしたい」「こんなサービスを作りたい」といった声をもとに開発を行い、お客様に提供するという流れをとっています。
割合としては、トヨタ自動車から受ける仕事の方が多いですね。
---技術本部内のチーム構成(役割と人数)はどうなっているのでしょうか?
人数は350名程度です。直接雇用しているのは60人強ですね。世の中の年齢構成と同じで少しシニア層が増えてきています。今後は新卒採用と、20代〜30代の方々の採用に注力していきたいと考えています。また、シニア層の方々にも若手の育成等で活躍していただきたいですね。
---技術本部全体のミッションや業務内容について教えてください
技術本部のミッションは、トヨタ自動車やトヨタコネクティッドの事業部門が実施したい、または実施しているサービスの開発・運用を含んだ、サービス全体の開発・維持・管理を行なうことです。
技術本部は、テレマティクスサービス部、モビリティサービス部、コネクティッド技術部、内製開発推進部という4つの部署に分かれて業務を行っています。
テレマティクスサービス部は、主に車に乗っている時に利用できるコネクティッドサービスを扱っています。例えば、音楽の車内提供や、車両のビッグデータを用いた走行に役立つ予測や天気予報など多様なコンテンツ案を企画検討し、開発を行っている部署です。次に、モビリティサービス部は、利用者が車を降りた後やMaaS領域で様々なサービスを作っていこうとしています。具体的には車両管理サービスである「G-Fleet」、またそこで得られたデータを用いた新規サービス開発・他社との連携など、データを基軸に多様な展開をしています。その受託の開発やサービスの運用面を、コネクティッド技術部と連携しながら行っています。コネクティッド技術部は、基本的にはシステム運用・監視・一次対処などを担っています。
最後に、内製開発推進部はウォーターフォールの開発からアジャイル開発への体制変更を推進している部です。サービスに依存しない内部を中心とした開発体制の構築を行なっています。
現場での意思決定も可能な裁量ある環境で、ビジネス価値を最大化する
---業務プロセスの詳細を教えて下さい。
システム開発のプロセスは、PMBOKをベースにした標準プロセスを定義しています。受注前のやり取りも含めて、プロジェクトの実行計画書から、業務をしているときにどう管理していくか、業務完了後の振り返り、そこから何を結びつけるかなどをマップに基づいて作成できるようにしているので、やりやすいと思います。
このように、一定の業務プロセスは決めていますが、実際にはプロジェクトの必要性に応じて適宜カスタマイズ(テーラリング)をして利用しています。
一方で、ビジネスアジリティを高めるため、新たなプロダクト開発手法であるアジャイル開発も推進しています。
---技術本部の意思決定プロセスはどうなっていますか?
社内の意思決定は規則に則って決めます。通常どの会社にもあるものですね。プロジェクトにおいてはかなりの部分を現場で決めています。どんなテクノロジーを採用するかなど、各プロジェクトのオーナーの意見を反映することもあれば、プロジェクト内の決定に一任される場合もあります。
意思決定をする際には、どのテクノロジーを採用して、どのようにやれば品質が担保できた状態で納期に間に合って、かつ予算内に収まるのかなど、ビジネス価値を最大化するということを念頭に置いています。
---現場の社員から、技術本部長である久保田さんに相談が来ることはありますか?
実際にはあまりないですね。プロジェクトを進めていくための課題についてはほとんどのケースが現場で解決することができます。
技術本部の組織としては、4つの「部」の下にある「室」があります。開発するプロダクトが決まった後は、案件のコントロールはほとんどの場合室長が実施するようになります。
また、私たちはシステムの運用部隊も持っており、長くサービスを継続する前提のもと、長期的な保守・運用も考えての意思決定も心がけています。
未来を予測したシナリオの先に、成長のチャンスがある
---今後、目指す方向性について教えて下さい。
今後は、業務の中で直接雇用社員の掌握する領域を増やし、どんどん内製化を進めていきたいと考えています。
一方規模も大きい開発も引き続き実施していく必要もあるため、外部の力も借りながらも、目に見える範囲で業務を管理できるようにしていきます。最終的には、社内でQCDのコントロールをきちんと行えるようにしていくつもりです。
未来の組織体制としては、外部環境変化・時代の大きな潮流を踏まえて、これから起こるシナリオを想定して動いています。BCP の対応やシニア層の再活用、海外との連携など。小さい単位で切り出した仕事を副業人材に任せるなどのモデルも実はもう運用に入っています。
今後入社する方々の面接では、企業としてやるべきことと、個人のやりたいことの重なる領域で活躍してもらうため、丁寧なヒアリングを心がけています。希望や自分のできることなど、自己認識がしっかりできている方には、そこに私達がやってほしいことをどれだけ重ねられるかということを面接ですり合わせていく感じです。
企業がやるべきこと、個人がやりたいこと、個人ができることの3つが重なって、企業への「貢献の機会」があると思っています。私たち企業が提供できる「成長の機会」は、企業のやるべきことと個人のやりたいことが重なる領域です。ここを最大限に活用して、個人としてできることを増やしていっていただき、ぜひチャンスを掴んで欲しいですね。