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「世界で一番良いものを作りたい」デジタルとフィジカルが交差する次世代コックピットの体験設計

「インターネットはデジタル的な距離を縮めたが、クルマの自動運転技術はフィジカルな距離を縮める」。そう話すのは、トヨタコネクティッド 先行企画部 特命推進グループマネージャーの長沼耕平です。モビリティの世界で起こっているパラダイムシフトによって、クルマの開発により人間中心の設計が求められるようになったいま、トヨタコネクティッドのチームがどんな取り組みをしているのか、長沼に話を聞きました。

デザイナーキャリア25年、経営者として15年
デジタルな体験設計からリアルな体験設計へ

——長沼さんがトヨタコネクティッドに参画するまでの経緯を教えてください。

高校で美術を専攻したあと、フランスの大学に留学してエディトリアルデザインを学んでいましたが、中退。そのままフランスで起業をしたあと帰国し、いくつかのウェブ制作会社を経てデザイン会社を立ち上げました。その会社では大手メーカーなどのデザインコンサルティングを行い、ブランド価値向上のための施策に取り組む等、経営者の視点に近いところでデザインを生かす取り組みをしていましたが、会社をピボットさせて自社事業をスタートしました。資金調達を経て印刷業界向けのSaaSビジネスを軌道に乗せたところで退任し、前職から縁のあったトヨタコネクティッドに参画しました。

デザイナーとして25年、経営者としても15年ほど経験があり、デザインはもちろん、経営やシステム開発に対する知見を生かし、現在先行企画部のシニアエキスパートとして、幅広く新規事業に対応できるような組織を作っている最中です。

——デジタルな体験設計からクルマというリアルな体験設計の世界に転身されたわけですが、両者の違いに戸惑うことはありませんでしたか?

前職からフィジカルのデジタル化に取り組んでいたので、実はそんなにギャップを感じることはありませんでした。

私がデザイナーになった当時はウェブなどなく、紙の印刷物をデザインすることが主でした。世の中の変化に伴い、デジタルやアプリの世界でデザインを手がけてきましたが、再び紙に戻りたいという気持ちがあり、立ち上げた会社で印刷業におけるサービス化というものに取り組んでいたという経緯があります。

印刷業界はマスプロダクションからマスカスタマイゼーションに移行してきています。少量多品種をいかにスムーズに実現するか、また企業が持っているデータと組み合わせどうパーソナライゼーションするかという取り組みをしてきました。

今取り組んでいるクルマのフィジカルな体験の設計も基本的にはそれと同じだと考えているんですね。

今はまだクルマそのものが体験のシンボルとして存在していますが、将来的に消費者は「どんなクルマに乗っているか」ではなく、「クルマの中で何ができるか」「クルマを降りた先で何をするか」をより強く意識する時代になると思っています。

あと10年も経たないうちに、免許を持っていない人でもクルマに乗って自動運転で移動できるようになるでしょう。自分が高齢になって体が動かなくても、旅行やドライブができる世界が来るはずです。クルマの開発はソーシャルインパクトが大きいので、そこに楽しさややりがいがありますね。

乗る人によって価値や体験が変わる
クルマもパーソナライゼーションされる時代へ

——トヨタ自動車のMaaS構想など、従来の「クルマ」の概念が大きく変わろうとしています。そんな中、長沼さんは自動車の未来をどう捉えているのでしょうか。

クルマを取り巻く世界ではいま、パラダイムシフトが起きています。インターネットの通信技術は、サービスの提供者と受益者が隣同士にいるような感覚でやり取りする世界を実現しました。インターネットはデジタル的な距離を縮めましたが、クルマの自動運転技術はフィジカルな距離を縮めると考えています。

モビリティのサービス化を「第二のインターネット」と表現するメディアもありますが、これはあらゆる産業において大きな変化を促すでしょう。たとえば、小売業ではこれまでモノを買おうと思ったとき、顧客がお店に足を運んでいました。しかし、これからはクルマの自動運転技術によって、お店側が顧客のいる場所に向かうようになるでしょう。

こうしたユースケースは産業ごと、地域ごとに異なるので、クルマはそれぞれのニーズに適合していかなければなりません。メールの送信ひとつをとっても、MicrosoftのOutlookやGoogleのGmailなど、さまざまなアプリが存在します。求める機能や使い勝手に応じてユーザーがメールアプリを使い分けるように、同じクルマでも、乗る人によって価値や体験が変わっていく。そんな兆しが自動車業界でも現れています。

開発を高速で回すために、まず「やってみる」
スピード感あるモビリティ開発を実現する

——クルマの在り方が変わっていく中で、トヨタコネクティッドのUX/UIチームはどんなふうにモビリティ開発をしているのでしょうか。

プロダクトの作り方には変化があって、プロダクトアウトからマーケットインの時代へ、今度はそれがマーケットインから、我々の言葉言うとカスタマーインへと、より人間中心的なプロダクト設計をする時代に移り変わってきました。

人間中心にプロダクトを考える時、UXの強みの一つである「観察」というスキルを使って、人が欲しているものを先入観なく直観的に見つけ出す行為が欠かせません。そうして得たユーザーのニーズを具体化してプロダクトを作るには、非常に時間がかかります。そこで、アジャイルであったりプロトタイピングであったりという手法でアプローチをしていくわけですが、デザイナーは絵として可視化されたものを評価するということに長けているので、こうした手法がフィットするわけです。

私はチームのメンバーに「やってみる」という言葉をよく使います。やらずして可視化することはできませんので、どんどん作って可視化して、人に評価してもらったり自分で使ってみたりしながら、フィードバックをプロダクトに戻していく。それをいかに速く、短いサイクルで繰り返すかがプロダクト開発に必要なのです。

——アジャイルやプロトタイピングといった手法を、クルマの開発という大規模なプロジェクトにどうフィットさせていますか?

これに関しては、産みの苦しみを感じているところです。クルマづくりというフィジカルも絡んでくる世界でアジャイルなどの手法を転用することに、壁を感じることはあります。

アジャイルに対しての関係者の認識の違いに始まって、そもそもアジャイルという手法がふさわしいのか、もう少し慎重に設計を進めるほうがフィットするのではないか。開発手法については今後、自分たちならではの方法を作っていかなければならないと思っています。

デジタルとフィジカルが交差する体験設計を探求

——UX/UIチームが取り組んでいる、デジタルとフィジカルが交差する体験設計とは、具体的に何を指していますか?

最近のクルマはデジタル化が進んでいます。従来アナログで作られていたメーターの部分にはディスプレイが1枚置かれていて、状況に応じて表示されるコンテンツが変わります。世界中の自動車メーカーがこうしたデジタル化に取り組んでいますが、中にはアナログのまま残した方がいい部分もあります。

たとえば、ハザードのボタンですね。タブレットのような車載デバイスが故障したり、水没したりといった場合でも、ハザードランプが点灯しなければ人命にかかわります。そんな安心・安全を守る領域は物理的に残っていくでしょう。

一方で、音楽を聴くといった車の中での体験は、我々がふだんスマートフォンやPCを通じてやっていることと変わりません。いわば、デジタルライフの延長線上にクルマという空間があるということです。たとえばそれまでフィジカルに反応を得られていたボタンのようなものをデジタル化し、AmazonのアレクサやAppleのSiriのようなボイスUIを使うことで、ドライバーにとって安全かつ使い勝手がいいと感じていただく。これが我々UX/UIチームが探求している領域の一つでもあります。

どの部分をフィジカルに残し、どの部分をデジタルにするのかは、全体の体験設計の中で大きな比重を占めています。

国内におけるUXチームの総本山に
世界で一番良いチームにしたい

——今後、UX/UIチームは規模を拡大しながら、どのようになっていくのでしょうか。

現在、我々のチームでは次世代コックピットの開発を行っており、2021年中に60名規模ぐらいまでチームのメンバーを拡張したいと考えています。一方で、ほかのプロジェクトも並行して進んでいきますので、フロントエンド開発者も含めたUXの領域で人材のニーズが尽きることはありません。

トヨタコネクティッドでUXに取り組んだのは先行企画部が初めてですので、まだまだ人材が足りません。国内においては私たちのチームがUXの総本山となり、UXを学んだ人たちが自分の力を発揮しようと集まってくれるような場所にしたいと考えています。トヨタというブランドを掲げている中で、世界で一番良いものを作りたいですし、そのために世界で一番良いチームが必要で、世界中の優秀な人達が集まってくるチームにしたいですね。

弊社では北米にも拠点を構えており、次世代コックピットのソフトウェア開発で協働しています。アメリカでは、いわゆるGAFA出身やNetflix出身の優秀な社員がたくさんいます。アジャイル開発のもととなったのはトヨタ生産方式だという説がありますが、さまざまなビジネスにフィットするよう体系化してきたのはアメリカの人たちです。そうしたアメリカのいいところを見習いながら、日本に根付かせていきたいですね。

——業務の裁量権も含めて、メンバーにはどんな仕事の任せ方をしていますか?

次世代コックピットのチームは、30歳前後の若手が中心です。キャリアが長いメンバーからすると「ここで失敗をするだろうな」と思っているところでみごとに失敗するわけですが、それがわかっていながらすべて個人の裁量に任せています。チームとして失敗することは大切だと捉えているので、失敗をネガティブに終わらせないためのフォローは積極的に行っていますね。

会社に大きなリターンをもたらしてくれる人材なのかどうかは、失敗をしたその一瞬だけでは評価できません。メンバーが生き生きと仕事をしながら成長できる場を作ることが私の役割ですので、現場のメンバーが考えていることを尊重してプロジェクトが進められるように後押ししています。

正解のないUX領域に挑むUX/UIチーム
求めるのは「ひと癖もふた癖もあるプロフェッショナルな人材」

——正解のないUXという領域に挑むため、チームではどんな人材を求めていますか?

2021年4月にはチームの大規模化に伴う組織改編を予定していますが、なるべくフラットな組織を作っていきたいと思っています。今いるメンバーは二十代から五十代と、三十年以上のジェネレーションギャップがありますが、みんな同じ立場で仕事をしています。時には二十代の社員がプロジェクトリーダーになることもありますし、年長者がリードすることもあります。お互いの関係や立場、キャリアに影響をされず、自分が思ったことをどんどん発信する。チームのモチベーションを高めながら、自分がやりたいことを達成していける人材が理想です。

UXチームの業務では矢継ぎ早にアイデアを求められるので、「こんなことをやってみたい」「これをしたらおもしろそう」といったアイデアが次々に出てくる人が、グループの中にもっと増えてほしいですね。

同じデザイナー、同じデベロッパーでも、専門領域や興味・関心は人によってバラバラです。専門性を一極集中させるのではなく適度にばらけることによって、誰かが転んだらほかの人が助けてあげられるような環境を作っていこうと思っています。

——長沼さん自身はどんな人と働きたいですか?

プロフェッショナルな人と仕事がしたいですね。どんな領域でも、専門家とは話をしていておもしろいですし、さまざまなことが学べます。そうした意味では、みんなが尖っている、エゴの集まりのような現場のほうが個人的には楽しいと思っています。過去にはそうしたチームを率いてきましたし、そういった中から優れたプロダクトを作るスキームを見つけ出していくことを得意にしているので、ひと癖もふた癖もあるような人たちが集まってきてほしいですね。

いま、みなさんがより働きやすくなるよう会社の制度を変更している最中です。たとえば、私が入社した当時は会社で使えるPCはWindows一択でしたが、今では多くの社員がMacを使っています。こうしたルールだけでなく、採用など人事面でも改革を進めています。大企業の子会社なので、急にスタートアップのような動きをすることはできませんが、メガベンチャーなどのIT企業で働いてきた人たちからみても遜色がないような会社にしていきたいですね。

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