「機能は優れていて課題解決もできるはずなのに、市場に正しく伝わらない」「精緻な戦略を描いても、現場の実行段階で熱量が落ちてしまう」——。BtoB SaaS業界において、多くの企業が頭を悩ませているのが「戦略と実行の分断」です。
どれほど綺麗な戦略を描いても、それが現場で実行されなければ事業はグロースしません。この構造的課題を打破するために、jinjerのマーケットインテリジェンス(MI)部で重要性を増しているのが「PMM(プロダクトマーケティングマネージャー)」です。
jinjerのPMMは、認知獲得やプロモーション活動にとどまらず、プロダクトが提供すべき「価値そのもの」を定義し、売上責任まで負って事業を動かすコア的存在です。
今回はMI部を管掌する寺出に、AI時代におけるPMMの本来の役割と、「作る」と「売る」を滑らかにつなぐ組織構造の強みについて聞きました。
目次
寺出 岳大(てらで たけひろ)/2019年に新卒入社し、事業企画として中期経営計画の策定、KPI設計、データ分析基盤の構築、営業生産性の改善などを通じて事業グロースに取り組む。2026年5月より現職で、jinjer社全体のプロダクト戦略と販売推進を担当。人事データとAIを掛け合わせた新しい価値を顧客と市場に届けることを目指している。仕事での一貫したテーマは『戦略と実行の接続』。
1:PdMとの明確な役割分担と「売上責任」を背負う組織構造
——まず、機能開発を主導するPdM(プロダクトマネージャー)と、PMMの役割分担について教えてください。
寺出: 大きな役割分担として、PdMは「何を作るかを考え、価値提供を最大化させるプロダクト開発に責任を持つ」のに対し、PMMは「何を・誰に・どう売るかを考え、市場やお客様への価値提供に責任を持つ」という違いがあります。
jinjerにおけるPMMの役割は、単に市場における自社ポジショニングの設定やメッセージを策定することにとどまりません。商談現場の一次情報からプロダクトが提供すべき「価値そのもの」を定義し、ビジネス側と連動して事業成果へコミットする点に大きな特徴があります。
認知拡大やメッセージ作成といった単一のマーケティング業務だけで終わらせず、市場やお客様に対して「プロダクトの真価」を正しく届ける全責任を担うのが、jinjerのPMMです。
2:セールスと「同じ売上目標」を追うからこそ生まれる、強固な協力体制
——精緻な戦略を描いても、各部門へ浸透させて実行まで巻き込むことにはハードルがあると思います。どのように組織全体を動かしているのでしょうか?
寺出: 多くの企業で戦略が形骸化する理由は、「戦略を描く人(企画)」と「現場で実行する人(営業等)」の目線や評価指標のズレにあります。
この分断を構造から防ぐため、jinjerのPMMはリード数などの手前指標(中間目標)だけに閉じず、ビジネス側と同じ「事業成果(売上・事業の成長)」を追う目標設定を行っています。
PMM自身がセールスと同じ事業成果というゴールを追いかけ、同じ目線で目標に向き合うからこそ、部署の壁を越えた協力体制と推進力が生まれます。
3:PMMと人事コンサルティングセールスを同一部署に配置し、「戦略と実行の分断」を構造的に防ぐ
——目標の共有だけでなく、具体的にどのような組織構造で「戦略の浸透」を実現しているのですか?
寺出:目標(目線)を合わせることに加えて、組織構造の面でも戦略と実行を滑らかにつなぐ仕掛けをつくっています。
それが、PMMと人事コンサルティングセールスを「MI部」という同一部署にセットで配置している点です。
PMMが描いた戦略を、商談現場に深く入り込む人事コンサルティングセールスがセールス組織へ伴走しながら直接インストールしていく。戦略を描く側と実行を担う側が同じ組織で一次情報をリアルタイムに共有し合っているため、情報の粒度が荒くなることなく、高い熱量のまま現場を動かすことができます。
商談内容をデータとして蓄積・分析できる環境も用意されており、勘や印象ではなく、現場の一次情報をベースにPMMと人事コンサルティングセールスが即座に軌道修正を行える環境があることも、戦略推進のスピードを爆発的に引き上げている要因です。
4:機能勝負を超えて、「なくてはならない価値」をどう届けるか
——タレントマネジメント等の競争が激しい領域において、jinjerが勝ち切るための戦略の核はどこにありますか?
寺出: 前提として、単体の機能差だけで永遠に差別化し続けることは不可能です。昨今AI活用に関する話題に事欠かないですが、想像しているよりも早い時間軸でSaaSプロダクトの機能的な差分は次第に同質化し、差がなくなっていく可能性があります。
だからこそ差が生まれるのは実行の質です。
jinjer社のミッションである
人事の「これからの当たり前」をつくり、お客様とともに進化する
の実現に向けて、「お客様に向き合い続け、心からほしいと思っていただけるようなプロダクトの価値を定義し、その思いと熱量を落とさずにお客様へ届けられるか」
ここに尽きると思います。
「あったら便利」なツールで終わらせず、「自社になくてはならない存在」だと実感していただくためには、PMM自身が深い業務理解の解像度を持ち、お客様と同じ目線・同じ感覚値で課題を語れなければなりません。お客様の痛みを誰よりも理解した上で、届ける価値を研ぎ澄ませていくこと、そしてそれをBiz組織全体として実行していけることが最大の差別化になると信じています。
5:AI前提で情報収集コストをゼロにし、「本質的な意思決定」へ時間を投資する
——AIの活用によって、PMMが向き合う業務環境はどのように変化していますか?
寺出: 従来であれば、PMMは市場調査や競合分析、何十時間もの商談録画の確認といった「情報収集と一次理解」に多大な人力とコストを費やしていました。
しかし現在jinjerでは、AIを活用して商談データのサマリ作成や課題傾向の抽出を自動化する環境構築を進めています。
情報を集めて理解する作業をAIへ委譲することで、PMMは「集まった示唆からどのような事業判断をするか」「新しくどんな価値を作りに行くべきか」という、本質的な意思決定や戦略を考え抜く時間に100%集中できるようになっています。人力の作業から解放され、思考のレバレッジを最大化できる環境が整いつつあります。
6:10年分の潤沢なアセット×ゼロからの立ち上げ。jinjer PMMのダイナミズム
——今のjinjerでPMMに挑む最大の面白さ、キャリアとしての醍醐味は何でしょうか?
寺出: 1つ目は、「プロダクトの異なる成長フェーズが同時に存在し、それらを掛け合わせられる点」です。
すでに強固な顧客基盤と売上規模を持つ「勤怠・給与・人事労務」などのCore HR領域と、これから市場のポジションを取りに行く「タレントマネジメント」などのTalent HR領域やATS。この双方のフェーズに携わりながら、単体プロダクトの領域を超えた「データ連携による新たな価値創出」を企画できるのは、複数プロダクトを展開するjinjerならではの面白さです。
2つ目は、「膨大な既存リソース」がありながら、PMM組織自体は「ゼロからの立ち上げフェーズ」にあるというアンバランスさです。
スタートアップのように「やりたいがリソースやデータがない」という壁に突き当たることもなければ、大企業のように「仕組みが完成しすぎていて変革を起こせない」ということもありません。
10年間にわたり蓄積されたデータや顧客基盤という潤沢なリソースをフルに活用し、ゼロベースで市場のポジショニングを再定義していく。自らの手で事業を大きく動かしたいプロフェッショナルにとって、これ以上手触り感のある魅力的な挑戦の場はないと確信しています。