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ヘルスケア事業のこれから ──エムティーアイ 前多社長×弊社 代表取締役 鐘江対談

 2018年3月、クリニカル・プラットフォームはエムティーアイおよびメディパルホールディングスと、クラウド電子カルテの普及促進に向けた協業推進のための資本提携をおこないました。今回は、エムティーアイの創業者でもある前多俊宏社長と、弊社代表取締役の鐘江との対談の様子をお届けします。
 エムティーアイといえば、女性の健康情報サービス「ルナルナ」に代表されるモバイルサービスを展開する企業です。その領域は「ヘルスケア」「フィンテック」「音楽・動画・書籍」「生活情報」「エンターテインメント」と多岐に渡りますが、その中核をなすヘルスケア事業を立ち上げたきっかけや、ルナルナの立ち上げ秘話、そして今後のビジョンや当社に期待すること等をお聞きしました。

ヘルスケア事業の構想は1993年頃から

鐘江 ヘルスケア事業をスタートしたきっかけをお教えいただけますか?

前多 会社を設立する前の1993年頃から構想していました。

鐘江 えっ!そんなに昔から?それは凄いですね。

前多 まだショルダーフォンも使われていた時代ですが、その頃に未来の携帯サービスについて考えていました。肌身離さずいつも持ち歩くものなので、健康管理、動画や音楽、カメラ、決済、位置情報(ナビゲーション)など、移動しながら使う携帯電話だからこそのサービスを思い描いていました。音楽でいえば、1999年の上場時に「music.jp(前身はmusic.co.jp)」を買収し、決済関連ではカード決済会社を買収するなど、携帯電話の将来性を見据えた事業を開始しました。

鐘江 ヘルスケア事業で最初にスタートしたのはルナルナですよね。

前多 はい。ルナルナは、2000年頃に外部からの応募でスタートしたサービスです。当社が外部向けにあるモジュール提供をしたところ、300を超える応募があったなかのひとつのサービスでした。毎月のユーザー数をウォッチしていたところ、他サービスは浮き沈みがある中で、ルナルナだけはユーザー数が減少することなく、堅調な伸びを見せていました。それを受けて当社が正式に引き取りをし、注力をしていきました。

鐘江 小さく始めて大きく育てる、アプリビジネスのお手本のような話ですね。

前多 実は、妊娠の確率を上げるためのロジックは最初私が考案したものです。その後に有識者からアドバイスをもらったり、データ解析を積み重ね、その確実性を高めていきました。当時、今よりは「妊活」というキーワードも一般的でなかったため、役員の中でもサービスの概念について理解を得づらい部分がありましたが、私は有用性を調べ続け、そしてサービスを磨きながら周囲への説明を重ねることで、自然と役員全員が後押ししてくれるようになりました。

鐘江 今や、代表的な妊活アプリという位置づけですよね。

前多 お蔭様で多くのユーザーに支持いただいています。今後も、より多くの方に使っていただくことで、日本の出生率の改善にも寄与できると思っています。

スマホ基点でユーザー中心につなげ直す

鐘江 その後にCARADAのサービス展開につながっていくわけですね。

前多 はい、2013年頃から取り組んでいます。当時、香港のエレトロニクスショーがすごく賑わいを見せていて、毎年参加していました。その展示会の中で低コストで機能性も高いヘルスケア機器を見つけていました。こういった活動量計にBluetooth技術を付加するなど、CARADAの特徴である健康を管理する様々な機器との連携を実現しました。

鐘江 電子母子手帳サービス「母子モ」のリリースも同じ頃ですね。

前多 はい、同じく2013年頃です。このサービスは、当時は総務省からの予算を頂戴し、サービス開発をおこないました。

鐘江 自治体向けに母子モを提案したり、婦人科向けにルナルナメディコを提案したりと、最近は新しい取り組みをされている印象です。

前多 特にルナルナメディコの導入が加速しています。ルナルナの情報を婦人科医と連携できるサービスですが、これによってエンドユーザーと医療者がつながることになります。母子モも小児科との連携を見据えたサービスです。その先にはさらに予約ができて、電子カルテがあって、オンライン診療があって、という形で、一気通貫でユーザーと医療者を結びつけるようなサービス展開を描いています。

(エムティーアイ 2018年9月期 第3四半期 決算説明会資料より)

前多 (上記資料を指しながら)今までの病院や薬局に向けた医療サービスは、患者などのユーザー視点ではなく、医療者のコスト削減に主眼が置かれてきました。私たちがおこなっていくのは、患者と医療者をつなげ、医療者と薬局、役所をつなげる。脳神経もそれぞれがつながる事で強化されるように、縦割りだったものを横につなげることで、ユーザーにとって極めて便利になるはずです。

鐘江 私たちが創業当時に描いていた構想もまさに同じです。電子カルテの会社を作りたかったわけではなく、電子カルテと患者アプリがつながる世界を作りたいと考えていました。

前多 つながる上で何が基点になるかというと、やはりそれは全員が肌身離さずに持つスマートフォンです。スマホを基点に、医療者ではなくユーザー中心につなげ直す。これこそが、エムティーアイがヘルスケア事業で考える中心的な価値です。

鐘江 私たちのCLIPLAも、ルナルナやルナルナメディコとの連携を準備しています。将来的にはルナルナ上で自分の検査データを確認できたり、より便利な機能を提供できると考えています。


これからの電子カルテ

鐘江 これからはどういった施策を考えていらっしゃいますか?

前多 この先、社会の制度も変わってくるじゃないですか。世の中の状況に応じて制度のほうが変わらざるを得なくなる。

鐘江 制度への働きかけってしているんですか?

前多 しています。例えば、健診結果は受診した個人の持ち物であるということを明確にして欲しいとお願いしています。健保の統一見解がないのです。

鐘江 カルテのデータについても同様の議論がありますね。カルテデータは誰のものか?その関連で言うと、いつかはカルテ開示をやりたいと思っています。患者さんがスマホやPCで自分のカルテデータを参照できるようにしたい。医療機関にとって、現在のカルテ開示は手間のかかる作業ですが、クラウド電子カルテになれば、クリックひとつで開示できてしまうので、開示のハードルが下がります。

前多 母子手帳アプリでアンケートをとっても、カルテ結果をアプリに入れたいという要求が多いです。今はユーザー自身が入力しているのですが、入力間違いが多くて困っています。1901年生まれとか、体重200キロとか(笑)。どうしても間違ってしまうから、小児科を受診するとデータがすぐに電子母子手帳に反映される、というのがあると良いですね。

前多 電子カルテはどのような将来像なのでしょうか?

鐘江 「電子カルテ」という箱を売る時代は終わっていると思ってます。逆に言えば、電子カルテの機能での差別化は難しい。+αとして、カルテ開示であったり、医療機関連携であったり、クラウドだからできることを実現していきたいと思っています。例えば、患者さんを他の医療機関に紹介するとき今だと紹介状を書かなければいけませんが、クラウドなら直接カルテにアクセスできるようにすれば済みます。もちろんセキュリティの課題はありますが。他にもルナルナとか、カルテではない付加価値をいかにつけて、提案できるかどうか。診療科ごとのサービスづくりがすごく鍵になるかなと考えています。

前多 健診とクリニックがもうちょっとつながってくれば良い。健診結果がカルテで見えれば良いですよね。毎年同じクリニックに行くインセンティブにもなりますし。

鐘江 おもしろいですね。最後に、エムティーアイのヘルスケア構想における当社への期待について教えていただけますか。

前多 現在のエムティーアイのヘルスケア事業は一般消費者向けのアプローチが多いのですが、「つなげる」構想を実現するためには、医療機関からのアプローチも大事です。カルテとか、CARADA medicaの遠隔診療とか。クリプラさんには対医療機関のところをしっかりと担っていただきたいと思っています。

鐘江 CARADA medicaは先日デモを見せてもらいました。どうやってCLIPLAとつなげるか、という議論もしたばかりです。前多さんの期待に応えられるよう、しっかりと進めていきたいと思います。

前多 はい、期待しています。社会の制度は常に変化しますし、必要に応じて働きかけもしていかなければなりません。その分大変な事は多いのですが、一緒にこのヘルスケア事業を盛り上げていければと思っています。

鐘江 本日は貴重なお話しありがとうございました!



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【特別対談】本当の顧客主義を体現する「カスタマーサクセス」で働く魅力(前編)
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