- Webディレクター
- フロントエンドエンジニア
- 営業事務
- Other occupations (7)
- Development
- Business
コロナ禍をきっかけに、世の中の「働き方」に対する価値観が変化したいま。「フルリモートで場所にとらわれずに働きたい」「お気に入りの環境でもっとクリエイティビティーを磨きたい」と考える方も多いのでは?
そんな、これからのワークスタイルを見つめ直すオンラインカンファレンス『[#より良い働き方について考える1日]Web業界編』が、クリエイター・エージェンシー事業を展開するクリーク・アンド・リバー社主催のもと、12月9日に開催された。昨年からオフィスを廃止しフルリモート制 を取り入れ、地方移住した社員も出てきているCINRAをはじめ、ウェブ業界で活躍する企業の事例をもとに、今後の働き方についてあらためて考える内容となった。
CINRAからは、セントラルオフィスユニットのリーダー施井史と、HRプランナー康あん美、アートディレクター上野由誠が登壇。クリーク・アンド・リバー篠崎祥子さん進行のもと、CINRAがフルリモートになってからの社内の変化や、リアルな社内の声などを語った。本記事では当日の模様をお届けする。
文:市場早紀子(CINRA)
施井史
セントラルオフィスユニットリーダー。2019年9月に入社し、経営の「守り」を担当する。フルリモート化プロジェクトの責任者を担当。現在は、総務、労務、経理、社内人事、業務の効率・改善・サポートを担っている。
上野由誠
アートディレクター・デザイナー。美術大学で建築を専攻したのち、デザイナーとして広告会社に入社。約150サイトの構築・運用、デザイン制作に従事。1年間のフリー期間を経て、2017年にCINRAにジョイン。コーポレートブランディングや国内大手結婚式場の大規模改修案件、スポーツメーカーのプロモーションなど、ジャンルを問わず幅広い案件のアートディレクションを担当している。
康あん美
HRプランナー。2015年入社。EC事業部のディレクターとして、商品開発、バイイング、記事コンテンツの企画・制作などを担当。2018年7月から人事を務める。
脱オフィスから約1年。いまは社員の「働きたいかたち」を叶えたい
CINRAがオフィスを廃止したのは2020年11月。イベントの最初の話題は、1年経ったいまの変化について。
社内人事、業務の効率・改善・サポートを担っている施井は、フルリモートに移行当時、社内ガイドラインをアップデートしたり、印刷やオフラインでの打ち合わせスペースの確保のために外部サイトを導入したり、さらに、総務・経理業務のフォローなど、バックオフィスに関する対応がどうしても優先的になっていたという。
最近は、社員一人ひとりが「どう働きたいか」という声を吸い上げられるようになったと話す。
施井:フルリモートだと言うと、「それぞれの家で仕事をするもの」だと誤解されがちなんですが、CINRAはまったくそうではなくて。家で仕事をしたい人もいれば、やはり自分のよく知る社内メンバーと同じ空間で仕事をしたい人もいる。その願いは実現してあげたいと考えていますので、社員の新たな働き場の拠点として、コワーキングスペースを2か所準備しました。
それぞれ予約制にしていて、社内でシートとカレンダーで管理しています。それを見れば、誰がどの日にいるのかがわかるので、「この人がいるなら会いに行こうかな」という感じで、気軽に集まれる場所として使ってくれたらと思っています
セントラルオフィスユニットのリーダー施井史
CINRAで使用している、コワーキングスペース「Anchorstar Lounge」の様子(写真提供:Anchorstar Lounge)
康:ほかにも、フルリモートになったことで、「どう暮らして、どう働きたいか」を考える社員がより増えてきました。実際に、神奈川など東京近郊の海沿いに引っ越した人や、地方移住をした人もいます。コロナの感染状況によっては、今後、ワーケーションもできるようになるので、働き方の選択肢はもっと増えるんじゃないかと思います。
HRプランナー康あん美
アートディレクターの上野は、まさに地方移住したひとり。今年8月に福岡へと引っ越し、生活はがらりと変わったが、働き方はほとんどこれまで通りだと語る。
上野:フルリモートなので、通勤時間の分を生活や仕事に充てられることがもとからあるメリットでしたが、福岡に来たことで、生活の質がさらに上がりましたね。スーパーの生鮮食品のクオリティーが格段に良いので、積極的に料理をするようになりましたし、車で20分ほど走れば海に行けるので、趣味の釣りも気軽にできるようになりました。日常に余白をつくれるようになったので、メリハリをつけて仕事にも集中できる。良い循環になっています。
また近年では、ITやウェブ業界に感度の高い個人や企業がぞくぞくと福岡に集まってきています。都内で働いていたら出会えなかったようなコミュニティーをこれから築いていきたいですね。
アートディレクターの上野由誠
社員が「生活」に軸をおいて働けるようになった影響は、採用面にも現れている。通勤というハードルがなくなったため、全国の優秀な人材を採用できるようになったのだ。
康:つい先日入社した社員も、関西在住でした。ほかにも、九州に住んでいる外部パートナーの方と一緒に仕事をするなど、新たな体制にも柔軟にチャレンジできるようになったのは、フルリモートに慣れてきたこのタイミングだからこそだと思います。場所の壁が取っ払われたことで、さまざまな経歴を持つ人と出会えるようになり、採用の基準が大きく変化しました。
施井:今後、関東以外に住んでいる社員が増えてきた場合でも、都心に住む社員と働き方の自由度に差が出ないよう、会社としてもサポートしていきたいです。
一日中打ち合わせの日も。フルリモート化の意外な落とし穴とは?
フルリモート化したことにより、働き方や生活の選択肢が増えたというメリットがある一方、通勤や移動時間がないからこその意外な課題も出てきている。
康:リモートでの打ち合わせは、会議室の予約もいりませんし、移動なしですぐにできてしまうため、一日みっちりと打ち合わせが入ってしまい、作業時間を確保できないという悩みが、新たに社内から出てきています。
それを解決するために活用しているサービスのひとつが、バーチャルオフィスの「oVice(オヴィス)」。バーチャル空間で自分のアイコンを自由に動かし、相手に話しかけることができるツールだ。
施井:oViceでは、オフィスにいたころのように、気軽に声かけができる。わざわざ打ち合わせを設定しなくても、簡単に5分ほど話せば終わるようなものは、積極的にoViceを使うことで、時間の有効活用につながると考えています。また、誰かと同じ空間で仕事をしている雰囲気も体感できるので、コミュニケーションを円滑にするだけでなく、リモートワークにおける孤独感の解消にもなると思うんです。
ただ、まだ社内に普及していないのが課題。半期に一度の決算報告会のあとに、リモート宴会をoViceで開催してみるなど、いまは「気軽に使える」ということを浸透させるために、試行錯誤をしている最中です。
上野:リモート宴会で行なった全社員でのクイズ大会は、楽しかったですね(笑)。
康:oVice上で拍手やリアクションが送れるので、結構盛り上がるんですよ。おすすめです!
CINRAのoViceルームの一部。「雑談歓迎エリア」を設けたり、レイアウトを定期的に変えたりと、楽しく使える工夫をしている
続いての話題は、マネジメントについて。CINRAはこの1年で新たなメンバーが増えたが、フルリモート下では、社内にどんな人がいて、どんな業務をしているのかが見えにくくなる。さらに、会社の雰囲気もつかみづらくなるということから、社員とマネージャー間のコミュニケーション施策には、これまで以上に力を入れている。
上野:ぼくはマネジメントされる側なのですが、コミュニケーション面で困ったことはとくにないですね。ぼくのチームは、隔週でマネージャーとの1on1面談がありますし、全社の取り組みとしてリアルな場に集まる「チーム会」という定期イベントもあります。フルリモートになった当初よりむしろいまのほうが、話をする頻度は増えているのではないでしょうか。
施井:コミュニケーション面で、新入社員にはよりフォローが必要ですね。入社すると職種ごとにオンボーディングを受けてもらうのですが、そのプログラムに、所属チーム以外の人たちと自己紹介がてら雑談をする機会を取り入れています。また、CINRAのミッションをより身近に感じてもらうためのワークショップも設けています。
また、康が以前やっていた、社内メンバーと雑談をしながら、その社員について紹介をする社内の配信ラジオ「かんかんラジオ」という施策も、「社員を知ってもらう」という意味では、帰属意識に良い影響を与えていましたね。
「かんかんラジオ」の一幕
オンボーディングでの雑談プログラムも、「かんかんラジオ」も、すべては社員側からのアイデアを採用したもの。ルールや施策をトップダウンで決めていくのではなく、社員からのヒントをもとに試すことも多くあり、まさに「みんなで会社をつくり上げていった1年だった」と、施井は振り返る。
自分で自分の人生をデザインする。CINRAが目指す「理想のフルリモート」のかたち
最後に、オフィスを持たないフルリモート企業として、CINRAはどのように変化していくのか、期待も込めてそれぞれが思いを語った。
上野:入社して5年目になりますが、変化の多いCINRAなので、これまで一度たりとも同じような1年はありませんでした(笑)。でもその変化がとても楽しいし、メリットもあると思うんです。とくに、フルリモートになってからは、社内メンバーの年齢も個性もより一層豊かになりました。これからは、ウェブ制作だけでなく、たとえば空間デザインや映画といったものまで、制作のバリエーション・ソリューションの幅がどんどん広がっていく実感があります。これからどんなことに挑戦できるのか、とても楽しみです。
康:ライフステージの変化に合わせて、社員一人ひとりが自分なりの軸で自由に働けるよう、選択肢はどんどん広げていくつもりです。これからは働くことを通して、CINRAメンバーたちはより自分で自分の人生をデザインしていけるようになるのではないでしょうか。
施井:CINRAのフルリモートはまだまだ完成していません。理想は、しっかりと直接顔を合わせられる場所や環境をつくりつつ、社員それぞれが過ごしたい場所で、ライフスタイルに合わせた働き方ができること。なので、リモート体制だけでなく、たとえば週4日勤務であったり、より気軽に副業できるように制度を見直したりと、これからも柔軟に変化し続ける可能性は大いにあります。
これまで、「フリー出社制度」や「カンパニー制」、そして「フルリモート制」と、目指すべき会社のあり方に合わせて柔軟に変化し続けてきたCINRA。そのなかでも一貫しているのが、「会社ありきではなく、社員ありきで会社をつくり上げていく」という考え方。これからも社員とともに「CINRAらしいニューノーマルな働き方」を模索していきたいと思う。