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戦コンの「いま・むかし」。そしてコロナで考えたこと。

ABEJAの勉強会「ABECON」(アベコン)。毎週金曜夜、メンバーが得意分野の情報や知見をシェアしあう勉強会です。今回のテーマは「コンサルティング今昔物語」。前職が戦略コンサルタントだった山本直樹さんに、これまで社会を変えてきたビジネス理論の解説や、新型コロナを通じて考えるようになったことを、話してもらいました。


How To からWhatの時代へ

私がコンサルティング業界に入ったのは1990年代半ば。バブル経済がはじけた後で、どう収益を上げるのか、つまり「How To」を考えるのが企業の命題でした。

この時期に出た『Reengineering the Corporation』という本で紹介されて広がったのが、BPR(Business process re-engineering=業務改革)という概念でした。つぎはぎで対応してきたソフトウエアやシステムの更新を根本的から再構築するための手法です。この時期の日本のコンサルティング企業は、BPR関連のプロジェクトをたくさん手がけていたんですね。

そのうち2000年代に入ると、韓国のSAMSUNGなどの新興企業が、日本の総合電機企業と肩を並べるようになりました。

違うのが事業の数でした。例えば日立製作所は、原子力発電から電車、コンピュータ、半導体までたくさんの事業を抱えています。でもSAMSUNGは、携帯電話とDRAMと液晶テレビの3事業だけ。それでも利益は大きかった。なぜなら事業の「選択と集中」(What)に力を入れていたからです。

同じころ一世を風靡したのが、EVA(economic value added=経済的付加価値)です。経営にかかるコスト(資本コスト)以上に稼ぐ能力があるかをみるモノサシです。このEVAに基づいた評価で、企業は事業の選択と集中を進めました。日立製作所で例えると、電車、原発、コンピュータ、半導体、家電の各事業を横一列に並べ、一番収益性が高い事業を選び、そこに投資を集中させるイメージです。

コンサル企業も当時、EVAに基づいた評価で「この事業は企業の価値を棄損しているからやめるべきです」「この事業は価値があるからやるべきです」と企業に助言してメシを食っていたのです。

Whereの時代

2000年代初頭は、急速な少子高齢化で国内市場が縮小することへの懸念から、ビジネス上の関心も、それまでの「What」から「Where」になりました。どこでモノを作り、研究開発し、マーケティングするのか、グローバル視点でバリューチェーンの配置を考える議論になっていきました。コンサル企業の仕事も「タイに行きましょう、ミャンマーに進出しましょう」と、最適配置を助言する内容へと変わっていきました。

Whyの時代

次に「Why」を問う時代がやってきます。このころ出版された『A whole new mind』(邦訳『ハイ・コンセプト』)という本では、Design、Story、Symphony、Emphathy、Play、Meaningという言葉を打ち出しました。

これらの言葉を私なりに咀嚼すると「従来大事だとされてきた価値観(上図左)の反対側にある価値観(上図右)を考えてみよう」ということだと解釈しています。Analysis、Melody、Logic、Work、Valueは、かつてコンサルティング会社の「勝負どころ」でした。私がコンサルタントになったころは「オマエはValue出してるのか?」「Logicが通ってない」「オマエのAnalysisは全然駄目だ」と突っ込まれたものです。でも「そこじゃない」と、反対の価値が言われ始めたのです。

『A whole new mind』では「ありふれた日常の向こうに目的と意義を追求できる能力」が今後大事になってくる、と説いていました。「これは世の中が変わるな」と大きなショックを受けましたね。

こうした時代の変化を先読みする本をいち早く読み、そこで得た新しい概念をビジネスに実装させてメシが食えた時代がありました。でも、そういうやり方だけではもう、プロジェクトが売れなくなってきています。経営学というものがサチってきた(飽和状態になってきた)ために、コンサルティングもこれから何でメシを食べられるか、見えなくなっていると思います。

戦略作りのプロセス

私はもっぱら企業の経営戦略を作ってきました。

戦略作りには順序があるんです=上図。まず情報を集めていきます。1000ピースのジグソーパズルで、300ピースほどの情報を集めたら机の上に並べて「俯瞰」する。そこからノイズを取って「構造化」する。そしてズバッとソリューションを出す――これを「結晶化」(クリスタライズ)と言います。次に「現実化」、最後に「伝達」です。経営者、事業部長、従業員と、異なるステータスの人たちに、それぞれ違うプロトコルで響くように話し、戦略を実現させていきます。

それぞれの職階が、それぞれの段階を担っています。情報収集はアナリスト、俯瞰はシニアアナリスト、構造化はアソシエイト、結晶化はマネージャー、現実化はプリンシパル、伝達がパートナーといった順です。

「俯瞰」について、フラットパネルディスプレイのシェアの推移を例に説明していきましょう。1993年時点では日本が92%を占めていました。その後つるべ落としのように下がり、韓国と台湾に抜かれます=上図。今は中国も出てきた。

携帯電話の市場はかつて、三菱電機や東芝も参入していた時代もありましたが、96年、99年、2002年と、日本勢が負け続け、SAMSUNGのような新興企業が急成長してきました。

推移の背景は何か。1G、2G、3Gの時代=下図を見ると、1Gの市場は「地域」で棲み分けてました。2Gでは、GSMやCDMAといった「方式」で棲み分けるようになりました。3Gになると、BenQ、Microsoft、Symbianといったソフトウェアベンダーも参入して水平分業になっていきました。

パナソニックやNECのような1G時代に参入した企業は、3Gでは当初の強みを失ってしまっている。やはり俯瞰して状況を見極めるのが大事なんですね。

次に「構造化」の話です。集めた情報をろ過するイメージです=下図。うつろいやすい情報はプカプカ上のほうに浮き、普遍的な基盤になる情報やノイズは沈んでいく。

こうした過程から生まれたシステム構造(アーキテクチャ)は、優れたものなら変化が起きても、影響を受ける範囲が極めて限定的です。対して劣った構造だと、大きな影響を受けてしまうことがある。なので優れた構造は社会の変化に対応しやすいとも言えます=下図

一番のキモは「結晶化」です。膨大な情報をもとに考え抜いて作ったコンセプトを、響くような言葉に昇華していくのです。「科学」と「想い」と「共感」をコンテナに詰め、圧力をかけて高温にプラズマをかけ、ソリューションを出していく、そんな感じです。

ヒト+AIの「ケンタウルス型」

Wired創刊編集長のケヴィン・ケリーは『The Inevitable』という本で、長期的な展望をもとに、12項目の「今後避けられないこと」を挙げています。そのなかから2つご紹介したいと思います。

ケリーは「世の中はWikipediaになる」と言っていました。

例えば契約文書はハンコをつけば「締結」です。対してWikipediaは終わりなく更新され続けていく。世の中、それが当たり前になる、というのが、ケリーの洞察でした。

言われてみれば、Slackでのやりとりもそうですよね。ものすごい勢いで情報が流れる。Slackに誰かがコメントを上げると、ワーッといろんな反応が起きて、一気にコンセンサスができてしまうような。どんどん変わっていくけれど、変わること、流れていくことを前提に物事が進んでいく。

私がABEJAに入った時「この会社は(Slack上で交わしあう)スタンプで仕事をするのか!」と本当に驚きました。

もう1つはケンタウロス(ギリシャ神話に出てくる半人半獣の種族)です。

いま世界で一番強いとされる碁・チェスの指し手はコンピュータとヒトの協働チームだそうで、「ケンタウルス」と呼ばれているそうです。AI against (AIがヒトに対抗)ではなく、AI with(AIとヒトの協働)だとケリーも言っている。ABEJAで提言している「AI+HI」の概念はケリーの示す概念と通じるものがある、と実感しました。

VUCA(ヴーカ)の時代:コロナで見えてきたもの

VUCAは、Volatility、Uncertainty、Complexity、Ambiguity、の頭文字をつなげた造語です。もともと2001年に米国で起きた同時多発テロを受けて、米防総省が「予測不可能な時代」を「VUCA」と表現したのが始まりで、2010年代にはビジネスでも使われるようになりました。今回の新型コロナがVUCAの典型ですね。

マッキンゼーのデータ=下図によると、新型コロナを超えるインパクトは、第2次世界大戦前まで遡らないとありません。これだけ甚大だと、これまでの常識を改める発言や動きが相次ぐようになりました。

例えば、永守重信・日本電産会長のインタビュー。永守さんといえば利益至上主義者で知られ、「人の倍働け」と公言して憚らない人でした。その彼が「50年間、自分の手法が正しいと思って経営してきたが、それは間違っていた」と反省しているんですね。「利益が一時的に落ちても、社員が幸せを感じて働ける会社にしなきゃダメだ」と。

また「社会」について考えさせられた発言もありました。コロナに罹患したボリス・ジョンソン英首相が、退院時に「There is such a thing as society」(やはり社会というものはあるのだ)と、しみじみ語りました。「NHS(英国の国民保健サービス)は脈打つこの国の心臓であり、この国の最良の部分だ」とすら述べたわけです。

彼の言葉は驚きをもって受け止められました。

この国では1980年代、当時のサッチャー政権が社会保障費を大きく削りました。そのころ彼女は「There is no such thing as society」と言っているんですね。「社会なんてものはない。あるのは個々の男たちと女たち、家族である」と。NHSに代表されるような従来の福祉国家・英国を否定し、新自由主義に基づく「自己責任」を徹底する彼女の思想を象徴する言葉でした。ジョンソン首相は、サッチャー元首相の新自由主義路線を引き継ぐ政治家と思われていました。だからこそコロナから生還した彼の言葉は、路線の変換ととられたわけです。

「自律と協調」から「ゆとり」を生み出す

ビジネスではないがしろにされがちな「予備、ゆとり」の大切さも、コロナの教訓だと思います。

むやみに「ゆとり」を削ると何が起きるのか。シャープの例を思い出します。2020年4月、シャープの自社製マスクに注文が殺到し、同社のサーバーがダウンしてしまいました。そのあおりでスマートフォンと連携する同社のIoT家電も一部の機能が利用できなくなりました。何でもつなげればよい、すべて「タイトカップリング」(固定的なつながり)すればよいわけではないーーという教訓ですね。

これまでのビジネスは、「切り詰め」を積み上げていく発想が大事だとされてきました。ですが、コロナや台風といった、経営に甚大なインパクトを与える事態が何度も起きる社会状況のもとでは、逆に「ゆとり」や「予備」を持つ必要があると考えます。

「ゆとり」や「予備」を生み出すためのキーワードは、「自律」と「協調」だと思っています。

まずは人に頼らず自分でやっていく。とはいえ、自分さえよければいいという視点だけ持っていたら、マスクの買い占めのようなことが起きてしまう。だから「全体最適」を考える必要があります。全体最適も見据えた自律化の実現のために、AIは求められると思っています。自律化を促進するAIとは、人の知能を補完したり、将来を予測したり、情報を主体的に集めたり、可視化したりして、人やコミュニティの自律化をすすめていくイメージです。

全体最適は、人や組織のつながりが「タイトカップリング」ではなく「ルースカップリング」(しなやかなつながり)にならないと実現は難しいでしょう。そのためには、例えばAIを使い、個人やコミュニティの単位の自律を実現し、かつ、全体を最適するためのつながりが必要です。

では、どんな単位でどう自律していくか。

こうしたことをABEJAにいる間、考え続けたいと思っています。


山本直樹(やまもと・なおき)
慶應義塾大学理工学部卒業、マサチューセッツ工科大学スローンスクール卒業。日立製作所を経て、A.T.カーニーでパートナーとしてハイテク、通信・メディア業界を中心に、成長戦略、国際提携戦略、R&D戦略、事業戦略、技術戦略などの支援を行う。2018年からABEJAに参画、企業のDXコンサルティングを担当。「技術」と「事業」の橋渡しが、一貫したテーマ。
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(2021年1月26日掲載「テクプレたちの日常 by ABEJA」より転載)

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