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AIコンサルが考えるデジタルトランスフォーメーションのかたち(2回目)

ABEJAで企業のAI導入支援にかかわる佐久間隆介が、コロナを受けてデジタルトランスフォーメーションやAIの導入について解説するメディア関係者向け勉強会の2回目です。

佐久間隆介(さくま・りゅうすけ)=1979年生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、アビームコンサルティング(当時デロイトトーマツコンサルティング)に入社。2014年より最年少執行役員。2019年よりABEJAに参画しグローバルビジネス展開、企業のDX支援・AI活用のプロジェクトマネジメントなどを担当。同年12月よりUse Case事業部長。


Withコロナで、価値の源泉を再整理してみる

佐久間:前回は「Beforeコロナ」すなわちCOVID-19の流行以前のデジタルトランスフォーメーションの背景を概説しました。今回は「Withコロナ」の文脈で何が変わったのかをみていきます。

「対面」から「非対面」。「密閉・集合」から「開放・非集合」。「アナログ」がより「デジタル」になるでしょう。「消費」よりは「貯蓄」の傾向ーーモノによってはオンラインでの消費が増える例外はありますが、ーーなどですね。

あるいは、「動く・移動」から「動かない・遠隔(室内)」に重点が移るかもしれないし「高い家賃を払って都市に住む意味あるんだっけ?」という問いも生まれて「バーチャル・地方」の価値が再認識されつつあります。

こうしたことを踏まえると、いわゆる「スケールメリットを通じた企業価値向上」、つまりリソースをひたすら増やしていく直線的な成長ではなく、より社会課題に焦点を当て、もしくは新たな価値を提供するなどの変革を起こし、多くの人が使えるサービスや製品を目指すことにより指数関数的な成長をもくろむ企業も増えるだろうと思っています。

モノやロボットによる作業が可能な領域もますます増え、対人サービスですらロボットが担うこともあります。その際に企業側に目を向けると、「Withコロナ」の時代、自分たちの価値の源泉を再整理してみると、どんな変化が起きうるでしょうか。

例えば飲食店の場合、売る行為を分解していくと、調理方法自体に価値があるのなら料理動画やテイクアウトをデリバリーすることもありえる。新鮮な素材が売りなら、素材販売をする、という考え方もあります。

アリババ社のような、マクロデータを含む情報を扱うプロダクトを持つ企業なら、新型コロナで感染がどれだけ拡大していくかの予測情報を提供することもできる。あるいは、地域別にデータを可視化し、現状ととるべき行動を情報提供する、という価値が出せます。

いくつかご紹介しましたが、Withコロナにおいても、付加価値を理解し、「付加価値の源泉が生まれているところ」・「自分たちの強み」というものをベースに時代に合わせてピボットする(軸足を起点に新しい場所へ踏み出す)点では、Beforeコロナとは大きく変わらないと言えます。


そもそもDXって何?

続いて、DX/AIを改めて正しく理解するために「DXってそもそも何だっけ?」というところを見つめ直したいと思っています。

DXを巡るよくある誤解として、DXというのはデジタル技術を導入することだ、ということがあります。我々のようなAIの提供者が各企業の方々と接していると、どこかでこうしたことが原因で食い違いが起きてくることがあります。「この技術を導入すること」「導入プロジェクトを完遂すること」が目的になってしまい、本来の目的が達成できずにいることが非常に多いと感じています。

当然ではありますが、技術を導入すればおのずと「Transformation」が起きるわけではないことを強調しておきます。何のためにやるのか、企業ごとにきちんと考えなければなりません。

先ほど話したような「企業価値の源泉」を理解した上で変革を実現するとはどういうことで、何が必要なのでしょうか。

導入する技術やソリューションを単に時系列ごとに並びたて、「20XX年までにこれを入れる」「2030年までにこうする」などの時間的な線を引くことも実行の上では必要ですが、それだけでは十分ではありません。

DXを再度整理すると、サイバー空間上に一部や全部の業務が移管され(図の下から上へ)、サイバー・フィジカル空間の間で情報がリンクし業務を遂行した結果、バリューチェーンが変貌しこれまでにない価値が生まれることや、サプライチェーンにおける効率化により圧倒的に時間・コストが圧縮されるなどのインパクトを生むことです。

皆さんに馴染みのある、サイバー空間上への業務移管の例を、いくつかあげます。

・事務業務がサイバー上の企業システムで自動化され、より効率的に処理される。
・商品の設計がサイバー上でシミュレートされ、設計〜製造が効率的に行われる。
・顧客との商談や取引状況がサイバー上で共有され、効果的な営業が可能になる。

そうなることで、業務の質が上がりヒトの業務負荷が軽減される。言ってみれば、質と量の向上にインパクトを与える可能性があるものだと思っています。

まとめると、これまでお客様に価値を届けるまでに必要だった「労力」や「時間」が、かなりセーブされる(破壊的サプライチェーン・インパクト)。あるいは一つひとつの業務、たとえば研究開発やアフターサポートの「価値」が上がっていく(破壊的バリューチェーン・インパクト)。絵的に表現すると、こうした横方向・縦方向での経営インパクトが生まれない限り、DXをする意味はないし、DXしたとは言えないと、ABEJAは考えています。

自動車メーカーの例を用いて、最近の技術・ソリューションをあげてお伝えするなら、こういった形=下図だと思っています。同様に下がフィジカルで、上がサイバーという絵で説明しています。

それぞれの実際の工程で、例えば、製造ならロボティクスで効率化するとか、物流や販売業務を支えるオフィスワークでは文書のペーパーレス化を実現し、アフターサービスならコールセンターで企業に蓄積されたノウハウを効率的に探しに行くことを可能にすることです。

企業でも大量のデータが蓄積されるような時代になりました。しかしその分サイバー空間上のデータを人が探しに行くのは大変になったので、代わりにAIが探す発想が出てくるようになります。

リソースの話でいうと、フルタイムの業務形態ではなく、実情に応じたパートタイム的な働き方をお願いすることもあり得ます。業務が逼迫する時には追加人員にサイバー空間で仕事をしてもらう態勢を作るなど、人件費を「変動費」化する業務もあるかもしれません。

こうしたかたちで最終的にコストを下げ、お客様に情報や価値を早く届けるようなことができるでしょう。

ここまでは横方向のサプライチェーン・インパクトの話をしました。
縦方向の話は簡単なイメージを挙げると、いわゆるMaaS※のプラットフォームが分かりやすい例ではないでしょうか。(注:スライドには記載しておりません)

※MaaS:「モビリティ・アズ・ア・サービス」の略。アプリを使って電車やバス、タクシー、レンタカー、シェアサイクルなど様々な交通網を組み合わせて最適な移動ルートを提案したり、ルート周辺の店の情報やイベント開催情報などを提供したりして「移動」そのものを一つのサービスの連なりとしてとらえる概念。

MaaSプラットフォームに参加して自動車を「サービス」として利用する人が増えてきました。そのサービスを提供することに止まらず、ビッグデータにより利用者のデータを蓄積し、MaaSプラットフォームの利用拡大に貢献する行動をした利用者には、ポイントを与えて連携業者のサービスを割安で提供できるクーポンを発行するーー例えばその自動化にAIを活用するーーといったこともでてくるでしょう。

そのような技術の組み合わせで、より多くの消費者(利用者)が新たな価値に気づき、参加が促されるプラットフォームを作ることで、提供サービスの価値を上げられる、すなわちバリューチェーン・インパクトが起きるという論調です。

従来のDXが、単に導入するだけ、導入する技術やソリューションの計画を立てるだけ、これで終わってしまってはまさに絵に描いた餅になってしまう。ではどうすればいいか。

重要なのが、継続的改善プロセスの一環として、「Digital Operation」(DO)という用語を我々は言い始めています。少し語呂合わせもあるんですけど、DX+DOですね。DOを足さないと真のDXではない、とお伝えするようになりました。


データを貯めるより捨てることが重要なときもある。

どういうことかというと、ソリューションを導入しても、経営環境や仕事の環境は日々変わっていきますから、新しいセンサ類を導入しても、環境が変わったら、さらにハイスペックなセンサに変えなくてはいけなくなってきます。

ビッグデータも、整理整頓せずに貯めるだけでは人やAIが使えません。極端に言うと、企業内の情報システムなどに様々なデータを持つ大企業にとっては、DXの成功にはデータを貯めることよりも捨てることが重要ではないでしょうか。なぜなら、ただデータがあっても分析に使えるデータや、AIに学習させるためのデータの形になっていないと、宝の持ち腐れです。そこで正規化、整理整頓の業務が必要になってくる。つまり、ものによっては思い切って捨てることも必要な訳です。

また、AIは時と共に勝手に賢くなってくれるわけではありません。センサ類の話と同様に、導入後の業務上の成果をAIにフィードバックして、AIをより賢くしていくようなプロセスを業務に組み込んでおく必要があります。

このあたりの業務設計をきちんとしておくことで、PDCAのサイクルも回るようになります。

日本の製造業はトヨタをはじめ、いわゆる「カイゼン活動」が非常に得意と言われていますが、実はデジタルの世界でのカイゼンも、日本企業は向いているのではないかと思います。

また、AIなどのテクノロジーを使って何をするかを考える、アイディエーションを専業にする人や、Digital Operationを支える業務、すなわちセンサ類を状況に合わせて取り換えていく作業、ビッグデータをきれいにする作業、そしてAIをより賢くしていくことを担う人も多く求められるようになるでしょう。

テクノロジーのリテラシーが少しでも身につけられれば、新しい仕事はたくさんあると思います。だから、Digital Operationにどんどん従事していくべきだと思います。

「AIによってヒトの仕事がなくなる」という指摘がありますが、かつてあった帳簿づけやパンチャーのような仕事が、パソコンにとってかわったのと同じ様相を呈してくると思います。「消えた仕事」がある一方、ITを導入したり運用したりする作業が生まれてくる。なんらかヒトが介在しないと、ITが業務上の成果を出すような方向に動いていかないものです。

AIの導入も、ただ改善して性能を良くするだけでなく、より人が幸せになるようなものではなくてはなりません。過去にニュースになったような、偏ったデータを使うことでAIが意図しないバイアスを生み出さないよう、データに潜む差別や偏見の要因を見極め、適切なものを選んで学習させるのも人の大事な仕事です。

テクノロジーは科学的関心、興味や楽をしたい気持ちなどを原動力にどんどん発達していきます。ですが、テクノロジー自体は、何が人間にとって幸せかについては考えることができません。

ABEJAでは、倫理委員会「Ethical Approach To AI」を2019年に立ち上げましたが、そうした企業単位の活動から、EUのAIの倫理委員会みたいな大きな組織まで、どういう方向に改善すれば人間は幸せになるのかを考え続ける仕事も必要でしょう。

こうした運用を通じ、AIなどのテクノロジーを使って何をするかを考える人たちが、性能向上だけでなく、人間の幸せというテーマに対して実際はどうなっているかのフィードバックもしながら「新しいテクノロジーを使ってこうしていこう」というコンセプトを運用に組み込んでいくことは大事です。テクノロジーを使ってはいるが、あくまでも人間の営みなのだと感じる部分です。

まとめると、サービスや製品の表層では自動化によってますます便利になり、人がいらなくなってくるのは確かです。ただ、その運用の下支えには人の操作が欠かせないのだと、私は人間の仕事の将来を結構楽観的にとらえています。


(③に続く)
連載①はこちら

(2020年7月31日掲載の「テクプレたちの日常 by ABEJA」より転載)

AIコンサルが考えるデジタルトランスフォーメーションのかたち(2回目)|テクプレたちの日常 by ABEJA|note
ABEJAで企業のAI導入支援にかかわる佐久間隆介が、コロナを受けてデジタルトランスフォーメーションやAIの導入について解説するメディア関係者向け勉強会の2回目です。 ...
https://note.com/abeja/n/n2378a7157b8b
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