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Wantedly Journal | 仕事でココロオドルってなんだろう?

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「劇団四季」が愛される理由は、舞台の持つメッセージとそれを伝えるクオリティ

文化の一極集中を是正、全国に演劇を届けたい ー 劇団四季(四季株式会社)の展開と挑戦とは

2016/09/12

日本が誇るエンタテインメント「劇団四季」(四季株式会社)。営業・広報宣伝担当専務取締役の越智幸紀さんにお話を伺っています。

前編▶「演劇で食べていく」憧れと好奇心が生んだ転職から 23 年。日本一のロングラン公演をつくりだす劇団四季の仕事とは

入社 23 年、劇団のテーマである “人生は素晴らしい。人生は生きるに値する” を常に体感しながら歩んできたという越智さん。その経験されたお仕事内容や役割は広く、多岐にわたります。

劇団四季の「新都市公演」

ー これまでのご経歴の中に「新都市担当」というものがありますが、どのような役割でしょうか?

「劇団四季の理念の一つに『演劇の市民社会への復権』があります。より多くの方に演劇の感動を提供することが四季の目指すところですが、それが東京だけに一極集中することは避けたい。劇団四季では創立初期より全国公演を行い各地に演劇を届けていましたが、ターニングポイントとなったのが、日本初のロングラン公演となった 1983 年の『キャッツ』。西新宿に仮設のキャッツ・シアターを建て、1 年間に及ぶロングラン公演を成功させました。同様の方式で各主要都市にてロングラン公演を実施。その成功が全国の四季専用劇場建設へと繋がりました。これにより、四季による全国展開がさらに発展していきました。」

「その後、2001 年に始まったのが『新都市公演』です。『新都市』とは四季専用劇場があるエリアの間、つまり九州と関西の間の “ 広島 ”、名古屋と東京の間の “ 静岡 ” 、東京と北海道の間の “ 仙台 ”などを指します。これまで、足を伸ばさなければご観劇いただけなかった各地の方々にも公演を楽しんでいただけるよう拡大をし、各地でのロングラン公演をはじめました。3 都市あわせれば、東京などの専用劇場の 1 年分の公演になるため、収支にも見合う興行の形をつくることができました」

文化の一極集中を排除したい、中間都市のお客様にも公演を届けたい。「四季ファン」の広がりは、まさに同社の熱い理念と心配りの結果とも言えそうです。


シアター・イン・シアターという技術の誕生

全国で公演をおこなう中で、劇団四季はさまざまな工夫を凝らしています。「シアター・イン・シアター」もそのひとつ。

「毎度、地域の公共劇場やホールに時間と荷重をかけて大がかりなセットを組むのは難しい。そこで生まれたのが劇場の中にもう一つの舞台設備を入れ込む『シアター・イン・シアター』という独自の方式です。2001 年『オペラ座の怪人』で新都市公演をスタートした際に導入したのが最初。この方式の開発により専用劇場の舞台からスケールダウンすることなく同等のクオリティを保って作品をお届けできるようになりました」

名前のとおり、「劇場の中にもう一つ劇場をつくる」というこの方式。装置を含めた舞台セットを別の場所で 1 度組み立て、それを小さなユニットに分割してから遠方の劇場に運び込みます。分割したユニットを再度組み立てれば完成。この工夫が、設営時間を大幅に抑え、専用劇場以外の劇場でも公演を可能にしたのです。

「そういった工夫で静岡・広島・仙台の3都市でも四季の大型演目の上演が可能になり、日本全国でご観劇いただけるお客様がグッと増えました。この公演が実現したことにより、わざわざ東京に足を運ばなくても大型作品をご覧いただける環境が少しずつ整ってきたのです。文化の一極集中を防ぎ、日本全国の皆さんが演劇に触れることができれば。それが私たちの目指す『演劇の市民社会への復権』ということなんです」


今治市に「こころの劇場」を

演劇を全国の方々に観てほしい、その実現のため四季が取り組んでいる施策は他にもさまざま。

「日本全国の小学校5、6年生を無料で公演に招待する『こころの劇場』も、その一環です。本年も多くの企業にお力添えいただきながら、全国 177 都市で、56 万人の児童を招待する全国公演が始まっています」

舞台を通じて、子どもたちに人生の尊さを語りかけたいという思いのもと、2008 年から続く「こころの劇場」。その中で越智さんにとって、とても印象深い出来事があったと言います。

「私は実家が愛媛県の今治市なのですが、四国では 4 県の県庁所在地に続く 5 番目の都市と言われており、四季としても『こころの劇場』として訪れようとしていました。市の教育長と話したところ『劇場がいくつかあるので、ぜひお願いします ! 』とのことだったので下見に向かったんです。ところが、1 つ目の劇場は舞台の構造上の理由で装置が入らず、2 つ目の劇場は高台にあり、劇場までの道が細く、とても 11 トンのトラックが入れそうにありませんでした。劇場が使えなくてはあきらめる他ありませんので、残念ながら断念してしまいました」

ところがその数カ月後、教育長から電話が。思わぬ知らせを受けたのだそうです。

「なんと、『市の補正予算で、高台の劇場までの道を拡張する工事をやることが決まりました。どうぞ来てください ! 』と言ってくださったんです。各地の子どもたちがミュージカルを観る機会というのは、本当に少ないものです。文化や教育というのは、大人が運ばなければ子どもたちに届きません。電話をいただいた時、市の予算を使って道を広げてでもその環境を整えようとしてくださった、そのお気持ちに心が震えてしまいました。より多くの人に演劇の感動を伝えたい、という気持ちが深くなりましたね」

感動のステージを届ける中で、反対にお客様に「胸を熱くさせられる」そんな瞬間が、越智さんの仕事にはたくさんあるのでした。


俳優と守る「四季」というブランド

ー 越智さんは普段、役者さんと接されることはありますか?

「はい、劇団四季では劇団員みんなでお客さまのもとへ PR に伺ったりすることがあります。テレビ出演や、時にはいっしょにチケットセールスに行くこともありますので、俳優との接点は業務上いろいろありますね」

「劇団四季」の俳優さんをひとことで表すと、「“真面目”です」と越智さん。

「劇団四季の俳優は真面目な人が本当に多いです。ダンスや歌のレッスンはもちろん、自分の肉体づくりを怠ることが許されない環境の中でトレーニングを継続しています。良い習慣を持って、アスリートのように取り組んでいて。真剣で演劇が好きな、舞台に真面目な人ばかりだと思います」

ー そういう俳優さんが集うのは、どうしてでしょう?

「『劇団四季に所属している』という自覚がとても強いからではないでしょうか。外から『四季』というブランドがどう見られているかを常に意識してくれていますし、そのブランドを『みんなで守っていこう』という思いが非常に強い劇団なのだと思います。ひいては、劇団として『お客さまをお招きし、楽しんでいただく』ことにどんな努力も厭わない。そのような意識を持ち日々取り組んでいるんでしょうね」

俳優と経営スタッフが一丸となってつくりあげてきた「劇団四季」というブランド。その一員であることの喜びと誇りが、ステージの高いクオリティにつながっているのでした。


すべてはメッセージとクオリティ

稽古場も併設されているこのオフィス。越智さんも、「総稽古」と呼ばれる演目の通し稽古はなるべく観るようにしているのだと言います。

「作品の仕上がりはもちろん、チケットセールスや宣伝の担当として、その作品が持っているメッセージがどのように表現されているかを中心に観ています。どのように伝わってくるのか、どのように感じるのか。自分で体感して見どころや魅力を伝えられるようにしています。舞台を通じて届くメッセージ、それがいちばん大事なものだと思いますので」

最後に、「劇団四季」がこれほど長く愛され続ける理由と、越智さんご自身が愛し続ける理由を伺ってみました。

「舞台のメッセージとクオリティではないでしょうか。作品の持つメッセージが、観る人の心を動かし、『明日も頑張ろう!』と自分を奮い立たせる、演劇にはそういう効果・効能があるんだと思います。もちろん、それを最も良い形でお届けするために日々のトレーニングで鍛え上げられた俳優がいて、彼らが一流のパフォーマンスを魅せることが、さらなる感動につながっているのだと思います。その結果、劇場での鳴り止まない拍手、スタンディングオベーション、ショーストップを頂くことができるのではないでしょうか。そしてその光景を見てしまうと、『やはりこの仕事を選んで本当に良かった』と私も心から思います。もちろん、仕事ですから楽しいことばかりではありませんが、それにも増して得られる感動や胸を熱くさせられる出来事に助けられながら日々の業務に取り組んでいるわけです」

“人生は素晴らしい。人生は生きるに値する” 。舞台にも、四季で働くみなさんの日常にも通ずる、力強く深い言葉です。大胆な取り組みと真面目な姿勢で、人の心を掴み続ける「劇団四季」には、それを必ずや伝えたい・届けたい、という熱い思いが溢れていました。

Interviewee Profiles

越智 幸紀
1967年9月28日生まれ。愛媛県出身。 1990年上智大学・経済学部 経営学科卒業後、1993年四季株式会社に入団。 2008年取締役 東京公演本部部長就任。現在は専務取締役として営業部・広報宣伝部の管理業務を担当。

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