今回お話を聞いたのは、出版社、制作会社を経て、現在STORES.jp のサービスデザイナーとして働く河原香奈子さん。
STORES.jp は、最短2分で、驚くほど簡単にオンラインストアがつくれるWebサービス。株式会社ブラケット(以下、ブラケット)が運営しています。
ショップのデザインを日々アップデートしたり、必要な機能をつけたり、複雑になりがちなオンラインストアをシンプルに使いやすくし、STORES.jp の世界感をつくるのが香奈子さんの仕事。
今では、リードデザイナーとして活躍しているけれども、入社当初は、サービスデザインのことをよくわからないまま飛び込んできたそう。
そんな彼女に、これまでどんな仕事をしてきたのか、そして、今デザインとどう向き合っているのかお話をうかがいました。
東京・渋谷。アップルストアとPARCOの並ぶ通りを抜け、白いビルの2階へ。ガラス張りで洗練された雰囲気と、渋谷のポップなカルチャーの混じったオフィスに到着。
昨日リニューアルが終わったばかりで、「正直ちょっと眠いです」と笑いながら、香奈子さんが迎えてくれました。
自分に足りないところを伸ばしてきた
香奈子さんがデザインに興味をもったきっかけはなんですか?
「ものづくりや、つくることを仕事にしていきたいっていう思いが小さいころからあって、高校は、美術科がある学校に入りました。それで、美大に入学して、情報デザインという学科で、インターネットやメディアデザインを学んで。在学中にWebデザインやデジタルコンテンツに興味をもつようになりました。」
卒業後は、小さな出版社の中にある、自社のWebマガジンを担当していたそうですね。
「まわりは編集者の方たちで、デザイナーはわたし一人でした。インハウスの仕事を一人でまわすのは、いい機会だったのですが、新卒からずっと制作会社に入ってがんばってる同級生をみると、自分には足りないものがあるなって。わたしももっといろんな案件に関わって、制作力を上げたいと思うようになったんです。」
制作スキルを伸ばしたいと思い、多様な案件やデザイナーの多い制作会社へ転職をしたんですね。
「そうですね、3年間働いたのですが、すごく勉強になりました。企画から納品までの流れもわかりましたし、案件によって、求められるデザインも違います。いろんなタイプのアウトプットをつくれたことはかなり力になったと思います。入社前に思い描いた通りの仕事ができました。」
自社サービスを運営している会社で働こうと思ったきっかけはなにかあるのですか。
「受託の仕事を続ける中で、自社サービスも手伝う機会があったんです。それをきっかけに『サービス自体をデザインする面白さ』を感じるようになりました。」
事業自体が好きになれそうなところを、という軸で探して、ブラケットに応募をしたんですね。
「もとから、ブラケットが運営しているSTORES.jp のことは知っていたのですが、たまたまWantedlyをみているときにみつけて、興味を持って「話を聞きに行きたい」ボタンを、うっかり押しちゃいました。そしたら10分くらいですぐに返事がきて。」
早いですね。Wantedlyは自分のプロフィールを書く機能があるのですが、書いてありましたか?
「はい、自分のこれまで関わっていた作品や職務履歴などはある程度載せていました。」
たくさんWebサービスの会社がある中で、STORES.jp を選んだのですね。
「純粋に、サービスがいいなって思ってたんです。STORES.jp はローンチされたときから注目していて。簡単にオンラインショップがつくれる仕組みにびっくりしてたんです。すごいな、どんな人たちが作ってるんだろうって。それで、けっこう気軽な気持ちで話を聞きにいってみました。」
すべてはよりよいサービスをつくるのため
その後順調に選考が進み、STORES.jpがローンチされて半年後くらいに入社したんですね。
「入社した当初はデザイナーがわたししかいなかったんです。だから、入社後しばらくは目の前のことを精一杯やってました。」
香奈子さんが入社した2013年当初は、7名程だったというブラケットも、この2年で30名程へ。今まで少人数の会社にいたので、このスピード感には驚いたそう。
「入社当時は自分だけでしたが、今ではデザイナーも増え、チームの方向性を考えるような仕事をすることもあります。日々、試行錯誤です。」
デザイン以外の仕事がいやだったら違う環境に移ることもできたと思います。
「なんだろう、いいサービスをつくるためには、つくる人同士がいい関係を築くことが必要なのかなって。わたしは、ただ、本当にいいサービスがつくりたい。それの手段として、デザインに直接関わらない仕事だとしても必要があったら、やるっていう感じですよね。そういことも含めて『デザイン』だと思っています。」
よりよいサービスをつくるということが、香奈子さんにとってすごく重要なんですね。
「そうです、そうです。全部それのためです。」
クライアントから依頼を受けてつくる仕事をしてから、自社サービスの会社へ。デザインの考え方などで変わった部分はありますか?
「以前は、自分がいて、エンドユーザーさんがいて、その間にクライアントさんがいるという構造でした。クライアントさんがいらっしゃると、どうしてもエンドユーザーの方を向ききれないときがあって。依頼がくるから、つくる、もちろん提案はするけど、なんだろう。どこか自分が依頼を受けてつくったものが、誰のためにつくっているのか、想像しきれないところがあったんです。」
「でも今は、自分がつくったものを、すぐにユーザーさんが使ってくれる。うちは、ユーザーさんと会うイベントとかを数多くやっているので、直接感想を聞くこともできます。」
自分たちのつくったのもをダイレクトにフィードバックしてもらえる環境なんですね。
「『STORES.jpっいうサービスがあったから、自分のお店をもつことができました』とか、『自分が動きだすきっかけになった』っていう声を聞くと嬉しいですね。ちゃんとユーザーさんの生活ににつながってる感じがします。」
デザイナーだからこそできることを
自分がいいなと思うサービスをデザインして、それが人の生活を変えていくような。デザインをする上で、日々こころがけていることはありますか?
「具体的なものをつくるってことはすごく大事にしています。デザイナーっていう立場だからこそ、自分ができることってなんだろうなっていうことはよく考えていて。」
「例えば、こういうのやってみたいねっていう話をするのって簡単なんですけど、みんながみんな同じイメージを持ってるわけじゃない。それを具体的に目に見える形でつくれるのって、デザイナーですよね。なので、こういうのやってみたいって話がでたら、すぐにつくって見せることはよくしてます。わたしは、頼まれてないことをやる係ですね。(笑)」
即興でつくって、それが実際にサービスに取り入れられることってあるんですか。
「そういうのものが多いでですね。ものすごい考えて考えてつくるっていう方が少ないかもしれない。まずつくっちゃって、みんなに意見もらったりとか、新しい機能なども一旦外に出してみて、ユーザーの反応をみながら変えていってます。」
「とはいえ、一番こだわっているのは、なによりアウトプットで。こういう体験をしてほしい、簡単にものが売れて嬉しいっていう気持ちになってもらいたいって思ったら、アウトプット自体をよくしないと届けられない。いくら体験してほしいっていう思いが強くても、つかったり、触れたりする形が適してなかったら届かないと思うんです。なので、直接みて、直接触れる部分にたいしてはものすごくこだわってます。『体験はものに集約される』と思っているので。」
デザインの力でサービスを広めていきたい
アウトプットを徹底的にこだわりつくることで、STORES.jp として届けたい体験を届けられる。これから、サービスデザイナーとして目指していることはありますか?
「デザインの力でサービスを成功させたいです。Appleって、デザインで成功してますよね。そういう風に断言できる仕事をしてみたいっていうのはあります。サービスが大きくなって欲しいのは山々なんですけど、それをできれば、デザインの力でやりたい。」
自分で伸ばしたいことを自覚して、技術や経験を積み、デザインの力をつけてきた香奈子さん。キャリアを積んでいく上で、どんなことを考えてきたのだろう。
「例えば、制作会社で働こうと思ったのって、単純に制作力がたりないと思ったからなんですよ。自分に足りないものがあるなと思ったから。当たり前になっちゃいますけど、伸ばしたいことがちゃんとできるところにいったんです。」
「あとは、足りないから勉強してから入ろうとかよりも、入っちゃったほうが早いんじゃなかなって思います。ブラケット入社当時を振り返ると、サービスをデザインするっていう意味を、全然、理解してなかった。だから、まず興味があるところに、身を置いてみることも大事だと思います。」