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登山者の命を守るYAMAP「みまもり機能」が生まれるまで|開発者&代表春山対談

登山中の位置情報を "家族" や "友人" に知らせることができるYAMAPの「みまもり機能」。遭難者の最終位置情報や軌跡が捜査の手がかりになるとして、実際の山岳遭難救助の現場でも活用されているこの機能が、いかにして生まれたのか。開発者の森脇とYAMAP代表の春山が、開発の経緯について語ります。

目次
▶ 登山者の命を守る、YAMAPの「みまもり機能」
▶ 「捜査の手がかりになるデータ提供を」ユーザーの声に突き動かされた
▶ リリース直前で、代表からまさかのダメ出し
▶ 「YAMAPを使って登山すると安心」という空気感を浸透させたい
▶ メールでもLINEでも。「みまもり機能」の選べる通知方法

登山者の命を守る、YAMAPの「みまもり機能」

登山に安全と安心感をもたらしてくれる、YAMAPの「みまもり機能」。実際の遭難救助でも活用をされており、命を救う機能として評価されているこの機能ですが、なぜこの機能をつくることになったのかはあまり知られていません。みまもり機能開発者の森脇とYAMAP代表の春山が、開発の経緯について語りました。

みまもり機能とは登山中の位置情報を、家族や友人に知らせることができるYAMAPの機能。電波が届かない場所の位置情報も、YAMAPユーザー同士のすれ違い通信を活用することで家族や友人に共有することができます。遭難者の最終位置情報や軌跡が捜査の手がかりになるとして、実際の山岳遭難救助の現場でも活用されている、登山者の命を救う機能です。

「捜査の手がかりになるデータ提供を」ユーザーの声に突き動かされた

ーーみまもり機能が生まれたきっかけを教えてください。

春山:みまもり機能に繋がる出来事は、2014年に遡ります。その年、香港でデモ(雨傘革命)が起きました。そのとき、デモ参加者の間で連絡手段として使われていたのが、インターネットを介さずBluetoothでメッセージをやりとりするチャットアプリ(ファイヤーチャット)だったんです。

ファイヤーチャットのような仕組みで、電波が届かない山の中で位置情報を共有したり、メッセージの交換ができれば、山の遭難対策としてインパクトを出せるのでは…と感じました。


当時、YAMAPアプリのダウンロード数はまだ30万件くらいでしたが、将来のユーザー規模を見据え、実証実験的にBluetoothを使った機能を入れました。それが「こんにちは通信」です。(当時は、ユーザー同士がすれ違うと通知が来るという仕組み)

ただ、こんにちは通信は機能としてあるだけで、うまい使い方ができていませんでした。交流に意識が向きすぎていて、YAMAPの本丸である安心・安全の要素がカバーされていなかった。そんなこんにちは通信を、森脇さんがみまもり機能への活用に昇華させてくれました。

ーー森脇さんは、この経緯を知っていたんですか?

森脇:いえ、知らなかったです。ただ、こんにちは通信は中途半端な機能だと思ってました。

春山:笑

森脇:私がみまもり機能の着想を得たのは、2018年の6月くらい。YAMAPを使っているユーザーさんから、会社宛に電話で「知り合いが山で遭難してしまった。捜索の手がかりになる情報がYAMAPにあがっていないか」といった相談を、立て続けに受けたんです。当時のYAMAPの機能には、活動中に位置情報を家族や友人に知らせる機能がなかったので、そのときは無力感を覚えました。

だからこそ、「活動中に位置情報を共有する機能があればいいな」と思いましたし、こんにちは通信を上手く使えば、電波が届かない場所の位置情報も共有できるかもしれないことに気づきました。これらの機能で命が助かる人もいるはずだと、確信に近い手応えがあったのを覚えています。

春山:それは、森脇さんが「自分で使いたいから」という思いの延長での確信でしょうか?

森脇:そうですね。まず、私の家族、妻や子どもを思い描きました。私が山に行っている間、妻と子どもへ自分の現在地を知らせることができれば安心だと感じましたし、もし私が遭難しても何かしら痕跡を残すことができる。自分の中で、具体的な活用イメージが持てたのは大きかったです。

春山:今の森脇さんのエピソードですごく頼もしいのは、カスタマーサポートメンバーの会話を横で聞きながら、エンジニアである森脇さんが、自分ごとにしている点です。一緒に仕事をする仲間として、とても心強いです。


ユーザーさんから直に声をいただけるのは、本来、幸せなこと。惰性で行わず、ユーザーさんの声をプロダクトに活かすためには、私を含めYAMAPで仕事をする一人ひとりの感受性と意志によるところが大きい。

森脇:春山さんも言うように、みまもり機能開発のきっかけとなる電話は、私が取ったものではありませんでした。でも、一緒に同じ時間、同じ場所で仕事をしていると、そういうユーザーさんからの情報が自然と入ってくる。もし、部署や役割ごとに情報が遮断されていたら、この機能は生まれなかったかもしれないです。

これは、YAMAPの良いところだと思います。ユーザーさんの声が聞こえるし、その後の情報も共有される。ユーザーさんの存在が視えるから「自分に何かできるんじゃないか」「何かしないといけないんじゃないか」と、使命感が生まれていると思います。

リリース直前で、代表からまさかのダメ出し

森脇:この機能を形にしようと思い、昨年の社内アルプス登山で実証実験をしました。実際にアルプスでプロトタイプを使ってみた結果、電波のないエリアでもイメージ通りに動いてくれました。


ーープロジェクトを進める上で、苦労はありましたか?

森脇:当初予定していた6月半ばのリリース前日までは、ほとんど問題がありませんでした。

ーーリリース前日までは。。。

森脇:リリース前日に、春山さんに「この状態ではリリースできない」と言われたんです。そこから大変でした。

ーー笑


森脇:チームでリリースしようとしていたものが、世の中に圧倒的なインパクトを出せるレベルに達していなかったのだと、今になっては思います。

春山:みまもり機能は、登山の安全をアップグレードする、画期的な機能だという感触があったんです。なので、中途半端な形ではリリースしたくありませんでした。

技術や機能は、伝え方によって捉えられ方が変わります。ユーザーさんへの伝え方・分かりやすさまで含めて機能開発だと、私は思っています。森脇さんをはじめ開発に携わったメンバーには申し訳なかったけれど、ベストな状態でのリリースを目指し、仕切り直しを決断しました。

森脇:おかげで、ここ数年で一番忙しかったです(笑) ですが、ネガティブな意味での苦労はなく、燃えながらやることができました。大変だけれど、楽しかったです。

春山:良かったのは、仕切り直し後も、メンバー間で生産的な議論をしながら最善を目指して進められたこと。YAMAPは強い組織だと改めて感じました。その背景には、「YAMAPの機能を高め、登山の安心・安全に貢献するんだ」という純粋な思いが、メンバーそれぞれにあったからだと思います。

「YAMAPを使って登山すると安心」という空気感を浸透させたい

ーーこの機能について、森脇さんはどういう思いがありますか?

森脇:私は家族を安心させたいという思いが何よりの軸でした。「登山中でも大切な人と繋がっていて安心」という感覚を具現化できたことが素直に嬉しいです。「YAMAPを使って登山すると安心だよね」と思ってもらえるような空気感をみまもり機能でつくれたらと思います。

とはいえ、この機能は始まったばかり。使われないと意味がないので、これから、いかに浸透させていくかが次のチャレンジですね。

※その後、登山者の位置情報をLINEアプリでお知らせする「みまもり機能 LINE通知」が実装されました。

みまもり機能 LINE通知とは?
登山者の位置情報を「LINEアプリ」でお知らせする機能。LINEという身近な通知手段を採用することで、”通知の見逃し” を防ぎます。家で待つ家族の安心につながるだけでなく、万が一、遭難してしまったときの捜索の手がかりにもなり、遭難救助に役立ちます。(※みまもり機能 LINE通知は、YAMAPプレミアムへの加入でご利用が可能です。)

春山:プロダクトやサービスの芯は、一人の人間の熱狂によってつくられると思っています。そうやってつくられたプロダクトは、大切な人の心に届く。一人の心に届くからこそ、みんなの心にも届く。

儲かりそうだからとか、幻想のユーザー像をイメージして大衆向けにプロダクトをつくっても、一人の心には届かない。結果、誰も使わないサービスになってしまう…。

みまもり機能は、森脇さんの個人的な思いと、YAMAPのユーザー数がマッチして実現した奇跡的な機能です。会社の同僚として、いちYAMAPユーザーとして、みまもり機能を実現してくれたメンバーみんなに心から感謝しています。

ーー春山さんは、みまもり機能をどう捉えていますか?

春山:みまもり機能の誕生によって、YAMAPの安全性はバージョンアップしました。それまでのYAMAPは、オフラインであっても、登山中の現在地を本人が把握できるだけでした。今後はその機能に加えて、オンラインであれば自分の位置情報を家族や友人に伝えることができるようになり、YAMAPユーザー同士が山ですれ違えば、オフラインの位置情報も共有できるようになりました。山の安心・安全も次の段階へと進むでしょう。実際に遭難救助に携わる現場の方からも、みまもり機能へ大きな期待を寄せていただいています。

※その後、実際に遭難救助の現場でみまもり機能が活躍しています。

みまもり機能の遭難救助サポート実績 一例
奈良県・稲村ケ岳 遭難救助の記録|「できるから、やっただけ。」登山者、岩崎哲裕さんの献身
鳥取・大山 遭難事故の記録|突然の吹雪・ホワイトアウトに見舞われた登山者を救った話

春山:圧倒的な自然を前にすると、人間の小ささや無力さを、いい意味で実感できます。だからこそ、山では人と人が助け合う「共助の文化」が育ち、現代にまで受け継がれている。登山に根づく「共助の文化」の一端がデジタルシフトしたひとつの例が、みまもり機能です。みまもり機能の有効性や安心感をユーザーさんへお伝えし、もっと多くの方々に使っていただきたいですね。

ーー最後に、森脇さんにお聞きしたいです。奥さんにこの機能をリリースして、なんて言われましたか?

森脇:「あんたすごいじゃん」と言われました(笑)

春山:笑

メールでもLINEでも。「みまもり機能」の選べる通知方法

みまもり機能はYAMAPをダウンロードすれば、誰でも無料でお使いいただけます。設定は、ご家族やご友人のメールアドレスを通知先として登録するだけ。登山中のあなたの位置情報を、ご指定のアドレス宛にメールでお知らせします。

さらにYAMAPプレミアムに加入すると、登山者の位置情報をLINEアプリでお知らせする「みまもり機能 LINE通知」を使うことができます。LINEという身近な通知手段を採用することで、”通知の見逃し” を防止。家で待つ家族の安心につながるだけでなく、万が一、遭難してしまったときの捜索の手がかりにもなり、遭難救助に役立ちます。

(※ この記事は 2021年2月26日 に YAMAP MAGAZINE に投稿した記事を元に編集した記事です。)

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