プロダクトのライティングにおけるボイス&トーンの作り方 〜トーン編〜
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Wantedlyでプロダクトデザイナーをしているkanon( X, Wantedly Prf )です。普段はWantedlyのプロダクトグロースチームにて、日々UI/UXデザイン改善に取り組んでいます。
以前、ボイス&トーンの「ボイス」の作り方をご紹介しました。ボイス編では、ブランドの一貫した人格・キャラクターである「声」をどのように定義するかを解説しています。
まだお読みでない方は、ぜひ先に『プロダクトのライティングにおけるボイス&トーンの作り方 〜ボイス編〜』をご覧ください。
今回の記事では、ボイス&トーンの「トーン」の作り方にフィーチャーしてご紹介します。
ボイスとトーンの違い
ボイスとトーンの違いを簡単におさらいします。
- ボイス(声):ブランドの一貫した人格・キャラクター。どのような状況でも変わらない軸。
- トーン(口調):状況や受け手に応じて調整される伝え方。同じ声でも、場面によって話し方は変わる。
WantedlyのProduct Voiceは知的・誠実・親しみやすさ・情熱の4つの要素に根ざしています。Product Voiceを通じて、私たちは、「誰もが理解しやすいシンプルな言葉で話しかけ、いざという時は先導して前向きな気持ちにさせてくれる。そんな、頼りになる先輩のような存在」であり続けたいと考えています。
では、その「先輩」は、状況に応じてどのように語りかけるべきなのか。それを定めるのがProduct Toneです。
トーンの設計アプローチ
ボイスを定義した後、私たちはトーンの設計に取り掛かりました。ここでは、そのアプローチをご紹介します。
ユーザー体験を起点に考える
トーンを設計するにあたって、私たちが最も重視したのはユーザー体験を起点に考えることです。具体的には、以下の3つの問いを軸にしました。
- ユーザーはどういう状況に置かれているのか
- ユーザーは何を期待しているのか
- プロダクトとして、ユーザーにどういう状態になって欲しいのか
例えば、初めてWantedlyに登録するユーザーは、まだプロダクトへの信頼が十分ではありません。一方、日常的にプロダクトを使い込んでいるパワーユーザーは、スムーズに操作を完了することを求めています。それぞれの状況に応じて、最適な口調は異なります。
現状のライティングからトーンの切り口を探る
まず、プロダクト上の現状のライティングを収集し、ボイスで定義した4つの要素(知的・誠実・親しみやすさ・情熱)が十分に反映されていない事例を洗い出しました。
具体的には、新規登録からプロフィール充実までのフローに絞り、ライティングのBefore/After案を各メンバーが作成しました。それぞれのBefore/After案を比較しながら、「このシーンではどのようなトーンが最適か?」という論点を一つひとつ整理していきました。
他社事例のリサーチ
国内でのボイス&トーンの事例はまだ少ないため、海外の事例を積極的にリサーチしました。特に参考になったのは、AtlassianやShopifyのトーンガイドラインです。
Atlassianは「信頼を築くために情報を提供する」「行動を促す力を与える」「可能性を示してやる気を引き出す」など、ユーザーの感情や行動に紐づいた原則を設けています。Shopifyは「日常のタスクと活動」「重大な問題とエラー」「学習と教育」など、ユーザーが置かれるシーンごとに原則を整理しています。
これらを参考にしつつ、Wantedlyのプロダクトに合った切り口を模索しました。
トーンレバーの検討
設計の過程では、「トーンレバー」の導入も検討しました。トーンレバーとは、ボイスの各要素(知的・親しみやすさ・誠実・情熱)の強弱を、シーンごとにスライダーのように調整する考え方です。
例えば、新規登録のシーンでは「親しみやすさ」と「誠実」を高めに、プロフィール作成を促すシーンでは「情熱」を高めに、といった具合です。
チームメンバーと相談した結果、今回私たちはトーンレバーという形式ではなく、ユーザーの状況とプロダクトが目指す状態を軸にした5つのトーン原則としてまとめることにしました。トーンレバーのように柔軟性を持たせてしまうと、結局判断に悩んでしまうことが多いと考えたためです。
5つのトーン原則
Product Voiceが変わらない軸であるのに対し、Product Toneは適切な口調を選び取るための指針です。ユーザーが新しい挑戦に不安を感じるときには背中を押す言葉を、スムーズな操作が求められる場面では簡潔な言葉を選ぶなど、状況に応じた口調を表現します。
以下に、私たちが定義した5つのトーン原則をご紹介します。各原則は「目指す状態」「ユーザーセグメント例」「シーン例」「OK/NG例」(本記事では省略)のセットで構成しています。
1. 信頼性を築く
- 目指す状態:ユーザーがプロダクトを信頼し、安心した気持ちで使える状態
- ユーザーセグメント例:新規ユーザー
- シーン例:新規登録、オンボーディング
ユーザーがブランドやプロダクトを信頼できるよう、親しみと丁寧さを感じられる口調で語りかけます。実際の人間が話しているかのような会話体で記述します。
2. 行動のためのモチベーションを高める
- 目指す状態:ユーザーが行動を起こす価値を認識できる状態
- ユーザーセグメント例:新規ユーザー、ライトユーザー、パワーユーザー
- シーン例:プロフィール作成、ストーリー作成、応募、スカウト返信
ユーザーの気持ちをワクワクさせることで、実行を促します。押し付けがましい表現ではなく、前向きな気持ちを引き出すような言葉を選びます。
3. 学習をサポートする
- 目指す状態:ユーザーがプロダクトの機能を十分に理解し、使いこなせるようになる状態
- ユーザーセグメント例:新規ユーザー、ライトユーザー
- シーン例:オンボーディング、新規機能の理解、エンプティステート
プロダクトを直感的に操作できる状態が望ましいですが、ユーザーの利用レベルや、今までにない新しい概念の機能をリリースする際には、学習のための説明が必要になることがあります。プロダクトの仕様を詳細に説明する必要はありません。ユーザーのメンタルモデルにできるだけ合わせ、知的なライティングを心がけます。
4. 日常的に行うタスクをフォローする
- 目指す状態:ユーザーがタスクをより簡単に・素早く完了できる状態
- ユーザーセグメント例:パワーユーザー
- シーン例:募集閲覧、ストーリー閲覧、会社閲覧、プロフィール閲覧
十分な動機・きっかけを得たユーザーが、プロダクト上で一連のプロセスを開始したら、感情に訴える表現より、ユーザビリティの高い表現が重要となります。ユーザーのエネルギーと時間は有限です。最小限の努力でタスクが完了できるよう、実効性が伴い・分かりやすく・正確で・シンプルな言葉を使います。
5. 問題やエラーに真摯に向き合う
- 目指す状態:ユーザーがネガティブな問題に直面した際に、信頼を取り戻し、引き続き安心して利用できる状態
- ユーザーセグメント例:新規ユーザー、ライトユーザー、パワーユーザー
- シーン例:エラー、解約
ユーザーがプロダクトに対するネガティブな問題に直面したときは、ユーザーの気持ちに寄り添いながら、まずはその問題を解決することを最優先とします。ユーザーがエラーに直面したときは、誠実に状況を説明し、解決策を示します。専門的な言葉は避け、簡潔かつ分かりやすい言葉で伝えます。
トーンを作る上でのポイント・学び
ここまで、5つのトーン原則をご紹介しました。トーンを作っていく中で得たポイントや学びを共有します。
ボイスを先に定義する重要性
トーンの設計において最も大きかったのは、先にボイスを定義していたことです。ボイスという揺るがない軸があることで、「Wantedlyらしい語りかけとは何か?」という問いに立ち返ることができました。もしボイスが曖昧なままトーンを作ろうとしていたら、シーンごとに判断がぶれ、結果として一貫性のないライティングになっていたと思います。
ユーザー体験を起点にすること
トーンの「切り口」をどのように設定するかは、大きな論点でした。最終的に、ユーザーがプロダクト上で経験するシーンを起点に整理することで、実際のライティング場面で「今、ユーザーはどの状態にいるか?」を考えれば適切なトーンを選べる、という実用的な指針にすることができました。
チームでの継続的なレビュー
私たちは3名のチームで、週次のPlanning & Reviewを継続的に行いました。トーンの草案を各自で作成し、毎週のレビューで議論を重ねることで、個人の感覚に偏らない、チームとしての合意に基づいたトーンを作り上げることができました。
海外事例の活用
国内でのボイス&トーンに関する事例がまだ少ない中、海外のトーンガイドラインは非常に参考になりました。私たちが参考にした事例を、簡単に紹介します。
- Atlassian:https://atlassian.design/foundations/content/voice-tone/
- Shopify:https://polaris-react.shopify.com/content/fundamentals
- Adobe:https://spectrum.adobe.com/page/voice-and-tone/
- Base:https://base.uber.com/6d2425e9f/p/136623-product-tone
- mailchimp:https://styleguide.mailchimp.com/voice-and-tone/
- Monzo:https://monzo.com/tone-of-voice
トーンの先にあるもの
ボイスやトーンを定めたことで、Wantedlyらしいことばの共通認識が生まれました。
しかし、実際にUIに使うライティングを考える場面では、「このボタンでは何と表記すべきか」「この用語は漢字かひらがなどちらか」といった具体的な問いが残ります。これらの問いに答えられるようにするため、UIコンポーネントごとのガイドラインや、表記ルール、用語の取り扱いについて策定を行いました。また、それらを社内の勉強会で発表することで、Wantedlyにおけるプロダクトライティングの考え方が、プロダクトの作り手全体に広がるよう、発信活動も行いました。
- UIテキストガイドラインの構築:ボタン、モーダル、エラー、エンプティステート、プレースホルダー、コーチマーク、ツールチップ、トーストなど、UIコンポーネントごとのライティングガイドラインを整備。
- 正しい言葉遣いをするためのルールを策定:「一文一意を心がける」や、「会話体で書く」、「助詞を正しく使う」などの表記ルールと、用語ごとの正しい意味と正誤表をまとめた用事用語集を作成。
- 社内周知と浸透:社内の知見共有会を通じて、デザイナーだけでなくエンジニアやPMにもボイス&トーンの考え方を共有。
- AIを活用したライティング支援:Voice & Toneや用語集を読み込ませたGemを作成・配布し、誰でも手軽にボイス&トーンに沿ったライティングを行える環境を整備。
最後に
今回はボイス&トーンの「トーン」について、設計のアプローチと5つの原則をご紹介しました。
トーンとは、ユーザーの状況に寄り添い、最適な口調を選び取るための指針です。5つの原則を設けることで、誰がライティングを担当しても、ブランドらしい一貫したUXライティングを実現できるようになりました。
ボイス編に引き続き、この発信がボイス&トーンやUXライティングに取り組む方々の一助になれば幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました!