VR内覧システム『ROOV(ルーブ)https://roov.jp/』の構想期から開発に携わってきた、スタイルポートのプロダクトマネージャー 吉田 巧。スタイルポートにジョインする際、「海外で働きたいから、すぐ辞めるかもしれない」と正直に伝えたといいます。参画から5〜6年が経過した今、それでもスタイルポートにいる理由と、この仕事のおもしろさについて、じっくり話を聞きました。
プロダクトをどう育てるか。ともに模索する過程におもしろさを感じた
——はじめに、スタイルポートに入社したきっかけや、社内でどんなキャリアを築いてきたのか聞かせてください。
現在の代表取締役の間所さんと取締役の中條さんが、スタイルポートの構想を話し合っている2016年頃、僕は札幌の小さな会社でデザイナー兼エンジニアとして働いていました。この会社と中條さんにつながりがあったんです。
僕が働いていた会社に、中條さんから「インターネットと不動産系を掛け合わせたサービスを考えている」と話を持ちかけられ、僕がそのプロジェクトにアサインされました。
2017年にスタイルポートが本格的にこのサービスに取り組むことになってからも関わっていたんですが、スタイルポート側から「うちの社員にならないか」とお誘いいただき、入社した形です。
スタイルポートにはプロダクトマネージャーとして参画しましたが、当初はデザインも、ユーザーが触れるフロントエンドの実装も、ほかのエンジニアさんと一緒に作ってきました。入社2〜3年後にはプレイヤーとしてでなく、マネジメントの仕事により深く関わるようになったという流れです。
実はスタイルポートに入社するとき、「すぐ辞める可能性がある」と伝えていました。僕は以前海外で働いていたんですが、いずれまた海外に出て働きたい思いがあったので、チャンスがあればと考えていたんです。
でも5年経つ今もスタイルポートにいるのは、「ここまでやりきった」という自分の中の閾値を超えていないからですね。
——「すぐ辞める可能性がある」と言いつつ、5年が経過しました。吉田さんがスタイルポートに感じているおもしろさは何でしょうか?
僕が仕事を選ぶ基準は、「おもしろいと言えるかどうか」です。会社が新しいことをやろうとしていて、そこに自分も関われるのか。自分が新しいことを提案したときに、それをやらせてもらえるか。
もう1つ、裁量や責務として、自分がどれだけ意思決定に関われるか。スタイルポートは、社長や中條さんもプロダクトをどう育てていくか、はじめから明確なプランがあったわけではありませんでした。
だから、「こういうことをしたら受けるんじゃないか」といったことをお互いに意見交換し合って、技術的にできることを都度ぶつけて、という「一緒に模索するサイクル」があって、それが楽しくて。
——実際の仕事内容について教えてください。
現在は2023年2月に予定している『ROOV』の大型アップデートに向けて、ラストスパートの調整中です。大きな機能は変わりませんが、画質が大幅にアップするのと、使い勝手や見た目などが全体的に洗練されます。
これに伴い、今まで使用していた自社開発のエンジンの見直しを行いました。今回新しく作り直したエンジンは、オープンソースを使っています。とはいえ、プリミティブな機能を便利にまとめて提供しているだけのライブラリなので、それを活かすには相当な技術力が問われます。
技術力も組織としてもコミットが問われるレベルで取り組んでいるので、バーチャル内覧するためのエンジンであるという見方をしたときには、やはりエンジンも含めて相当な自社システムを作っていると言えるのではないでしょうか。
心理的安全性を担保し、各メンバーの成長に必要なチャレンジ機会を提供
——リモートワークでチームをマネジメントするうえで、気をつけていることを教えてください。
エンジニアチームは正社員が7名で、業務委託の方を含めると全部で15名ほどですが、「レスポンスが見えない」のはリモートワークの難しさかもしれません。
情報の共有の仕方がプッシュ型だと、例えばみんなが朝会なりで集まって、伝達事項を伝えるとします。オンライン・オフライン問わず相手の顔が見えれば、相手から返事がなくても、伝達事項を飲み込めていない人がどれくらいいるか雰囲気がつかめますし、その後のフォローアップもできます。
これがテキストチャットなどプル型になると、相手にどこまで伝わっているか分かりづらいですよね。それを確認し始めるとキリがないので、情報をいつまでに把握して、タスクに取りかかってくださいと伝えたら、あとはそれぞれの自主性に任せています。
もう1つ気をつけているのは、心理的安全性です。
——具体的にはどのようなことを行なわれていますか?
認識の齟齬が生まれないように、情報の非対称性や不透明性をできるだけ下げる必要があります。リモートワークとセットで、業務における必要な情報は暗黙知にならないように、全てテキストにするようにしています。
情報はできるだけ公開の場でやり取りして全員に行き渡るようにしますし、会議の議事録には事前に相談したいことや決定したことを書いてもらい、部署に関係なくアクセスできる場所に記録を残しています。
会議に参加できなかった人がいたとしても、もしくはそこの中心メンバーじゃない人でも、必要なときにのぞくことができる。その前提があった上で、各メンバーの成長に必要なチャレンジなどが設計・設定されているか、認識を合わせながらマネジメントしています。
同じグループマネージャーのCTOの木村も、メンバーの状況確認をして、懸念があればすぐに伝えてもらえる環境を整えています。木村は「心理的安全性が高い=みんなで仲良くしゃべれるぬるい環境ではない」と言っていますね。働きやすい環境というのは馴れ合っている環境ではありません。だからこそ、業務遂行上必要なことの意見交換はもちろん、小さな違和感でもいいので、それを発言するための土壌づくりをしています。
インパクトが大きい不動産DX。「デファクト」がない領域で勝者になる
——吉田さんは、この仕事のどんなところにおもしろさを感じていますか?
たくさんあるんですが、まずスタイルポートのサービスはBtoBとはいえ、業務用ツールを作って終わりではありません。販売支援という形でエンドユーザーにまで届くので、BtoBtoCの要素を併せ持っています。だからこそ、自分が作りたいもの、チャレンジしたいことを考えるうえでおもしろさがあります。かつ不動産は「衣食住」の「住」にあたる、生活と切っても切り離せない要素です。その重要な部分に関われることがおもしろいですね。
もう1つ、「住環境」という観点で見たときに、不動産を借りる・売る・買うという行為が発生するのは最初だけで、「住む」という体験のほうが長く継続する重要な要素です。我々のプロダクトは、「借りる」「買う」だけでなく、その先の「住む」までを視野に入れて提供しているので、何らかの社会インパクトが残せると考えています。そういう意味では非常にエキサイティングだなと感じます。
——不動産業界✖️DXについてはいかがですか?
不動産業界はDXに関しては、遅れているからこそ「テコが利きやすい」と思っています。最先端な業界ではないからこそ変革を起こす余地が大きい。
メタバースや3Dは一般化してきていますが、一般の方にとって3Dで一番なじみのあるものはゲームでしょう。ROOVのように、ツールとしての3Dとなるとまだまだです。たとえば、スマホカメラでAR画像を撮ってSNSに投稿するのが当たり前かと言われれば、そこまで普及していませんよね。VRゴーグルをつけて体験するVRも、特定領域に限定されてしか普及しきれないでしょう。
でも家を買う・借りる、住まい探しをするときに、スマホで3Dを見るようになる未来はありうるのではないかと思うんです。そういう意味で、テクノロジーと空間を紐づけて、それを民主化しているデファクトはまだありません。まだ勝者がいない領域なので、そこで勝者を目指して取り組んでいくのも刺激的です。
現状、不動産×VRを軸にしたサービスの中でもスタイルポートは最先端だと思っていますが、それは独自エンジンを作るという、一見無謀な取り組みをしたことが今になって効いているのではないかと思います。
例えば簡易3Dの再現や、360度写真を撮って何ヶ所かでつなげたような画像は、コストが安く済みます。でもスタイルポートは最初からコスト勝負をするのではなく、できあがったときのインパクトに賭けて投資をしました。その結果、自社エンジンで作ってきたものが参入障壁になって、先端サービスの一つになれているのだと思います。
包括的な「空間」へのサービス拡大を目指す
——今後の展開について、どう考えていますか?
スタイルポートは、「空間の選択に伴う後悔をゼロにする」というミッションを掲げています。
我々はもともとのターゲットを「住空間」に置いています。現在は、ROOVのような販売現場に対するBtoBのツールを提供していますが、作って提供すれば絶対に便利だと喜ばれるサービスや、自分たちも欲しいと感じている機能の構想がたくさんあります。
すべて同時進行は無理なので、まずはマンション販売といったコンセプトが限定されたところで展開していますが、今後は不動産からより包括的な「空間」に向けてサービスを広げていきたいと考えています。
住空間への広がりはもちろん、倉庫やホール、劇場のようなさまざまな空間に対して可能性を感じています。そこに意思決定の部分から関われるおもしろさを感じてほしいですね。